Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

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屹立する竜の脅威

 ザイトルクワエの触手を倒した一同は、さっそくラズロックの館で相談を始めた。

主な目的は戦力評定であり、難度を算出して冒険者組合に提出するためである。一体ずつ倒していくだけならば彼らでもできるが、数体存在するのならば、早い段階で駆除しなければ、トブの森が枯れてしまうからである。

 

その日はラズロックが不在と言う事もあり、漆黒の剣のメンバーを中心に議論が始まった。

 

「やはり一番の問題は戦闘力もですが、生命力が隔絶している事ですね」

「どれだけ忠実に記載しても、戦闘力のみを基準にされては危険な事に成ります」

「全力をぶつけてさっさと倒してしまうのが定番ですが、流石にその戦法は使えません」

「むしろ長丁場で戦い抜ける方が大事です。理想を言えば前衛も複数いて交代できるか、回復役本人も防御力が高い方が良いでしょうね」

 戦闘を思い出しながらニニャが溜息を吐いた。

伝聞と言うものはどうしても甘く見がちである。ましてやブレインはガゼフと互角に戦ったという評判だが、最終的に負けたことからワンランク下に見られがちだ。今では防御スキルや部下への指導で総合型に成りがちなガゼフに対し、剣技一本のブレインの方が上の筈。その辺りのニュアンスが伝わり難い上、漆黒の剣のメンバーが最近になって力を付けてきたことにある。ちょっと前にゴールドのランクになった所であり、プラチナ級に至っているとか、ニニャはミスリル級に匹敵するといっても信じてもらえない可能性がある。

 

そして何より重要なのが、冒険者は速戦の方が多いという事だ。

誰しも傷を負いたくない事もあるが、戦技に魔力などのリソースは有限であり、戦う内に使い切っているものなのだ。速攻で倒して相手に反撃らしい反撃を挿せない方が賢いというのが定説である。

 

「なら具体的に使った魔法で判断した方が早いな。重傷治癒なんかどうだ?」

「覚えていないのであるな。ただ、リインフォースアーマーなら二回しか余裕がなかった」

 後衛を守っていたペテルが尋ねるが、ダインは首を振る。

防護力を高めるバフは最初こそ使用したが、後は回復する必要に迫られて断念せざるを得なくなった。しかもその回復は途中でエンリに魔力を融通してもらっているので、一人分の魔力消費量では収まらないだろう。重傷治癒を使える者は滅多におらず、ダインはアンデッドの災禍が始まる以前までは使用できなかったのだ。オーバーマジックを用いなければ現在でも使えないので、その事も考慮してもらえない可能性はあった。

 

つまりはブレインも漆黒の剣も成長前の情報が先行している為、組合の者を説得できるか不明なのである。ザイトルクワエを倒すには最低でもオリハルコン級のチームを派遣するか、ミスリル級ならば複数であたる必要がある。しかしエ・ランテルにはミスリル級までしかいない事もあり、『ひとまず個別に派遣』した結果、各個撃破で痛い目にあう事が考えられたのである。

 

「その辺りは馬鹿正直に話す必要はないだろ?」

「話の通じる亜人と手を組んで、向こうにも被害が出てるとだけ言やあ良い」

「強力な呪文を使える亜人と手を組んでることも、別の亜人が死んでるのも確かだ」

「最終的に呪文なり強さが揃ってれば良いのさ。誰がどうとかそういうのは、相手に考えさせりゃあ良いんだ。俺らにはそれ以上、何も出来んだろう? なら俺たちがやる事は行動するだけだな。悩んでる間に、次の奴を倒す方がよほど意味がある。俺にとっても修行の相手としちゃあ、願ったり叶ったりの相手さ」

 ここでブレインはかなり実在的な考えをした。

説得材料を揃えることにあまり意味を感じず、むしろ一刻も早く倒しに行く方が建設的だと告げたのだ。実際に貢献度にしても実力にしても、ブレイン抜きで話は進められない。敵の頭数が分からないし、植物系モンスターは増え方が一定ではないので、可能な限りの戦力を揃えたかっただけの事だ。残りが二体とか三体だというならば、全部自分たちで倒して、強くなるための糧としたいというのが本音であろう。

 

もっとも時間を掛けて勝てるのなら問題ないのかと言えば、トブの森が禿げ上がって困るのは近隣住民であり、その評判が全て自分に返って来る彼ら自身なのだが。

 

