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エ・ランテルで起きた事件、それは大規模なアンデッド『災害』だ。
それは術者であるカジットが『死の螺旋』を再現しようとして失敗したからである。そもそも死の螺旋はとある事件に際し、偶然に起きた現象へ名前を付けた後付けでありアンデッドが発生し易い状態ではあっても、狙ってアンデッド化できるわけでも無ければ、自意識を残したアンデッドになるわけでも無い。カジット自身、魔法を使うアンデッドであるリッチこそ成れたが、知性があるだけで元の目的も忘れて自意識のない存在に成っていたのだから。
ゆえに大災害にはなったが、陰謀としては破綻している。
それがこの事件の様相であり、だからこそ無秩序で、それゆえに対処が難しかったのである。
「それでは説明してくれるかね?」
「はっ、はい! アルトホーンさん! ただいまより説明させていただきます!」
傭兵団である『死を撒く剣団』を率いて居たという男は妙に畏まった。
彼らは仕事の無い時には盗賊に成るという、典型的な地方の傭兵団であった。それが一変したのは折しもアンデッド災害のせいだ。溢れ出したアンデッド対策に傭兵たちが高額で雇われ始め、役に立つならばと前歴の考慮を停止したというのも影響しているだろう。せっかくの機会であると、これ幸いに後ろ暗い過去やアジトを処分して、パナソレイに雇われたのである。
とはいえ山ほど存在し、死を恐れるどころか死そのもののアンデッドだ。
当然ながら容易く戦果を挙げることはできないし、戦死者も多数出た。だが、それも過去を知る連中が減っただけだと、口止めする必要がなくなったと思っていたくらいなのだが……更なるアンデッドの大規模化と、途中でラズロック一行に出逢う事で運命を変えたのである。
(クソッ! なんでこんなバケモンが辺境に居やがるんだよ。だが、これはチャンスだ! 隠者のまま居たいっていうなら、功績は全部オレたちのもんだ。上手く宥めすかして利用だけしねえと)
アンデッドに押されてピンチになった時、圧倒的な力で救われた。
噂に聞く帝国の『逸脱者』フールーダとは、この男の事かと思ったくらいである。こんな奴らが何人も居ることに驚愕しつつも、実のところあまり驚きもしなかった。帝国にだけ居て王国に居ないのは奇妙な話だし、聞けば法国や聖王国にも強力な聖職者が何人も居るというではないか。
それに何より、英雄級の男『たち』を彼自身が知っていたからでもある。
「オレたちの縄張りは都市の北で、最近はそこでアンデッドを狩ったり、呼ばれれば地方の援護に向かってました。今回は北東方面に残った最後の村に行ったところです」
「その帰りに襲われた、それも圧倒的な数にと言う事だね?」
「はい! その通りです!」
男の反応はいっそ滑稽であった。
だが、生き残りの仲間も一切口を挟まない。団長が恐ろしいというのもあるのだが……それ以上にラズロックの強さが規格外であったというのもあるだろう。人間、圧倒的な強さを垣間見ると笑うしか諦めるしかない。英雄の領域を飛び越えて逸脱者と呼ばれるのはこういうものかと思ったほどであったという。
そして説明が徐々に進みにつれて、手が挙がった。
「その、冒険者たちと出逢ったと聞きましたが、彼らは無事なんですか? いえ、今も無事だと思われますか?」
「んーあ~。オレの所に英雄級の客人が居たんだ。そいつが無事ならな」
手を挙げたのはニニャだ。男はどう反応したものかと一瞬迷った。
だがラズロックの弟子であるエンリの活躍を見たこともあるし、そのエンリよりも専門のマジックキャスターにも見える。おそらく彼女も弟子なのだろうと思い、説明に口を挟まれた事は不問にしておいたのだ。
そして彼が辺境に無数の人材がいることへ、少しも疑問を思い出さなかったことが、今の答えに成る。
「英雄級……ですか?」
「そうだ。大会で戦士長と競り合ったブレインって奴の話を知らねえか? そいつが客分になる条件として、色々と要求してよ。副官にも切り込み隊長にも成らず、延々と稽古してたぜ。言葉を濁したのは……まあ、なんだ。相性ってのは誰にでもあるって事なんだろうな」
ガゼフに匹敵する、少なくとも本人はそのつもりであったと語る。
おそらく大会当時のガゼフであれば、間違いなく越えているだろうとは男も確信している。だが、それでも断言できないのは、他ならぬその人物が成長しているからだ。成長期にある人物の評価と言うものは、それほど当てに成らないのだから。
