Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

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仮初の勝利

 カルネ村に集まった一同はザイトルクワエの討伐に向かった。

いまだ本体の名前どころか、それが触手の一部とすら知らぬままに。油断しているわけでも無いし、本人たちは全力を振るっているつもりであった。しかし、事件の全貌を暴いても居ないし、目の前の敵を倒したところでその解決にも成らないのだが……。

 

それでも当人たちは、全身全霊を奮って戦いに挑んでいたのである。

 

「植物系モンスターの地力は高いが、決して知能は高くないのである」

「見た目よりも遥かに知覚力は広いし、生命力は見ての通りで油断は出来ぬ」

「だが戦場全てを俯瞰しても、脅威の全てやその戦自体を理解しておらぬ」

「ゆえに我らが弧を描いて進む中、ルクルットたちが待機して居れば前衛を優先するであろうと思われる。狙うならばそこであろう」

 植物系モンスターに最も詳しいダインの指示で初動が決まった。

スリングを使って薬剤を投擲する者や彼らを守る者が留まり、本隊は弧を描いて移動する。そうすると敵は数が多く接近してくる方に注意を向けるので、触手の先は本隊に向かうのだ。もちろん初期位置に誰かが居り、様子を伺っているのは感じているだろう。だが、優先度として接近する方を優先するのは間違いない。ただ、人間と違って見えている脅威を理解できないだけである。

 

勝率を上げるこの作戦に否応はなく、ルクルットやンフィーレアに彼らを守るエンリがその場に停止。ブレインや森の賢王たちはゆっくりと示威行動を行いながら接近して行ったのだ。

 

「よっしゃ! 何時でも投げれるってのに隙だらけだぜ!」

「やはり同じ状態だと動きを把握できないんですね。これはチャンスですよ。よく狙ってください」

 ルクルットがスリングを回す中、ンフィーレアが注意を呼び掛ける。

最初からスリングを回す状態で待機していた為、ザイトルクワエは何の変化もないと把握しているのだ。これは植物モンスターは戦場を『俯瞰』していても、『把握』していない事に由来する。先ほどと比較して全く姿勢が変わっていない為、何の脅威も感じていないのである。も特殊能力やし戦闘力を把握することが出来たとしても、本隊の方が遥かに強力なのだから当然と言えた。

 

そして十分に狙い澄まし、スリングを構成する投げ紐が薬剤を投げ放ったのである。

 

「命中! ちゃんと根元に当ててやったぜ!」

「……みんなが仕掛けたら二発目に行きましょう。このまま行ければそれで勝てるんですけどね。駄目なら本命を使わざるを得ません。森の事を考えれば避けたいんですが」

 ルクルットが放ち、ンフィーレアが補充したのは強酸の瓶である。

着弾と同時に割れることで、中身を根本付近にまき散らす。とはいえ、ハズレる可能性や防がれる可能性もあったので、その分量はさほど多くない。ンフィーレアが前から持っていた強酸自体が少ないので、それを分割したら大した効果には至っていないだろう。ンフィーレアは冷静に周囲を観察しつつ……手元にある強酸の瓶ではなく、脇に置いた『本命』の瓶に目を向けた。

 

それは法国の置き土産であり、そして今回の救世主でもある。

カルネ村を始めとして周囲の開拓村を恐怖のどん底に陥れた凶器でもあるのだ。複雑な感情を隠せないでいる。黙ったままこちらを守っているエンリに至っては猶更であろう。

 

「仕掛けるぞ!」

「心得たでござるよ!」

「リインフォースアーマー! リインフォースアーマー!」

「ツインマジック・ヒートウェポン! ツインマジック・レッサーストレンクス!」

 そして本隊もタイミングを合わせて動き始めた。

ブレインと森の賢王にバフが掛かり、前回の戦闘の焼き直しが始まる。あの時よりも強化魔術と戦闘員の質が上がっており、薬剤による援護もあって、相当に優位となっていると思われたのである。もちろん、このまま都合よく事態が進めばの話である。

 

一通りの付与呪文が使われ、攻撃呪文を含めた本格的な攻撃に移行し、ルクルットも何度目かの薬剤を投げ込んだ時にその変化は起こった。

 