「そりゃーブレインさんの言う事にも一理はあるけどよ。例の油ってまだあんの?」

「残りは流石に少ないですね。研究用に試薬を混ぜてしまったのもありますし。でも……材料さえわかればお祖母ちゃんなら作れそうな気がしますけど」

 ムードメーカーであり薬剤を投擲したルクルットは錬金油の是非を問うた。

女の子以外には現実的な彼としては、ブレインの言う事に賛成ではある。だが弓矢ではザイトルクワエは倒せない反面、膨大な体力を削るのに一役買ったという自負もあるのだ。錬金油の在庫を尋ねるのは当然であり、残り少ないというならばため息つきたくなるのも仕方がない。

 

ここで問題なのが、かなり効果があった錬金油を王国では製造できない事である。

 

「油の種類ってそんなにあるんですか?」

「明かりでも動物の脂・蜜蝋・植物性の差がありますよね? 更に精錬したり香りをつけると物がまるで変わってきます。この油が凄いのは、燃え易くする何かを加えているだけじゃなくて、燃え難い何かを取り除いている事なんですよね。多分作るだけじゃなくて、中間素材を作って混ぜ合わせてるんだと思います」

 ニニャが興味深そうに尋ねるが、ンフィーレアとしては感嘆の溜息しか出ない。

バレアレ家では世に知られている様に、希少性の高い材料を使うだけではなく……余計な物を取り除く事で精錬も行っていた。例えば菜やゴマの種からオリーブなどに変更するだけではなく、搾りカスなどを濾過することで徹底的に取り除いている。そこへ錬金術の秘薬を混ぜているのだが……法国性の錬金油はもっと進んでいた。

 

油はあくまで中間素材であり、複数の薬を混ぜ合わせるように、より燃え易くなる加工を施しさえしていたのだ。もしかしたら、地面に沁み込み易くなるような薬も混ざっているかもしれない。

 

「と言う事は、次はそこまで期待できないという事ですね」

「となると苦戦するのは必定です。ここから考えられる対策は二つ」

「一つ目は追加人員を増やすか、効果の高い武技や呪文を覚えるかです」

「とはいえ人員の追加の為にこそ組合に掛け合おうとしているのですから、やれることは後者になります。問題としては現状でそう都合良い技や術があるかと言う事、そしてあの植物モンスターの為だけに覚えるかどうかですね」

 そう言いながらニニャは自分が習得可能な呪文を書き始めた。

彼女が現在高めているアデプト・オブ・リチュアルは中間系なのでレベルアップで覚えられる呪文が1~2つ。これは普通のマジックキャスターが3つ固定なのに対してかなり少ないと言えるだろう。その分だけ有用な補助呪文が多いのだが、通常の呪文を覚えたい時は微妙な塩梅だ。フライトなどを覚えた時はハイ・ウイザードだったので気に成らないが、最近はアデプトの方をもっぱら鍛えているので少々心もとない。

 

それはそれとして、彼女が覚えるか迷っている呪文は三種類。

第四位階に突入した時に習得可能であったブレードネット、その派生形で新たに覚えられるようになったブレードバインド、そして補助呪文のエクスパンド・マジックだ。しかし彼女はこの内、前二つを省いて説明した。相手が動かないとダメージを与えられないし、束縛する時も移動しか止められないとあまり使えないというのもある。

 

「私が覚えられる中ではエクスパンド・マジックですね。付与呪文の時間を延長できます」

「ワシは特にないのである。毒消し系を覚える予定だが、植物毒は使わぬであろうゆえ」

「俺はラウンドバッシュか四光連斬だが……悪いな。俺は四光連斬の方を覚えたい」

「ブレインさんのお好きな様になさってください。ガゼフ・ストロノーフ様の得意技ですよね? 有用な武技だと思いますし、今回も将来も使える素晴らしい技だと思いますよ。それ比べて、私は要塞の上位……と言って良いのかな。不倒要塞という、不落要塞の下位互換です。この足でも転がらないのがメリットですね」

