Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

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最終作戦『ブレードロール』

 ザイトルクワエと言う名前は判らずとも、途方もない化け物であると判明した。

あれから一同は連絡待ちで訓練以外に特にする事はなく、ルクルットが戻って来て冒険者組合の意向を伝えた後も、王都方面の冒険者たちの集合待ちであった。ンフィーレアの能力を試そうとクレマンティーヌが自分たちの服や装備を無理やりつけさせ、セーラー服や魔女っ娘めいた恰好にする程度の日々である。

 

能力の成長としてはエンリが格闘系のクラスをようやく一つ上に上げたとか、ブレインが格上相手の訓練を繰り返し『枝切り』と呼ばれるコンボをモノにしたくらいであろう。

 

「久ぶりとはいえ……お前ら、本当に俺と並びやがったな」

「イグヴァルジさん!」

 そんな中でエ・ランテルからの冒険者たちがまず到着した。

隊長ならぬ総代を務めるのは『クルラグラ』のイグヴァルジだ。彼はフォレストウォーカーであり、レンジャー系の職業を収めているので総代になると主張したのであろう。だが、何時もは見える尊大な所が今日はあまり見えない。むしろいつになく緊張して居るのがペテルからも伺えた。

 

そして幾つかの推論を経て、二人は離れた所で遊んでいる女性陣に視線を動かした。

 

「あいつらお前のコレじゃねえのか? もしかして噂の逸脱者の?」

「だったら嬉しいんすけどね。残念ながら脈ないって言われました……」

「当たらずとも遠からず……らしいですよ? この館の持ち主であるラズロックさんを指導者に勧誘しようと、『パパ活』とか言うのをされているそうです」

 モモンが現れた時は突っかかったイグヴァルジだが……。

法国から来たダウナー三人娘に喧嘩を売るような勇気はない。大会で見た事だけはあるブレインの方ですら格下で、三人が三人とも英雄級であることはそのまま伺えたからである。ミスリル級手前まで強くなったペテルやルクルットに対して突如兄貴風を吹かせるイグヴァルジであるが……人間、どうしようもない相手だと判ると、謙虚に成れるものである。

 

なお、パパ活というのはプレイヤー用語である。

本来は淫語であるはずなのだが……法国では『ぷれいやー』が神様扱いである。法王とか教皇の様な指導者を『パパ』と愛称を込めて呼ぶことから、指導者として逸脱者をリクルートする活動をパパ活という言葉が変遷したのかもしれない。まあセックスしたら女性の魔力(魔法経験値)が増えるラズロックのことである、あまり両者に差はないのかもしれない。

 

「スペルキャスターの顔を知って無かったら、あいつらこそ蒼の薔薇かと思う所だったぜ」

「言われてみれば女の子ばっかりっすね。ちょっと自信なくしちゃうかなー」

「お前がそんなタマか。毎回毎回、無意味だと判っても口説いてる癖に」

 三人娘には劣るが、ニニャもエンリも二十台前半に突入している。

イジャニーヤの双子と同じか少し劣る程度まで成長しているので、五人の女性が一堂に会したら『蒼の薔薇』と誤解されても仕方が無いだろう。それでなくともブレインは前のリーダーの時に蒼の薔薇とは少し同行したことがあるので、当時に出逢った者ならば誤解しても不思議はないと言えるだろう。

 

その後は王都組の冒険者が到着までくだらない事を言い合いながら時間を潰す三人であるが……主にクレマンティーヌのちょっかいによって、身の程を判らされるイグヴァルジであったという。

 

「法国の連中がこんな所でなんの陰謀だ?」

「ああん? このおチビさん喧嘩売ってるワケ? 馬鹿なの死ぬの?」

「よしなさい、イビルアイ」

「疾風走破も相手にしちゃ駄目よ」

 そして王都組の到着で緊張感が俄に増した。

本来はもっと人数が多かったはずなのだが、時間を重視したことで蒼の薔薇ほか数名のマジックキャスターで急行したのだ。フローティングボードにラキュース達を載せて急行したのである。その事が徒歩であるエ・ランテル組に前後して追いつけた方法だ。早速と言う訳ではないが、陽光聖典と殴り合った事のある蒼の薔薇が面白い訳が無い。その空気を察したのか、冷静だったイビルアイは、あえて藪を突いて不満を抜くことにしたようだ。

