●
そうこうする内に漆黒の剣がミスリル級に昇格する事となった。
元もと臨機応変なオールラウンダー型であったこともあり、アンデッドの大集団や巨大なザイトルクワエなどの経験を経て、少々の事では驚かなくなったことも大きい。落ち着いて状況を確認し優先順位を把握しさえすれば、実力通りに結果を示せるというのも大きいだろう。
しかも、その実力を見込んで、さっそく指名依頼が入るほどであった。
もっとも、それが幸運なのか、あるいは不運なのかは……ただのマッチポンプであるとしかえないのだが。
「指名依頼ですか? ですが師匠、我々は……」
「逢ってみれば判るよ。金払いは良いし、人々の為でもあるし、多分まだこの国の為もである」
「「……?」」
ニニャが首を傾げるが、残りの三人は更に謎だった。
この期間で何をしていたかはザっと話しているが、漆黒の剣のメンバーは別の予定が入ると思っていたからである。そのためにスケジュールを開けておくつもりだったし、それなのにラズロックの方から指名依頼があると告げたのは不思議な事であった。
ただ唐突な事とは言え、ギルドよりも早く告げたことで察する者もいる。
「もしかしてお知り合いを経由した依頼ですか?」
「つまり我らが別の事をしていたという証言造りであるな? ミスリル級の存在は大きい故」
「なるへそ。ラズロック先生! その以来って、かわいこちゃん居る?」
「そうだね。三人の言葉にはそれぞれ頷いておこう」
男性陣の質問にラズロクは躊躇いなく頷いた。
いわゆるアリバイ工作であり、そのために知人を経由して依頼を出したとも言える。正確に言えば元から対八本指作戦全体に関わる筋から、複数の表看板を経由して幾つかのパーティーに声を掛けただけである。ラズロックはその流れを知っていただけに過ぎないし、『サイン』を貰ったのでその予定が来たと判断したに過ぎないのだ。
やがて冒険者組合経由で、とある教会まで呼び出されることに成った。
「クインティア様は現在、治療を施されておられ……」
「ということは善意の治療であるかな? 徳の高い御方なのであろう。お待ち申し上げよう」
依頼主はどうやらクインティアと言うらしい。
案内人をした助祭があまり良い顔をしていないのは、教会では無償で呪文を使うのは戒められているのだ。安易に頼ってはいけない……と言う事に成っているが、実際には万人に呪文を使えない為、寄付金によって足切りを行っている為である。
だが、そんな背景でありながら呪文で治療をしている。
それはクインティアという依頼主が、善意で行っている事、そして助祭程度では口を挟めない相手出ることを示している。治療呪文について詳しいダインは、待つ間にその事を皆に説明していた。
「お呼び出したのはこちらですのに申し訳ありません。修業をせねばと思い、つい夢中になってしまいました」
「いやー困っている人を助けるのが修業ってなかなか出来る事じゃないよねー」
「……? ……っ! ……~!!」
現れたのはウインプルという布で顔を隠し、白い修道服を着た女性だった。
妙齢でスタイルが良い事もあり、ルクルットはさっそく鼻を延ばし始める。ここで何時もの様に相手のプロフィールを尋ねたり、口説きに掛からないのは曲がりなりにも依頼主であるのと、単純に彼女が説明するはずだからだ。その言葉を待ってから口説けば良いと思っているのだろう。
ただ、不思議な事にニニャは難しい顔をしていた。
何かに気が付いたのだろう、最初は疑問であったようだが、途中から憤慨したような顔に成っている。
「これはどういう事でしょうか? 王国の問題では?」
「王国の問題でもありますよ? その辺りの説明も行いますので、こちらの部屋にどうぞ」
「……?」
