Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

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認定すること

 エ・ランテルに一度立ち寄った一同は昇格認定を行う事に成った。

ゴールド級からプラチナ級までは文句なしに昇格との判断であったが、ミスリル級にまで上げるかどうかを悩んでのことである。アダマンタイト級冒険者である蒼の薔薇と肩を並べて戦ったのは良いのだが……ニニャの実力が高過ぎる事で疑義を呈されたのである。何しろ彼女のレベルは25レベルに達しており、エンリと並んでレベルキャップで止まった所だ。

 

これはかつての蒼の薔薇の下位メンバーと同じくらいの実力であり、ニニャ一人の強さであるならば、ミスリル級には認定できないとの判断である(クルラグラも同様の判断で、アダマンタイト級には成って居ない)。

 

「心配しなくてもさっさと片付けて来るぜ!」

「幸いにも相手はトロルを含む亜人種の集団なのである。安心されよ」

「……トロルは笑って済ませて良い相手ではないと思うのですけどね」

 ニニャを除いた三人でモンスター討伐を行う事に成った。

判り易い指標であるが、マジックキャスターを外す分だけ妙な能力を持つ相手は選ばれて居ない。あえていうならばトロルであるが、ミスリル級ならばその程度ならば倒せて当たり前と言う判断が働いている。その上で特殊呪文やスキルによってバフを掛けたりはしないという前提で、ニニャの知恵を借りるところまでは許されたのだ。

 

パーティの知恵を担当するのはマジックキャスターであり、そこまで差し止めるのは殺生と言う事であろう。

 

「ニニャ。注意することは何かありますか?」

「そうですね。上位種に気を付けるのは勿論ですが……異常な再生力を持つならば火を使えば良いと聞いたことが有ります。傷口を焼いて治療しまうと、それ以上は治らないとか」

 トロルは再生力があるので魔法が無ければ倒し難い。

ニニャを除いた三人で挑むのは手頃な試験だと言えた。ミスリル級のパーティならば鼻歌交じりに倒せるレベルであり、ゴールド級では戦士やマジックキャスターの実力次第で苦戦する相手である。それを他の亜人種込みで三人というのは妥当と言えば妥当、微妙と言えば微妙な塩梅であった。重要なのは『状況を正確に把握する事』であるとも言えた。

 

提案したのはモックナック率いる『虹』であり、彼らは欲得抜きで見極めに参加してくれる。漆黒の剣ならば可能と信じると共に、もし自分たちの目が節穴で、危険な状況に成れば手助けしてくれるとの事である。

 

「後はそうですね……森の賢王と同じ状況や、村との距離でしょうか」

「なるほど。そのトロルが防波堤に成って居るならば倒してはいけない……と」

「確かにな。俺達ならまた昇格のチャンスもあるし、無理に討伐する必要はねーって事か」

 万が一にも上位種であった場合の倒し方を教え、その他の場合を考慮する。

漆黒の剣は戦闘力をウリにしたパーティーではないし、こういった視点を持てるかも重要だろう。冒険者組合にとって、もっとも大切なのは『派遣したら事件を解決できるかどうか』なのだ。倒してはいけない状況ならば、その根拠込みで報告。周囲の魔物を倒してから挑むなり、封じ込めて連絡を寄こすなどの算段も必要だと言えた。

 

ともあれ、基本的には討伐して終りである。単純に一当てして見当をつけ、そのまま倒して終わるか、『虹』に支援を求めて堅実に片付ければ良いだろう。

 

「さて、話も終わった所で君たちにちょっとした宿題を提供しよう」

「それぞれ、こんな状況ならば有益だと思える武技や呪文を考案する事」

「実際に覚える必要はないし、覚える場合も他の案と考察しておいた方がいいな」

「自分の先々を想像し、その道に向けて身構えることは良い事だ。同時に、短視野で行動することはあまりよくない。命が掛かっている場合を除いてね」

 漆黒の剣が行うミーティングが終了した所でラズロックが話しかけた。

同行して居る間、一同の教師役として色々と指導していた。元の世界ではラズロックに預けられる娘は様々なタイプがおり、セフレとも言える数人を考慮外としても、指導経験自体は豊富なのだ。また、武道大会も複数開催されており、そういった目としては確かだと言えた。

 

そして四人はそれぞれのスタンスで思案を始める。

この昇格認定を受ければミスリル級だし、ニニャの実力を考えればオリハルコン級も見えて来る。ここでどんな成長をするのかを考えるのは有益だろう。短兵急に強くなる方法もあれば、長期的に考えればもっと有益な物もあるはずなのだから。それらを複数案用意し、自分がやりたいことを為すのは意味がある事であろう。

 

「うーん。俺は一発の威力底上げかな? 隠れ身でも良いけど」

「私は次こそ不落要塞ですが……こっちも一撃に勝る技かな?」

「我は今のまま基礎を高める予定であるが……。ニニャが使っていたツインマジックか……でなければ植物の壁と言った所か。ゴブリンを隔離できれば、堅実に戦えるのではないかと思う」

