●
バハルス帝国は王国を併呑した後、外交政策を優先し始めた。
友好関係にあったドワーフの王国があっけなく滅ぼされた事から、調査と防衛体制の必要を感じ、援助と引き替えに便宜を図る方向性に切り替えたのだ。実際の所、旧王国の統治で手いっぱいで侵略戦争を仕掛ける余裕はなく、同時に隣国が持つ潜在的な危険に対処しすることで、相手国内に親帝国勢力を作り上げる方針を採択したのである。これが後に、ジルクニフへ統一帝を贈り名される由来となる。
アベリオン大丘陵からの圧迫を受ける程度の聖王国はまだしも、ビーストマンに攻め滅ぼされ掛かっている竜王国などは、この方針に大いに助けられたのは間違いがあるまい。
「陛下! メインタワーで爆発が起きました!」
「何だと? 爺は無事なのか?」
帝都アーウィンタールには現在、四本の塔が建設中だ。
中でもメインタワーは魔力を集め、研究に役立てることを目的としている。フールーダ以下、マジックキャスターたちが日夜研鑽を積んでおり、地下にはドワーフの生き残りが工房を設置しているという。その管理者は当然ながらフールーダであり、師でもある以前に帝国の力の象徴たる彼を、ジルクニフが心配するのは当然とも言えた。
だが、実際にはもう一つの機能があった。
順調に国力が拡大しつつある今日においては、そちらの方が重要な『保険』であろう。
「パラダイン様は御不在でしたので無事です。しかし、塔の機能が低下しております」
「何だと! マズイぞ。四騎士に非常呼集。転移が出来る奴が無事なら、ストロノーフも連れて来い! 時は一刻を争う!」
メインタワーに集められた魔力はフールーダの力を強化し、四つの塔に供給する。
残り三つの塔は、城を守る幻影の塔、貴人を持て成す黄金の塔、そして……帝国に逆らう罪あるモノたちを捕らえる晴天の塔である。当然ながら最後の塔に捕まっているのは人間だけではないのだ、亜人種なども捕縛しており、彼らを閉じ込めたという事実を流用し、帝国に仇為す呪法の類をまとめて封じる感染呪術……禁術の一種が施されていたのである。
反逆者が逃げ出すだけでも問題だが、彼らが暴れることで、呪いも跳梁跋扈する可能性があった。
『ああ……感じるわ。私達を閉じ込める結界が消えていく』
『てー事は、 クソ爺の力が消えて俺たちは自由の身って事かあ?』
高い所から聞こえる寒々とした声に、『下』に居た何人かが騒めく。
晴天の塔の機能は結界の強化であり、実質的に地下部分こそが監獄であった。セメントと鉛に毒物めいた様々な薬物を混ぜることで、そう簡単には脱出できない強度になっているのだ。
そこに幽閉されていたナニカが、跳梁跋扈を目論み始める。
「ロイヤルアースガードは城を中心に展開!」
「晴天の塔を囲んで奴らを一歩も出すな! 皇宮には絶対近づけるなよ!」
「ロイヤルエアガードと飛行できるマジックキャスターも同様だ!」
「本音を言えばマジックキャスター達は援護攻撃に留めさせたい。貴重な術師を無駄死にさせる訳にはいけません。……だが、奴らが暴れ始めたら、どれだけ……いや、言っても仕方ないですか。陛下に万が一の事が有ってはいけませんからね。……そうだ、死守命令を出せ!」
激風と呼ばれる騎士、ニンブルは周辺の兵を差配していた。
彼が四騎士の中では最も得意で、将軍としての側面を持っていたからだ。雷光バウジットが強さと精神的な支柱であるのに対し、ニンブルは組織的なまとめ役であったと言えるだろう。だが、それだけに兵を惜しむわけにはいかず、だからといって幾ら死なせても良いとは思えず苦悩していた。
そして最悪の想定が起きない事で、ホっと胸を撫でおろしたのである。
「デスナイトがトブの森へ配備されて幸いですね。アレが暴走したらとっくに城は瓦礫ですから。こればかりはパラダイン様に感謝です」
「アノックさま! 大変です! 何者かが突如現れ、エミック様が向かわれました!」
「主犯ですかね? マジックキャスターに不動の援護をさせろ! 動かせる神官もだ!」
以前に戦った事のある、強大なアンデッドは移送されていた。