 

たまらないのはリーダーであり自分の事を常識人だと主張しているラキュースである。三人娘の中では委員長気質の占星千里と共に抑えようとしたのだが……。

 

「ラキュース。お前はこいつらが何処からか湧いて出たとでも?」

「人数構成からして聖王国の上層部に近いが、到底そうは見えない」

「なら何者かと疑うのは当然だし、それをこの間の一件と関連付けるのも当然」

「どこかで、後で、いつか。必ず紛糾するのは間違いがないし、それが鉄火場であったら困るのは全員だ。ならば先に済ませてしまった方がいい」

 それは誰もが思っている不満であった。

イビルアイが話題に出した時、『アイツ、本当に口に出しやがった!?』と思っている者は多かったはずだ。そしてこの場で問い質す事かと思う者も居れば、今の内に確認してもらって助かったと思う者もいる。そして開拓村を法国の部隊が焼き払い、それを帝国の仕業にしたと言う事件は……いつのまにか広まっていたのだ。疑問に思わぬ者はむしろ少なかっただろう。

 

それはそれとして、この一見は周知すべきではなかった。

これはイビルアイが自分の事を一介の冒険者だと思っている事と、ラキュースが貴族としての経験が浅い事が原因だろう。彼女たちには『法国側が弁明すべき場所』として捉えてしまったのだ。深淵を覗き込む者は同時に覗かれている様に、発言する権利は相手にもあるというのに。

 

「誰もが同じことを思っているわけでは無い。その事は覚えておいて」

「王国は八本指を野放しにして、貴族たちの中には麻薬を作らせる者もいる」

「だから我々は帝国が王国を打倒して是正すれば良いと思っているのは確かね」

「今の状況ならカッツエ平野なり何処かで一会戦すれば終わるけど、それは速やかに人としての生活に戻れるから。決してあのモンスターが王国を崩壊させるのを放置したいわけではないのよ。後はそうね……あのモンスターを最初に発見したけど、退治『出来なかった』のは、私たちというのもあるかしら」

 占星千里はこの状況を利用する事にした。

予知のタレントに加えて、ディヴァネーションやオラクルと言った呪文で、超越存在に質問やイエス・ノーを問える彼女は法国上層部とも会話することが多い。その意向を理解し共感するからこその委員長気質であり、そんな彼女だから上層部も全幅の信頼を置いている。だからここで幾つかの情報を開示してしまう事が問題ない事と、議論に応じることで、王国冒険者に現状を理解させつつ思考を誘導し掛かったのである。

 

そう、占星千里は真実の一部を騙らないことで、嘘を交えずに流れを作った。

この辺りで一番の大国であるスレイン法国がバハルス帝国に加担する用意がある。それも王国と八本指が原因であり、それさえなければ介入しなかったであろう事は真実だ。ただ退治出来なかったというニュアンスだけは意味が異なる。

 

「発見した? そのモンスターをお前たちは知っていたのか!」

「そうよ? 王国の冒険者組合もそろそろ封印が解けると知っていたはずだけどね。昔のアダマンタイト級冒険者や、十三英雄の中の数人パーティが討伐に向かったんだもの。だから私たちは可能な限りのメンバーで挑んだという訳よ」

「む……まさか!?」

 イグヴァルジが思わず声を上げるが、占星千里は静かに受け流した。

居ることを知っていて見逃したのではなく……挑むだけ挑んで倒せなかったのだという趣旨で語った。実際には絶死絶命も含めた全員で掛かれば倒せたのだろうが、政治的な問題で絶死絶命は出動できず、上層部が王国にぶつける事を企図した為に『出来なかった』のだ。最終的に『傾城傾国』で魅了して支配下に置きはしたが、倒そうとする計画と難しいという見解があった為に大筋では間違ってはしない。

 

そして他人ごとではないので思わず問い詰めたイグヴァルジとは逆に、ここで反応を変えたのだイビルアイである。

 

