Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

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混迷の状況を打破せよ!

 トブの森での戦いは想定よりも厳しかった。

一同が予想したよりも、オーガが多く、そしてゴブリンの数はさらに多かったのだ。都合よくオーガが一体でゴブリンが複数などという夢想をしていたわけではないが……。

 

おおよその計画を立て、行動を始めた直後というのが不運であった。

来ても良いが最初から三体であるとか、もう少し数を削ってから来てほしかったというのが正直な気持ちである。

 

「どうしよう……」

 エンリはその時、絶望的な目で状況を確認していた。

師匠であるラズロックは、魔法使いゆえに戦いそのものよりも、状況の確認を優先することを教えていた。そして状況を変化させることこそが魔法使いの役目なのだと。

 

ンフィーレア達が良く口にするマジックキャスターと、魔法使いと言う単語の差など分からない。だが、戦場を良く見ろと言う事だけは痛いほどわかっていたのだ。

 

「どうしよう!? 助けに行く? ダメ、それだけじゃあ……」

 目の前にはオーガが一体と、数体のゴブリン。

倒しながら移動したので、無数と言う程では無くなっているが、所詮は雑魚が減ったに過ぎないのだ。重要なのはこのまま戻ればオーガが三体揃ってしまう事である。こちらの努力と団結は、相手を分断しているからだと判る。これ以上戦力が集中したら、数の暴力で押し流されてしまうだろうとも理解できてしまった。

 

問題なのはエンリは決して強くはない。『良い素質を持っている』止まりなのだ。

 

「どうしよう……。あいつらより早く移動して……どっちかを先に倒す? そうするしか……でも私一人で出来るかな……」

 少しずつ当初の方向に移動しながら、エンリは角度を変えた。

イザとなればみんなの元に戻るコースを選べるように、三角形に誘導していく。だけれど、今行っても何の役にも立たないだろう。ただ移動するだけであり、それではやはり敵の方も集中してしまうだけなのである。そうして取った結論は、オーガをなんとか自分だけで倒す事だ。

 

先に目の前のオーガを倒すか、それとも合流して倒すか?

問題なのは三体揃う事なのだから。二体ならばもう一度やり直せば……そうすれば駆けつけても大丈夫だろうと判断した。

 

「怖いけどやってみるしかないよね。私の我儘でみんなを危険な目に合わせたんだし……師匠も時間を掛ければ一人でやれるって……。でも、どっちを倒したら……」

 自分を追い掛けているのはもう少し引き寄せて無視。

後は全力疾走で漆黒の剣が相手しているオーガか、そこへ移動しているもう一体のどっちかを倒すべきだ。どっちだろう?

 

ずっと見ていたわけではないので分からないが、傷付いているなら最初から戦って居た個体だろう。みんなで攻撃してさっさと倒せばいい。しかし足止めに徹して対して傷付いていないならば、新しい個体の注意を引く意味でも、攻撃しつつまたこっちに戻る事を念頭に入れれば良いはずだ。

 

「やってみる!」

 この時のエンリはそれが正解だと思っていた。

世の中に正解など無いのに。選ぶという事は何かを切り捨てることだ。この決断が何に繋がるのかは分からない。

 

ただ、この時のエンリはそれが正しいと信じていた。

 

 一方、漆黒の剣のメンバーはもう少し冷静だった。

無茶をしても得る物は無いと知って居たし、だからこそ出来るだけ冷静に対処しようとしていた。それもまた正解かどうかは分からない、この世に正しい結論などないのだから。

 

ただ、エンリよりも危険に富み、その決断は揺るぎが少ない。

 

「こいつはヤベエ。魔法が効いてるんだよな? 今のうちに逃げっか?」

 せめてもの救いは、一同が最初から逃げるつもりだったことだ。

だから戦い続けるなんて考えには固執せず、逃走するかどうかを考慮に入れることが出来た。だからこそ、戦士ではないルクルットは遠慮なく逃走を提案したのだが……。

 

「……そうしたいのは山々なのですけどね。空いているのは、森の賢王側ですよ」

「逃げ切れるとしても、あちら側に逃げれば更なる脅威の可能性であるな」

 リーダーであるペテルが首を振り、、彼を助けていたダインが頷いた。

もう一体のオーガとゴブリンの群れをエンリが引っ張って行っているのは、そちらに『森の賢王』と呼ばれる強力なモンスターが居ないからである。縄張りを少し掠めただけで出て来るとは思えないが、確実にオーガ達から逃げ切るだけの距離を走れば、かなり危険なことになるだろう。

