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ラズロックの館で作戦会議が行われていた。
帰還したエンリ達に加えて、森の賢王も参加して『謎の触手型モンスター』対策を話し合っていたのだ。だが、そこにブレインが新たな客人としてナーガを連れてきたことで話が一変する。
なんと、あの魔物は一体だけではないのだという。
「姿を消しても見つかってしまうゆえ、全てを確認したわけではない」
「しかしのう。我らの縄張りだけではなく、あちこちで見かけるのじゃ」
「この森の全てを喰らわんとしておるのか、山の南側全てなのか?」
「どちらにせよ、放置しては我らの生活はおぼつくまい。そこでワシは手を組める相手を探しておったのじゃ。一匹だけなら倒せんでもないが、何匹もおったのでは増えてしまうからの」
長い名を持つナーガは、リュラリュースと短く区切って自己紹介をした。
どのみち人間たちは他のナーガを知らないので、ナーガとだけ呼べば伝わるであろうが。ともあれ彼女の話によると、最低でも四体は存在するという。おそらくはウォートロルの領域をも荒らしており、同じ個体だと思って周回したようだが、実は数匹いるらしいとの観測である。
もっとも、そこに多少の嘘はある。
自分で必死に戦う気はなく、他者に戦わせて援護するに留める気であったからだ。用心深く、トブの森で縄張りを持つ魔物の中では、自分が一番弱い事を知っていた。そしてその事に絶望せず、他者を利用する知恵があることも自覚していたのだ。
「植物系だけに増え方が分からないのがこわいぜ」
「雌雄が揃ったら繁殖する種類が居れば、単独で増えるのも居ますからね」
「どちらにせよ、一気に刈ってしまうのが良いのである」
まず知識のあるルクルット・ニニャ・ダインが口を開く。
強い事は強いが、数が居ないのであれば何とでもできるからだ。一体ずつ時間を掛けて行けばいいし、その方針ならば色々と準備できる。だが、これが増えるタイプのモンスターだと大変なのだ。一体・二体を苦労して倒している間に、息が付けば無数に増えて囲まれる……それどころか個の場合は森が全滅しかねない。予測を立てて必要な物を揃えるのは確かな手法だが、相手次第では悪手になる。
ひとまず重要なのは相手がどの程度の強さなのか? そして増える速度次第で、どれほどの脅威になりそうなのかの算定である。
「まずは増える速度ですね。それで難度に大きな補正が掛かります」
「ワシは見たことがないし、長い年月を掛けて増えたのか、それとも森が枯れて分かったのかもしれんしのう。北におったドライアドならば別やもしれぬが……」
「最近は見かけてないな。おそらく倒されたと思う」
「増える速度に関してはひとまず置いとくとしようぜ。調べようがねえ」
ニニャの言葉にリュラリュースが首を振る。
そしてラズロックが補足すると、そこで情報収集に関しては行き詰まりだ。目撃例が少なく、知って居るかもしれない存在が死んでいると目された。あくまで推論に過ぎないが、現時点では他に知り様がない。最後にルクルットが締めくくった言葉が結論であろう。ここは都の冒険者ギルドであるとかではないのだ。
すると絞られるのは強さだが、上を見るとキリがないので溜息を吐いてしまいそうになる。
「問題の難度ですが英雄級とされる方が九十からです」
「この段階だとプラチナが精々の私たちでは。流石に勝ち筋が見えませんね」
「リュラリュースさんもブレインさんも我々から見ると、勝てないという意味では同じです」
「失礼な言い方になりますが、魔法型のリュラリュースさんの方が接近できれば……というレベルですが、ただしこれはもっと難度の低いエルダーリッチを参考にした場合です。姿隠しを使えるというならば絶望的でしょう。森の賢王さんにいたっては、戦う事に成ったらどうしようもありません」
ここで知識と言うより体験的な話でペテルに変わった。
まずはこの場に居るメンバーを例にして具体的な数字を現していく。この難度と言うのは冒険者組合で語られている、討伐に必要な難易度の目安である。冒険者はおおよその目安を持っており、単独ならば自分相応の数字まで、パーティならば五割増し程度までであれば戦う事が出来るとされている。プラチナ級だと難度四十五(15レベル)~五十レベル(17レベル)であり、難度六十五から七十の22レベルのエルダーリッチが限界線になって来る。