「うおっ!? なんか途中から割けやがったぞ!?」

「二本に分かれた!? しかもこっちに向かって来るし……私が何とかするしかないよね!」

 ザイトルクワエの触手が途中から二本に分裂する。

それらは端々で無数に枝分かれし、まるで二本の手となって周辺をベタンベタンと叩きつけて攻撃するかのようである。さしもの冒険者たちもこれには驚き、さらには薬剤の瓶を叩き落とされたことで、その精密性から驚きはより一層大きくなったのだ。そしてその対処をこなうべく、守るために留まっていたエンリが対応するのも仕方のない事であろう。威力が出せないならば護衛に回って良かったなどと思う暇もない。

 

とはいえ、攻撃の激しさが増すこと自体は予想された事だった。

当初は巨大な触手を鞭のように振り回して戦場を横断すると思っていたのだが、体を分割してそれぞれに当るという、積極的で的確な作業であったから驚いただけの話である。ややあって一同は勢いを取り戻し、戦いは一進一退で続く。

 

 体を分割するというのは本来ならば悪手。

しかし、膨大な生命力を持つザイトルクワエにとっては意味のない過程である。六本ある触手ですら、その一本一本が初心者用のレイドボスなのだ。むしろ圧倒的であって当然であろう。中間部分こそ増やしてはいないが、先端は無数に分裂させて、命中性を高めて本隊を攻撃していたのだ。

 

だが、討伐チームは決して無策であったわけではない。

薬師であり、本質が錬金術士であるンフィーレアなどは薬剤を積極的に投入しており、これはユグドラシルには無い戦い方なので良い面もあった(ゲーム中のダメージ系ポーションは、種類や効果時間が制限されているのもある)。

 

「こりゃ駄目だな。『今』使ってるのは伸びたところで散ってるぜ」

「仕方ありませんね。薬剤が効果的なのは証明されましたし、『本命』を使いましょうか……」

 ルクルットが投擲した薬剤は後半が叩き落とされた。

前半で投げた物は効果があったが、ザイトルクワエが触手の体を延ばし、盛んに振り回した始めたことで飛び散ってしまったのだ。酸による継続的なダメージ自体は意味があったので、ここは彼らは作戦を切り替える事にした。

 

そもそもンフィーレアが酸を選んだのは、揮発性ゆえに森への被害が少ないからだ。植物系モンスターを倒すならば、もっと良い薬剤が存在する。そしてソレは結構な量の在庫が存在しているのだが……、もう一つ理由があって使わなかったのだ。

 

「ンフィー! 私の事は気にしなくて良いから! 今は……」

「……判ってる! ルクルットさん! 錬金油を使ってください!」

「判った。お前らのその覚悟、受け取ったぜ! ペテル! あの二人に声を掛けといてくれ!」

 それは法国が残した爪痕である。

開拓村を襲った部隊は村々を焼き、しかも地下に隠れた者を焼き殺すために、怪しい場所へ使うつもりで大量の錬金油を持ち込んでいたのだ。もちろんそれは亜人種の村対策に有益であるため、専用部隊である陽光聖典も所持していた。ゆえに使用分を除いても在庫が存在したし、ンフィーレアが研究する参考資料にする事も出来たのだ。

 

今までそれを使わなかったのは、森を焼いてしまう事と、カルネ村を始めとして開拓村を焼いて来た忌まわしい『武器』でもあるからだ。良心的な薬師であるンフィーレアが武器としてのポーションを使う事に躊躇いを覚えていても仕方あるまい。

 

「森の賢王さん! ブレインさん! 油を撒きます! 炎に注意してください!」

「それがし、特訓したでござる。少しは怖いでござるが、見なければ問題ないでござるな」

「少しくらい熱いのは仕方ねえよな。やってくれ!」

 本隊の後衛を守っていたペテルが前衛たちに声を掛けた。

薬剤の瓶を叩き落とした触手が、そのままあちら側にも行くかもしれないからだ。それに錬金油による炎は延焼性が高く、火の粉が飛び散る危険性は高かった。バフのために駆ける強化呪文は時間の問題だけでなく、習得率が低い事もあって最低限だ、対火系の耐性呪文など用意もしていない。よって一同は延焼で火傷する可能性もあって、注意をしていたのである。

 

そしてこの延焼性による脅威は、ひっくり返ってザイトルクワエの防御手段を抜けるという事でもある。触手がさらに枝分かれして全て瓶を叩き落とそうとも、延焼して周囲を燃やし、地下にある本体をも燃やすと期待されていたのだ(実際の本隊は遥か彼方であるが、半ばから燃えれば効かない訳ではない)。

 