問い詰めるようなニニャの言葉に修道服の女性は惚けた。
そして理解できない者を尻目に奥の間へと案内し、ずかすかと立去っていく。足音を消すことも出来る『彼女』にとって、それこそが気安い挨拶と言えなくも無かった。
●
案内されたのは簡単な防諜用の装備が用意された部屋であった。
中に入ってしまえば、隣の部屋に誰かが傍耳を立てて居ようと、伝声管で別の部屋に声を届けようと、意味を無くすようなマジックアイテムを使っているという。同じような物は幾つか存在するが、何も動作を必要としないあたりが、かなり高価な代物と言えるだろう。
そしてクインティアと言う名前で紹介された修道服の女性がウインプルを取ると男性陣は驚きを添える。
「あ、あんたは確か……」
「法国の所属……でしたか」
「はーい。みんなに仕立て上げられた偶像、クレマンティーヌちゃんで~す。いやいや、最近さー回復魔法にハマちゃってね。能力を鍛えてる最中なのさー。駆け出しの頃の何倍も使えたらさー、超夢中になっちゃうよね~」
その女はかつて疾風走破と言うコードネームで現れた。
漆黒聖典というスレイン法国の切り札の一人であり、ラズロックによってザイトルクワエとの戦いに対して『色々あって共闘することに成った』と紹介された相手である。あの時は蒼の薔薇と剣呑なやり取りをしていたし、法国は帝国を使って王国を滅ぼそうと聞いている為、意外な再会であったと言える。
ただ、法国が王国を疎ましく思う最大の理由を考えれば、意外と納得がいく話でもあるのだ。
「早速だけど今回はさー、八本指ってウザい連中を叩き潰すための依頼を出すことにしたんだよね。受けて~くれるかな?」
「質問したいことが有ります。貴女方は距離を置いていたのでは?」
「あ、それ聞いちゃう? 仕方ないにゃー。聞かない方がいいけど、話しちゃおっか」
ニニャは男性陣と違って、ラズロックの話を聞いていた分だけ差がある。
それゆえに途中から気が付いており、早めに誰なのかという見当がついていたらしい。三人娘の誰かという段階から、クレマンティーヌが法国に隔意を抱いているという話を思い出したのである。だからこそ、彼女が今回、法国筋とも取れ、王国筋とも取れる依頼を盛って来たことには違和感があったのである。
八本指相手に共闘するとしても、その辺りの距離感を聞いて置かないと納得は出来まい。
「一つ目の理由はぁーもう詰んじゃったからでーす」
「王国はアンデッドの騒ぎで大きく国力を落してしちゃった」
「あの植物モンスターに帝国は襲われたけど、被害は王国ほどじゃない」
「それどころか魔物が食った森を進むことで、二つの道を進撃できると気が付いてしまったってワケ。退治をさぼった王国はその事に気が付いても居ない。これで帝国軍十万が動いたら……流石にどうなるか判るよね? ここまで来たら王国は滅亡するか、馬鹿な貴族を粛清して立て直すしかない。どっちに転んでもウチは困らない」
クレマンティーヌは肩をすくめて笑った。
呆れるような苦笑いにも見えるが、大笑いしている様にも見える。だがその眼は決して笑っておらず、演技でしかないのかもしれない。しかし言っていることは決して聞き逃せない内容であった。ラズロックの予想としてカルネ村に進駐してくる可能性を挙げていたが、どうやら占領されないだけで、その流れはもう確定と言う所まで来てしまっていたのだろう。
そして『詰んでいる』というのは、王国ではなく貴族たちのこと。
ニニャはその事に気が付いた時点で少しだけ警戒心を解いた。王国にが生き残る目があるとかないとかどうでも良いが、姉を苦しめた貴族が困るのは望むところだからだ。ならばどうしてこの女に警戒心を抱いたままなのか……ラズロック関連の事であろうか?