 やはりこういった試案ではダインの幅が大きい。

彼が呪文を使うドルイドであるというのもあるが、知識系だからなのもあるだろう。おそらく普段から様々な情報を集め、自分がどうあるべきかを思案しているに違いない。その意味では法国の三人娘から得た知見はかなり役だったのではないかと思う。

 

一方で、最も状況に左右されるのが足を痛めたペテルだ。

暫くこのまま動きが鈍いのであれば不落要塞は必須になるし、直ぐにでも治るのであれば、戦術に幅を増やすために攻撃系というのもある。ペテルの火力が上がれば、小器用なルクルットが無理に火力役を引き受けないで良いというのもあるだろう。もしレンジャーのままで行くならば、ルクルットは今の狙撃術だけでも十分なのだから。

 

「ニニャならどうするんです?」

「そうさなあ。俺もこの状況ならどうするのか知りたいぜ」

「二つ案が有りますけど……一つ目は呪文の貸し出しですね。『ヒートウエポン』の呪文を貸せるならば戦いにずっと役立ちますし、二人の目指せる幅がずっと広がるはずです。後は……ちょっと難しいとは思いますが第五位階で『転移』が見えて来るらしいので、その派生形ですね」

 そういってニニャは恥ずかしそうにマニキュアを取り出した。

せっかくの大都市と言う事でラズロックが買い与えた物だが、化粧をする習慣が無いのでもっぱら飾りに成っている。今回はソレを取り出し、チョンチョンと男たちの爪に色を塗った。露天商が言うには爪割れ防止にもなるらしく、口紅や肌粉の類ではなく、手荒れの薬を自分で買って揃えた物であった。

 

「例えば今塗ったマニキュアが呪文の印だとします。これを解放したら使える……というのは有効そうじゃありませんか?」

「いやーはは。そうだな……確かに有効かも」

「しかも今回はトロルが相手ですからね。でも、ニニャの望みは違うのでしょう?」

 ニニャ自身が使わない化粧を塗られて恥ずかしがるルクルット。

それとは別にペテルは真面目に彼女の目を見た。道化めかしているのは、むしろ否定して欲しいからではないだろうか? 根が真面目なペテルはそう考えたし、実際に外れてはいない。

 

「叶いませんね、その通りです。転移呪文は難しいらしいですが、真っ先に覚える価値の高い呪文でもあります。最悪、付与呪文はマジックアイテムで何とかなりますが……師匠に習うにつれて、情報と言う物の重要さを知ることに成りましたから」

「あー。あのバケモンとの戦いで、先生が集めた情報はかなり重要だったしな~」

「あれらの情報が無ければ、想像であったり、探し回って戦うしかなかったであるな」

 ラズロックはザイトルクワエの戦いで何もしなかったわけではない。

様々な場所で情報を集め、触手の総数やその攻撃パターンを集めていた。その上で『皆ならば勝てる』と言う状況であり『全力を出せば何処かで悪影響を与える』と理解し、成長を促しながら見守っていたのだ。事実、魔封じの水晶と援軍のみでザイトルクワエに勝てたし、法国のエージェントに全力を見せたがために逃げ出す羽目に成ったのだ。情報が前後しているとはいえ、嘘ではない(最初から全力で行けば、ラズロックと魔封じの水晶だけで倒せた可能性もあるが、そこは割愛する)。

 

いずれにせよ三人は認定試験に赴くことになったのは間違いがない。

それを達成して戻ってくれば、いよいと漆黒の剣はミスリル級冒険者と言う事に成るだろう。

 

 それはそれとして、残ったニニャがナニもしない訳ではない。

かといって三日三晩部屋から出ないような、愛欲の日々を過ごしていたわけでも無いのだ。もしそんな事をしていたらラーマー・ヨーガでも使えるようになっていたかもしれないが、それだけではなかったので真面目な話である。

 

「師匠。彼らの前であんなことを言い出したのは……」

「そうだ。ニニャ、君もまた完成を目指せる段階にある。リ・エスティーゼ王国という小さな世界においては、既に一流の術者といえるだろう。その殻を壊し、そしてどんな方向に進むかと『自ら』規定していく段階にある」

 カルネ村においてならば、エンリは森の魔女として十分だった。

人々を守り、知識を授け、そして森と共に生きていく。25レベルもあればそれだけの強さは有しているし、地方貴族相手ならば対等に戦えてしまうだろう。同等の実力を持つニニャもまた、エ・ランテルで行動するだけならば何の問題も無い。漆黒の剣のメンバーの一員として、冒険者として暮らすだけならばもう問題は無いのだ。だが、彼女には『その先』がある。

 

押しも押されぬマジックキャスターとなり、貴族と戦うのではなく、貴族と渡り合うだけのコネクションや発想を必要としていた。いわば『強いだけでは済まされない』領域に踏み込もうとしていると言えるだろう。