トブの森にあった試練の塔へ連れて行き、番人であり越えるべき壁にすると言われていたのだ。その時はアレに挑むなどとんでもないと思っていたが……こんなことが起きるならば、自分も訓練として参加して置けば良かったと苦笑するのであった。
そして戦いは各所で勃発する。
「貴様ら! 何故出て来たの! 直ぐに塔へ戻りなさい!」
「無礼な! ここにおわすはクアゴアの統合氏族王、ペ・リユロ陛下であらせられるぞ!」
「元……だけどな。まあ、それは良い。茶飲み話でもするか?」
晴天の塔からメインタワーに向かうエリアでレイナースが脅威と対峙していた。
クアゴア族の王都、有力氏族の長が連れ立って脱出しようとしていたのだ。それを押し留めるべきか……それとも逃げ出すべきかを真剣に悩み始める。だが、今回ばかりは彼女も逃げるわけには行かない理由があったのである。
そして倒された無数の騎士たちの屍を越えて戦い始めるのだが……。
「剣が……弾かれる!?」
「ははっ。クアゴアの相手は初めてか? 勝てんぞ? まあ暇つぶしには丁度良いが」
倒されたのはいずれも塔勤めの監視要員だ。
レイナースとは装備の格も強さもまるで違う。だが、ペ・リユロはクアゴア族始まっての大英雄なのだ。あのデスナイト以上の存在であり、魔法の剣ならある程度はクアゴアにも刃が通るというだけでは勝てる相手では無かった。だが、それでも引くわけには以下なり理由が、女にはあるのである。
そう、今の彼女は恋する乙女でしかなかった。
(ラズロック様はあの塔を頼むとおっしゃっていたわ)
(あの塔を守り切れば私は……うふふふ)
(もし死んだとしても、必ず蘇生すると法国の連中と取引もしてる)
(どちらにせよ、この呪いとはオサラバよ。でも……どうせなら、あの方に抱かれて幸せな朝の中で、呪いが無くなった自分を見たいわね。あの方は……こんな私の顔を見ても、何とも思っておられなかった……)
以前に聖王国へ特使として赴き、ラズロックを探したことがあった。
その折にカストディオに絡まれていたラズロックに声を掛け、色々と便宜を図ったり、逆にどんな能力を身に付ければ良いのかを相談してもらった事があるのだ。そして呪われた顔も調査してもらい、おそらくは法国の見立て通り、呪いはともかくカースドナイトというクラスがある為に、単純には解くことが難しいと言われたのである。
ラズロックは醜い顔を見ても何とも思わなかった。
男に抱かれて魔力を得て、新しいクラスを得るなど信じて居なかったレイナースは、その時点では言い出せなかったが……むしろその時に顔色を変えもせず、取り入ろうとする系も見せなかったラズロックに好感を持った。そして、後にフールーダとの交流で、メインタワーに色々仕掛けを施し、彼も利用する段階で温かい言葉を掛けてもらったのである。
(ラズロック様……私に力を!)
ある意味、それは恋ゆえの盲目。そして何より、打算の産物であった。
同じ盲目であるならば、種族的な視覚障害を持つリユロと彼女。良い勝負だと、くじけそうになる心を支えて戦いに向き合うのであった。
こうしてアーウィンタールでの戦いが各所で始まる。
●
黄金の塔では定期来訪を行っていたラナーが居た。
特に何も企んではいない……そんな姿を見せるために、塔に幽閉された父親のランポッサ三世とお茶会を定期的に行っていたのだ。その折にメイドたちも幾人かのみを引き連れ、留守中に帝国のスパイが報告し易いようにあえて隙を作っていたのである。
この日も、そんな何気ない日常の一幕であるはずだった。
「みなさん。お茶会はここまでにしましょう。避難を、ここは直ぐに戦場になります」
「ラナー様は?」
「わたくしは此処に残ります。そう言う役目ですもの」
「では私も最後までお供します」
そしてクライムと誰憚ることなく見つめ合う。
故国の為でもなく、名目上の夫の為でもない、それでいて真摯な姿。そんな姿に周囲の者たちは鼻白んだ様子を見せる。それが彼女の望みであるとも知らずに。
そこへ最上階を守っていたガゼフが降りて来る。
「ストロノーフ様。出撃なさるのですか?」
「はい。我が陛下より、この国の皇帝を守れ。それこそが故国の為になると命じられました」
ガゼフはランポッサ三世の命と引き換えに降った。
