●
隘路に戻り生き残りたちと合流。
負傷者を先行してカルネ村まで向かわせ、エンリやブレインたち無事な者が殿であったり、周辺へ散ってしまった者の捜索に当たった。結果としては少なくない数を助けられたが……全員を救う事は出来なかった。もっとも、その全員が何名いたのかすら分からないのだが。
ともあれ気力体力に限界がある以上は捜索活動にも限界がある。
「エモット! 降りてこい、俺たちも引き上げるぞ!」
「……はい! 判りました」
木の上に登って可能な限りを見渡すエンリ。
その近くまで単独で寄れるブレインが声を掛けるが、少しばかりの逡巡の後に着地した。最後まで誰かを探したかったのだろうが、これ以上は無駄だ。もし逃走時に生きていたとしても、とっくの昔にアンデッドに食われてしまっているだろう。何しろアンデッドは生者の気配を探知して襲い掛かるのだから。
そんなエンリの姿にブレインは思った。
「戦士としてはまったく無駄な能力だな。だが戦士じゃないなら悪くない。お前さんはそのままの道を行け」
「はい! 師匠も良くそう言ってくださってます!」
拳で戦うモンクは弱い戦士……そんなイメージが崩れる。
正確にはモンクではなくグラップラーだとか、エンリ自身に戦士ではなくマジックキャスターの一種だという認識もあるだろう。不思議とこの二人の間には確執の類が無かった。どちらかといえば陰性なところがあって固執しかねないブレインだが、相手が女であるとか以前に、まったくタイプが違うからこそ嫉妬も思えないのだろう。
それこそ木の上から真空破や衝撃波を叩き込まれ、そのまま逃げ続けられたら全く勝機はない。だが、戦う様な間柄になるとは思えず、もし5m以内ならば自分が100%圧勝できると確信して居たからだ。そして移動力を上げる武技をワザワザ覚えてまで、挑む気も感じない。
「質問だがお前さん、次は何を覚えるつもりなんだ?」
「今は伸び盛りだろう? そろそろ次の成長を見据える頃の筈だ」
「対人関係を覚えたければ鍛えてやっても良いが、そんなつもりはあるまい?」
「スキルや武技の傾向ってやつは、俺が言うのもなんだが中々変えられん。秘かに練習していた技よりも先に、余計な物を覚えちまった」
ブレインは老婆心と、そして芽生えた新しい興味に従って尋ねてみた。
彼は集団戦という物に面白みを感じ、この分野でならガゼフに確実に勝てるという自身もあった。その上でガゼフを倒せるだけの武量にも自身はある。このまま鍛えて行けばどちらの面でも上回れるという期待と……ささやかな展望を持てたのだ。ただし、武技の面では興味に引きずられて集団戦に寄ってしまったというのもある。もともとはガゼフが使っていた四光連斬を練習していたし、戦いの中では魔法の武器扱いする武技の必要性を感じていたのに、だ。
このまま四光連斬の練習をしていたとして、次の武技が何時になるか分からない。そしてその時に、自分が本当に覚えたい技を覚えているのか自信が無かったというのもあるかもしれない。
「アングラウスさんは師匠とおんなじことを言うんですね」
「えーと私は師匠みたいな凄いマジックキャスターになりたかったんですよね」
「だから最近覚えたさっきのも期待はしてた一つなんですけど、一応はあります」
「私の目標は村を守ることなので、物凄い移動するようなのとか、隠れてるモンスターを見つけるようなのとか、オーガより強い魔物を倒せる技とかですかね? 技に関しては……まあ強い攻撃でも連続攻撃でも何でも良いと思います。最後に倒せればいいので」
エンリの返事はフワっとしている。だが、それでいて方向性が明確だった。
さんざんラズロックに言われていたこともあり、その視線はブレていない。師匠への憧れもあって、どれも確かに魔法使いじみている。それこそ、その全てを覚えていたら、今回の件でも即座に駆けつけて
それらを聞いてブレインは自分ならばどうするかを考慮した。
そして一つ一つの手段に道筋をつけ、その後にどうなるのかを踏まえて助言することにした。彼自身にまったく利益はないが、もし自分の精鋭部隊なり、冒険者のパーティを作るとしたら有益な経験だからである。
「移動に関しては初歩の魔法で覚えられる。仲間に頼むか、マジックアイテムを探すと良い。二つ目は闘気系の魔法を使えるなら覚えることが可能な筈だぞ。俺の領域や戦域ほどじゃないが、隠れてる奴を探すだけなら十分なはずだ。最後のは後でまとめて説明する」
「っ! 本当ですか! ご助言ありがとうございます!」
それはブレインがガゼフに勝つために集めた情報の内だった。