 

「それが出来るならば、君はこの国でも、他の国であっても生きていけるだろう」

「そこまで身につければ、もはや貴族とて恐れることはない。ならば次は何だ?」

「闇雲に強く成る事かな? 違うだろう。君には君の目的があるはずだ」

「情報を集めて君のお姉さんを探す。生きているならばどんな状況においても助け、死んでいるならばその無念を果たす。例え辛くともそれを遣り遂げた時……君は本当の意味で君自身の人生を歩めるだろう」

 守破離と言う言葉はなくとも、似たような概念は存在する。

師の教えを守って素直に能力を延ばし、基本の型が出来たらそれを離れ、最後には殻を崩して何かを得る。それらは職人だろうがマジックキャスターであろうが、ラズロックの世界で言う魔法使いであっても同じなのだ。それらを身に着け、他人に促すことが出来れば、ニニャもまた立派な師と成れるに違いない。そしてニニャほどのマジックキャスターであれば、その勢力はきっと大きなものに出来る筈だった。

 

そういった『道』を示したうえで、ラズロックは現実を突きつけた。

ニニャが望む貴族への復讐の前に、姉をちゃんと探す事。絶望して勝手に殺すのではなく、死んでいた事実を探すことに成ろうとも、ちゃんと向き合う事を勧めたのだ。その上で復讐するか、それとも忘れて生きるかはニニャが決める事である。もちろん生きているならば敵対自体が危険になる事もあるだろう。また『ニニャ』と言う名前が姉の名前から付けた偽名である事は既に告げているし、時折見せるヘドロのような感情が決して忘れて居ないことを理解させた。

 

「姉さんを……探す……」

「そうだ。貴族の所領自体は判っているのだからね。今ならば他人を介して探すことも出来る。貴族の館から不自然に居なくなるはずもない。その上で居ないのであれば、殺して埋めたのかそれとも売り払ったのか? 売り払うならばこの国は奴隷を禁じているのだから、売り先は八本指以外にあり得ない。そうやって一つずつ確認するまでだ」

 ニニャの前でラズロックは指を折り曲げていく。

何も正面から馬鹿正直に尋ねることはない。他者を使って情報を集めて行けばよいのだ。何だったら深層暗示で催眠を掛ける成り、魅了の呪文を使ったって良い。ニニャが知る由もないが、ラズロックの口ぶりからして基本的な情報は既に洗ったのだろう。思えばザイトルクワエの情報集めだけにしては不在期間が長ったし、そもそもラズロックは釣った魚に餌を与えるタイプである。この時の為に準備くらいはしていると考える方が自然であった。

 

そう思えば幾つかピンと来るものがある。

そもそもどうして、八本指の情報に関してあんなに敏感であったのか? そして蒼の薔薇から要請があったにせよ、どうしてあんなに早く決断が出来たのか? この時の為だと思えば納得できるものがあった。蒼の薔薇なり王都組なりに、潜入調査を頼んだと思えばおかしな話ではなかった。

 

「お願いです。もし、知っているならば回りくどい事はせずに教えてください……」

「ダメだ。君は私の元から巣立った後も、いちいち聞いてくるのかね? 女が男におねだりする方法は教えたが、今の君が安易に解決して良い物ではない。私は全知全能でもないし、確信を持てているわけでも無いからね」

 ニニャはペタンと宿の床に座り込んだ。

土下座ではなく、男に奉仕する態勢だと散々教え込まれたポーズである。何でもしますと言わされたり、何度も口にしてしまったポーズであった。だが、ラズロックは外道だが善人でもある。本当に判っているわけではないことを、『もしかしたら?』くらいで安易に希望として告げる気は無かったのだ。

 

何しろアンデッドの災禍に際して、八本指がこの国から逃げ出したこと、そしてその際に商品の消耗速度を落としたというだけの情報なのだから。




 と言う訳で第三章に突入です。
とはいえラズロックとニニャがいろいろ話してるだけですけどね。
暫く第三章は情報整理に成るかと思います。

●成長計画
 まだ成長途中ですが、そろそろイメージを固めておかないと
勝手に武技を取得したり、思わぬ方向にクラスを取得しそうなので、イメトレ。

ルクルットはチャージショット、ペテルは不落要塞、ダインは茨の壁とかですかね。
ニニャが口にした他人に貸し出すのは、マジックシールの下位互換で、『貸したら自分が使えなくなる呪文」
TRPGのD&Dだとスペル回数とかあるので、それを消費してリングに入れたりしますので、そんな感じ。
ちなみにマニキュアを使ったのは、「ちょーしりーず」という小説で、似たようなシーンがあった為。
転移呪文の派生に関しては、単純にアポート(取り寄せ)・アスポート(送り込み)という、転移の下位呪文とかがイメージです。
あったら良いな~程度ですが、覚えられたら便利ですよね。(手紙とか薬品とか輸送で)


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