性格にはパナソレイにも同じ条件が与えられ、共に頷いたために追加の条件を許されていた。その折に『ランポッサ三世が命じた時のみ、ジルクニフの指揮下に入る』との条件を勝ち取っていたのだ。もちろんそれはジルクニフの予想内であり、本当に必要な……こんな時は、いつでも力が借りれると知っていたのもあるだろう。もちろん、体がなまらないように、亜人たちへの戦いには定期的に参加していたのだが。
そして、そんな条件があるからこそ……この黄金の塔は攻められることになったのである。
「そいつはいただけねえなあ。ガゼフ、お前の事は嫌いじゃなかった。だが、行かせるわけにゃあいかねえんだ」
「貴方は……」
襲撃者が現れたが、それは意外な男であった。
こんな状況に最も相応しくない男。政争などクソ喰らえと王国を出て行った男であり、本来、こんな戦いには絶対に現れないはずの男であった。だからこそ誰も彼の事は警戒して居なかったし、他の襲撃者であれば容易くガゼフは討ち取って皇宮へと辿り着いてしまったかもしれない。
だが、能力はともかくその装備は折り紙付きだ。
過去のアーウィンタールであれば、たった一人でフールーダ以外は、攻略できたかもしれない。
「アインドラ様……ラキュースはお連れにならなかったのですか?」
「ラキューは知らねえよ。イビルアイには声を掛けたらしいがな。さて、こっちだけフル武装で悪いが、言う事には従ってもらおうか」
現れた男はアズス・アインドラ。朱の雫のリーダーだった男だ。
その男はパワードスーツに身を包み、油断なくガゼフへと目を向けている。ラナーの問いに悠長に答えているのは、ガゼフがレイザーエッジ以外を身に着けていないように見えるからだ。武器を突きつけてないのは、単に内蔵火器があるからに過ぎない。
「問題はありません。戦場とはそのような物……」
「ただ、そうですね。あえて言うならば、この指輪が不要ですか」
「クライム。この指輪を持っていてくれないか? 潜在能力を引き上げる指輪だが、これからの戦いには無い方が良いだろう。貴重なものだが、失う訳にも行かないからな」
そんな中でガゼフは他人事のように指輪を外していた。
どうでも良い筈の事だが、ガゼフの行動だけに目を離せない物があった。もし指輪を別機能の物に変えて戦闘態勢に入るつもりならば、流石にアズスも攻撃したかもしれない。ただ、有用な指輪をワザワザ外して、その内容まで告げてクライムに渡す意味はない筈だ。なにか、ナニカ意味があるのだろうが、判らないままに時間が過ぎていく。
アズスの役目は時間稼ぎだ。ゆえに見逃したとも言えるが、放置せずに攻撃すべきだっただろうか?
「質問をして良いか? 宝物とはいえ剣一本で俺に勝てる気じゃねえだろうな?」
「無理ですな。ただし、剣一本ならば……の話です。失礼ながら、今の私は『全て』の宝物を身に着けておりますので問題はありませぬ」
時間稼ぎと情報収集を兼ねて今度はアズスが質問をした。
それは半ば予想された答えであり、同時に意外な物である。どうして剣以外は装備して居ない筈なのに、ガゼフもまたフル武装だと言えるのだろうか? もしや姿を変えている? そう思って魔法探知を掛けてみるが、それほど強い反応はなかった。先ほどの指輪の方がよほど反応が高かったはずである。
四つの宝物の一つレイザーエッジの他は、他愛ない日常で王を守るための解毒などの装備。変った所と言えば、小さな木の棒がベルトに挟まれて居るくらいなのだが……。
「さて、時間がありません。参りますぞ……武装!」
「っ!? そう言う事かよ、クソったれ!」
ガゼフがベルトを撫でるように指を動かすと木の棒はへし折れた。
だが、その効果は敵面である! いつの間にか現れた鎧やアミュレットが、ガゼフの体にまとわりついたのである! しかも腰に履いたままの剣まで構え直している。その姿を見れば効果は一目瞭然! 『決められた武装に一瞬で変更する』為の消費型アイテムであったのだ!
失われた五つ目の宝物とは、幾つかある消費アイテムの中から、戦いに対して最も有効なアイテムを携行する事。先人から伝わった知識と、様々なアイテムを用意できる王の為の心得であったのだ! 最初から失われてなど居なかったのである!