ゆえに難度が二倍近いブレインたちは勝ち筋が見えない。
ややレベルが低く物理防御の低いリュラリュースならば可能性があるというのは接近できればの話であり、奢り昂る事の多いエルダーリッチはともかく、臆病で姿を隠すリュラリュースとではまったく参考に出来ないだろう。おそらく近づくこともできずに遠距離から一人ずつ殺されるだろう(その際は間違いなく、飛ぶことのできるニニャから)。
「まあそんなところか。俺もこいつには勝てるだろうが、間違いなく『次』は出て来んよな」
「ほほっほ。無意味に戦うのは考えものじゃて」
「それがし褒められたでござるよ~。でも、それがしも無意味に襲う事はないでござるな」
難度が決まっても、そこから相性の問題に突入する。
ブレインは武技で気配探知や動態探知も出来るので、リュラリュースに対して接近戦では圧倒的に有利に立てるが、それでも姿を隠して遠距離戦を挑まれるとどうしようもない。その点でエンリならば足が速いので見つけさえすれば追いつけるかもしれないが、気配探知の魔法を覚えたとしても、逃げられる前に勝てるとは思えなかった。
その意味で、全ての面でその三人の上位互換である森の賢王は圧倒していると言えるだろう。身体能力だけでもブレイン以上であり、足の速さはエンリ以上、回数制限こそあるが魔法も使えて知性も兼ね備えているのだから比較するのがおかしいと言える。
「その上での話をします。戦闘力自体は森の賢王さんほどではないと見ました」
「問題は圧倒的な生命力です。賢王さんの話では、トロルの上位種も戦ったとか」
「力の強いトロルが居て、倒したと思ったのに油断した。それだけではありません」
「我々も協力し、しかも賢王さんを前衛に強化して戦い続けましたが、触手の先が千切れた程度のダメージです。あの様子では半分も削れたかどうか怪しい所ですね。賢王さんを難度百以上とすれば、相手は生命力だけなら百三十はあるかもしれません。そしてそれが複数体存在しているということになります。更なる問題としては、出来るだけ急いで対処せねばならないのに、この状況を冒険者組合が信じてくれるかでしょうね」
危険性は決して強さだけでは測られない。
判り易く難度を『勝てるかどうか』であらわしているが、先ほど言ったように相性もあればパーティなどの状況にもよる。エルダーリッチをプラチナ級ならば勝てる可能性が高く、ミスリル級ならば確実とは言ったが、あくまでそれは正面からぶつかる事が出来ればの話だ。しかも延々と戦った上で、メンバーが無事に生き残れるかは別の問題なのである。
この状況下で戦闘力はそこそこだが、生命力が高過ぎて速攻では倒せないだけ……。そんな相手の評価と危険性を組合のトップが理解してくれるかは怪しい所である。
「森の賢王さんとやらなら俺が指標に成れるな」
「ブレイン・アングラウスが仲間の援護で勝てるギリギリって所だと言やあ良い」
「無論、かつて大会で見せた以上……そうだな、蒼の薔薇のガガーランにも相性無視して勝てると自負してるぜ。これで俺が九十かはともかく、賢王さんが百越えてる所までは納得してくれるんじゃねえかと思う」
アンデッドの災禍を乗り越えたブレインは、ガガーランより確実に強いと言える。
彼女(?)より総合力で強いとされる、青の薔薇のリーダーであるラキュースが九十に届かず、英雄級にはあと一歩とされている。単純な比較はできないがブレインは有名人であるし、蒼の薔薇とも面識がある彼が保証するのだ。森の賢王の強さ自体は信じてもらえる可能性があった。もっとも、そこから植物系モンスターの強さへの保証が難しいのは変わって居ないのだが。
ただ、何となく実力自体の算定は出来る。
森の賢王なら実力的には上で、バフがあれば安定すると言うならば、同じようにバフを盛りに持ったブレインでも良い勝負ができるという事だ。後は賢王とブレインが前に立ち、リュラリュースほか後衛が魔法を連射して勝てるかどうかの確認作業であろう。
「なら師匠以外の全員で攻略して、掛かった時間で算定しますか?」
「そうだな。余裕がある様なら漆黒の剣は参加せず戦力の確認。無理なら先生にお出まし願うか、素直に組合に伝令だな」
ニニャの提案にブレインは頷いた。その構成なら蒼の薔薇に匹敵するだろう。
