Before Days -case of DGP-   作:瑠和

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残り4話くらいでしょうか。
劇場版虹ヶ咲。どうなることやら


慟哭Ⅰ:涙の叫び

机の上にフィーバースロット、ニンジャ、マグナム、モンスターレイズバックルが並べられる。

 

「好きなの選べよ。今なら選び放題だよ」

 

「…………やめてよ。そんな気分じゃないから…」

 

いま休憩所にいるのはかすみとミアだけだ。

 

「そういうミア子はいいの?」

 

「僕はこいつが一番使いやすいからね」

 

ミアはゾンビバックルを見せながら言った。

 

少しの間、二人の間に沈黙が流れる。

 

「…………ずいぶん寂しくなったものだね。ここも」

 

「……ちょっと前まで、ここでみんなでお茶会してたのが嘘みたい…」

 

前回のゲームで生き残ったのは、瑠和と行動を共にしていたミア、かすみ、彼方、侑。そして、璃奈と同じ塔にいて唯一生き残ったエマの6人のみだ。侑はいま、別室で重傷を負ったエマの看病をしている。

 

「…瑠和さんも侑さんも…とても声かけられる状態じゃないよ…」

 

 

 

―数日前 ゲーム終了後―

 

 

 

「ついた!」

 

瑠和がコマンドフォームで飛んでいった先あと、少し遅れてミア、侑、かすみ、彼方が到着した。侑のギガントビルダーバックルの力で塔と塔の間に橋を架け、爆発があった地点に走ってきたのだ。

 

「歩夢………無事でいて……っ!!」

 

四人が塔へ降り立つと同時に瓦礫の中から一筋の光が空へ向かって打ち上げられた。

 

「!?」

 

「今のって………何かの合図?」

 

「僕とかすみで行く!二人は瑠和を!」

 

「う、うん!」

 

かすみとミアが光の軌跡が見えた場所に到着すると、そこには傷だらけの姿で横たわるエマがいた。

 

「エマさん!!」

 

「Hey!大丈夫!?しっかり………ひどいケガだけど、まだ息はある…すぐに運ぼう!」

 

ミアがエマの傷を見てすぐに運び出そうとした。しかし、すぐ近くでその声を聞いていたはずのかすみは動こうとしなかった。

 

「なぁおい!かす…………み?」

 

かすみの方を見ると、かすみは一ヶ所を凝視しながら固まっていた。その視線の先をミアも見ると、そこには瓦礫とその隙間から滴り落ちた血液で作られた血だまりがあった。

 

「…………これって…だれの…」

 

「あ…………愛?」

 

ミアが、血だまりの近くにフィーバースロットレイズバックルに気付く。

 

「………………とにかく……エマを運ぼう。このままじゃ…エマが助からなくなる。ゲームはクリア扱いになってる。休憩所に戻っても問題ないはずだ」

 

「………うん…」

 

二人は瀕死のエマを抱え、転移装置を起動させる。

 

一方、彼方は塔を探索している中で、瑠和を発見した。

 

「瑠和く………」

 

彼方は目を見張る。血にまみれた服で、燃えつきた焚火のように空を仰ぎながら座りこむ瑠和の姿に、恐怖すら覚えたのだ。

 

「…………瑠和君?」

 

「………………」

 

瑠和の目の前には血だまりがあった。

 

「それ……誰の…」

 

「…………璃奈」

 

「え……………」

 

「ぁ………………は…………ああああ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

瑠和は頭を押さえて発狂した。これまで見たことがない瑠和の叫び、慟哭に彼方は驚きながらもすぐに瑠和を抱きしめた。

 

「る、瑠和君!!」

 

その姿を、彼方は知っていた。かつて、事故に遭い、夢が潰えた遥と同じ眼をしていた。だからこそ、発狂する瑠和を自然と抱きしめられた。

 

「ああ!!あ!あぁぁぁ!!!はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「落ち着いてっ………!大丈夫!大丈夫だから!!」

 

彼方はしばらく発狂する瑠和を抱きしめていた。しばらくすると、瑠和はまた死んだ魚のような眼をして彼方の胸の中にだらりと倒れこむ。

 

「…………」

 

「帰ろう?もう……」

 

「…………………………………………………………うん……」

 

一方、侑は必死に歩夢を探していた。

 

「歩夢…………歩夢!!」

 

今さっき、侑はしずくが消えたであろう現場を発見し、急いでスパイダーフォンを開いて生き残っているライダーの名簿を確認した。

 

歩夢の名前は残っている。ということはこのどこかに歩夢はいるはずなのだ。侑は必死に探した。

 

「歩夢………」

 

爆発が起きた中腹部、そして塔の隅々まで探したが歩夢はいなかった。しばらく探している間にゲームは終了し、ジャマーエリアが閉じられてしまい、塔も消滅した。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