そして今の彼は他人へ知識を譲ることに何の躊躇いもない。賢者や秘儀の使い手にありがちな隠匿性はなく、むしろ自分の助言でこの風変わりな少女がどんな強さを得るのかが気になったのだ。それこそ自分の助言でもっと強く成り、有名に成ったら楽しいではないか。そしてその強さは自分とは明らかにバッティングするまい、だから嫉妬の対象外でもある。
もし彼女が純粋な戦士であれば、苦笑して居たしこれほど喋らなかっただろう。防御のイロハも覚える気のない弟子を取る気はないし、仮に自分を容易く越えて行かれたら歯ぎしりしかねないとこの当時の彼は思っていた。
「もちろんそれぞれ詳細はまるで違うがな。例えば最初の件だ」
「一口に移動と言っても足の速さか、それとも身のこなしかで違う」
「お前さんの場合は大技を使って態勢を戻すとか、防御は考えないから一択だが」
「その魔法以上になると、もはや第三位階で空飛ぶ奴に運んでもらった方が早いだろうな。だから移動系はまず魔法を付与してもらえ。それで満足できないとか、村を守れる自信が無ければ覚えるくらいでいい。もちろんある日いきなり閃いたなら別だ」
ブレインは右手と左手を向かい合わせ、人差し指同士を近づけた。
同じ人差し指でも左右の差がある様に、体術系のスキル・武技は無数に存在し、オリジナルを含めれば数えきれまい。だが、『流水加速』『即応反射』『居合』『無拍子』などの身のこなしを上昇させる系統は、エンリにとってあまり関係ない。また何種類かある『縮地』なども殆どが対人戦で有効な武技なので意味がなく、またジャンプして移動したり攻撃叩きつける武技も似た技を覚えているエンリには必要が無かった。
となるとエンリにとって意味のある移動系は、足の速さを上げるタイプの武技やスキルのみだ。だが、足の速さだけならば魔法に充実しているので、ブレインとしてはあまり勧めない。もっとも興味があるから閃いてしまい、それが村の端から端まで瞬時に走れるような技であれば、もう考えを変えるしかないのだが。
「次に探知系だが、オーラを操る闘気系魔法にはオーラセンサーってのがある。まあ文字通りオーラしか読めんから、生き物かアンデッドしか探知できないけどな。精気の強さも大体しか分からんのが玉に瑕だが、お前さんの目的からいえば十分だろう。瀕死の獲物に関してどうなのかは俺にも分からんから唱えられるようになったら自分で調べて見ろ」
「そうなんですね! 私、全然知りませんでした! 助かります!」
体術系の話と違って、魔法に関しては伝聞が多いので怪しい知識だ。
だがそれでもエンリにとっては重要な事であった。そもそもラズロックは語らないし、おねだりして聞いたとしても教えてくれないだろう。何しろこの世界の住人ではない為、詳しくないどころかほとんど知らないまである。彼の使う鑑定呪文はシステムに干渉するものなのでユグドラシルベースの魔法なら判るかもしれないが、それこそ武技など逆立ちしても判るはずがないのだから。
「攻撃に関してだが、俺みたいな一点集中型とは相性が悪い」
「武器を持たないってのはそういう短所もある。武器破壊前提の技も使えんしな」
「貯めて使う技もお前さんの動きを殺しちまう。となると連続攻撃か、体当たりだ」
「体力なり威力を底上げするスキルや武技を覚えて、後はひたすら殴るってのが一番のお勧めになる。こいつは案外侮れんでな、かくいう俺もガゼフの奴に四度の攻撃を放つだけの技にやられてこのザマだ。シンプルに強いってのは何処でも通用するよ。そういう意味で、移動技を覚えちまったら、体当たりも悪くはないかもしれん」
順を追ってブレインは説明を続ける。
最も簡単な練習は、ブレインが覚えている武技を教授する事だ。もちろんそんな気はないのだが、教えたとしてもエンリには合わないという。刀で切断攻撃を行ったり、一瞬のカウンターにかけるというのは確かに似合わないというのも確かではある。その上で武器を持たないから、武器を壊す代わりに大ダメージを与える技も使えない。これも割りとメジャーな技なので、やはりモンクやグラップラーなど肉弾戦で戦うタイプはダメージを出し難いという風評自体は間違いではないのだろう。
とはいえブレインは幾つか回答例を知っていた。
印を組んで闘気を集中させて技を放つ忍術の一種であったり、実際に戦った事のある連続攻撃の使い手も居るからだ。また、彼自身は馬鹿にして戦う気も無かったが、騎士が行う様な馬上突撃などの体当たり系の技自体が強いのも確かだろう。もっともこれは、エンリが一度に百メートル以上走るような武技を覚えたらという前提であるが。