 ニニャが覚えるつもりなのは、バフ・デバフ系を延長する呪文だ。

味方に掛けた強化呪文の効果時間を長保ちさせ、相手に掛けた呪いなどの時間を延長する補助呪文である。これに研究用に1つ取り置きして、今回覚えられる2つ分は終了。そしてダインは有用な術ではあるが、ザイトルクワエ戦には意味がないキュア系で毒や麻痺に備えるのでそれほど影響はなかった。後はブレインとペテルが順当強化され、ここ最近で覚えておきたかった武技がようやく形に成った程度であろう。

 

残るンフィーレアは錬金術で薬用に使うモノで終了。そしてエンリはと言うと……。

 

「わ、私は……名付けて、賢王の舞ですかね? なんだが動きが良くなった気がする!」

「え、エンリ……ちょっと部屋というか人の前でその動きは……」

 なお、エンリはここ最近、森の賢王の動きを参考にしていた。

その動きを取り入れ、態勢を低くしてダッシュへの移行速度を高めたり、お尻を振って横への移動態勢を強化するいわば体術補助の形意拳を覚えていたのだ。一応は裏拳なり手刀の威力が上がるが、ザイトルクワエ戦にはあまり関係ないであろう。

 

いずれにせよ、一同の能力は少しずつ順当強化されているだけだ。死かあがないとはいえ、錬金油の量が減った分を、これで補えるかどうかというところであろう。

 

 そしてその頃、館を監視する女たちが居た。

逸脱者と評された『館の主』が不在なので、見晴らしの良い場所に隠れていた。そして情報を遮断している結界を、占星千里と呼ばれる女の遠見が突破して監視し、それを幻術で投影して周知。残り二人は面白くもなさそうに、作戦会議をする一同を眺めているという具合である。

 

だが、彼女たちは三つの間違いを犯している。

一つは占星千里と呼ばれた女の力を過信している事だ。彼女は予知能力を基軸に、遠見や啓示(神託判断)で補強している情報強者なのだが、予知はあくまであり得る未来を見るだけの事である。今参加しているダウナー三人娘の将来……例えば疾風走破の表情が薔薇色に見えたのだが、どうしてそうなったかと言う過程(セックスして兄より強くなった事)を理解できるわけではない。

 

「はっ。もう勝った気で居るじゃない。たかが触手なのにさあ~」

「クレ……疾風走破は何が不満なのぉ?」

「無限魔力。つまらない煽りは止めなさい。任務中よ」

 つまらなさそうにしている女二人が睨み合う。

館で話し合っているメンバーが倒したのが、ザイトルクワエの触手であると知っているのだろう。その事で相談している者たちを馬鹿にしている女と、彼女を馬鹿にするように揶揄している女。本名で呼ばないのは、第三の女が今回のリーダーであり、本名ではなく異名で呼び合う事にこだわっているからだ。情報を重視する彼女は、念には念を入れてこの辺りも徹底していた。

 

この三名は法国では漆黒聖典に所属するメンバーであり、いずれもが英雄級の実力を持っていた。予知を使う占星千里がもっともレベルが高く、総合力では無限魔力に分が有り、そして一対一前提ならば疾風走破と呼ばれる女が強い。彼女たちはそれぞれに相性差があるが、いずれも仲がよろしくなかったのだ。

 

「たかが触手程度なら私たちでも勝てるもんねえ。それを嬉しがってる連中なんか、放っておけばいいのにさ。そう思ったらおかしいワケェ?」

「あーそれは私もそう思うわぁ。あんな連中、監視する必要あるの?」

 煽り合う疾風走破と無限魔力が睨み合う。

あわや一触即発かという風情であるが、危うい所で意見が一致し視線が逸れた。彼女たちは自分ならばあの触手に勝てるし、必要人数ももっと少なくても済むと思っている。それこそ武器さえ通じるのであれば、この三人でも勝てると思って居るフシがあった。もっとも彼女たちに合わせた最良の装備を持ち出し、同時にその中でも最もザイトルクワエに相性が良い武器を使うという前提に限られるのだが。

 

とはいえそれでも、あくまで勝てるのは触手。本体には遠く及ばないし、その事を知らない館の面々はまるで話に成らないことを知っていた。そして逸れた視線は、占星千里と呼ばれた女に向いていたのだ。何しろ彼女たちをこの場に連れて来たのは、プロジェクトリーダーである占星千里なのだから。

 

