Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

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窮地だからこそ

 冒険者たちはその数を大きく減らしていた。

決死隊を作った時は十名近く居たのだが、既に片手も残って居ない。そしてその体力は底を尽き掛けており、士気に至っては崩壊して居ないのが不思議なほどである。むしろ彼らが生きている事の方が不思議なくらいだ。

 

そんな状態でも生きている理由は簡単だった。

彼らよりも圧倒的な強者がワントップで食い止めている事、そしてその人物ですら数の暴力にすり潰されつつあるというのが、士気が最底辺で維持されているという理由に成る。

 

「くそっ。此処までかよ……死ぬ前にかわい子ちゃんに……」

「誰かそいつを連れて下がれ! 寝てる奴が回復したらもう一度立たせろ! そんな奴でも居ないよりはいい!」

 後ろも振り向かずにブレイン・アングラウスは吼えた。

吼えるような状況ではないが、そうでもしないと自分の気力さえ損なわれてしまいそうだったからだ。そして何より、彼の背中を守る者がいなければ、前面に専念できないからである。

 

ここに居る者は全員が白兵戦が出来る。

それこそが生き残っている理由であり、同時に状況を打開できる強烈な魔法が使えない理由でもあった。いや、マジックキャスターというものが王国では貴重である以上、魔法が使える者が居るだけマシなのかもしれない。

 

「俺は良い。置いてってくれ。もっと狭い場所に下がれば何とか……」

「黙ってろルクルット! ブレインさんの言う通りだ、この状況で一人は重要。それに逃げるならその時こそ、お前が必要じゃないか」

 状況は非常に切迫していた。

場所を選べば篭城できなくもないが、それだってブレインが戦えなくなれば終りだ。この状況から抜け出すには、ある程度の戦力を残した上で、安全な場所を確保しなければならない。問題なのは生者の反応を見つけてアンデッドが襲ってくることであり、探知役はどうしても必要なのだ。

 

戦える前衛役は傭兵団である死を撒く剣団の生き残りが居るのだが、彼らは前衛しかいないので、探知役や魔法が使える者は非常に貴重であった。弓に意味がないとしても、白兵戦の出来るレンジャーであるルクルットのお塗力は貴重なのだ。

 

「し、心配ないのである……今、回復を……」

「ダイン、もうちょっと寝とけって。ドジっちまった俺が言う言葉じゃないけどな」

 ドルイドであるダインは白兵戦が得意ではない。

早々に負傷してしまったのと、回復魔法を連発したことで疲弊して一足先に休んでいた。回復を含めた魔法が使える事や、森歩きが得意で薬草の見分けが出来る事から、むしろ彼は生命線であると言えた。休んで魔力を少しでも回復することを求められているが、こんな状況で野太く眠れるような性格でもなかったと言え、負傷したルクルットにレッサーヒーリングを掛けると気絶する様に眠ってしまったのだ。

 

ブレインという強者が居るにも掛からわず決め手に欠く一同は、こうしてそのままズルズルと疲弊していった。あえて言うならば、これこそがアンデッド戦の恐ろしさであろう。

 

「へっ。何とか持ち直したな」

「役に立たねえなあ。口ばっかりの癖によ」

「まったくだ。無理しなくて良いから、そのまま背中を抑えてて欲しいもんだな」

 死を撒く剣団の生き残りはぼやくが、ブレインはむしろ逆に思った。

隣で適当に戦うだけで連携もせず、多少は強いが死ぬ時はアッサリ死ぬ弱者だ。強者であるブレインから見れば、同じレベルの戦闘力なのだ。ならば目利きが出来、邪魔に成らない位置から背後を守ってくれる冒険者たちの方がまだ有用だと思われたのである。実際、下がりに下がって何処かへ逃げ込むとか、数人だけでも一丸になって逃げる場合は、冒険者と共に逃げた方が確実だろうと思えたのである。

 

とはいえ、力の振い方に疑問を覚えたのは久しぶりだった。

個人主義で周りの連中を味方とも思わなかったのは、ブレイン自身もそうなのだ。こうして長丁場の苦戦を続ける上で、技量よりも心配りの方が重要だと思ったのは初めての事だ。そして思い出されるのは、彼を打ち破ったガゼフが戦士長として部下を育てているという事である。

 

(アンデッドに通用しない腕を磨き直すとして、仲間と共に戦う方法を見つけても良いかもな。どうせガゼフの野郎も、ただ強くしてるだけの筈だ。弟子とは言わねえが部下を率いての戦いってのも悪かねえ)

 ブレインは諦めの悪い男だが、同時に頭は柔らかかった。

剣技で倒せない自分が悪いのであって、打撃武器などに寄り道をする気はない。それならば魔法の武器を用意したり、魔法の武器扱いするオイルをもっと用意するか、威力を高めるなり闘気を武器に込める武技でも覚えれば良いと思うタイプだった。だが、それは『他人』を扱う事に意義を見出さないわけでも無い。