もちろんブレインが知っている蒼の薔薇と、今のメンバーでは構成がかなり違うはずだ。しかし当時よりも大きく戦力が下がったとは思えないし、抜けたリーダーがネクロマンサーだったことを考えれば、魔力系マジックキャスターであるイビルアイに変わった現在の方が火力的には上だろうと踏んだのだ。その上で、こちらも漆黒の剣が入ると平均値が下がるものの、リュラリュースや森の賢王の事を考えれば同じくらいだと計算したのである。
ここで予定を組めば、後は可能な限り余裕をもって勝つための算段である。
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先ほどは難度の算定と、組合を説得する方法だった。
しかし、ここで勝つための方策を探ることに成って、発言メンバーが大きく入れ替わる。ここにきてンフィーレアが積極的に提案して来たのだ。
そしてラズロックに倣って、単純な指標を板に描いていた。
「あのモンスターは知っての通り、生命力重視で皮はあまり硬くありません」
「それでもエンリの拳と、普段使ってる強化呪文より上でした」
「なのでエンリは僕らの守りに回るか、もっと効く呪文を付与してもらうべきですね」
「特性上……火や酸に寄る攻撃が効くようです。ただし、効くと言っても桁違いの生命力からすると、強化呪文はあるならば理想的と言う所だと思います。そこで僕の提案としては、薬剤を調合してみますので、誰かが投げつけてくれるとありがたいですね。もし効くならば消えてなくなるまでは延々と生命力を削ってくれると思います」
この日のンフィーレアは冴えていた。ずっと考えていたのだろう。
いつもならばエンリが戦う事を止めるように主張するだろうが、今回は有効ではないと提案した上で、もっと良い解決方法があると提案したのである。その論理に矛盾は特に感じられず、彼が錬金術系の薬師と知っておかしな点も無かった。むしろ楽になるというならば、願ったりかなったりだろう。誰だって一時間以上、同じモンスターと戦いたいわけではないのだから。
そして戦い難くなる戦士であるブレインも反対はしない。
むしろンフィーレアが目安として示した、エンリの攻撃力よりもやや上程度の防御力を注視していたくらいである。
「薬を投げるなら俺の役目だな。だけど持続するタイプの呪文なんてあったか?」
「刃の網や電撃の網ですかね? 問題は高度過ぎるのと、全身に及ぶ事ですが」
「根元を燃やすならともかく全身はちょいとな。俺としては付与呪文の方が気になる」
「覚えられる範囲で炎を付与する呪文がありますね。欠点としては早い段階の呪文なので、複数属性に関する耐性の片方に引っかかるとダメなタイプです。今回は良いですが、スケルトンの上位種に使うと、炎は通るはずなのに刃が防がれてしまいます。もっと高度な呪文ならむしろ逆らしいのですが」
薬はルクルットが投擲するとして、ンフィーレアがバインド系の欠点を告げる。
そうそう長時間に渡って効果を及ぼすような呪文は存在せず、あったとしても敵の全身に効果が及んでしまう上、手を出した味方にダメージが飛ぶので問題があるのだ。そしてブレインの意見で付与呪文はどうかと言うと、ニニャは割りと初歩にあるヒートウェポンという呪文を挙げた。筋力を底上げするレッサーストレンクスとは共存出来るのは良いが、相手の耐性を抜き難い呪文なのだという。
何というか似たような呪文が高度な位階に存在するとされているので、おそらくは劣化させることで初心者でも覚えられるように改良した呪文なのだろう。
「まあ、今回問題無ければ良いさ。これで俺と賢王さんも問題で押し込めるぜ」
「私も護衛しながら伸びて来た枝くらいは落せるようになりますね」
「ひとまずこれで前回よりも二割増し、ブレインさんが居る事や強酸の薬を考えれば五割増しで行けると思います。後はありったけ即効性のポーションを用意するくらいかな。僕も魔法の腕が上がったんで、作れる数と種類が増えたんだ。今回は間に合わないけど、次回はもっと持ち出せると思う」
ブレインの分だけ前衛が増えるが、付与呪文で手が取られ火力はそこそこだ。
