Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

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時間との戦い

 道を進むニニャは焦っていた。

途中で入れる休息中にも気が休まらず、自ら時間を定めた筈の休息時間すら待つのが辛い。全員が軽装と言う事もあって行軍ペースが相当な早さにもかかわらず、先へ先へと急ごうとしていたのだ。

 

だが、これは仕方がないのかもしれない。

一行は狭い道を進んでおり、彼女が放つ電撃の魔法でほぼ一掃できるので相性が良い。後はエンリが殴り倒し、あるいはンフィーレアが魔法の矢を放てば危なげなく進める。だが、救助対象である漆黒の剣や死を撒く剣団の残党は、逆に広い場所で囲まれ、剣も通じ難いと相性が悪いのだから。

 

「そろそろ……」

「まだダメですよ。魔力だけならともかく、気力体力まで分けてもらってるんです。気持ちは判りますけど、これ以上はエンリが保ちません。それにザックさんにも休息は必要だから」

 出立を早めようとするニニャをンフィーレアが留めた。

エンリが初期に覚えたスキルは魔力を分け与えてくれるし、エンリの回復自体が早いクラスなので問題はないように思えた。だが、そのスキルは体力と気力も含めて、一定割合を『分け与える』というのが長所であり短点なのだ。気力も回復するので戦技も回復できるようになる優れモノだが、逆に言えばエンリの魔力と気力が下がる。体力に関してはポーションで何とかなるが、危険と言えば危険なのだ。

 

それに対して戦っていないとはいえ、案内人のザックも居た。

万が一倒しきれない時の足止め役でしかないとはいえ、走り詰めでは問題が残る。かといってエンリの力で回復してしまうと、さらに回復効率が落ちるのも間違いなかった。適度な休憩が必要だからと計画したのはニニャ自身であり、それを判らない筈はないのだ。

 

「あっしは報酬が増えるなら休憩なしでも構いやせんけど、そうでないなら流石に休みたいっすね」

「申し訳ありません。もう少し休みましょうか」

 気を使ってザックが提案して来るとニニャの方も黙った。

自分の分け前を渡す事くらいはなんでもないが、気を使わせること自体が問題なのは判る。それに焦ってもそれほど自体が好転することはないだろう。そして何より、合流地点は広い場所であると思われた、ここで急いで集中力が途切れれば、後で守り切るのは難しくなってしまうのは間違いがない。その時に危険なのは、救助対象も含めた全員なのである。

 

だが、その懸念は杞憂であり、同時に別の問題が待っていた。

 

「お、俺達はアンデッドじゃない!」

「そうだ。だから攻撃しないでって……あ、あんた達は……?」

「確かあの時のチームですよね? みんなは、みんなは無事なんですか!?」

 暫くして広い道に出ようかと思った時の事だ。

生きている人間を見かけたのだ。アンデッドを魔法で攻撃している姿を見た為か、自分たちが人間であることを主張する。そしてニニャやンフィーレアと顔を合わせた事のある冒険者を見つけたのであった。そしてこの事は状況の変化を告げるサインなのは間違いがないだろう。向かっていた者の意識が覚醒し、逆に逃げていた者たちは腰砕けになる。

 

それと同時に緊急事態であることは明白だ。

ここに数人の冒険者が居るという事は、生き残りの者たちの戦力がさらに分化したことを示すのだから。もはや一刻の猶予もあるまい。

 

「巨人が……アンデッドが巨人になって……」

集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)とかいうのが現れたんだ。それでもう駄目だと、今まで守って場所を放棄したんだが……途中で追いつかれて。仕方なくバラバラに別れることにしたんだよ」

 傭兵たちと合流して、数を減らすために最初は護っていた。

ちょっとした丘の向こうで、周囲からは見えない場所。それでいて道やら谷になった場所を交えることで、全周から狙われない位置で戦っていたとの事だ。それならもうちょっと狭い場所で戦えば良いのにと思うのだが、それは隘路を進んだニニャたちだから言える話だろう。最初に動いていた傭兵たちの任務や判断もあるし、状況が変わるその都度に変化もあるのだから。

 

