Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

36 / 46
囮と本命の輪舞

 八本指を掃討する作戦は進んでいく。

王国冒険者組合に所属する三組は、そのまま王都での戦いに従事することに成った。その三か所は最初から囮であり、無駄と判って囮に突っ込む役割だ。得られるモノは少なく、危険ばかりが大きい。

 

それでも冒険者たちがそれを受け容れたのは、形ばかりであろうとも依頼の形式をとった事と、今を逃しては八本指を掃討する機会など存在しないからである。

 

「報酬と言って良いのか知らないけど、使える資料は渡してくれるそうよ」

「そうですか。実はレエブン公がこの件に関しては信用できると判りましたので、公に提供して利用していただきましょう。ただ、こちらを一度経由するか、一言『私』からだと伝えてからお願いしますね」

 蒼の薔薇のラキュースは双子を連れて登城していた。

ラナー王女と面会を申し出て、双子は扉を挟んで警戒に当たっている。その間にお茶会と称して事の次第を伝えたという訳だ。ガガーランとイビルアイは冒険者組合についでにこなせる依頼を物色している事に成っているが、もちろん『フリ』に過ぎない。

 

要するに蒼の薔薇もまた、囮として動いていないフリをしているという訳だ。

 

「ところで、そちらの御方は『どなた』でしょう? 紹介していただけると幸いなのですけれど」

「流石に貴女を騙せないわね。護衛とダミーを兼ねて来てもらった『三人目』よ」

 一通り話が終わった所でラナーは『双子』に関心を寄せた。

実の所、ティナとティアは『双子』と認識されているが、本来は『三つ子』である。その認識を利用し、イジャニーヤに残っていた三人目を雇ったのである。雇い主は裏切らないが、ラキュース暗殺に関しては失敗で終わっているのに、自らを狙う相手を呼び寄せるというのは実に良い度胸であった。

 

ともあれ三人目が居るというのはラナーも初耳だ。

キョトンとした表情を浮かべた後、悪戯を思いついた表情でシゲシゲと眺めているのが判る。

 

「出来れば自己紹介してくれると助かるのだけど?」

「……お前たちは本当にクソだな。愛しい姉妹の名前を使い呼び出した挙句、こんな馬鹿馬鹿しい事をさせるなんて。私が雇用主の頼みに忠実な、イジャニーヤの頭領であるティラでなければ、今ごろぶち殺しているところだぞ?」

 ラキュースの言葉にティラと名乗る少女は真顔で答えた。

嫌そうな顔を浮かべるのも惜しいとばかりのトーンだが、どこまで本音か分からない。名にしおうイジャニーヤの頭目なので信用できないからだ。それでも自己紹介を織り交ぜながら嫌味を言っているのは、それこそ雇っているからであろう。

 

そのやり取りを聞いて、ラナーはコロコロと笑みを浮かべてラキュースに話しかけた。

 

「まあまあ。ちょっと話がしてみたいわ。少しだけ確認させてもらえないかしら? もちろんティナさんもお呼びしてくれるとありがたいのだけれど」

「向こうに居るのはティアよ。なるほど、個人じゃなくて違和感を見抜いたのね」

 ラナーの可愛いおねだりにラキュースは苦笑して立ち上がる。

壁の向こうで門番をしているティアを呼んで来ようというのだろう。耳の良いティアを呼ぶだけなら少し声を大きくすれば届くはずだが、流石に貴人の前では出来ない。律儀に会釈をしてから扉の方に向かったのだ。

 

まさか、この瞬間にラナーが思いもよらぬ言葉をティラに告げているとも思わずに。

 

「時間が無いので本題と参りましょうか。それで『陛下』はどのような伝言を?」

「っ!? ……良くお分かりで。こちらは後で焼き捨てるか、水に溶かしてください」

 その言葉にティラは絶句しかなかった。

まさか彼女がバハルス帝国皇帝である、ジルクニフからの伝言を預かっている事を看破されているなどとは思いもしなかったのだ。いや、伝言をついでに渡すことなどイジャニーヤの職業倫理で許されるはずがない。この分だと、真の雇い主が法国であり、ジルクニフとラナーを接近させるために、ラキュースの依頼を利用したことも含めて見抜いているのだろう。