 

彼らはあくまで余所者の冒険者であり、理知的で迂闊に攻撃してこぬモンスターと言うだけならばまだ戦う可能性はあった。だが、相手が強大な個体であり森の主と呼ばれる一角であるならばありえまい。

 

「と言う事は?」

「ルクルット。お前はバレアレさんとニニャを連れて先に行け。安全な位置まで下がってから、援護をくれたら我々も逃げ切れる可能性がある」

 仕方がないので先ほどまでの作戦を元に組み替える。

中衛として後衛を守っていたルクルットが二人を連れて下がり、ここならば大丈夫と言う所で援護を……特に状態変化系があれば有効だろう。その意味ではダインも下がった方が良いのだが、生憎と彼はペテルの補助としてゴブリンを倒していた。

 

先ほどと違うのは時間稼ぎであり敵を削る為に戦うのではなく、逃げる為に一瞬の隙を突く為である。だからこそ後衛だからというよりは、雇い主であるンフィーレアを先に逃がそうとしたのである。

 

「という話だ、ずらかるぞ!」

「はい。バレアレさんも急ぎましょう……バレアレさん?」

「ちょ、ちょっと待っててね。どうせ逃げるなら、僕も役に立たないとさ……」

 ルクルットとニニャが脱出を促すが、ンフィーレアは先に鞄を漁った。

あれでもない、これでもないと、所持している薬の内で今は役に立たない物をドンドン捨てる。もし彼が冒険して素材を自分で取りに行く錬金術師であったり、あるいは誰か先輩格に指摘されたら即座に行動できただろう。だが経験不足ゆえに戸惑っていたのだ。

 

だがその様子に、仲間の窮地を重ねる二人が黙って居られるわけがない。

 

「勘弁してくれよ! 時間なんかねーんだ! あんたが留まってる一秒が、あいつらには重要なんだ! わっかんねーかな!」

「貴方の我儘でペテル達を死なせる気ですか!?」

「ちがっ……こ、状況、ぴったりなの、が……」

 言葉に詰まった。過呼吸と酸欠が同時に来たような気がする。

頭を冷やせと冷静な自分が居て、同時にカっと来るけれどそれ以上に今の状況に最適な薬があるのを思い出したのだ。最初からそれを説明できていれば……だけれど言葉が上手く結ばない。彼は鉄火場で働く熟練者ではないのだから。

 

それゆえに、ルクルットは強引に腕をつかんだのである。ンフィーレアが持っていた薬を投げ出すことになっても。

 

「逃げるぞ! これ以上は待てねえ!」

「っ! あった! それ! それを投げて! 煙幕! けむっ、煙を……」

 ルクルットが強引に掴んで移動したことで、手にした数本が落下した。

候補を一通り取り出したこともあり、その中に混ざっていたのだろう。割れて漏れ出した煙を見て、ンフィーレアは叫ぶ。

 

そして思うのだ。これを最初から思い出せていれば、そして提案できていれば……エンリも尊敬とか愛とか言わずとも、ちょっとくらい関心を持ってくれたのではないかと。だが、この有様では逆ではないだろうか? さぞや情けないと……。

 

 ソレを見た時、エンリは真っ青に成った。

なんと漆黒の剣の後衛メンバーは、エンリが決断して移動するのと前後して脱出を始めたのだ。最悪な事に森の賢王の縄張りを避けた為、エンリが引き寄せたオーガ達の方向に寄ってしまっている。

 

そして愚かしい事に途中で立ち止まり、ンフィーレアとルクルットが腕をつかみ合って口論し始めたのである。それもオーガ達の行く手の前で!

 

「何をやってるの! そっちにオーガが……」

 本当に何をやって居るのだろうか?