「ラナー様! お逃げくださいとは申しませぬ。上へ! 真の貴族とは時に最悪の手段を取れる者の事であると陛下が!」
「っ! クライム! お父様と合流しましょう! 人質に取られます」
「……は? はい!」
「ちっ!」
ランポッサ三世は口伝で伝えらた事や、経験での知識を閉ざさなかった。
そしてラナーは即座にその意味を悟り、最悪の場合……時間稼ぎが出来ないとしったアズスが、ラナーたちを人質に取りかねないと判断したのだ。まさかアズスともあろうものがそんな事をしないだろうとクライムは思わないでもなかったが、ラナーの言う事ゆえに即座に従ったのである。
強いて言うならば『念のためにやって置いて』と言われたアズスと、盲信であっても即決したクライムとの差であっただろう。
「アインドラ様! その鎧、察するに白兵戦が苦手と見ました!」
「かーっ! 一目で見抜きやがるか! そりゃ王国最強だもんなあああ!」
アズスは剣しか持たないガゼフに油断しなかった。
それはアダマンタイト冒険者としての経験であり、同時にパワードスーツが苦手としている相手だからだ。高火力と重装甲を両立してはいても、アズス本人の能力は変わっていないのである。軽業師めいた動きを体得したとはいえ、生命力も格闘戦能力も決して高くない。もし装甲をバターの様に切り裂くレイザーエッジに切り裂かれては、ひとたまりもないかもしれないのだ。
それはある種の駆け引きの様な物であった。
アズスは時間稼ぎを頼まれただけであり、死なない程度に相手してくれてればよいと伝えられたに過ぎない。それが故国の王を人質に取るなど、貴族としても男としてもダメダメな行為であったのも問題だった。だからこそ、空を飛んで牽制するという悪手に出てしまったのである。
「ならこういうのはど……う……!? どこだ!」
「ここです!」
アズスが咄嗟に飛びあがった時、ガゼフは空を飛んでいた。
先ほど指輪を外したのは、指定した装備に指輪が二つあったからだ。一つは見ての通り飛行魔法であり、もう一つは魔法耐性を与えてくれる指輪である。魔法効果のある指輪は二つであるがゆえに、予め外して置いたとも言える。今後を考えれば、クライムに期待したのかもしれない。
そして空中戦が始まるのだが、それはガゼフの目論見通りであった。この場で戦っては何時までも動けない。だからこそ、空中戦に移行し、少しずつ皇宮へと追い込んでいったのである。
●
その頃、皇宮でも戦いが始まっていた。
たった一人の襲撃により押しまくられている。それは相手が逸脱者であり、それもマジックキャスターであるがゆえだった。全滅して居ないのは単純に『彼女』が攻撃魔法を得意としていないだけに過ぎない。
もしこの場にガゼフが辿りつけたとしても、彼女には勝てまい。
何しろマジックキャスターでありながらアダマンタイト級の剣技を持ち、そして様々な手管で戦えるからだ。だが、ガゼフならば彼女の戦い方に忠告が出来たかもしれない。
「っ!」
「シールドバッシュが此処まで厄介だとはねえ。だけど、それも時によるさ」
四騎士の一人であるナザミ・エネックは善戦していた。
彼の強さは所詮、ミスリル級でしかない。それでも戦えているのは、防御主体と言う事が時間稼ぎにピッタリだからである。
そして彼女の切り札の一つを、手に持つ二枚の盾が上手く軽減してくれていた。
「そう……こんな風にね」
「っ!? ……人間爆弾」
今まで戦っていた女の体が突如として爆発した。
剣を持って戦うマジックキャスターであるのだが、一定量のダメージを与えると、突如として爆発するのである。それが周囲に混乱を齎していたし、一人を倒したかと思えば、同じ人物がまた現れるのだからたまらない。
こんなことはどうやっても不可能だ。
だからこそ混乱したら、繰り返されることで段々と理解できていた。同じ女に見えたが、実の所違うのだから。
「外見を成形したフレッシュゴーレム……いや高レベルのアンデッドか」
「そうさね。気が付いたところを考えれば、パラダインも似たようなことを考えていたかねぇ? だが、剣技だけはあたしの技を再現できているから気を付けな」
同じような外見に似せているだけで、実は別人だった。