いいながら男はエンリの方をチラリと見た。まさに相性という意味では、その人物とエンリはアンデッドに対して対極にあったであろう。
「そいつは一対一に特化してる剣士と言えば判るか? 目にも止まらないって言うか、そういう戦いでなら無茶苦茶強いんだ。実際に、俺らもそいつが苦戦したことは今までなら見たことはなかったよ。オーガだろうがトロルだろうが、相手にゃなりはしなかったな」
「アンデッドはタフネスだし、無数にいるからね。そこは仕方あるまい」
アンデッドは刃の攻撃が効き難く、そしてタフネスだ。
どんな相手であろうと一撃で終わらせてきた男であっても、真っ二つに成って上半身と下半身が同時に襲ってくるような状態ではどうしようもない。もちろん死体の損壊状態によっては、一撃で倒れたり、上半身だけが残る事もあるだろう。問題なのは、タフネスな敵が無数にいる事である。英雄級であろうとも、高精度の攻撃や超速反応などに特化していればアンデッドに対して明確な利はないのだと語った。
この点でエンリは打撃と付与魔法によって火力がそのまま通じ、手数の多さがそのまま強さに成ることで、アンデッド相手に限定すれば相当に相性が良いのだろう。
「この村ほどじゃありませんが、オレたちは守り切れる場所を選んで戦ってましたし、そいつが強い奴と道を一つ抑えりゃアンデッドなんざ楽勝だと思ってたんですがね。流石にありゃ想定外ですよ。ただ、強さは本物ですし、逃げてりゃ合流できるかと」
「私に言えた義理ではありませんが、無駄に意地を張ってそうですけどね」
男たちは楽に戦える隘路を使っていた。
殆どのアンデッドは緩慢で能力自体は低いので、狭い場所を利用すれば問題なく戦えるからだ。英雄級だという剣士が道の片方を封鎖すれば、全員で反対側を抑えれば済む。十字路みたいな場所ならば少し下がるだけで安全に戦えると言えた。ただ、相手の数が増えれば迂回する敵も増え、窮地に陥ったのだという。
そんな中で、無意味に虚勢を張る愚かさをニニャは良く知っていた。場合に寄っては自分も同じような事を思ったかもしれないし、魔力が無くなれば戦えないマジックキャスターでなければ、限界まで戦いそうだと思ったのだ。
「どちらにせよ、急いだほうがいいな。さっそく移動するとしよう。案内できるかね?」
「はい! 仲間のザックという男の故郷を通るらしいんで、あいつが案内してくれますよ」
死を撒く剣団がアンデッドに襲われたのは昨日らしい。
先を急ごうと夜を徹して歩いたために詳しい時間は判らないそうだが、良くも悪くもそれがすべてに影響したのだろう。アンデッドがエ・ランテル東部全体で溢れた時間であり、ニニャやンフィーレア達はもう少し前に巻き込まれていた。漆黒の剣を含めた冒険者たちが決死の覚悟で分断したのが丁度その前後である。
もう遅いとも言えるが、早朝までは何とか無事に戦い続けていたらしい。アンデッドたちを何とか突破して来た冒険者と出逢ったのもその時間で、話に出た英雄級の剣士が無事ならば……もしかしたら何とかなるかもしれないという。
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道と言うには険しい隘路を通ってエンリたちは道を急いだ。
普通に街道の結節点まで戻ったのでは時間が掛かり過ぎるし、アンデッドが跳梁跋扈している。偵察の上手い斥候が居ない事もあり、四方から襲われる危険性よりも狭い場所を急ぐ方を選んだのである。
とはいえ完全に一方通行と言う訳でもない。
思わぬ所に横道があったりするので、気を抜けばアンデッドがいつ出て来てもおかしくない場所であった。
「へへっ。ここを抜ければ直ぐでさあ」
「良くこんな道を知ってましたね。でも、凄く助かります」
ザックという男は何処にでもいる男だった。
短くした槍を主武装にしているのは、その方が行軍時に疲れないからだという。三度ほど徴兵された経験があるとの事で、その時に覚えたコツなのだそうだ。強くはないが要領が良いので、傭兵団では主力として扱うよりも地方への派遣要員くらいの扱いで上手くやって居たのだろう。
ニニャとしては漆黒の剣のメンバーを救うための地形情報に礼を言ったつもりであった。
「居なくなった妹を探して餓鬼の時分に散々うろつき回ったもんでさあ。娼館に売られたって話を理解できるまでの事でしたがね」
「……今回の報酬できっと身請けできますよ。頑張りましょうね」
だが思わぬ話にニニャは姉と重ねてしまい同情した。