途中から参戦したこの冒険者たちには計画の全容など分からない。

だから傭兵と合流した事、時々休みながら暫く戦っていた事、そして死人が集まって作られた巨人と出逢ってバラバラになったという経過くらいしか分からないだろう。それにそもそも、真実だけを口にしておらず、救援に訪れたニニャたちに見限られまいとそう口にしているだけなのかもしれないのだから。

 

「これはマズイですね……ニニャさん? 一度だけなら賭けてみるのも手だと思いますけど」

「っ!? そうですね。一度だけ一度だけなら……エモットさん、行けますか?」

「私なら大丈夫です! あ、でも、元気をお分けします? それ次第ですね」

 ンフィーレアは潮時だと思って前もってニニャに宣言して置いた。

賭けに出て戦うならば一度だけ、それ以上は前衛であり回復も務めているエンリが保てないと釘を刺して置いたのだ。この忠告にはニニャも受け入れざるを得ず、エンリの体調を確かめることにした。果たしてその結果は可能、だが、合流した冒険者を回復させるならば難しいとの判断である。

 

その上で、冒険者たちの体調と能力を元に判断する。

息も絶え絶えであるが、死に掛けているわけではない。今すぐに戦えとでも言わぬ限りは問題ないだろう。その上で魔法を使うタイプではないので、魔力を回復させる必要はない。

 

「この先の道は暫くだけなら私たちが通って来たので安全です」

「帰りに拾っていきますので少し下がった場所で休んでいてください」

「他のみんなを助けてから戻ってきますが、援護は不要です」

「アンデッドに見付からない位置まで下がって居てください。アンデッドは生者を見つけると追い掛けてきますので、向こうの方まで下がれば問題ありませんから」

 ニニャはあえて冒険者たちを帯同させなかった。

戦力ではあるが、それほど強いわけではない。体力も回復して居ないし、エンリの回復は譲渡であって純粋な回復ではないのだ。彼らを元気にして戦力にするよりも、相性の良いエンリの戦闘力を維持した方が良いと判断したのである。その上で、カルネ村までの道筋は教えなかった。回復すれば彼らが戦えるのは間違いがないので、勝手に去られても困るからだ。

 

逆に言えば安全地帯になった隘路で彼らが休んで居れば戦力を用意できるという事でもある。ここはあえて合流させずに、アンデッドを呼ばない程度の位置で待機させておくべきだと思ったのである。

 

「ザックさん。貴方はもう暫くお願いします。傭兵たちの生き残りと合流したら、この場所まで案内してください。もしかしたら往復する必要があるかもしれません」

「へい。それは助かりますが……大丈夫なんで?」

 この際、ザックもこの後で切り離すことにした。

彼は強い傭兵では無く、案内人でしかない。逆にいえばここまでの道筋を素早く通り抜けられただけで十分とも言える。そして合流地点に戦力は多い方が良い。散りじりに成っている傭兵たちを見つけたら、この隘路に引き込んで帰り道を確保する方が重要だと判断したのである。

 

また、お互いに縁が出来て絆されたのもあるだろう。

無茶を要求して死なせるよりも、安全な位置から援護してくれた方が良いという判断もあった。そして、それはザックについても同様であると信じたかった。

 

「少人数で走る方が、多分安全ですしパーティの仲間も居る筈……居ますから」

「そう言う事なら遠慮なく。ただ戻るなら早くして下せえよ、下手に上役が居たら、村まで案内させられますからね。勝手に逃げたと言わねえで下せえ」

 ニニャの配慮に対してザックはためらうことなく現実をぶちまけた。

こんなところで死ぬ気はないが、縁のある人間を見捨てるのも気に掛かる。それが腕利きのマジックキャスターならばなおさら惜しい。その上で、傭兵団の小隊長とかに脅されたら、カルネ村まで逃げ帰ることを要求されそうだと口にしたのである。

 

言わなければ勝手に逃げた後で、言い訳に出来た筈だ。

だけれども、ありえる懸念を指摘する方が良いと思えるだけの義理が、この小男にも残って居たのである。そして一同は行動に移った。

 

