●シャドーステップ
ザイトルクワエを倒すためのブレードロール作戦が始まった。
と言っても大したことはない。今まで通りの動きだと演じて見せて、本命に余力を残した状態でザイトルクワエの本体にぶつけるだけの作戦だ。
原棲型の魔物は基本的に大雑把で詳細な区別がつかない。
学習したある一点から急に対応を過激にするので判り難いが、対応段階ごとに行動を確認すれば、相手が何をやって来るかが大雑把に推測できるのである。ならば生命力を割いて触手を分体として警戒活動と捕食行動を兼ねて分体を作らせ、生命力を減らせるだけ減らしてから精鋭で本体を叩く案を取っただけである。
『イグヴァルジさんから伝言です。『初撃は有効、次は任せる』と』
イグヴァルジの奇襲が効いたとメッセージが飛んで来た。
指定した小分類の種族に対してスレイヤー能力を得るスキルであり、制限は大きいが一時的にパッシヴ化する為、長丁場に有効なダメージを与えることが出来る。これに相手の属性的に通じ易い武器や武技などを用いることで、非常に強力な手札と化していた。更にタンク役の仲間に隠れて攻撃に専念することで、今までにないダメージを与えることが可能だと言っても良いだろう。
もちろん、このまま攻撃を続ければ、イグヴァルジが最優先排除対象になるのは間違いが無い。ただ、そこも対策は行う事は可能であった。
「よっしゃあ!
「ガードはするつもりだが、注意してくれよ。足がこの通りだからな」
イグヴァルジと同じような動きが出来るルクルットが『影』を務める。
火力が低いのは何時もの小剣からマチェットに持ち替え、弓を
ルクルットを守るのは足を痛めたペテルであるが、彼はタンク系に行動を切り替え始めていた事で、特に問題なくルクルットを守ることに成功する。これでイグヴァルジが二人居る様にザイトルクワエからは感じられるだろう。逆にこの後に使う『切り札』を直前まで軽く見せる為、占星千里が炎の大天使を何度か召喚する手はずになっていた。
「触手を増やしたのが見えました。そろそろ第二段階ですね。コレを」
「了解っ。こないだの錬金油が恋しいけど……次を考えたらこっちも悪くはねえよな」
触手は警戒用でもあるので、本体に近づき難くなる。
だが、生命力を消費してくれる上に、触手相手にはミスリル級のメンバーでも十分に戦えた。よって全員で本体を目指すよりも、触手を増やさせた方が勝率は上がるのだ。そして接近し難くなるほど触手が増える前に、ザイトルクワエに対して投げつけておく物があった。
ソレは錬金術を駆使して居るどころか……むしろ古めかしい樹脂油である。錬金油の燃焼性にはまるで届かないが、ベタベタと張り付き鈍く燃えることから消火し難い。また早い段階で記憶されると厄介だと思われてしまうので、燃え難い方が良いまであった。
「こっちは何時でも行けるぜ。やってくれ!」
「判りました。フローティング・ボード、フライ」
「気を付けるのである。サイレンス、ヒートリジェクション」
ルクルットは持てるだけの樹脂油と松明を用意した。
するとニニャは浮遊する板を作成し、その上に乗ったルクルットごと飛行する。そしてダインが沈黙の呪文と熱遮断の呪文を使えば、振動探知も熱感知も効かず、ザイトルクワエからは探知できない状態になる。これが魔法生物だったら魔法知覚がある為に無駄だが、ザイトルクワエは植物だからこそ誤魔化せるのだ(植物だからこそ、上限を突破して成長したとも言えるが)。
そして高速で飛翔してザイトルクワエの本体に迫る。
同じように向こうの方でもイグヴァルジが仲間のマジックキャスターと共に空を飛ぶ。沈黙の呪文を掛けているから魔法攻撃は出来ないが、樹脂油を本体にブンなげて松明で火を点けるまでは難しくない。もちろん松明の方には錬金油を染み込ませているので、よほど投擲に失敗しなければ燃やすのは難しくないだろう。
(「これで第二段階成功。上手くいけば結構焼けるし、火をつけるだけで勝手に自分を割いてくれる筈……らしんだけどなあ」)
植物型モンスターは自分に点けられた火を消す手段が無い。
これまでは触手だったから、延長して上下にバウンドすれば消すことが出来た。だが、今回は根本である本体に火を点けたのでその手は使えない。だから燃え続けるか……おそらくは表皮を自ら剝ぎ取るくらいだろう。植物ゆえに傷みが無く、そして時間尺度の問題で、結構なダメージが与えられるはずであった。