 

そして……ジルクニフの伝言を受けると既に決めている。

この時点で、王国に関する帝国や法国の干渉を受け容れ……場合によっては売り飛ばすというという、異常な精神性にティラは気が付いてしまった。

 

「あ、ティアさーん。申し訳ありませんけれど、『ティナさん』と並んでいただけます?」

「……ゴクリ。ティアー! お姉ちゃんだよー!」

「ウザっ。それと姉は私、お前は妹」

 そしてラナーは手紙を受け取ると、そのまま違和感なく後ろに声を掛けた。

イジャニーヤであったティアすら見抜けぬ話法であり、もしラナーが王女ではなく女優であったら、不世出の天才と呼ばれることに成っただろうとティラは思う。そして同時に、愛するべき姉妹に対して、この貴重な時間を使おうと、くんずほぐれつお願いしまーすと飛び込もうと意識を切り替えたのである。

 

この辺りの反応を見る限り、ティラも残りの二人に負けないヘンタイであろう。

 

 クレマンティーヌは法国とズーラーノーンの伝手を上手く使いこなした。

イジャニーヤを雇って帝国方面の情報を集めたり、そのまま頭目のティラを使った情報伝達を提案し、複数筋からラキュースにそのアイデアを思いつかせたのだ。フロントである王国にある神殿に居座ったままそれを行っており、かつての情緒不安定な様はなりを潜めた様に見える。

 

実際にそうなのかは別にして、今の彼女に一定の発言権があるのは確かであった。

 

「はーい、新しい情報が入りましたよー」

「八本指の有力な拠点は三つです。以前の半分以下ですね~」

「幾つか残して顔つなぎってのは話したと思いますが、娼館、黒粉の館、密輸倉庫」

「それぞれに六腕の連中が守ってるワケですが、密輸倉庫は人目が無いのでアンデッドの歩哨、黒粉は焼いて無くせるので時間との勝負と言う訳です。蒼の薔薇と朱の雫にはそちらを担当していただきましょー」

 クレマンティーヌの情報は、なるほどと頷かせる物があった。

嘘を言っている様には思えないし、嘘を吐くならばここまで協力するはずがない。そんな状況が続き、提示された方針には誰も拒否するよりは無かった。元より彼女が依頼人であるという形式をとっており、その辺りも上手く行っている所があるだろう。

 

悔しいが王国内部で有志が立ち上がったとしても、ここまでスムーズにはいくまい。

 

「あ……こちらの希望を盛り込んでくれたのですね。ありがとうございます」

「いーっていーって。どうせ誰かが行くんだし、それなら希望者が行く方が良いでしょ? まあ、そっちが他のパーティより最適だったら他の場所に行ってもらってたけどさ」

 漆黒の剣は娼館への討ち入りを希望しており、情報を受け取りに来たペテルは頭を下げる。

これに対してクレマンティーヌは問題なかったと手を振るが、実のところ娼館に関しては数合わせだったのだからどのパーティを当てようが問題ないのだ。重要なのは黒粉と呼ばれる麻薬の出入りを止めることであり、八本指が王国界隈で仕切っているという事実さえ潰せればそれで良いのである。それこそアダマンタイト級冒険者を動員できた時点で、漆黒の剣は誤差でしかなかった。ラズロックに関連するパーティと繋ぎを持っておきたい以上のものではない。

 

こういうときクレマンティーヌは全てを話さない様にしていた。

数合わせだなんていう必要はないし、蒼の薔薇だって神官のラキュースが居るから倉庫に当てたというが、イビルアイならば転移を使えるだろうということで、そっちを黒粉の館に当てる手もあった。望みを聞いた上で配慮しているかのような……フリをするくらいの腹芸が出来ない訳ではないのだ。単にこれまでは、攻撃性が先に立っていただけの話である。