「なっ! そんな事が……っ!」
「教えたいなら好きにすれば? 『私』が狙った事じゃないしね。んで、当然だけど八本指対策が二つ目の理由。特に麻薬は見過ごせないよねー。王国に関してはもうどうでも良いけど、でも八本指がのさばってるのは困る。あまつさえ帝国に浸食されたら『みんな』困るじゃない? だから協力つーかこっちから声を掛けたってこと」
真面目なペテルが口を挟む前にクレマンティーヌは話を続けた。
言いながら取り出した羊皮紙には、幾つかの見過ごせない情報が書いてあった。蒼の薔薇が積極的に情報を集めたり八本指の傘下にある場所を攻撃しているらしいが、それどころではない情報である。これが一国の組織を動員した時の情報網であろう。判るだけで両手に余る貴族の名前と、それに倍する役人や軍人に商人の名前も連ねてあった。
そして決定的なのは、自己弁護の心算だろうか?
蒼の薔薇と漆黒の剣だけではなく、法国経由でもうひとつのアダマンタイト級冒険者である『朱の雫』を雇う用意があり、王国の外は法国が部隊を送る用意があると記載してあったのだ。
「最後にオマケ。八本指の中で警備部門である六腕って雑魚共?」
「こいつらの中で、最近勢力を拡げた奴が居るのさ。既に部門外?」
「不死王デイバーノックってやつで、こいつが何とアンデッドなんだよねー!」
「もしかしたらこないだのアンデッド騒ぎを起こした奴かも知れないんで、確実に仕留めたいってのもあるかな。アンデッドは人類共通の敵だから容赦は不要じゃん? ……ああ、そうそう。気が付いてないかもしんないけど、こいつって、こないだの騒ぎで避難民をかなり連れて奴隷部門に協力してるらしいよ~?」
オマケとは言いつつも、それは決定的な情報であった。
クレマンティーヌは決してデイバーノックが黒幕などとは言っていない。だが、『最も得をした奴が黒幕』という論理であれば、間違いなく得をしたのは奴だろう。アンデッドの災禍で手下になるモノを増やし、奴隷となる村人を大量に捕獲した……そう聞こえるように告げたのだ。相乗りしただけで企画したわけではないが、これではまるで八本指が一連の事件を引き越した大悪党ではないか。
そう、彼女はズーラーノーンからの要請で情報を混ぜ込んだのだ。
彼女は十二高弟と呼ばれる存在であり、幹部として協力する立場にあった。法国を抜けたら匿ってもらう場所の一つであり、積極的に協力しているとも言える。その上で、同じアンダーグラウンドの存在であるズーラーノーン経由ならば、八本指の詳細な情報を掴むことが出来るのだ。
「……話は分かりました。それで、我々は何をすれば良いので?」
「依頼受けてくれる? いーじゃなーい、そう来なくっちゃ。んで、重要なのは王国内にある複数のアジトを『同時襲撃』する事。そこにはそれぞれ六腕が複数いる可能性があって、こいつらは一応アダマンタイト級って事に成ってるわけよ。最低でも頭目のゼロって奴と、ディーバノックは絶対に倒さないと困る人が続出しちゃうよーん。だからそういう理由もあって、君らを雇う事になったわけさ」
異論がなさそうというか、断る理由が無いでリーダーであるペテルが頷いた。
クレマンティーヌは胸元から情報を圧縮した木の札を出し、羊皮紙の上において写しであることを示した。その上でソレを漆黒の剣がいる側に放り投げ、記載された襲撃場所について周知させる。
そしてもう一つ、奇妙な仮面を取り出したのだ。
「最後に質問でーす。この仮面は特殊な物で、顔と声を誤認させてくれんだよね。どうする? 私らがコレを付けて三人ほど作戦に参加するのか? それともあんたらの中で、襲撃に参加する連中に貸し出すのか、決めちゃってくんない? もし取り逃がしたら……多分、家族が狙われると思うよん?」
「っ!? そうか。敵は犯罪組織……そんな卑怯な手で……」
「最大三つなら議論の余地はないでしょう。最低でも王国内では最後まで関与しましょう」
