Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

22 / 46
異変

 エ・ランテルで起きたアンデッドの災禍は収まりつつあった。

ただし、その表現は平行線であり、あと少しと言う状況からなかなか変化しない。それは都市長であるパナソレイが失脚しかかった事が主な要因であろう。傭兵や冒険者たちに支払われる予定の報酬が危ぶまれたことに加えて、動員権による統制が失われたからだ。暗黙の了解で許可していた大貴族たちがそっぽを向いたことで、権門に従う下っ端たちが自分本位(いつもの様)に動き始める。

 

木橋を落として、アンデッド諸共に傭兵たちの領土内の通過を渋ったり、逆に手元から離さず我が領地の魔物や盗賊をついでとばかりに始末させようとしたのである。それが僅かながらに進行していくのは、単純に王国が平原の国だからに過ぎない。アンデッド師団を今年は帝国が対処していることもあって、徐々にその災禍は止みつつあったのだ。

 

「オオオオ!」

「せいっ、やあ! これで!」

「まだだ。まだ倒せてねえ!」

 オーガが繰り出す剛腕をペテルが盾でガードした。

そのまま反撃とばかりに腹を切裂くが、棍棒で殴りつけられていた分、態勢が崩れて十全な力を発揮できないでいた。そこでルクルットがフォローの声を掛け、改めて仕切り直してトドメを入れるための戦いに移行する。ここからは確実に倒すための戦いではなく、傷つかずに倒すための戦いだ。オーガ相手に奮戦して大怪我したのでは割に合わない。彼らは既にゴールド級を踏み越えつつあったからだ。

 

剣腕だけで言うならばペテルは既にプラチナ級に匹敵するだろう。

苦戦するとしても単独で討伐可能な筈で、余裕で倒せるようになればミスリル級と呼べるほどの実力者と目されるようになる。だが、いまだに体のコントロールを掴みきれないでいた。何しろ下半身を踏みつぶされたのだ、それも仕方あるまい。

 

「アオ、オオオ!」

「……っ。……っ要塞!」

「馬鹿! 躊躇うなって! あーもう!」

 死に際の馬鹿時からか? オーガが投げつけるように棍棒を振う。

武技が無くとも防げるかもしれない……そう思ったペテルだが、念には念を入れてガードする。それが功を奏したのだろう、態勢を崩しながらもガードに成功した。要塞は一定の衝撃かダメージのどちらかしか防げないので、吹き飛ばされそうになる。しかし、この場でいうならば、むしろ吹き飛んで転がってしまった方が手っ取り速かっただろう。銀級冒険者になりたての頃は、彼もそうやって居た筈だ。しかし速く強く成らねばと言う重いが、流れを阻害してしまった。

 

その段階で狙いを付けていたルクルットが弓を反らせる。

狙撃するには視力の低下が不安であり、同時に体がまだ弱かったころの連携を覚えているのだ。あるいはペテルが健康であった頃と言い換えても良い。以前の……ゴールド級に上がったころならば既に倒しているし、シルバー級ならば転がって離れていただろう。

 

「マジック……」

「ニニャ! 最後までやらせてくれ! うおおお!!」

「ギヤッ!?」

 魔法でトドメを刺そうとするニニャをペテルが制止する。

矢や直線系の呪文ならばペテルを巻き込んでしまうが、マジックアローは追尾性があるので問題ない。そう考えて移動しながら放とうとしたところで、ペテルはあくまで自分の手でケリを付けたいと望んだのだ。元より後はトドメを刺すだけ、その気持ちも分からないでもない。ましてやオーガは自分を鍛えるのに丁度良い強さなのだから。

 

結果としてはペテルは態勢を立て直すのではなく、強引に薙ぎ払いを放った。不要なまでの大振りと言えなくもないが、オーガの方が死に掛けともあって、何とか倒せたのである。

 

「あっぶねーなあ。今のほんとギリだったぜ」

「……回復は必要であるかな?」

「不要と言いたいところだけど、次を考えたら欲しい所かな。あともう少しだと思うと、つい」

 ルクルットは剣に持ち替えており、ダインは回復の準備を始めていた。

ペテルは二人のフォローに感謝しつつ、自分の体の違和感を確かめていたのだ。下半身がいまだに上手く動かないことは、自分が強くなったことで補い合いが採れたつもりではいた。しかし、そんなものは机上の空論に過ぎない。ニニャが以前にそう言ってくれたのは励ましであり目標であって、理想通りに行くほどに順調ではないのだ。