 

「それに兄貴が居るからさ、あのマジックキャスターちゃんの気持ちも判らなくはないかんね。毒親と違って兄貴になにかあったら、私も少しばかり考えるかも」

「……いずれにせよ、全て終わってからニニャも連れてきますね」

 とはいえクレマンティーヌの気持ちが複雑だったのもあるだろう。

ニニャの気持ちに共感してしまう部分もあるし、同時に『あいつだけズルイ!』という気持ちも存在する。だからこそ、クレマンティーヌは全ての情報を話さずに『適当』に協力することにしたのだ。これから待ち受ける脅威に関して、もう少し判っている事と想像できることがある。そこで苦戦するも大変な目に合うも、スムーズに解決してしまうのも好きにすると良い。

 

そんな感じで、サイコロを転がす様にクレマンティーヌはニニャを扱った。

 

「終わったらまた来んの? ウッゼ。その前に逃げっかな……」

「本命のディーバノック君も強者気取りのゼロちゃんも不在だしね」

「クレマンティーヌ様はそいつらの始末に動くことにしますよっと」

「そう言う訳で……私も出張る準備をしますか。ま、特に必要ないんだけどさ」

 そんな事を言いながらクレマンティーヌは修道服を放り投げた。

下着同然の姿であり、ソレはそちらかといえば軽戦士よりも密偵が身に着けるべき装備である。新しく習得したクラスで、鎧を身に着けないと大きく能力が向上するスキルを習得した為、彼女にとって鎧は必須ではなくなった。そしてスティレット、サイ、ソードブレイカー、ブラックジャックと言った、短めで本来ならば扱い難い筈の武器を採る。

 

その姿には六腕如き、もはや装備を選ばぬといった風情だ。

完全に英雄の道を進み始めた彼女にとって、後はどれだけ自分の好みにあるか、そして動き易いかというところであろう。

 

「風花と水明は?」

「はっ。既に『監視』と『見届け人』を確認しております。本拠地までは流石に無理でしょうが」

 八本指は決して無能ではなく、囮は本当に囮だ。

三つの拠点で監視業務にあたる者はちゃんといるし、拠点を潰した者が何者なのか、何処を拠点にしている者が差し向けたのかを確認する者もまで配置していた。そうすることで敵対勢力を潰すか、あるいは自分たちの痕跡が完全に消えたと思うまで地下に潜伏する気なのだ。だが、組織としては所詮、法国やズーラノーンの敵ではない。

 

何をやっているかはおおよそ察知しているし、公式的な発言権のある『見届け人』込みで追跡する準備をしていたのである。冒険者たちのパーティは、奴らに信じ込ませる囮でしかない。この戦いにおいて、囮と本命は踊る様に姿を入れ替えていた。

 

 かくして一斉襲撃が決行された。

下手に時間を掛けると八本指が証拠を消滅させ、場合に寄手は貴族を動かしてこちらこそ犯罪者だと断定してしまう。ゆえに、一介の襲撃で全てを抑える必要があった。最低でも八本指のメンツが潰れる程度には叩いておく必要がある。

 

そして口火を切ったのは『朱の雫』、アズス・アインドラである。

 

「コンニチワ、死ね!」

「不躾な襲来だな。俺は”空間斬”ペっ……ぶぺ!?」

 身もふたもない弾幕でペシュリアンは死んだ。

黒粉の館と呼ばれる阿片窟に押し入って来たアズスからの攻撃であり、”空間斬”とあだ名される技を披露することも無く、細く長い剣を振り回す間すら与えられなかったのだ。いや、その武器を十全に振るえたからと言って、何かできたわけではないだろう。

 

何しろアズスは全身を甲冑で固めており、しかも高速で移動していたのだ。

 