そして二組は元の位置に戻ってパーティと合流。
漆黒の剣を含めたエ・ランテル組は二分隊から三分隊に分かれ、それぞれが触手を担当する予定であった。蒼の薔薇やダウナー三人娘がそれぞれ一体を担当する。ブレインや森の賢王たちもやや遅いペースながらそれに追随して全ての触手を痛めつけていた。理想を言えばそのサイクルを後二回……ただし、これまでに行われた討伐で、誰もやって居ないとは過信はしていない。人間考えることは同じであり、ザイトルクワエは植物ゆえの時間感覚でソレを覚えていると思われたのだ。
●連鎖攻撃
やがて作戦は最終段階に移行した。
やはりと言うべきかザイトルククワエは触手を何度も再生させて潰し、生命力を削る作戦に気が付いた。大昔に同じ事をされた経験があるのか、あるいは今思ったのかに差はない。どちらにせよ、これ以上は小細工に意味がないという事だ。
ここでメンバーは交代で休息したりポーションを使用する。
そして本命メンバーが一丸となって本体に向かって行き、残りのメンバーは残った触手数本を担当することに成った。
「火蜥蜴の舌。ランプの魔神の灯火。始祖の竜が抱く墳怒の咆哮。万能の根源たるマナよ、炎の嵐となって荒れ狂え。ファイヤーストーム!」
先制となったのは占星千里が放つ大火焔。
やや威力が低いが、広範囲で延焼効果もある呪文である。相手が植物系モンスターであり、熱源感知を持っている可能性もあるので攪乱を兼ねていた。広範囲が燃え始め、樹脂の炎とあいまって周辺が明るく唸り始める。
「魔猪の冬眠、雪娘の涙、始祖の竜が放つ絶望の溜息! 万物の根源たるマナよ、氷雪の嵐となって吹き荒れよ。アイスストーム!」
続いて無限魔力が放つ氷雪の嵐。
大火焔の様な継続効果は無いが、威力が高い上に、彼女が召喚しているフラウたちとの共同攻撃も可能である。次々に叩き込まれる氷の棘がザイトルクワエに突き刺さっていく。そして魔法効果はあくまで一瞬であり、炎と氷が混ざっても特に変化が無いのが面白い。あくまで延焼効果によって継続すると規定されているファイヤーストームの効果のみが敵を灼くのだ。
「
此処に来てクレマンティーヌは疾風走破として行動する。
預けられたアイテムを起動し、黄色の薔薇を思わせる槍でザイトルクワエの輪郭を規定し始めた。一撃入るごとに『減った生命力を最大数値』として見なす呪いが刻まれていく。反動ダメージを受ける加速アイテムも使用し、植物モンスターにはつきものの再生能力を停止させるのだ。
だが、僅かな時間でこれほどのダメージを与えられたのである。
ザイトルクワエが反撃しない訳ではないし、熱源探知で『目』が眩んでいる事から、その攻撃は大規模に周辺に何人居ても蹴散らせるほどの攻撃である。
『オオオオアアアアア!』
「ちっ……避け切れねえ。リヴァイヴァル!」
雄たけびの様な物音と共にザイトルクワエの『腹』が裂けた。
辺り一面が針山と化したかのような惨状に成り、疾風走破も無残なハリネズミになるはずだった。だが、そこでブリンク系の完全回避アイテムを使い、安全地帯まで後退したのである。
「これで私は切り札使い切った! 後はあんたの持ち回りだよ!」
「はい 行きます。召喚、足元の深き陣寄り出でよ。テトラ・グラマトンの精霊石に寄りて、我は未来をこの手に手繰り寄せる。ドミニオン・オーソリティー! この薬をぶっかけたら、後はあいつに近くで呪文使って!」
三段攻撃の後に、ンフィーレアが威光の主天使を召喚した。
魔封じの水晶が砕け散り、第八位階魔法によって召喚されたのである。本来は第七位階で呼ばれる対象であるが、第八位階で呼ばれているのでやや強化されている。だが、ただ戦うためにぶつけるのでは意味が無い。ンフィーレアは呪文も含めて一番強力な……というか、自分でも使いたくないようなヤバイ薬を運搬させたのだ。どうせザイトルクワエが外皮ごと脱ぎ捨てるだろうからと、大盤振る舞いしたと言える。
それはブレイク・ダムドとかブレイク・クラッカーとか言われる強酸である。
『オオオオアアアアア!?』
今度こそ、ザイトルクワエは悲鳴を上げた。
樹脂油は主に根元に投げつけられて燃えているが……今回は空中からその巨大な頭に投下されたのだ。強酸がヒドラジンでもぶっかけたかのような効果を発揮し、恐ろしい勢いで溶かし始めた。一日に一本しか作れない呪文だが、ここ数日の準備期間もあっただろう。ただ一言言えるのは……そこにレア度が恐ろしく高い希少な薬草が生えているなどとは知らないからこその暴挙であろう。