 

もう少し何とかしなければならないという思いと、あと少し上手くできれば、もうちょっとマシなのになると言う思いがペテルを焦らせていたのかもしれない。

 

「今みたいなときにどうするか、パターンでも決めちまうか? 合図も用意してよ」

「ダインは状況に合わせて治療優先してもらうとして、ルクルットがフォローですか?」

「そういうのも良いんだが……。申し訳ないけれど、あとちょっとで一人で倒す為のコツが掴めそうなんだ。もう少しだけ一人でやらせてくれないか? 武技を使うかどうかの判断と、使うとして、どんな武技を使うかで結構違うと思うんだ。エモットさんほど私は器用じゃないしね。どれを使うか、それとも使わないかの差だと思う」

 ルクルットとニニャの会話をペテルは遮った。

二人は前向きで実質的な所があり、その意見は確かに重要だった。しかしペテルとしては届かない実をすっぱいと諦めるのではなく、最後まで手を延ばしたかったのだ。数年前よりも遥かに強く成り、以前にこの森に来た時よりも長丁場で戦えるし、タフになったような気がする。ならば引き攣れて動きの鈍った体を叱咤し、以前の様にスムーズに動けないとしても、戦い方を身に付けたかったのである。

 

それに軽戦士や重戦士というようなクラスの細かい区切りは知らないが、戦い方によって差があることくらいは知っていた。足を止めて戦う工夫として、武技の使い方やタイミングさえ掴めれば何とかなりそうだと、割り切る部分と手を伸ばす部部分は妥協していた。イザとなれば武技を使えるだけ連続して使えば勝てるし、それでは成長しないと自らを戒めているだけなのだから。

 

「そりゃ俺良いんだぜ? リハビリは必要だからな」

「そういう訳で、すまないなダイン。勝手に決めて」

「いや。前にも言った通り我にも重要な修業ゆえ、気にすることはないのであるな。実のところ、最近になってニニャの言っていた『壁』というものを感じるのである。森での戦いならば何とかなる気がするので、修業を兼ねるのは好都合」

 これに対して意外な返事を返したのはダインである。

森での巡回と修業を始めたころに、ニニャからそれとなく話を聞いてはいた。それに他の冒険者たちとも話す経験則から、人間には限界を越えて強く成れる者と、そこそこで止まってしまう者が居るというのを何度も聞いたのだ。現にシルバー級に若くして到達できる者が冒険者としては上と評されるのも、その限界が問題とそれとなく感じていた。

 

だが一同はアンデッドとの戦いで最初の『壁』を乗り越えて居たし、何よりもダインがオーバーマジックを覚え一命を救い、そして彼が上の位階に達することを目的の一つとしていたのだから。そのダイン自身がそんなことを言い出すとは思っても居なかったのである。

 

「いやいや、俺達が救われたのはダインのお陰だぜ?」

「この壁自体は我も以前に感じたことがある。漆黒の剣の一員として活動していく最中、なんとなく自分の限界を感じたのであるな。これが皆の言っていた事なのかと思っていたが、あの一件で我は大化けしてここまでこれた。だが、此処にきて再び壁を感じつつあるのだ」

「ダイン……」

 実のところ、ダインの感覚は判る気がするのだ。

自分には壁があり、その壁が差し迫っている。そしてその壁を乗り越える方法は、あのアンデッドの災禍を乗り越えた時の様に、集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)を皆で退けた時の様に、何かしらの出来事が無いと無理なのではないかと言う感触だ。そしてその壁に達するのは、二系統のマジックキャスターであるダインが早かったのではないだろうか?