 動くのは三人、それ以上は不要だと手早く動いた。

案内人だが足手まといでもあるザックは、新たに傭兵仲間を見つけた段階で離脱。アンデッドを集めない内に冒険者が休んでいる場所まで連れて行くことになる。そこで余裕があれば、彼らだけで同じ位置まで救出に来るという手順だ。

 

そして傭兵を見つけるまでは足早に、見つけてからは走り始める。

走る、走る。息が続く間は可能な限り駆け続け、アンデッドに囲まれない様に広い場所を走った。そして小高くなった場所で小休憩。

 

「「見つけた! あれが集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)!?」」

「その近く、流石に誰も居ないね。でもハッキリと同じ方向に向かってるから、誰か居るみたい」

 よほど驚いたのかハモるエンリとニニャ。

ンフィーレアだけが冷静に周辺を観察している。どちらかといえば脳筋の毛があるエンリと、焦っているニニャとしては仕方がないのだろう。もちろんニニャだって焦っていてもなにも出来なことは知っている。体力も魔力も無尽蔵ではないが、それは自分たちも漆黒の剣の仲間もそうなのだ。どちらも限界である以上、時間がないと焦りばかりが募る。

 

だけれども、自分たちは間に合ったのだ。

見知らぬ何処かで仲間が野垂れ死ぬ前に駆けつけ、ここで一度未来を変えた。まだ間に合うはずだ、ここで救援できれば助けるはずだと信じて、煮えたぎりそうになる頭を押さえつけた。

 

「動きを止めた? マズイ……直線的に行ける場所まで進みましょう。その後はエモットさん、お願いします。我々は何とかして合流しますので」

「はい! 判りました!」

 巨人が動きを止めたことで、ニニャは己の心に整合性を付けた。

真っ直ぐ走れば辿り着ける場所まで行けば、ニニャたちもいつか辿り着ける。電撃を放って走り抜ければ、アンデッド達もなんとかなるだろう。できるだけ見つからない様にコッソリ進んだのでは何時に成ったら辿り着けるか分からないし、エンリだけならば駆け抜けることができるのだ。

 

その先がゴールであれば、今こそが賭け時だろう。

漆黒の剣のメンバーさえ助け出してしまえば、ニニャたちと合流することも難しくはあるまい。もちろん複数の方面に逃げている可能性もあるだろうが、目立つ集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)さえ倒してしまえば気が付いて向こうの方から合流する可能性は高かったのだ。

 

「エンリ・エモット、行きます! スキル、軽気功。武技、神行法!」

 声を張り上げてダッシュする。

アンデッドは言葉など発しない。魔物に近いアンデッドなら唸り声くらいは上げるであろうが、知能を残していない限りは沈黙したままだ。そして漆黒のメンバーが聞いているかもしれないので、大声を上げて走り出す。その毛に反応したのであろうアンデッドを蹴散らしながら走る。

 

次の段階としてアンデッド共を誘導しつつ、コースを変更する。

斜めに移動して、直線的に移動できない場所まで引き付け始めたのだ。ここでスキルを使用し暫くの間、身を軽くする軽気功。そして武技にて超人的なバランス力で道なき道を踏破する神行法を用いることで奇跡を成し遂げた!

 

「突貫します!」

 まるで体重が無いかのように走り抜ける。

その辺りにある死体を踏みつけもせず、ただの足掛かりにして高度を上げる。丘を蹴り、木を蹴り、それなのに片時も足を留めずに斜めに走り抜けたのである。

 

『オ”オ”ア”ア!』

「気が付いた? そうそう、こっちだよ。武技、真空破!」

 集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)は明らかに魔物。

それゆえに唸り声を上げつつ腕を振り回している。エンリを狙っているかは分からないが、周辺全体を薙ぎ倒すかのようだ。それにたいしてエンリは射程の長い武技で攻撃してみた。あまり効いていないように見えるが仕方あるまい。何しろ相手は巨大なのだ。だが、今は注意を引き付ける方が重要だろう。

 

そんな中で、不意に声が掛かる。

 