「イビルアイ?」

「……お前たちとは別筋でリグリットとは顔を合わせたことがあるが、確かにトブの森で魔物と戦ったという話は聞いたことがあるな。……そうか、その一件か」

 先ほどまでの剣呑な様子が嘘のようにイビルアイは舌鋒を収めた。

ある意味で、彼女もまた他人事では無いからだ。十三英雄の時代に生きた吸血鬼であるがゆえに、何度となく話を聞く機会はあった。そしてそのパーティがザイトルクワエの一部と戦って勝った気に成った事も、別のパーティでその後に封印したのも先代蒼の薔薇リーダーであるリグリットは関わってたとされる。

 

そして口の中で言葉を転がしながら、当時に聞いた言葉を思い出そうとした。

 

「確か……ザイトルクワエと名前を付けたと聞いている」

「戦闘力はともかく、その生命力を持って難度200に届き得るとも言っていた」

「その魔物をお前たちが倒せなかったというならば、それは仕方のない事なのだろう」

 イビルアイはある種の苦みと、同時に満足感を抱いていた。

自分が知る中でも屈指のメンバーが触手を本体と思わされ、それよりも劣るアダマンタイト級では倒しきれなかったのだ。法国のエージェントが総力を持って倒せなかったという事には納得が出来るし、自分が知る者たちが弱かったわけではないとも安心していた。もっとも、それは法国の陰謀を否定したわけではない。封印は何時か解けるにしろ、王国へけしかける手段も考慮に入れていないとは思えないからだ。

 

そこまで見抜いたイビルアイであるが……それゆえに見落とした。

占星千里はこの場にいる者たちを、王国以外へと誘導したかったのだ。素直に法国へのリクルートに応じるなどと言う期待は持っていない。だが、法国=帝国と言う軸に加わりたくないからと言う理由で、聖王国なり竜王国へ移住すれば良い。そうすれば人類の戦力が増えて、戦い易くなるはずなのだから。唯一この手の話に理解があるラキュースは、貴族としての経験が浅いがゆえに、話の流れを掴み切れていなかったのである。

 

「話は終わったか? そういうのは此処で仕舞にしとけ。俺たちはバケモンを倒しに集まったんだ。此処と喋るのは情報交換と、あとは方針だけで良いんだよ!」

「そうだな。場を乱したこと自体には謝罪しよう。陰謀だという説を取り下げるわけではないがな」

「もう! イビルアイったら!」

「こっちはどうでも良いわ。子供に突っかかって来られただけだしね」

 いつになくイグヴァルジは積極的であった。

せっかくオリハルコン級に上げても良いという案件を掴んだのに、自分より遥かに強い女性陣に埋もれてしまいそうだった。だが、話を聞けば戦闘力自体は難度200に届かないが、生命力が桁外れで倒し難いというならば個人の活躍よりも、作戦で主導した者の功績になるのは疑いようがない。そして逆の目で見れば、アダマンタイト級の連中が場を乱したのだ。この上なくチャンスであると言えた。

 

ゆえに此処で話を本筋へと強引に戻し、自分の名声UPを狙ったのである。

 

「なら話は決まりだな。俺からはそれだけだが……」

「ああ、一つだけ聞きたいことがあった。イビルアイさんよ」

「俺が総代を務めるエ・ランテル組の仲間に聞いたんだが……」

「そのザイトルクワエってのは、植物系モンスターって事で良いのか? それもエントやアルラウネとかじゃなく、現棲植物型の?」

 イグヴァルジは話の分かる兄貴分……そんな感じのマウントを取ろうとする。

その上で今後に印象付け、更なる功績を立てるための情報を入手する事にした。どうせ周知される情報だるが、この流れを作ったのはイグヴァルジであり、同時に彼自身もこの情報は是非とも欲しかったのだ。それも当て推量ではなく、確定情報で。その情報があるかないか次第で、彼はスキルを一つ効果的にも無駄にもするのだから。

 

その質問は意味があるからこそ、イグヴァルジの意図は隠されるはずだった。上手くいけば安全圏からトドメを狙える美味しいポジションに着けただろう。王国ではフォレストウォーカーで、かつそのスキルを収めている者はレアだったのだから。

 