「じゃあ連続攻撃を練習したら良いんですか?」
「平たく言えばそうだが、まあお前さんの中でアイデアが固まってからの話だな。それに連続攻撃にも幾つかパターンがある。同じ場所を狙ったり、周囲へ攻撃したりだ。確かお前さんが使う衝撃波なんか判り易いだろ? 他にも片手で連打するのと、両手で繰り出すのと、腰やら肩を含めると本来は無数のパターンがあるな」
そんな事を言いながら今度は両手で攻撃のポーズをやって見せた。
片手でジャブ、両手を使ってワンツーというのは熟練の戦士ならば大抵知っている流れだ。体当たりで肩なり腰でぶつかっていくとか、蹴りを真面目るのも分かりやすい。複雑なのは同じ場所を寸分狂いなく殴るとか、両手で同じ相手を殴ったり別々の相手を殴るなどの様々なパターンが『本来』はあるのだと告げた。
その上で、エンリ自身がこれまでの戦いでスタイルを作っているのが大きい。腕でしか攻撃しないので、基本的に掌と拳だけだ。やろうと思えば肘も行けるのだろうが、今のところは拳で連打と言うのがシンプルに良いだろう。
「もし王都に行くことがあったら、ガガーランって女を参考にすることが良いかもしれないな。あいつは目の覚めるような大女だが、魔法を使った後のエモットから見れば参考になるだろう。その上で、十五連撃を鉄槌で行うというバケモノ染みた攻撃が代名詞のはずだ」
「ブレインさんはその人よりも強いんですね」
「当たり前だろ? 相性差が大きいてのもある。お前と俺みたいなもんだ」
珍しい事にブレインがガゼフ以外の名前を出した。
蒼の薔薇という冒険者グループがあり、先代のリーダーが率いて居た頃に戦った事があるのだとか。その時の経験が無ければ、アンデッド相手に戦い抜けなかっただろうと締めくくったのである。
やがて二人は仲間たちの元に合流し、短い教授は終わった。
僅かな間であるが、戦いの専門家であるブレインから学んだことは大きいのかもしれない。これ以降、エンリは戦いの最終形として、『倒さなければいけない敵が出来た時、どう倒すか?』というフェイバリット・ホールドを探し始めるのであった。
と言う訳で二章のラストにブレインと会話してるだけの回です。
実際には生き残りを探しつつ、余った時間で次の目標を探す感じですね。
ちなみにエンリもニニャも15レベルの壁を越えただけなので、まだまだ強くなります。
(経験値効率の問題で、エンリが足踏みしてる最中に、半分で済むニニャが追いついた感じ)
●エンリの覚えている魔法
キ・マスターなどで覚える闘気魔法。
覚え易い反面、あまり強くないことが多い。また、エンリが取得しているのは能力値の方が上がり易い中間系なので、取得呪文数がレベルに比して少ない。
『オーラパワー』
生命力強化によりダメージ増強、アンデッドには若干有効性が高い。
『オーラヒール』
対象が持つ生命力を強化して回復。アンデッドに効かないとか、回復量は低い。
最大の特徴は取得コストが非常に低い事。
『オーラシュート』
生命力をぶつけてダメージを与える。アンデッドに対して若干の有効性を持つ。
最大の特徴は覚え易さで、エンリが取得する意味はほぼない。
(防御を上げるオーラボディの方が絶対に良かったと仲間は語る)
『クールドリオン』
抵抗値を高め、精神異常への抵抗を高める。冷静さも上がるのでやや落ち着く。
『レジストエレメント』
地・水・火・風による魔法ダメージに対する高い防御を得る。
無属性の魔法などには意味がないが、クールドリオンも併用すると、ドランクなどダメージ以外で溺死させるような呪文にも何故か有効。
『オーラセンサー』将来?
精気探知と呼ばれる部類で、生命体とアンデッドの位置・強大さの実を把握できる。
なお、扱い易いように見えるが、その辺の小動物と、死に掛けた魔物との差が判り難い。
武技を取得しそうなくらいに訓練を重ねれば、把握は出来るかもしれない。
『オーラボンバー』将来?
自分の周囲に生命力を放出して若干の魔法ダメージを与える。
威力はかなり低く、レジストオーラではなくとも、ある程度の装甲があると防がれてしまう。
「意味がない上に味方に被害が出るから、覚えるなよ覚えるなよ!」とよく言われている。
なお、判り易く言うと超級覇王電影弾を一人で、かつ歩いて使う様な物なので、コンボ抜きで単独使用すると非常に弱い。
エンリが必殺技を覚えるとしたら誰を参考にする?
-
ブレインから一点突破系
-
ガガーランから連撃系
-
エルヤーから縮地系
-
オルランドから自傷ダメージ系
-
森の賢王から形意拳