「そいつらの大半はオマケだ! どこかに本体があって急所になってやがる! そこを探せ!」

「えっ? ……わ、判りました!」

 それは巨人の足元からする声だった。

一人の剣士が下半身を散々に切りつけており、さらに巨人の下に誰かが踏みつけられて居るのが判る。それを救出しようというのだろう、剣士が攻撃しその間に数人掛かりで引っ張り出そうとしている。だが、巨人の下半身を構成する死体たちはただのパーツであり、切った程度では意味がなく、そしてその重量から引っ張って救助など不可能に等しい。

 

この状況で考える暇などない。エンリは即座に攻撃することにした。

 

「やってみる! 武技、浸透頸! 同じく衝撃波!」

『ア”ア”ア”ア!?』

 巨人の腕に着地し、そこから首元を殴りつけた。

死体の群れを貫通し、首を中心に広がる衝撃が巨体を揺らす。アンデッドでも苦痛を感じるのか、それとも憎しみなのか……いずれにせよ、巨人は明確にエンリを敵として定めたのであった。腕に乗って居る彼女を掴もうとし……いや、握りつぶさんと拳を拡げて繰り出して来た。

 

これまでその場に留まっていた巨人が動き始めた。

この機に踏みつけられた誰かを数人が助け出す。その間も剣士はずっと巨人を睨み、腕だけは攻撃を続けていたのだ。

 

「視えた! 頭の奥に急所がある! 目だ! 目の辺りを狙え! 気はバラさんで良い!」

「はい! 武技、浸透頸! ……いやああああ!!!」

 何か探知系の武技を使っているのだろう。

剣士は巨人の様相を探るとエンリに伝えて来た。この助言を受けてエンリは巨人の方に飛び乗った。そして貫通効果のある武技だけを使用し、顔面をブン殴ったのである。

 

これまで城塞の如くにまったく揺らがず、攻撃の時だけ動いていた巨人。それが俄にグラつくと、バラバラと顔を構成する死体が解け、体や足もバラバラになり始めた。

 

「やったか!?」

『オーアァァ……!!』

「まだです! ライトニング!」

 誰かが歓声の声を上げた時、崩壊しつつる巨人が腕を伸ばす。

しかし、その姿をじっと見つめながら走って来たのだろう。ニニャの放った魔法が、巨人の頭を射抜いた。電撃の魔法は威力や範囲はそこそこながら貫通効果がある。頭を完全に貫き、トドメを刺したのであった。

 

ズズンと唸りをあげながら巨人が倒れ伏す。本物の巨人ならば二度三度と地響きがするのであろうが、あくまで死体を束ねたものに過ぎない。そのまま沈黙したのである。

 

「ニニャ! 無事だったんだな!」

「助かったのである!」

「……ううっ」

「話は後だ! 脱出するぞ!」

 漆黒の剣のメンバーは満身創痍だ。

ペテルは下半身が潰され、ルクルットは顔に包帯を巻いている。ダインも重傷こそ無いものの、あちこちに傷があるようだ。比較的に無事なのは純粋な前衛では無い様だろう。そんな彼らに剣士が声を掛け、ひとまず安全そうな場所まで移動を促したのであった。

 

こうして三人は冒険者は傭兵たちに合流。散りじりに成った生き残りの者たちを探しながら脱出する。




 と言う訳で救助しました。無事な訳ではありませんが助かった人も居ます。
まあ原作でシャルティアやクレマンティーヌにフルボッコにされてるよりはマシでしょう。

集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)
 今回のボスです。言うほど強くないが、斬撃で倒すのはムリゲー。
しかしブレインさんとは最悪の相性、そしてモモンさんは本体が頭だと即座に見抜いたから楽に倒せた。と言う感じにしてます。

●武技『戦域』
 何らかの気を感知し、集団戦闘で優位に立てる武技。
人間ならば精気、アンデッドであれば死の気配、ゴーレムならば魔力を感知する。
ブレインが新しく覚えた武技だが、領域(神域)やカウンターと組み合わせることで、ターン性シミュレーションのように、タイミングをコントロールできる。
なお、長時間の戦闘中に閃きで覚えたタイプなので、狙って覚えるならば戦気梱封の方が有利に戦えたと思われる。
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