 

何しろ個人で戦い慣れてる傭兵と、連携して戦う冒険者を見ているのだ。

異なる戦闘手段を持つ仲間を集める方が、自分で複数の武器を持つより有意義な事は一目で判る。そう言ったメンバーの中に、支援魔法を使える者が居ればもっと戦い易いだろう。そういった者たちに剣なり戦闘での要領を指導し、自身を鍛え上げる一助にすることが、それほど悪い事だとは思わなかったのである。

 

「しかし、そろそろ潮時じゃないっすか? 幾ら倒してもキリがねえ」

「なら何処まで逃げるんだよ。逃げ場がねえからこうして戦ってんだぞ」

「どっちでも良い。移動する準備はしとけ、適当なタイミングで何処か頑丈な建物を探すなり、安全圏と判ってる町まで突っ走るぞ。ここまで来たら傭兵も冒険者もねえ、みんなでまとめてトンズラだ」

 繰り返すが死を撒く剣団の生き残りも少ない。

圧倒的に押し寄せる序盤こそ凌ぎ切ったが、その時の戦いを含めて、時間が経過するたびに減っているのだ。そもそも戦い慣れた猛者といっても、強いというよりも目端が効くだけの奴も多い。何処かで限界がくるだろう。ならばそれまでに、逃げることを考えるというのは間違って居なかった。

 

問題なのは、そんな都合の良い逃げ場があるかと言う事なのだが……。

 

「それならカルネ村を目指しましょう! あそこには凄腕のマジックキャスターが居られます。今ごろはこっちに向かっているかも」

「出逢った事もねえ奴を信用できるか!」

「まあ……なんだ。アジトを目指すよりは建設的だろうよ」

 ペテルの提案にその場では誰も同意を示さなかった。

当たり前だが腕利きのマジックキャスターならファイヤーボールは使えるだろう。だが、所詮はファイヤーボールでしかない。タレントによっては多少威力が上がったり、習得できないツインマジックやオーバーマジックを覚えて居る者も居るだろう。しかし知りもしない人間をそこまで信じれなかったのだ。

 

だが、圧倒的な問題が彼らをして決断させたのである。

 

 ソレはまるで悪夢の象徴であった。

無数のアンデッドたち、生半可な武器など通用せずタフネスに優れ、生者の命を奪う存在。それを一まとめにしたのがソレであった。比喩ではない、言葉通りにひとまとめした存在が現れたのである。

 

その姿を見た瞬間に、傭兵も冒険者も戦い抜く気迫が削がれてしまった。

 

集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)……」

「このタイミングでかよ!」

「しかもエ・ランテルの方向からだぞ!」

 死体が折り重なって作られたような巨人が見える。

アンデッドというものの厄介さを集めたような存在だ。本物の巨人に比べて強くも無いし、ランクの高い冒険者ならば倒すのも不可能ではない。ただし、それは事前に情報を知って居る状態で対策班を組むか、火力の高いチームが万全の態勢であることが求められる。ちまちま戦う場合は体力は無尽蔵に近く、部分的に吹き飛ばしたくらいでは、その辺の死体を取り込んで再生してしまうのだ。

 

問題なのは、必要とされる能力がこの場には無い事である。

全員のコンディションが底辺に近く、交代で休むことで強引に回している状況だ。まして最も強いブレインが精密さや俊敏さに特化したタイプで、急所を突くことを得意としている剣士である。アンデッドを得意としていない事は誰の目にも見て取れた。

 

「もう幾らの猶予も無い、脱出するぞ! さっき言ってた冒険者。案内しろ!」

「はっ、はい! ダイン、ルクルット立ち上がれるか?」

「何とか」

「同じくである」

 ブレインは率先して踵を返すと、倒れているルクルットを起こした。

そして彼らの背中を叩きながら、改めて踏み留まる。傭兵たちの中にはどっちに逃げたら良いのか迷っている事もあり、一番強い彼が率先しつつ、殿軍の両方をこなさなければ成らないという無茶をせざるを得なかった。士気を崩壊させてはならない、同時に迷う者を進ませなければならないのだ。指導者などやった事のないブレインとしては、みっともなくとも咄嗟にやれただけマシだと言いたかった。

 

「追いすがる奴らは俺が何とかする。血路を切り拓くのは任せたぞ!」

「へい!」

 反応する声は冒険者ではなく傭兵たちだ。

出来れば一緒に殿軍をしてほしかったが、命冥加なところもまた戦い慣れた傭兵と言うところだ。何時までも踏み留まって足手まといになるよりマシとはいえ、たった一人で食い止めるのにも限界はある。それゆえにブレインはここまで温存していた武技を使う事にした。