凄まじい煙が周囲に漂い、その周辺を再度訪れた火焔と氷雪の嵐が吹き流していった。白兵戦メンバーが予定よりも遅れて到着を余儀なくされるほどの余波を終えて、本格的な戦いが始まったのである。
「ねえ、アレやばくない? あの中に突っ込むわけ?」
「いやならその槍を貸してくれ法国のねーちゃんよ! この国が駄目になる瀬戸際ってもんだ。俺は命を懸けるぜ」
疾風走破がイヤそうな顔をする中、イグヴァルジは一言で漢を揚げた。
実際の話、彼が影響をあたえているスキルは武器を問わない。別に弓でも発動するのだが……こういう言い方をすれば貢献度が高い事を知っていた。そして見るからに強力なマジックアイテムであり、疾風走破が貸し出すことはないと見抜いての事であった。
まあ……忠誠心など既に無い彼女のこと。
なら任せたとか言って放り投げ、後で法国を抜けてから回収する事も出来なくはない。だが、ここで舐めた口を利かれたことで、その負けん気に火を点けたのである。
「ちっ。あんた程度の実力で舐めた口を!」
「ははっ。なら一緒に突っ込もうぜ。それだけの実力の持ち主なら有難い限りさ」
あいつはニッコリ微笑んで、地雷原でタップダンスを踊ってやがる。
ただのクレマンティーヌとして周辺を荒らしまわることになる彼女であるが、イグヴァルジの態度を後に人々はこう語ったという。馬鹿は死ななければ治らないと言うが、ナーベを口説く世界線のルクルット並みに危険な事をしていたと言っても良いだろう。
とはいえ疾風走破としては、この鉄火場でブスリと刺すような愚か者では無かった。後で足腰抜けるまでブン殴る……そう決めてすっこんでいったのである。
「ファイヤーストーム!」
「アイストーム!」
「ダイヤモンドカッティング!」
再び始まる英雄級による猛攻撃。
いかにザイトルクワエに無制限の生命力と、驚異的な再生力があろうとも。HPの上限値を下げられながら、攻撃を叩き込まれては余裕があるわけではない。それでも彼女たちに攻撃を向けて居ないのは、単純に最も高い脅威がそのレベル帯の様な低さではないからである。
「放て! ドミニオン・オーソリティ!」
『マ”ッ!』
天空から威光の主天使が攻撃を続ける。
何度も殴り、あるいは攻撃呪文を放っていたが、特に最後の最後に放ったホーリー・スマイトは格が違っていた。手に持つメイスが砕け散り、その威力を向上させると猛烈な光をザイトルクワエに叩きつけたのであった。
もちろん、その間にも他のメンバーが何もしていない訳ではない。
「ふ-……っ。ふ-……っ。マキシマイズマジック・クリスタルランス!」
「おーりゃああ!!」
魔力をチャージするスキルを使い巨大な水晶がザイトルクワエを貫く。
それに続くように十五連撃が全て巨大な本体へ繰り出された。いつもは全部が直撃することを前提に入れてはいないが、今回ばかりは話が違う。イビルアイが放った巨大な水晶よりも凄まじいダメージがガガーランは与えることに成功していた。
「爆炎陣の術!」
「爆炎流の術!」
双子の忍者は微妙に違うに術を使用。
範囲攻撃の爆炎陣と、一直線に貫通する爆炎流の術が連打される。火遁に当たる術なのに延焼効果がないという不思議な術だが、まあそこは言っても仕方がない。使用するMPの割りに強烈な術なので、忍者でMPが多い方ではない双子にも連打可能なのが大きかった。
「ヘビーリカバー!」
「オーバーマジック、ヘビーリカバー!」
反撃で怪我をする者たちには二人から重傷治癒の呪文が飛ぶ。
ラキュースは攻撃の合間に回復だが、ダインは残念ながら回復に専念。それでも強力な治療役が二人居るというのは大きく、回避が得意ではないガガーランなどは大怪我をしながらも何度も立ち向かっていったものだ。
そして、ここまでくるとザイトルクワエの行動がマイナスに向かって行く。
最も高い脅威度を持つ威光の主天使がヘイトを稼いで空から攻撃を続けるので、広範囲の木礫が空に向けられているのだ。そして触手を増やせば生命力を使ってしまうのでもうやらないし、再生力も停止させられている。ましてや強酸や樹脂油を剥すため、自ら外皮をパージしたことで生命力を大きく損なわせたのであった。
「斬撃、四光連斬! ……喰らえ、枝切り!」
「それがしも斬撃使いたいでござる!」