「見ておきたいのは館の主の実力ね。あの連中じゃないわ」

「むしろ彼らで無傷で倒せたことに驚いているくらい」

「それと、あそこの子は殆ど無名だったのよ。短期間でミスリル級に成長してるわね」

「おそらくは師としても腕があるのでしょう。スカウト出来るならば忠誠心次第で私たちの仲間入りと同時に、何もしない時は良い教師になれるでしょうね」

 占星千里はこれから起きる口論を覚悟して説明した。

ラズロックをスカウトする事は法国にとって意義のある事だ。しかし彼が本当に逸脱者級の実力があるかどうかが問題で、それ以上にその思想が重要視される。亜人と協力してザイトルクワエの触手を倒したブレインたちは要注意だが、過去に陽光聖典と戦った蒼の薔薇ですらスカウト対象なのだ。もし有益な強さを持っていて、『悪い亜人となら戦っても良い』という妥協が出来るならば、取引をして竜王国にでも向かわせる事が出来る。

 

もっとも、本当に逸脱者であれば、彼女たちの扱いが下がるのは仕方がない。席次は指揮能力や忠誠心も考慮されるので、数字がそのまま強さに直結する訳ではないが、それでも自分たちの扱いが下がるのを良しとする者ばかりではない。特に目の前の二人はそう言うタイプの人格をしていた。だからこそ口論を覚悟していたのだ。

 

「スカウトねえ。あの程度の触手にビビって戦いにも出ない奴を?」

「そうそう。後ろで見守ってるわけでも無いんでしょ? 何処に行ってるかしらないけど」

「この間の戦いの時はリザードマンと触手の戦いを見てたわね。食料の問題で南下してたみたいだけど……驚くべき行動範囲よ。『勝てるとは判ってるけど』侮って良い相手じゃないわ」

「「っ!?」

 ラズロックの行動を知らなかった二人は占星千里の言葉に息を吞む。

トブの森には様々な魔物や亜人種が生息しているが、リザードマンが居るのはかなり北であったはずだ。それが南下していた話を聞くのは初耳だが、情報担当でないのだからまあ良い。だが、リザードマンが移動していた事、そしてザイトルクワエの触手と戦っている姿を見届けているという事実は驚きであった。

 

何しろ、それが可能であるという事は、もっと前の段階からリザードマンの大移動を知って居なければ不可能なのだから。

 

「空飛んでるとして、かなりの魔力自慢? あんた要らないじゃない?」

「ただ魔力が多いだけじゃ相手に成らないわよ。それよりあんた近づけるの?」

「いい加減にしなさい。言ったでしょ、私達が組めば勝てると判ってる範囲だって。先に言っておくけど絶死絶命なら単独で勝てるわよ」

 さらに煽り合う二人に占星千里は額に手を当てて苦言を呈した。

彼女が自分の能力を補助するために『啓示』という魔法を使っているのだが、これは単純な事実を質問すると答えを得られる物である。これを使って『この三名で勝てるか?』あるいは漆黒聖典最強である『絶死絶命が一人で勝てるか?』という質問を行い、どちらも『勝てる』と返答があったのだ。もちろんデータと実戦は違うので一概には言えないが、能力の程度を身内の具体例をもって判るならばつまらない諍いも終わると判断したのである。

 

ただ占星千里は二つ目の間違いをしていた。啓示の呪文を使っても『能力的に勝てる』かの確認だけで、ラズロックの戦術能力やメンバーの一人が裏切る可能性を計算していないのだ。そこには疾風走破と呼ばれる女、クレマンティーヌが法国を抜けたがっているという情報は考慮されていない。

 

「あ、あの方ならそりゃ当然でしょ。何しろ……」

「高くなってたあんたの鼻をボッコボコにしたくらいだもんね。まっ、どれだけ強い相手だって、イザとなれば魔樹の竜王だっけ? あいつの触手を幾らでも増やせばいいじゃない」

 絶死絶命の名前が出た瞬間、無限魔力の体がこわばった。

それもそのはずであろう。疾風走破が口にしたように、天狗に成って増上慢になった者は絶死絶命がプライドを叩き折るというルーチンなのだ。漆黒聖典は英雄級の者ばかりであるがゆえに、こういったコとはよくあった。もっとも疾風走破はただのクレマンティーヌであった時代に苦難を味わったがゆえに、他の漆黒聖典と比べて最初から腰は低いのだが(それはそれで突っかかるが)。

 