(…………最後まで歩夢は見つからなかった。ほかのみんなは全員退場しちゃった…………唯一歩夢のことを知っているのは……)

 

侑は、目の前で瀕死の重傷を負っているエマを見る。

 

「……………エマさん……歩夢…生きているよね?」

 

「…………」

 

「侑様、ここからは私が」

 

そこにUが現れた。Uが看病を変わるというが侑は首を縦には振らなかった。

 

「………でも、エマさん…もうすぐ目覚めるかもしれないし……」

 

「昨日から一睡もせずに看病をなさっています。少しお休みになられるべきかと」

 

「でも!」

 

勢いよく振り向くと同時に侑はふらりとバランスを崩し、その場に倒れかかるがそれをUが支えた。

 

「侑様!」

 

「歩夢………」

 

「お気持ちはお察しします。ですが、エマ様が目覚めたとき、いち早く歩夢様を迎えに行くためにも、今はお休みになられてください」

 

「………」

 

その時、スパイダーフォンに連絡が入った。

 

 

 

―ジャマーエリア―

 

 

 

新しく発生したジャマーエリアではポーンジャマトが暴れまわっていた。

 

「こいつら……また!」

 

「来てるの私たちだけ!?」

 

現場にいち早く到着したのはかすみとミアだけだった。

 

「しょうがないだろ。彼方は知らないけど。侑も瑠和もとても今出れる状態じゃない」

 

「………まぁ、そっか」

 

かすみはブーストバックルを取り出し、ベルトにセットした。ミアもゾンビバックルをセットする。

 

「「変身!」」

 

それぞれ変身した二人はポーンジャマトを次々となぎ払っていく。

 

「しかし、今度はどんなゲームなんだ!?」

 

「何もルールは提示されてないけど………」

 

「今回のルールは、人間、ジャマト、あらゆる生物が死ぬたびに養分となり、この世界のどこかに、一凛の花を咲かせる…………それを見つけたライダーの勝ち……だよ」

 

唐突に、足音と共に声が聞こえてきた。かすみとミアは声のした方を見て、目を疑う。

 

「………歩夢……さん?」

 

そこに現れたのは、刺々しいゴスロリのような黒い衣装に身を包んだ、歩夢だった。

 

「歩夢………なんだいその恰好」

 

「どう?かわいいでしょ?私ね、とっても素敵な世界に出会ったんだ………。ジャマトしかいない世界…誰も、蹴落としたり、腹の探り会いも、大きくなったから卒業とか、子供向けとか、そんなもの存在しない、優しさに包まれた世界…」

 

「………はぁ?」

 

「その世界なら、きっと私も大好きを叫べる気がして…だからね」

 

歩夢はジャマトバックルを取り出した。

 

「花を育てるための養分になって?」

 

『ジャマト!』

 

「変身」

 

歩夢の身体は植物の蔓に包まれ、ジャマトライダーに酷似した姿に変身した。

 

「はぁ!!」

 

「!!」

 

歩夢は瞬時にかすみに接近し、首を掴んで地面に叩きつけた。

 

「歩………夢さ…」

 

「さよなら」

 

歩夢は蔓を腕に巻きつけドリル型にし、かすみに突き刺そうとする。

 

「歩夢!!!!」

 

ミアが一気に接近し、ゾンビブレイカーで歩夢の腕を弾いた。

 

そして全身を使った体当たりで歩夢をかすみの上からどかそうとするが歩夢はかすみの首を掴んだまま片手逆立ちで体当たりを回避し、がら空きのミアの背中に蹴りを入れた。

 

「ぐあ!」

 

さらに腕に形成されたドリルの先端をミアに向け、一気に伸ばしてきた。

 

「!!」

 

『リボルブ・オン』

 

ミアの顔面を狙ったドリルはミアがとっさに行ったリボルブ・オンによって避けられた。ミアはそのまま必殺技を発動する。

 

『ゾンビ・ストライク!』

 

ミアの足元から墓石が歩夢に向かって大量に出現し、歩夢のまわりを取り囲む。

 

「………」

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

ミアは墓石ごと歩夢を蹴り飛ばしたが、歩夢は蔓で作った盾でミアのキックを防いでいた。しかし、威力はすさまじいため、歩夢はかすみの上からどかされた。

 

ミアは急いでかすみを起こす。

 

「ゲホッ!ごほっ!」

 

「しっかりしろ!あいつ………本気だ!!」

 

「でも………なんで急に!」

 

そこに休憩中だったが、召集を聞いた侑が駆け付ける。

 

「ミアさん!かすみちゃん!!」

 

「侑!?」

 

「侑さん!?」

 

「よせ!!来るな!」

 

ミアが止めようとしたが、もう遅い。侑の存在に気付いた歩夢が侑の方を見る。侑も歩夢の存在に気付いた。

 

侑はミアたちと明らかに敵対しているライダーを見たとき、目を見張る。黒く、刺々しい姿に変わっていたが、その姿に歩夢の変身していたライダーの面影を見たのだ。

 