「馬鹿な! 鎧がこんなに……速過ぎっああああ!?」

「うるせえ、この害虫が!」

 続いて現れた”千殺”マルムヴィストに至っては名乗る暇もない。

まるで鬱憤を晴らすかのごとくに暴れるアズスは、グレネードランチャーで隣の部屋を破壊。鎧の隙間を探していたマルムヴィストを探知すると、そのまま壁越しに爆殺したのである。まさに暴虐、暴力の化身とはこの事であろう。なお、マルムヴィストもまた攻撃できたとしても意味はない。

 

アズスが来ている鎧はただの鎧ではなくパワードスーツだ。

一定の能力を保証され、しかも最低防御値が平均的に高く設定されている。ユグドラシルでは初心者用装備とはいえ、この世界の住人にとっては恐ろしい防御力を発揮したはずである。

 

「メッセージ、起動。……上層階は終わったぞ。そっちは?」

『……もうちょっと引き付けておいてくれ。書類らしきものはあったが、本命は隠してある可能性がある』

 この館は阿片窟なので、パーティールームには何も無い。

だからこそアズスは囮を兼ねてド派手に襲撃し、強敵である六腕を倒しておいたのだ。どのみち高速機動モードによる突撃は建物内では使い難いので、低空飛翔して突っ込んだら、あとは暴れるだけということだ。仲間たちはその間に奥の間であったり地下へと侵入し、証拠となる書類や黒粉を回収していた。まもなくレエブン公の息が掛かった騎士や役人たちが訪れる手はずになっており、生き残りの八本指どころか、裏切者の役人なり騎士も含めて、その場で引き渡される事に成っている。

 

ともあれこれで彼の出番は終りだ。

パワードスーツなんてキワモノは扱い難く、一度きりの出番を上手く利用したとは言えるだろう。

 

「酒でも飲みたいところだが……ここにあるのはゾっとしねえな」

 アズスは周囲に各種の探知機能を使って検索。

ディスプレイに表示される酒や黒粉から『弱い』薬物反応を検知していた。弱いと言ってもユグドラシル基準であり、このレベルが『ぷれいやー』と呼ばれる者のレベルを前提にしている事は気が付いていた。もっとも、阿片窟とでもいう場所である。なにも知らなかったとしても、とうていそのつもりはなかったであろうが。

 

ともあれ、彼の人生を歪ませることに成った一端は八本指にもある。大本は腐った貴族が主要因とはいえ、幾分スッキリしたので我慢することは難しくなかったのかもしれない。

 

「ラキューの方はアンデッドの巣窟だったか。まあ今更アンデッドごとき心配することも無いな」

 気が晴れた事で姪っ子のラキュースに思いを馳せる余裕が出来た。

アズスの経験の中にはアンデッドとの戦いで恐ろしいと思った経験がない。エルダーリッチどころかスケリトルドラゴン……いや、デスナイトですらパワードスーツの敵ではないのだ。彼の視点では襲撃自体に関しては、この時点で全て終わっているも同然だった。アダマンタイト級でもない漆黒の剣が何故選ばれたのかは知らないが、この程度で苦戦するならば依頼人が判断を間違えている。そう思って思考から消したのである。

 

漆黒の剣がこの後どうなるかは別にして、計画自体は順調。残る問題は八本指のプライドを粉砕し、二度と戻ってくることが出来ないようなダメージを、『組織』に対して与えられるか……に移っていたと言えるだろう。




 と言う訳で前哨戦です。六腕のみなさん、サヨナラ!
アダマンタイト級が突っ込んでいるので仕方ないですね。原作よりマシ。

「この悪党ども!」
「おまわりさーん。こんなところに強盗がって、テロリストだこれ!?」
「レジスタンスと呼べ!」
だいたいこんな展開で死にました、まる。

●ティラ
設定上存在する、ティアとティナの姉妹。
特に記載が無いので、一人だけ真面目なのか悩みましたが、近親相姦狙いと言うか、猫かわいがりのウザイ姉キャラとしておきました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。