 

だからこそ、ダインは言葉を改め仰々しい物にして、交渉にあたる事が可能な様にしたのではないか? そして森での薬草知識なども見識を深めていたのではないだろうか? 実力を延ばせないならば他のナニカで埋めるしかない。武器を魔化して強く萎えないダインとしては、その方法が知識であったのではないだろうか。

 

「ゆえにドルイドや自然崇拝者としての力が最大に活かせるこの森での探索は最適。むしろ積極的に頼って欲しいのであるな」

「わーった。そう言う事なら俺も載らせてもらうぜ。いいだろ?」

「判った。お互い様だな。私もこの傷だけでも何とかしたいところだ」

 男たちはみな顔を見合わせて頷き合った。

彼らはそれぞれに差はあれど、『壁』を感じていたのだ。ペテルだけ魔化した剣を手に入れるなど出来ないし、それに固執しているのは、このメンバーで大成する事だ。ニニャが女であると知った時よりも、今も彼女だけがその才能を延ばして居る事の方がショックであり、タレントを考えれば妥当であると納得もしていた。

 

だが、彼らはニニャを仲間だと強く認識していた。

庇ってもらったり、こちらに合わせてもらうなど我慢できないし、かといって仲間だと思った彼女を送り出して別の仲間を見つけさせるよりも、自分達が努力して共に並び立とうと努力することを誓っていたのである。他の誰でもない、己自身にだ。

 

「つーわけだ、悪いなニニャ」

「……良いんですよ。そうですね。私が覚えたスキルで陣形の派生が幾つかあります。積極的に使っていきましょう」

 ニニャの方でも彼らの心意気を何となく理解していた。

そして自分を仲間外れにするのではなく、自分と共にあろうとしてくれることを何よりも嬉しく思っていた。大群のアンデッドに襲われた時、自分を安全な位置に置いて、彼らだけで決死隊に加わったあの時の絶望は忘れない。それを考えれば、今の疎外感くらいは訳はないと、一抹の寂しさは忘れることにした。

 

こうしてトブの森での探索は無事に過ぎ去るかと思われた。

戦い慣れはしたり、リハビリが順調な事で我慢しよう。そう思った時に、恐るべき襲撃があったのは、幸か不幸か?

 

 トブの森でカルネ村近辺を巡回していた冒険者たち。

彼らはラズロックの忠告もあり、深くは森に分け入らなかった。アンデッドや亜人が精々であろうと油断していたというよりは、その前段階から関わらない様にしていたのだ。それはラズロックがこの世界の強者をよく知らないから警戒していた事が原因でもあり、同時にであったとしてもその強者をチラリと眺める程度だとみんな思っていたのだ。それならば忠告通り、早めに逃げれば問題ないと信じていた。

 

そう、彼らの危機意識は、四体居るとされる強者を想像していたのである。

 

「何か聞こえる!? 草生えを踏みしめてる段階なのに凄い足音だ」

「おー、響く響く。もうちょいしたら草刈ってる場所に出るから土煙が上がんぞ」

「このリズムは四足獣だと思うんだが、先生の言ってた森の賢王かね?」

「近くに他の組が居るなら今の内に合図してくれ、見つかる前に逃げるべきだ。しかし……もう一つの音は何だ?」

 ルクルットはこの日も漆黒の剣と共に巡回に出ていた。

リタイア組では対処できないオーガと戦い、自分達を鍛え直すためだ。だが、その途中で聞こえた奇妙な音を確認するために、地面に耳を直接当てて詳細を探ろうとした。目論見通り、四足の獣が高速で走っている音を検知したのである。そこまでは問題なく、一同は予定通りに対処しようとした。速やかに撤退し、リタイヤ組が居るならば殿軍を引き受けるつもりだったのだ。

 

計画通りに進めば問題ないはず、そう思った時に奇妙な音を聞いた。

そして、その向こう側から聞こえる筈のない言葉を聞いた時、一同の予定が変わってしまったのである。

 

「何をしているでござるか! 速く逃げるでござるよ!」

「……え?」

「誰かいるのか!?」

 重厚で重々しく、それで凛々しい言葉。

それが周囲に鳴り響き、他を圧倒するかのようだ。木々を越えてこの威容なのだ、さぞや立派な相手であろう。そしてこの段階で判るのは、声真似をして誘うような小物ではないという事、向こう側ではきっと激しい死闘が行われているのだろうと否が応でも想像できたのである。そして漆黒の剣のメンバーはいずれも気の良い者たちであり、だからこそこのタイミングで致命的な失策を選んでしまったのだ。

 

誰かが困って居て、戦力が足りない状況なのは間違いない。

ここに戦える者がおり、困っている人が向こうに居て……それだけではなく、誰か戦える者が、仲間を庇いながら苦戦しているのだと思ったのだ。ならば救援できるかはともかくとして、援護くらいはしても良いのではないかと判断してしまったと言える。

 