だが複数の薬品に呪文を置き換えることが出来れば、それなりに優勢で戦う事が出来る筈だ。そしてここで成果を出せば、あの植物モンスターの総力を暴き出すことができるだろう。エ・ランテルに居るミスリル以上のパーティ三つや、出来るならば王都から蒼の薔薇を呼ぶことが出来れば、確実に倒せるのではないかと思えたのである。
そしてンフィーレアが短期間で用意できるだけの薬を加工し、次回以降の仕込みを終えたところで、ザイトルクワエへの再戦に赴く事に成ったのである。
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その会議の終わりごろ、リュラリュースは平身低頭してラズロックに話しかけた。
エンリやニニャと番いであり、ハレムを築いている事には気付いているので、機嫌を損ねないように注意しての事である。
「そ、そういえばラズロック殿。こちらを見ている者に気が付いておいでですかのう?」
「時折に結界を抜けて視線が飛ぶので、一応は……ね」
リュラリュースには『己に向けられた感情を読み取る』特殊能力がある。
その能力を用い、ラズロックが遥かに己よりも強く、リュラリュースだけでなく森の賢王すら容易く倒せる事を理解していた。それゆえに先ほどの会議では協力的であり、同時に異論は挟まなかったのだ。もし彼が居なければ、『さっさと援軍を呼んで来い!』と怒鳴るか、逃げ出していたかもしれない。
だが、この能力によって、不意に理解したことがある。第三者が自分達を遠巻きに確認している事であった。
「何やらこの建物を値踏みして居る様子」
「ワシに向けられた感情も読めるのじゃが、恐ろしい事にワシなど一ひねりと思うておる」
「値踏みによると南の魔獣……そなたらが森の賢王と呼ぶ者よりも強いやもしれぬ」
「い、いやラズロック殿ならば間違いはないと思うのじゃが……注意が必要やもしれぬか思ってな。ヒョホホ……これも同じ森の中に住まうモノとしての助言じゃよ」
リュラリュースは僅かな情報から理解できたことを忠告した。
この事でラズロックをけしかけて倒せれば安全だし、忠告したことで自分の安泰を図る事が出来れば万々歳だ。実際、ラズロックはリュラリュースに対して全く興味を抱いていない。何しろダンジョンで出逢えば、アッサリ倒せるレベルなのだから当然であろう。
ともあれ、ラズロックはそこまで感知力は高くないし、探索用の呪文もあまり持ち合わせがない。彼が感謝して、情報を活かせるのは間違いない事だ。リュラリュースの算段は図に会ったったと言えるだろう。
「なるほどね。他の触手を倒してみようかと思ったのだが、隠れてエンリ達を見守るついでに、私はその視線の持ち主に当ってみようか。ともあれ、情報に関して感謝する」
こうしてラズロックは未知の視線を知ると、対処に当ることにした。
漆黒聖典の中でも、運と精神抵抗の低いダウナー三人娘の運命がどうなるのかは……神のみぞ知る。
と言う訳で、ザイトルクワエ(一部)との作戦立案です。
六本ある触手の一つなので、まあ勝てるんじゃないかな?
問題なのは本体が切り離しを決断するまで、延々とバカ高いHPがある事なのですが。
●リュラリュースの特殊能力
ナーガの御婆さんが持つ能力で、原作ではアインズさまが路傍の石みたいに扱ってることを理解してました。今回はそれを活かす感じですね。
●ダウナー三人娘
漆黒聖典の中でも運が悪く、精神が折られた事で定評のある三人娘。
『占星千里』
予知だけではなく、遠くの物事を監視し、それを幻覚で見せることのできる人物。
服装はJKで、中身もまあJKとして通じる年代の女の子。
原作では王国の主戦力が18万くらい消えてなくなるのを見て、心が折れてました。
今は補助魔法で監視系の魔法を強化し、屋敷にある結界を突破して、デバガメしてます。
『疾風走破』
御存じクレマンティーヌ。弱い時代から頑張って、なかなか伸びずにひどい目にあった。
この中では一番弱いが、相性の問題で不意打ちすれば皆殺しに出来る。
逃げ出すのに都合が良いかなーと思っている模様。
『無限魔力』
魔女っぽい恰好をした女の子で、当初は占星千里と思われていた人。
昔は高慢だったらしいが、絶死絶命にプライドを粉々にされて、今では三下系。
名前からしてMPが豊富に成る上、瞑想系スキルで高速回復すると思われる。
魔力タンクとして連れまわされてないので、おそらくは状況に合わせて魔法を連打するタイプではないかと思われる。