ブレインの攻撃が一点集中で太い枝を切り落とす。
また一つ攻撃用の部位が落とされ、森の賢王たちも攻撃に参加していた。彼らはレベル的に脅威ともみなされず……ゲーム仕様では触手x6の相手でしかない。しかし実際には生命力を削っているわけで、ザイトルクワエが持つその長大なスケールが彼らを認識出来なかったのだ(出来ても主天使を優先攻撃するが)。
そしてこの戦いで急成長した者も居た。
己に足りないモノを、他の強者から学ぶことが出来た『無知なる者』である。彼女は他のメンバーに比して経験が無い分だけ頭が柔軟で、そして武技を取得する余裕もあったのだ。
「アタタタタタタタタタタタタタタ!!!!」
エンリの獣の様な動きから繰り出される多重連撃。
その全てに振動が載せられており、無数のインパクトがザイトルクワエの中で叩き込まれる。森の賢王が持つしなやかな動き、疾風走破の隙を逆にカウンターウエイトして利用する動き。ガガーランが持つ怒涛の連撃、そしてブレインが持つ精密性……は無理だったが、ザイトルクワエの巨体が解決してくれた。
攻撃が成功するたびに少しずつ威力の上がる攻撃と連打攻撃のミックス。それらに貫通するタイプの衝撃破や、分散する衝撃波を全部載せした欲張り仕様である。もしこれを剣でやったら、流石に集中力が足りないであろう。だが、彼女は無手の格闘家であり、手しかつかないことから上位職の拳法家を得ていた。火力自体が底上げしたこともあるが、集中力のコストが下がったことで可能としたのであった。
『オ、オ、ア……? アアアアアア!』
「やっ……」
「……たー!」
「俺達の勝利だ!」
「勝利の声も高らかに!」
「「「「えい、えい、おー!!」」」
強い物ほど残心し、油断なく見張っている。
だが、気の早いミスリル級の連中など、勝手に動かなくなった触手を見て雄たけびを上げ始めた。
やがて誰もがそれを確信した時。
一番レベルの高いイビルアイですら二レベルは上昇し、確実にフールーダーや人間最強よりも上へ。ブレインも同様にガゼフよりも強くなっていた。だが、もっともレベルが上がったのはタレントのあるニニャと、手数の問題でラストダメージを攫って行ったエンリであろう。
こうして魔樹の竜王ザイトルクワエは倒れ……覇道の竜王計画は完遂されたのであった。それは誰の思惑の通りであっただろうか?
と言う訳で不要に長かったザイトルクワエとの戦いが終了しました。
得をしたのはやはり漆黒の剣とンフィーにエンリでしょう。
ブレインさんは原作死亡時と同じくらいの強さなので、それほど変わって居ません。
(六光連斬がないとか、サージェント・コマンダーがある分レベルが早く上がってる)
●連鎖
「ファイヤー!」
「アイスストーム!」
「ダイヤキュート!」
「バヨエーン」
「リバイア」
「ブレインダムド」
と書き直せば覚えている人も居るかもしれません。
魔導物語から派生した、ぷよぷよの連打の台詞です。
ファイヤーストームはロードス島のファイヤーボールの呪文アレンジ。
アイスストームは同じkウロードス島のアイスストームのアレンジ。
ダイヤモンドカッティングはキャド(設計)とfate/zeroのゲイジャルグ。
倍速はそのままでリヴァイヴァルは緊急回避系スキル、ブレイククラッカーは脳を溶かす麻薬をアレンジしました。
ドミニオン・オーソリティが八になってるのは、七の説明が無いのと、モモンさんの台詞が八なので、混乱しないように混ぜているだけです。呪文は宇宙英雄物語からフォーチュナー号召喚の詠唱になりますね。あとは小ネタが幾らか混ざっているかと思います。
●特筆すべき成長
ルクルット。クラス、コマンド。命令者のスキルを劣化コピーする。
エンリ。拳法家。拳のみを使う場合、コストが下がる。敬意拳・十連撃など。
ンフィーレア。アルケミスト(生産型)。錬金術師は作るのがメインなタイプと、投げて戦うタイプが居るがンフィーは前者の特化系。
ダイン。レベルが上がった事よりも、法国組からの知識であとどのくらいで大治癒に届くかが判明した。
ペテル。タンク系クラス習得。範囲を守るエリアカバーを覚えた。本人は移動するカバームーブが欲しかった模様。
ニニャ。久しぶりにハイ・ウイザードが上がり、そろそろ上の職と第五位階へ手が届く。
イグヴァルジ。クラス、好漢。交渉や説得を行う時、魅力ではなく武力を基準に出来る。