それはそれとして飽きてきたのだろう。

話を変えるために疾風走破は余計な事を口にした。元の話題がザイトルクワエであったのだから、その触手の話に戻るのはありえることかもしれない。だがしかし、この場に限り、とても余計だった。

 

「疾風走破! 迂闊よ」

「はいはい。余計な事は口にしないってね。判りやしな……」

「そうだね。私もそう思う。しかし、その先を聞きたいな。もしかしなくても、アレは君たちが放ってよこしたのかな?」

 占星千里が叱責するがもう遅い

三人が背を向けていた方向から男の声がした。そう、話に出ていたラズロックの声だ。魔法か何かで気配を消していたのか……それとも難度の高い塔(ダンジョン)を抜ける技術として、隠密技術も磨いていたのかもしれない。

 

とはいえ、三人娘も精鋭揃いだ。

失敗した事には言及せず即座に反応した。疾風走破が最も近い位置に留まり、残り二人は咄嗟に距離を取ったのである。そしてアイコンタクトで疾風走破から占星千里に合図が送られる。もちろんそれは余計な事を口走った謝罪ではない。

 

「……何時から居たの?」

「割りと最初の方かな? 君たちが監視するなら、ここは絶好のポイントだろう?」

「そうかよ……疾風走破!」

 占星千里が注意を引き、その間に疾風走破が速攻を掛ける。

アイコンタクトで送られた合図はこの段取りを要求するものだ。一同の中でラズロックの関心を引ける話題を提供できるのは占星千里だけ、そして即座に攻撃ができるのは疾風走破だけである。縮地とは比べ物に成らない距離を移動できる武技、疾風走破がクレマンティーヌを奔らせる!

 

だが、そこから先の変化は劇的であった。

第二の間違い……三人のスペックを合計すれば、ラズロックに勝てるという算段がデータ上の物に過ぎないという証左であった。

 

「抜刀! 流水かそ……っ!? 嘘っだろ、早過ぎる!! 私は、疾風走破! なんだぞ!」

「何が起きてるの? 判る?」

「多分……身体の自動制御。風の魔力もあるけど、素でかなり鍛えてる」

 武技である疾風走破は一瞬で十数メートルの距離を踏破させる。

だが、ラズロックはクレマンティーヌが動き出した段階で後方に下がり、三十メートル以上の距離を空けた。意図してそんな事は不可能であるし、仮に話しかけた段階で風の魔力を待機させていたとしても難しいだろう。ゆえにどんなカラクリがあるか、占星千里は魔法のエキスパートである無限魔力に尋ねたのである。そしてその回答は、体の自動制御を行う暗示呪文の存在であった。

 

そしてその指摘は半ば正しい。ラズロックの世界では魔法使いを鍛えるためのダンジョンが幾つもあるが、その多くは絶対多数と戦うというもの。戦闘になればどんなパターンで戦うかを、予め意識して叩き込む戦闘法を有していたのであった。

 

「察するに、君たちは同格以上との戦いの経験が少ない様だね」

「以前に戦った部隊は実力こそ伴わないものの、実に経験が豊富だった」

「適切な間合いを取り、召喚生物で戦いながらも呪文を使い、その裏で切り札を用意する」

「この矛盾は思うに、組織だって系統別に人材を鍛え過ぎた弊害かな? まあ一国で数か国を裏から差配しようとするなら、仕方のない事なのかもしれないけれどね。とはいえ君たちを殺すのではなく、捕虜にせねばならない所だ。その隙は利用させてもらう事にしよう」

 ラズロックは真実のみで嘘を吐いた。

漆黒聖典よりも陽光聖典の方が集団戦の経験が上なのは当然の事だ。それは部隊が持つ任務に影響されており、しょっちゅう亜人の集落と戦って居る陽光聖典の方が、組織だった戦いに慣れている。そして勝てない相手に勝つための方法もまた然りだ。漆黒聖典は一人一人が英雄級であり、複数人で戦う時は決まって族長クラスの亜人を倒したり、町に来たドラゴンを刈る程度。どうしても同格以上の集団戦など望むべくも無い。

 

とはいえ、その嘘に気が付かなかった者ばかりでもない。ただ、他の二名がそれ以上に激昂してしまっただけだ。

 