「さて、こいつでお寝んねしてくれよ! いよっしゃ! 落す意味はねーよバーカ!」

「ルクルットさん、次々行きましょう! 僕はお渡しする合間に、着火できる呪文を使います!」

「……」

 スリングで次々と放たれる錬金油。

例え叩き落とそうとも強酸と比べて予備が多いし、落とされてもそこを基点に燃やすことができる。ヒートウェポンでの着火率は低いので現時点では対して火が点いていないが、本格的に燃え始めたら今のペースどころではないだろう。そしてその間にも本体は着実に攻撃を重ねていた。

 

その様子をエンリは複雑な表情で見つめている。だが決して苦悩はしていないし、むしろ別の事に着目出来る程には割り切っていたと言える。

 

「ねえ、ンフィー……」

「大丈夫だよ。奴がこの辺の植物を食べてるから、村まで燃えたりはしないよ」

「そうじゃなくて! なんだかあの触手、細くなっている分だけ、弱くなってない? もしかしたら、燃え易くもなってるかも」

 エンリが気にしていたのは、体を割いた短所に関してである。

確かに膨大な生命力があれば、体を分割してロスは大したことはない。それこそ一万以上の生命力があるならば、数十点や百点のロスごとき大したことはないのだ。ただし、大きさから来る防御性能自体は落ちている。それこそエンリの拳では大したダメージが与えられない筈であったが、分割した後でならば結構通るのではないだろうか? もちろん、薬剤チームを守るエンリが勝手に前に出る訳にはいかないのだが。

 

しかし、この日のンフィーは魔法ではなく知恵で動くことを決めていた。それゆえに、この情報をどう活かすかを考え始めたのだ。

 

「賢王さん、ブレインさん! 相手の防御力は下がってます! 連撃や範囲攻撃が有効な筈です!」

「っ! そう言う事なら! 武技、連撃!」

「ならばそれがしは、こうするでござるよ! グルグルグル!」

 防御力が下がっているならば、接敵面積が増える方が有効だ。

ブレインは威力重視の斬撃ベースから、連撃に切り替えて端の方を削り落としていく。そして森の賢王は尻尾の先端を延ばすようにして、槍のように使っていたのだが……今度は体を回転させつつ、まるで巨大な刃のように尻尾を使ったのである。それは遠心力ともあいまって、分割しているザイトルクワエの先端を千切り飛ばしていった。

 

尻尾の長いハムスターが尾を振り回す姿はダイナミックであるが、同時にコミカルである。しかしこの世界の人々にとっては、とても強壮で、そして頼もしく見える動きであった。

 

「凄いね! 森の賢王さん! 私にもできるかな?」

「モンスターや獣は自分の体を効率よく動かせるからね。エンリの場合は、自分の体格にあった技にしないと駄目だと思うよ。だって尻尾とかないもの」

 その姿を見ていたエンリは、時折に延ばされてくる枝を迎撃しながら歓声を上げた。尻尾の代わりに裏拳でグルンとやってみたり、ジャンプして手刀を振り下ろしたりと、森の賢王を参考に動き続けるのであった。

 

そして気の遠くなるような時間を掛けて、一同はザイトルクワエの触手を見事に討ち取ったのである。もちろんそれは一部にしか過ぎないし、彼らは各地に現われたソレが一塊の強敵であるとは知る由もない。だが、この時ばかりは強敵相手の勝利に酔いしれたという。




 と言う訳で、ザイトルクワエの触手に勝利しました。
まあ六本ある触手の一つでしかなく、長々と戦ってかろうじてというところですが。

●法国関連の品
 錬金油がネタ的に丁度良かったので使ってみました。
ンフィーなら最初から作れそうな気もしましたが、参考にしないと増やせないレベルとします。他にもドロップ品(?)はありますが、まだ使わないと思います。

●みんなのレベル帯
40レベル以上?森の賢王
30レベル前後。ブレイン。英雄級
30レベル弱。リュラリュース。アダマンタイト級
20レベル弱。ニニャ > エンリ。ミスリル級~オリハルコン級
15レベル前後。漆黒の剣とンフィーレア。プラチナ級~ミスリル級

番外。ラズロック。逸脱者~神人級
 ユグドラシル換算で、80レベルくらい。ただしMPのみアインズ様並。
正面から戦ったら、アインズ様どころか絶死絶命にも隊長にも勝てないと思います。
とはいえ、ラズロックさんの本体は『セックスすると女の子の魔力が増え、魔法系クラスのレベルが上がる可能性が出る』ことなので……。
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