娼館への年季奉公と妾として連れ去られたのでは意味が違う。だが、運が良ければ助かるかもしれないと知って、思わず祈ったのである。もちろん子供の時に売られた少女が、運よく生きていればの話だ。まだ少女だから訓練期間もあるとはいえ、子供に手を出す変態だっているだろう。金を出すのは何時だってそんな奴だ。
「そうだと良いですねえ。最近は奴隷も居ねえって話だし、長持ちさせてもらえてれば何とかなるかもですね」
もちろんザックだって無理だとは思っている。
途中まで奴隷売買があった事もある。体調を崩せば単純労働用として売られてしまう事もあっただろう。だからあくまで、自分を奮い立たせるための言い訳として口にしたのだ。誰だって命を懸けるのは怖い、だが連れ去られた妹の為ならばと震える足を進ませたのだ。
そしてその勇気が試される時がやって来た。
「気を付けてください。何体か居ます。私が前に出ますので!」
「へ、へい! あっしがお二人を守って見せまさあ!」
前を歩いていたエンリが声を掛けた。
知覚力が高くない彼女が気付いたくらいである、相当に近い距離であるか結構な数が居る筈だ。ザックはへっぴり腰に力を入れて後衛であるニニャとンフィーレアを守ろうとしたのだ。狭い道だから逃げ場はないが、上手く戦えば最低限の接触で済む。エンリが倒し損ねた敵を一人で阻むことも出来るだろう。相手が動きの鈍いアンデッドであればギリギリで何とかなりそうという算段である。
当然ながら、そこにザック自身が勝つという未来はない。そしてその必要も無い!
「先制します! エンリさんは生き残りを!」
「バレアレさんは這いずって近づくモノを倒してください」
「ザックさんは私たちが再度詠唱するまでの時間だけ稼いでいただければ!」
「行きますよ。スペキュレイション……ライトニング!」
ニニャは最初の壁を越えたことで成長していた。
ウイザードから順当にハイ・ウイザードへ、そしてラズロックに抱かれたことで新たなるクラスを得ている。いかに魔法を使いこなすかを効率的に思案する中位クラス、アデプト・オブ・リチュアルの力である、後衛が存分に力を振うためのフォーメーションを駆使したのである。
ライトニング自体の威力は変わらない。
だが速度に優れぬはずのニニャが先制し、そしてンフィーレアも既に詠唱を終えている。詠唱速度を高めるのが、このスペキュレイションというフォーメーションの力であった。
「聞いてるよねエンリ! マジックアローで落とせない敵を狙って!」
「うん、やってみる!」
ンフィーレアは待機時間を意図的に作れるマジックアローを使用。
ニニャのライトニングが焼き払えなかったアンデッドを二本の矢で穿ち、そこへエンリが突っ込んでいくことで確実に勝利をもぎ取ったのだ。その時にザックは何もしていないが、むしろ何も起きないように身構え続ける方がよほど苦しかっただろう。だが、エンリの向こうから次々と迫るアンデッドを見て、逃げ出さない様にするのが精一杯であった。
一同はラズロックに後方を任せてひたすら隘路を突き進んでいったのである。
と言う訳で仲間の救出へ。間に合えば仲間が助かる、でも間に合わないだろうなー。
そんな状態でニニャは自分だけが強く成る事よりも、みんなで強くなることで先を急ぐ力に目覚めた感じですね。
●アデプト系
中位のマジックキャスター系クラス。
選択スキルによって、儀式魔法のアデプト・リチュアル、付与系のアデプト・フィジカルなどに分かれる。
フォーメーションは結構強いが中位クラスゆえの悲しさか途中から中途半端になり、縛りのわりに弱いので、ユグドラシルではあまり取得されなかった(人数が増えると軍師系のバフの方が有効なので)。
専用呪文もツインマジックやマキシマイズマジックなどの補助呪文のMPを仲間の代わりに負担できるというもので、MPの多い者が多い『ユグドラシルでは』それほど強い物ではないのが理由の一つ。
このクラスを得たのは、仲間と一緒に戦いたいというニニャの思いが形になったと思われる。モデルはロマンシグ・サガ2や3。
選択スキル。ショート・リチュアル(簡易儀式法陣)
専用呪文。スペル・アキュレイション(集積魔力の共有)
『ニニャ』
ラズロックに抱かれたことで魔力的に強化された他、精神的にも吹っ切れた。
また様々な指導を受ける前に、漆黒の剣が生存している可能性や、みんなで限界を越えるということを聞いて、アデプトの道に入る。このクラスは本来もっと上のクラスなので、まだまだ一歩ながらそれなりの強さを示し始めた。
クラス
・ウイザード
・ハイ・ウイザード
・アデプト・オブ・リチュアルほか
(なお、魔法の成長速度強化はタレントなのでジーニアスではない)。