「私たちの国は人類の為に戦っているのよ! それを!! ライトニング!」

「疾風走破! 自動制御は自動だからパターンが決まってるの、追い込んで! アイスニードル!」

「はいよ。ったく高尚な目的の為に死ねだなんて面ど……あん?」

 占星千里は即座に指示を出し、無限魔力はラズロックの弱点を見抜く。

圧倒的多数に囲まれないように自動制御を徹底している為、確かにラズロックが接近された時に移動するパターンは一定だ。暗示というものはその通りだし、無限魔力の指定が間違っているわけではない。ただ……それも含めて計算通りなだけである。

 

そしてこの時点で疾風走破はラズロックの言葉の嘘に気が付いた。正確には真実で嘘を覆い隠した、その意図に気が付いたのである。

 

「……てめえ! あいつらを挑発しやがったな!?」

「そうだね。だから、こんな些細な戦法に引っ掛かる」

 疾風走破が追い詰めるために計算してラズロックに迫る。

だが、ソレはラズロックにとっても計算の内だ。そもそも彼の世界にはクデュール魔法大会という、高度な魔法の使い手同士で戦う大会がある。そこでは高速で逃げ出して距離を取る魔法使いも居れば、逆に急接近して来る奴も居る。召喚生物を放って自分は弓や魔法などを使う者もおり、こういった経験は豊富であった。

 

つまり、彼女たちの戦法は早い段階で誘導されていたと言える。法国に忠誠を持たない疾風走破だからこそ、その違和感に気が付いた。ラズロックはニグンたちを尋問しているのだ。世界を支配する気など無いのに。

 

「何……あれ? 何か来る。球形……暗黒の……っ!?」

「召喚生物! 近寄らずにマジックキャスターを狙うなんて。陽光聖典の真似ってわけ? こんなの直ぐに蹴散らしてあげるわよ!」

 ラズロックは対多数のセオリー通り、召喚生物を呼んだ。

彼が召喚した謎の物体は、ゆっくると旋回し疾風走破を迂回して公平へと迫っていくそして。彼女たち追い詰めるために放った召喚生物は、球形をした暗黒洞である。その能力とは……。

 

「っ! 魔力を持ってかれた!?」

「上等よ! 無限魔力って二つ名の由来を見せてあげるわ!」

「覚悟なさいよ! 私の魔力は底なしだけじゃないわ。使えば使う度に元に戻る! フラウレイン!」

 暗黒洞が後衛である無限魔力たちの周囲を旋回する。

それに触れても、あるいは攻撃呪文を叩きつけても魔力を奪われていく。無限魔力の視点では召喚生物である暗黒洞が奪っているのか、それともラズロックに還元されているのかは判らない。だが彼女にとってはあまり差は無かった。魔力を回復するタレントに、自動で回収するスキル。それらをただの戦士や魔法剣士辺りが持っていても意味は無いが、基礎能力として大容量の魔力を持つタイプのクラスであったことが彼女をして、無限魔力と言う二つ名を得ているのだ。

 

即ち呪文の乱打戦ならば自分の方が絶対的な優位を持つ!

そう考えたことが無限魔力の……いや、三人娘にとって最大の間違いであった。もし無限魔力がそんな決断をしなければ、結末はもっとストレートな解決に成っていただろう。この時点までのラズロックは敵にも配慮を忘れない紳士であったのだから。その間違いに気が付くのは、戦い続けた先先、もっと後の事に成る。

 

「おい! やべえぞ! 魔法で攻撃すんの暫く止めろ!」

「はっ? 何言ってんの。ようやく乗って来たんでしょ。そいつが喧嘩売って来たんだし、まさか見逃せって?」

「……っ?」

 その違和感に気が付いたのは、やはり疾風走破が先であった。

彼女は逃げ出すのに邪魔な二人を出し抜くチャンスであり、そして遠見を使える巫女や探索方の風葬聖典などの部隊では追い切れないラズロックの屋敷の結界を使って行方をくらますという選択肢があった。それゆえに殺す気はなく、彼の様子を探っていたのだ。そこで違和感がますます強くなるというか……。

 

ラズロックはそれまで紳士的な物腰で、彼女たちを捕まえて軽く尋問するつもりだった。場合によっては取引をしても良いと思っていたのだ。だが、長く戦い続け、周囲を膨大な魔力が満たし始めると、魔力を使わない疾風走破にもそのことに気が付いた。占星千里ならばもっと判ったのかもしれないが、彼女は早い段階で魔力を使い果たして朦朧としていた。