 

ベルトにあるポーションを触りたくなるが諦めて使わないでおく。

 

「ちっ。まだワイトの上位種やエルダーリッチなら戦いようがあるんだがな。まさかデカブツとは……しゃっ! 斬撃!(スラッシュ)

 追いすがるアンデッドの内、歩行速度を残したグールを切裂いた。

普段ならば武技を使う程でもない存在でも武技を使わねば倒しきれない。しかも本来ならばオーバーキルであるというのに、倒すのがやっとに見えた。それだけアンデッドが打撃以外に耐性が高いという事である。それでもグールは肉体を残している分だけ効いている方だ。

 

そのまま少しずつ下がってゾンビを切裂く。

そしたら少し後方まで走って下がり、脇から出て来たアンデッドを相手も確かめずにバッサリ。残心を残してそいつが立ち上がるのを見届け、首を跳ねて楽にしてやった。倒された傭兵か冒険者のうち、運悪くこの場でアンデッドに成り果てた奴だったのだ。

 

「死んでからも戦うとは働き者だな。できれば生前から活躍してくれれば良かったのに……領域……」

 ブレインはもう少し上がって使う必要も無い武技を使う。

この武技は相手の動きを探知する能力であり、感覚を強化するものなので、剣士である彼でも何処に居るか分からないアンデッドの動きを見分けることができるからだ。そして心を静かにすると、人間ではありえないゆっくりとした動きを幾つも感じる。その中で倒すべき敵を判断すると即座に領域を解除したのであった。

 

そして用意しているポーション類の小瓶の内、オイルを入れた物を取り出した。

 

「まさかこいつを雑魚なんかに使う事に成るとはな。だがお前らだけは残しておけん。ふっ! はああ!」

 武器を一時的に魔法の武器として扱うオイル。

それを使う事で、ブレインは肉体を持たぬワイトを切裂く能力を得た。もしかしたらその効果で威力も多少は増したかもしれないが誤差でしかない、一体目を切裂き、見えない位置に居る二体目に向かう。ワイトは肉体を持たぬがゆえに、足こそ遅いが壁やバリケードなどでは防ぎ留められないからである。走って逃げる以上は倒す必要も無い相手だが、カルネ村とやらに辿り着くまで休まないなど無理だろう。どこかの廃屋で篭城するとして、今の内に問題のある敵を削っておく判断を取ったと言える。

 

そして再び走り、一定距離で領域を展開。

時間を掛けない為に走りつつ、可能な限りワイトやゴーストなど体を持たない個体だけを選んで戦い抜いて行く。オイルの効果が持つのは後どのくらいだ? 十秒か、二十秒か? 雑魚に追い回される屈辱の中で、ランナーズハイにも似た高揚感だけがブレインを動かしていた。

 

「はっ、はは。ここ何年も味わった事のない労働だな、おい。鍛えるのとは別の部分が刺激されていきそうだぜ」

 ガゼフに勝つための鍛錬はずっと続けていた。

だが、戦術やら組織運営に関してはサッパリだった。しかし今ではこうも思うのだ。あれだけ真面目で融通の利かないとされる男が、部下を鍛えることを放置するか? おそらくはみずからと共に鍛えているだろう。ブレインが興味なかった分だけ個人技に関しては近づいたはずだ。

 

だが、それでガゼフを越えたことになるのだろうか?

もちろん個人技でも越えることが最優先だ。しかし、それでいい訳染みた事を言われても困る。他ならぬブレイン自身が、忙しいながらも可能な限り努力をし続けるガゼフに勝ちたかったのである。本当の意味で勝ちたい、越えたいという感情こそがブレインの感情の根源で眠っているのかもしれなかった。

 

「本当はあのデカブツに挑みたいところなんだがな……あんな奴らでも仲間だったんだ。見捨てる訳にはいくまいか」

 下がりながらもまだ遠くまで行っていない連中の気配を感じる。

見上げるような4m以上にも見える死人の巨人が、いまだにこちらを目指している現実もまた彼を追い詰めていた。走って下がり『仲間』を援護すべきか? それとも一秒でも踏み留まって巨人すら斬って落とす戦いに挑むべきか? 悩ましい、そんな決断とは無縁だっただけに悩ましい。

 

ブレインは自分の生命と精神が削られるような状況の中、かつてない程に笑っている自分を感じていた。




 と言う訳でブレインさんの苦悩編です。
斬撃にそれなりの耐性があり、HPが多いアンデッドをひたすら退治。
無双ゲームでもまだマシなシチュはあるでしょう。罰ゲームの実行中と言う感じ。
もっとも、だからこそ、強者であるブレインが雑魚相手に戦闘してレベルアップするチャンスであるとも言えます。
「シャルティア戦に比べたら、この程度のピンチはピンチの内に入りませんぞ」
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