「そうだと聞いているが、お前程度に何の意味が?」

「ていっ……っ! 俺には意味があるんだよ。でなきゃ聞くかっての」

「ああ。族滅系のスキルを持っているのね。その装備だとハンター系じゃなくてレンジャー系だからフォレストウォーカー辺りかしら? エルフでもないのに珍しいわね」

 他者に関心のないイビルアイは気が付かなかったが、占星千里は気が付いた。

法国はエルフと戦っており、森で有用なそのスキルと、使い手であるハンター系ないしレンジャー系のクラス持ちの知識が高いのだ。今は戦争をしているが、以前は友好国でもあったのが大きいだろう。長年の間にその手のスキルに関して、何が有効かなどは調べ尽くしていた。

 

そして素早く計算を立て、イグヴァルジたちを前線に立たせる算段を決める。

 

「族滅? ああ、ゴブリンスレイヤーとかオーガキラーとかの」

「そうそう。森の中で敵対した種族……それも大分類じゃ駄目だけど、使えるわよ。確かにエ・ランテルの総代と言うのもおかしくはないわね。精々期待するとしましょうか」

「ちっ。手の内喋りやがって。そうだよ。俺は相手の種族を知ってると勝ち易いんだよ!」

 モモンがホニョペニョコと言う吸血鬼を討伐に行くと決めた時……。

イグヴァルジは自分こそが相応しいと思っていた。それは決して大言壮語ではない。相手の種族がアンデッドと言う大分類の中の、吸血鬼と言う所まで判って居れば有効に働く。長期間固定されるために指定を間違えると悲惨だが、逆に言えば長丁場で戦えるので、相手を知ってさえいれば有益なスキルであった。法国でもこのスキル持ちのエルフは、早めに対処する事に成っていたほどである。

 

そしてこの事を知られたことで、イグヴァルジの最前線行は決まったと言っても過言ではないそれも切り札と言うよりは……序盤から削りに行く危険な役目を背負わされるであろう。

 

「こうなったら仕方ねえ。俺は腹を括るとして、お前ら何かないのか? 俺だけ馬鹿を見るのか?」

「え、ええと。今回、第八位階魔法を封じ込めた水晶を預かって居ます」

「かつて魔神を倒した最高位階の天使を呼ぶ魔法よ。正面を任せても大丈夫」

「ほう……それは悪くないな。では、彼の意向通り、作戦を決めようじゃないか」

 ザイトルクワエを倒すための最終作戦名は『ブレードロール』。

各パーティが無数の刃となってザイトルクワエの触手を倒し、相手が生命力を使って再生しようとしたところで、大天使を召喚して本命パーティが突貫するという物である。




 長くなりそうだったので作戦会議と、最終戦闘に分割。
と言う訳で今回は背景とか作戦とかの説明会というか、タメ回ですね。
結局、触手を千切っては投げ、千切っては投げ……と言う作戦なので、対して変わりません。
出来れば今年中にもう一回出して、ザイトルクワエ戦を終わらせたいところです。

●現在のレベル
三人娘。30レベル中盤~。魔法系クラス追加
ブレイン。30レベル越。ガゼフと同じくらいで、聖騎士さんとは白兵戦だけなら強い。

ニニャ・エンリ。20レベル以上、双子以下。オリハルコン級。ニニャは魔法系、エンリは格闘系の中級職追加。

イグヴァルジ。18レベル。ミスリル級。
漆黒の剣男性陣。16~17レベル。プラチナ級高位~ミスリル級低位。

蒼の薔薇は原作と同じなので変更なし。

●法国の戦略と占星千里の目的。
・帝国を勝たせるためにトブの森に道を通す。
・優秀な人材のスカウト。
 この辺をオブラートに包んで説明し、嘘はつかずに誘導してる感じですね。

●オマケ
 イグヴァルジさんは切り札がある事にしました。
出ないと原作の彼が完全にピエロになってしまうので。
あと、ゲームによってはレンジャー系に特定の種族に強くなるスキル・特技がある事ですね。
『森の中』『長期間固定で変更できない』『ダメージ増強』問う感じです。
とはいえ彼の役目は完全にストーリーを進ませることと、ザイトルクワエのHPを削る役目ですけど。(あとはルクルットを強くする方向性ですね)
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