 

「降伏する! 私はあいつらとは違う。何だったら協力しても良い」

「はあ!? 何言ってんのよ! 人類の為に戦い続けた私たちを馬鹿にした奴に! こんなに優位な状態で尻尾を巻いて逃げるっ?」

 顔色を変えて手の平を返す疾風走破に無限魔力は呆れた。

彼女の視点から見れば今はガンガン押していくべき時だ。相手が盛り返そうとしているならば、その動きを先に制するべき。こんな所で交渉して話し合いのテーブルに乗せようなどと思うべきではないなどと思ってしまったのである。

 

ただ、もし彼女がラズロックの目の前に居たらそうはならなかっただろう。

あるいは絶死絶命に訓練と称してプライドを居られた時のように、何もできずに完封されて居たら話は別だったかもしれない。だが、彼女は全力を奮う事が出来ている。まさか自分の上位互換とでもいうべき存在相手に、正面から挑んでいるなどとは思いもよらなかったのである。

 

「悪いが……もう、遅い」

「っ?! 黒い竜……こいつ、ドラゴンを呼べるのか!? 待て、私は……」

「言ったはずだ。もう遅いと。それに、三人で掛かって来たんだ。一人だけズルイだろう?」

 ラズロックの足元から黒い竜が召喚される。

ヤツメウナギにも似た暗黒の竜が召喚され、敵対者全てを睨みつけていく。それは逃げる者を許さず、歯向かうものを許さず、そして精神を蝕む存在であった。それは無限魔力から魔力を吸収し、かつてない程に膨れ上がったラズロックが持つ殺意と欲望の化身でもある。

 

ここで話をラズロックが持つ体質について補足を加えよう。

彼は女性に精を注ぎ込むことで高まり続ける魔力を吐き出すことができる。そうしなければ命の危機が生じるほどに体内に魔力が蓄積してしまうと以前に説明した。ただ、この時のラズロックの心境に付いて考えた事はあるだろうか? そう、命の危機に対して男性は生命を残そうと精力が増大する。そして彼が自分の命を救う方法は、女性の中に吐き出す事。……つまり、これから三人が辿る運命は既に決まったような物かもしれない。




 と言う訳で謎の植物系モンスター対策会議から始まる、周辺の話です。
なお、真面目に話し合っている漆黒の剣に対して、裏ではヒドイ事に。
「それは見せ槍と言うには、あまりにも大きく黒かった」的な?

●メンバーの成長
ンフィーレア。錬金術師として大きく成長。
ニニャ。エクスパンドマジックで呪文延長。もう一つは陣形。
ダイン。キュアポイズンとその派生形(植物毒)。キュアパラライズ
ペテル。不倒要塞。要塞と不落要塞の中間。痛んだ足でも問題なくガード可能。
ルクルット。装填系の武技。
エンリ。形意拳を覚え中。
ブレイン。四光連斬。

●ダウナー三人娘。能力的な解釈(公式発表があれば、修正するかも)
 色々と勘違いしたあげく、大変な目にあうことになった。
ある意味で自業自得だが……なお、ソフトハウスキャラが作ったエロゲーには、三人のエリート娘が主人公に特攻して大敗し、調教されて再登場することが多い。

占星千里。
 大規模な事件を予知できるタレント。ゲームマスターに質問できる呪文、イエス・ノーで質も出来る呪文。
これらを備えた凄いキャラで、普通の魔法も使える。しかしその詳細を把握できないことで大変なことに成った。

無限魔力。
 能力値自体が魔力の多いマジックキャスター系クラスという、ある種、ニニャと同じタイプ。
タレントは使った魔力吸収に関するもので、使用した魔力が周囲に満ちて行き、それを回収できる。
使えば使う程にその効率は上がり、それを加速させるクラスや、行為のアイテムも所持している。

疾風走破。
 他にも走ったり移動する武技や魔法は色々ある中、疾風走破を二つ名にしている。
上位互換の超・疾風走破を絶死絶命が使えることを考えると、この技の使い方が上手いのかもしれない。
おそらくは漆黒聖典の尖槍として真っ先に突入したり、味方を守るために駆けつける為と思われる。
(兄に対するコンプレックスを考えると)
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