自分自身の決断と、頭の巡りの悪さに吐き気がする。もしかしなくてもエンリは『自分だけで解決しないとならない』などと思い上がっていた事を自覚した。だから漆黒の剣の後衛が早めに脱出するなどと思いもせず、自分は回り込んで前衛メンバーの元へ走ってしまっている。これでは彼らにオーガを押し付けたような物ではないか。

 

だが、エンリにとって絶望的なショックは、そんな事ではない。

 

「……煙幕! けむ、煙を出せるんだ!」

「ンフィー!?」

 愚かにもンフィーレアはしゃがんで何かを取ろうとしていた。

そこには煙を生じ始めるナニカと、ドタドタと走り込むオーガの姿があった。ルクルットは驚きながらもショートソードを抜こうとし、ニニャは咄嗟に何かの呪文を詠唱しているかのように見える。

 

だが、間に合わない。

剣を抜いてから飛び込んだのではガードが間に合わないし、呪文には詠唱速度があって即座に発動しない。だからその速度を考慮するのも重要だとラズロックから酸っぱい程に注意されていたのだ。

 

(たおさないと……)

(タオサナイト……)

(倒さないと……?)

(……違う。ちがう、チガウ! 攻撃じゃない! 間に合わない。でも、ナニカがあれば……)

 一瞬で思考を埋め尽くす殺意と絶望。

だが、どうやっても間に合わない事は知っていた。走ってもダメ、ジャンプしても駄目。呪文? 師匠みたいに魔法を使えたら……。

 

違う! 魔法使いに重要なのは魔法を使える事じゃない!

それが痛い程繰り返して説明された、師匠であるラズロックの言葉であった。そして盤面をよく見ろ、確認しろ、使えるものは何でも使えと何度も言われていたのだ。なのに間に合わない?

 

(それ!)

(それを投げて!)

(煙幕!)

(けむっ、煙を……)

 フラッシュバックするンフィーレアの言葉。

妙に鮮明によみがえる言葉。おそらくはその言葉を聞いた時、エンリはンフィーレアに二つの感情を抱いたのだ。嫉妬と羨望……彼の方がよっぽど魔法使いではないか。もしンフィーレアが女の子だったら、師匠はエンリを選ばなかったかも?

 

そんな思考が掠め、それを否定しつつ、同時に『可能性』へ手を伸ばしたのだ。

 

「「それを!」」

 ンフィーレアの声とエンリの声が重なる!!

 

 その時、歴史は動かなかったが状況が動いた。

突如としてンフィーレアが落とした瓶が割れたのである。ガラスが割れてもうもうと煙が周囲にまき散らされる!

 

それはエンリが放った拳圧であった。

手を伸ばした先に衝撃波が飛び、瓶を叩き割って中にあった含有物をまき散らしたのだ。元より複雑な工程などなく、仕切りを外して空気に触れれば良いようにしていた事が幸いした。

 

「ゴホ! ゴ、ガガ!?」

「今だ!」

 背の高いオーガが真っ先に巻き込まれ、そこへ声が飛び込む。

小剣を抜いて救援に入ろうとしたルクルットは、剣を投げ捨ててンフィーレアを回収した。強引に腕を引っ張り走り出すと、煙を迂回して逃げ始めたのだ。

 

そして声を限り叫ぶ!

 

「みんな! トンズラこくぞ! この煙だって何時まで持つか判らねえ!」

「了解! 逃げますよダイン! 少々は我慢してください!」

「判ったのである! 命あっての物種であるな!」

 前衛組はゴブリンたちの攻撃に構わずに逃げ出した。

オーガの攻撃にだけ注意して要塞を使い、二人は問答無用で走り出す。狙うは煙の隣、目つぶしを喰らったオーガが棍棒を振り回している脇を駆け抜けて行く。

 

一緒になって走ったンフィーレアは無我夢中で何が起きたか分からない。エンリだって初めての武技で詳細を把握なんてできなかった。二人とも無我夢中で脱出し、ラズロックの屋敷に逃げ込んだのである。

 

 

「……声? 誰だろう。エンリ達の授業かな? こんな夜中に……? でも、眠いや……」

 その日、ンフィーレアはラズロックの屋敷で声を聴いた。

男女が話し合う声、一人はラズロックだと思う。だが、ンフィーレアは疲れて起きることが出来なかった。あるいは単純に、聞きたくないから耳を背けていたのかもしれない。

 

そして体力と気力の戻ってしまった次の日の晩。

ンフィーレアは決定的な言葉を聞いてしまったのだ。決して聞きたくなかった話を。




 と言う訳でエンリは最初の武技に遠距離攻撃を覚えました。
衝撃波が飛び出て遠距離攻撃ですが、もちろん無双できる性能は無いです。
薬はンフィーが作れそうな物の中で、この当時でも作れそうなのを選んでます。

まあ武技とか薬は御都合っぽく流してもOkです。重要なのは最後の数行なので。
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