「助けに行くのであるな。行けば危険やもしれぬ、だが不思議と胸騒ぎがするのだ、ここで逃げても何にもならぬと」

「だったら行くっきゃねーよな。援護して脱出だけでも手伝おうぜ」

「仕方ありませんね。状況を確認して一当てしたら撤退しましょう」

 ダインが森を睨んで妙な事を言い出すと、ルクルットとニニャが頷いた。

弓矢と呪文で援護して、脱出を手助けしよう。その事だけを重視して、もしどうしようもないならば諦めよう。そんな言い訳をしながら森に分け入ったのである。それが更なる混乱を誘いつつも、ここで知らなければとんでもない結末になるのだと思いもせず。

 

ペテルの歩調に合わせて出来るだけ急ぎ、態勢を整えながら進む。

そんな中で突如として地面が弾け、木々がへし折れ、そして朽ちていくという奇妙不可思議な光景が見え始めたのである。

 

「なん……だと」

「うそ……だろ」

「あれは何、あれは何なのであるか!?」

「そんな、あれはウォートロル。トロルの上位種……なのに何で、なんであんな化け物があっけなく殺されてる!? 誰があんなことを!!!」

 驚愕以外の言葉はない。あえて言うならば無残である。

無残、まさに無残! 森の中でも屈指の強さを持っていた、ウォートロルが為す術も無く殺されて居たのだ。それどころか尻から頭までを一気に貫通され、牙の様な棘で切り裂かれ、血も精気も何もかも吸い上げられて、干からびていくという奇妙な光景であった。そしてそのナニカは地面から突き立っており、そのナニカに対する大柄な獣が見えた。おそらくはソレが森の賢王であり、圧倒的な力を有するはずの賢王ですら、足止め以上の事を出来ていない様に思われたのだ。

 

鞭のように唸る尻尾が、そのナニカを切り刻む。

だが、そんな事に意味は無く、ウォートロルは血の一滴までを吸い尽くされてしまった。そして周囲にある血潮すら呑み込み、草生えは干草の様になり、木々は急速に彼は手ていくではないか!

 

「森が……森が死んでいく?! 何という事を!」

「っ! ボケっとしてんじゃねえ! 一発撃ち込んだらズラかるぞ!」

「はっ、はい! ファイヤーボール!」

 ドルイドであるダインは惚けていたが、ルクルットとニニャは攻撃に移った。

長い尻尾を巻き込まないようにして、地下から伸びるナニカに矢やら火球を撃ち込んでいく。その勢いに押されたわけではないが、第三者を見た賢王が少し間を取った。そして両者の距離が離れ、尻尾が動かないことで、相手の様相が見え隠れし始めたのである。

 

それは植物の枝葉に牙の様なトゲと輝く先端を持つ、珍妙不可思議にて、森の活力を吸収する凶悪な存在であった。

 

後の世の者は、ソレを評して『魔樹の竜王』『覇道の竜王』ザイトルクワエ』と呼ぶ。




 と言う訳で時間経過と共にアンデッド騒ぎは収束しました。
王国上層部が余計な事をしなければ、もっと早く収まっていたでしょう。

●漆黒の剣のレベル
・ペテルとルクルット14レベル
・ダイン。15レベル
・ニニャ。18レベル

 ペテルとルクルットは負傷入院していた事、ダインが経験値多めに入るので差が出てます。
ニニャは『壁』が来るまでは経験値半分が活きてるので、もう別格ですね。
3レベル割りで、ペテル達がゴールド級後半からプラチナ級、ニニャだけミスリル級。
チームとしてはプラチナ級だけど、昇格試験を受ける余裕が無いのでゴールド級のままです。

なお、ダインが壁を感じてるのはあくまで私見で、何処かに記載されてたわけではありません。
とりあえず11レベルの壁を越えたけど、15レベルの壁はまだ怪しいという所ですね。
その点、魔化した装備一式があれば上を目指せるペテルのような前衛との差になるでしょうか?
(装備もってても実戦経験が少ないと、クライムの様にゴールド級相当に留まるでしょうが)

●トブの森の異変
 時間帯の問題で例の件が動き出しております。
ウォートロルの『グ』さんはナレ死してしまいました。仕方ないですね。
なお、ザイトルさんはこの世界戦では、『破滅の竜王』とは呼ばれておりません。
あれはナザリックである可能性があるので、あえて別の名前を使用しております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。