クレマンティーヌは貴重なアイテムを貸し出すという態で最後の決断をさせた。
犯罪組織は自分達だけではなく、家族をも狙う。今は安心であっても、勢力を立て直したら何度でも襲ってくると告げたのだ。そして三つしかないという事が、途中で抜ける理由を失わせる。姉以外がいないニニャや、身一人のラズロックは良い。だが、他のメンバーやアダマンタイト級のパーティを考えれば、むしろ八本指を追い続けた方が良いと判断したのである。
そしてここまで情報やアイテムの貸し出しを考慮する態度を見せたことで、一連の事件の黒幕がスレイン法国やズーラノーンであることを隠したのであった。
「……もう一つだけ聞かせてください。貴女は剣士だったはずでは?」
「やだーっ、もう判ってる癖にーって。昔、少しだけ覚えさせられた時はまるで役にも立たなかったけどね。それでうちの毒親共が失望してさ。盗賊やら強盗やらに突っ込ませんの。それで死んだらそれまでってね。それが今じゃあ増えた魔力で何人も治療できてさ。面白くなって調子に乗ったら今度は毒親共が掌返したんで、面白くなくなってこっちに飛び出て来たわけよ。
言いながらニニャは自分が嫉妬に駆られている事に気が付いた。
言った後で気が付いたのだが、そのしっぺ返しはそれはもう酷い物であった。クレマンティーヌの独白は、まともな親に育てられ、その後は優しい姉に育てられた彼女としては良く分らない。だからこそ、彼女の目が妙に怖く感じられるのだ。迂闊に傷をこじ開け、塩でも塗っているような気分に察せられる。クレマンティーヌと言う女が判らないなりに、共感性に訴えかけて来る虚無感がそこにあった。
ただ……ニニャは幸せである。
クレマンティーヌが口にした『突っ込ませて』というのが、特攻と強姦のダブルミームであり、それを両親が企図した事、そして『死んでも仕方がない』と思っていたことを知らずに済んだからである。まあ見事に散った後は、神人の家系であるため、予備の血筋を残すために引退した漆黒聖典の間を『たらい回し』にされるというダブルミームにあってしまうのだけれど。
「とりあえず、あんたら王国組が行く場所は囮の拠点」
「でも、連中の目を引き付けるのに重要なんだよね」
「だから支援だけならちゃんとするんでヨロシク!」
「まーこのクレマンティーヌ様も最近お見限りでさ。上から六腕二・三人くらいなら帰って来るなと言われてっから、何時まで続けられるかしんないけどね」
そう言って最後に自嘲気味な笑みを浮かべた。
だが、その声は何処か妙に清々しく感じたのは気のせいであろうか?
と言う訳で大まかな作戦が流れて来ました。
ラナーとラキュースの所よりも、クレマンティーヌがくれる情報量の方が多い。
これは単純に、アダマンタイト級とはいえ一組だけなのと、法国+ズーラノーンという組織の差です。
●聖女クレマンティーヌ
オバーロードのソシャゲであるモバマスから若干流用して居ます。
それと新人の頃に1・2レベルはあったけど、その後に挫折(意味深)した後、大成後には使っていない。
ソレを延ばしているのと、中級職を得たことで、効率的に便利になってる感じですね。
『セイント』
聖者の下位互換であり、クレリック系の上位互換ジョブ。中間系であり目指せる幅が広い。
有用なスキルが幾つかあり、その中から一つを選択して習得でき、行き先が変わる。
大抵の資格者は他クラスのスキルを得る
しかしこの世界線のクレマンティーヌは、鎧を付けない代わりに能力が上がる『楯の乙女』を選んだ。
英雄級まで上昇したもあり、ただの治療呪文ならば相当な人数を治療可能。
クレマンティーヌがこの後にクレリックを延ばしていくのか、それとも修道騎士を選ぶのかは今のところ不明。
なお、クレマンティーヌの機嫌が良い理由ですが……。
妹「あいつ……もしかしたら、ぷれいやーかも?」
兄「うらやましい!!」
というくだらない会話のせいですね。