それを可能にしたのは、似たような姿に加工しているからだ。ナザミが気が付けたのは、二つの概念を知っていたからだ。フールーダがアンデッドにマジックアイテムを仕込む方法を考えた事、そしてイジャニーヤの頭目に、ほぼ同じ姿の姉妹がいると知っていたのだ。彼女たちはあえて個性を出しているように見せているが、時と場合によって同じ姿を取る事もあると聞いていたのだ。
目の前の女は、それをさらに発展させている。
つまりフールーダたちの辿り着いた答えを、既に得た上でその先を研究しているのだろう。でなければ、アダマンタイト級の技を持つアンデッドなど作る事は出来まい。
「マジックキャスター達! 援護はするな、怪我人が増える。回復と付与が終わったら下がれ!」
「で、ですが! ……どうするアルシェ、このままでは……」
「黙ってて。気が散る……何処かに本体が居る筈……」
ナザミに命じられて距離を取る城詰のマジックキャスターたち。
その中二フールーダの養子の一人として選ばれたアルシェが居た。彼女はフールーダの研究の幾つかを否応なく聞かされる立場にあったので、相手の手の内に想像が出来ていたのだ。
そして、この場に居る者の中でアルシェだけがソレを実行する事が出来た。
(死体を操って、自分の意識を植え付けているんだ……)
(じゃないとあの腕前のアンデッドなんてあんなに用意できるはずがない)
(パラダイン様も似たようなことを考えていたし、たぶん同じ考えの筈)
(離れた場所で喋るだけならだれでも良いけど、自分の代わりに動かすなら限界がある。だから隠れて接近する『敵』の中に本体が居て、意思を繋げてるはずなんだ。だから、私なら見抜ける……何とかしないと。でないと、見たことも無い男に嫁がされたり……最悪パラダイン様の予備にされちゃう。そんなのは嫌だ!)
フールーダは塔に自分を固定して不死を目指すことにした。
だが、その方法では身動きできないし、研究をするには不十分だった。また、帝国の行く末が気になる事もあって、何らかの方法で関与する方法を探していたのだ。それが才能のある者を養子にして英才教育を施すという事であったり、自分に似た能力者を予備の体として操る研究である。そして、それが女であればラズロックへの貢物になるかもしれないし、自分の体の予備とした時、魔法の才能を伸ばせるのではないかと期待したのである。
それを聞かされているがゆえに、アルシェは何とか抜け出す方法を探していた。この戦いは千載一遇のチャンスだ。功績を挙げれば、ジルクニフに身代わりを禁じてもらえるかもしれないのだから。
「エネック様! 体を入れ替える時に一瞬の差と硬直があります。本体は一つ、隠してある以上入れ替えも一瞬ではすみません!」
「っ! 承知した! ぬおおおお!」
アルシェは時間稼ぎに判る事を告げた。
そしてナザミはポーションを吞む間も惜しく、血だらけの頭から振りかけて治療する。爆発した女の姿が再び現れた時、猛然と盾で殴り倒しつつもう一枚の盾でカバー出来る様に戦ったのである。直にガゼフも駆けつけるだろう。そうなれば一気に逆転できるかもしれないという希望がある事も有利に働いた。
こうして皇宮での戦いは徐々に有利になって行った。
しかし、この事は織り込み済みである。女の目的は時間稼ぎであり、同時に援軍を皇宮に呼び寄せる為であった。だからこそ、予備の体をあやつって戦うなどと言う迂遠な事をしていたのだ。ガゼフはアズスを出し抜くことに成功したが、この女はその上を行ったのである。
だが、一同は改めて想起しなければならない。
この戦いの様相はいまだ明らかに成ってはいない。襲撃者の目的やいかに?
と言う訳でバハルス帝国の首都アーウィンタールで戦いが起きます。
塔を建てるなら帝都で良いじゃんと思った事と、FSSネタがしたかったので。
●聖王国
本当はここでカストディオが「結婚を前提として一騎打ちを申し込む」
とか直感を発揮しようかと思ったのですが、そこまで馬鹿ではないと信じたかったのでやってません。法国のダウナー三人娘と似たようなコースを辿りますしね。
●襲撃者たち
女の口調が違うのは、あえて変えているからです。
アズスは招待晒すつもりはありませんでしたが、ラナーが察したので有様。
ペ・リユロたちは取っ捉まって、クアゴアの生き残りは穴掘り人夫にされている模様。