「………………………歩夢?」

 

「侑ちゃん♪」

 

歩夢は変身を解いた。

 

「歩夢……………なに……その恰好…」

 

「似合ってる?素敵でしょ?」

 

「侑…………君は下がってろ………何があったか知らないけど………今の歩夢は敵だ」

 

「ごめんね侑ちゃん。私、侑ちゃんだけは傷つけたくないの」

 

歩夢が指を鳴らすと侑の足元から蔓が生え、侑の身体を縛り付け、口もふさぐ。

 

「んんんーーーー!!!」

 

「侑ちゃんはそこで見てて………?私が……デザ神になるところ」

 

「…行くよ子犬ちゃん」

 

「誰が子犬ちゃんですか!」

 

「ジャマトに比べて人間の方が養分としてのエネルギーは多いからね。侑ちゃん以外のライダーはみんな、潰させてもらうね?」

 

かすみとミアが立ち上がり、戦闘態勢に入る。歩夢も再度変身し、構えた。

 

 

 

だが、そこに、

 

 

 

ひとつの足音が近づいてきていた。

 

「…?」

 

妙に重く、暗い感じのある足音に歩夢も音の方向に顔を向ける。

 

開けた道の先から歩いてくるのは、瑠和だった。

 

「………瑠和?」

 

瑠和はミアとかすみの前に立つ歩夢を睨み付ける。その目は、以前のような優しいお兄ちゃんの目ではない。すべての敵を狩り尽くすまで止まらない獣の目だった。

 

「そいつが、今回の敵か」

 

そう呟きビートバックルを取り出す。前回のゲームでエマが使っていたものだ。

 

「変身」

 

『ビート』

 

軽快な音楽と共にビートが装備されるが、そんな音声とは裏腹に瑠和の声と歩き方はとても暗く、重い。

 

ビートアックスを引きずりながら歩夢の方へ歩いていく姿は、まるで落武者かなにかのようだ。

 

「…」

 

歩夢は、急に標的をミアとかすみから瑠和へ変え、襲いかかる。歩夢はその場から助走なしで跳び、瑠和の顔面に蹴りを放った。

 

「…………」

 

刹那、歩夢の蹴りを瑠和は顔を逸らして紙一重で躱した。

 

「…っ!」

 

そして、ビートアックスを握りしめ、蹴りを外して態勢を崩した空中の歩夢を切り裂いた。

 

「ぐっ!」

 

歩夢は落とされ、地面を転がる。

 

瑠和は歩夢に休む間を与えずに追撃に出る。瑠和が振り下ろしたビートアックスを歩夢はすんでのところで転がって避ける。

 

歩夢は急いで態勢を立て直し、腕から蔓を伸ばして反撃する。

 

「……」

 

刹那、瑠和の目の前まで迫っていた蔓はすべて切り落とされた。

 

「え………」

 

さらに、歩夢がそのことに驚いていると、瑠和はすでに歩夢の視界から消えていた。次の瞬間、瑠和の拳が歩夢の腹部に命中した。

 

「…か……っ!」

 

「…っ!」

 

歩夢はすぐに反撃に拳を繰り出したが、瑠和はその拳を受け止め、カウンターパンチを頬に入れる。歩夢は怯みながらも上段蹴りを放つがビートアックスで防がれ、隙だらけの腹部に膝蹴りを食らわされる。

 

「はぁ…はぁ…っ!このぉ!!」

 

蔓で生成した剣を握り、反撃に出るが瑠和は歩夢の繰り出す斬撃をすべて躱し、最後の一撃を紙一重で躱しつつ歩夢の腕を掴む。

 

「ぐ………っ!」

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

『ビート・ストライク』

 

瑠和はエネルギーを溜めたビートアックスを歩夢に食らわせた。歩夢は吹っ飛び、瓦礫の山に突っ込んだ。

 

「ぐ………ぅぅ」

 

「ああ、やっぱり………思った通りだ。よく手に馴染む」

 

瑠和はビートアックスを振りまわしながら言った。瑠和の変身するギャーゴはビートと相性が良かったのだ。そして、いまの瑠和はその力を余すところなく発揮できるコンディションであるのだ。

 

瑠和はとどめを刺そうと歩夢に迫る。

 

「ま………待って瑠和さん……」

 

「………?」

 

歩夢は変身を解除し、その姿を瑠和に見せる。歩夢の姿を見た瑠和は足を止めた。

 

「ごめんなさい…………私……どうしても叶えたい願いがあって………瑠和さん………みんなの願いをサポートしたいって言ってましたよね!私の願い………叶えるの……手伝ってくれませんか?」

 

瞳に涙を浮かべながら、瑠和に手を差し伸べる。

 

「…………」

 

瑠和は黙ったまま

 

 

 

歩夢の腕を切り落とした。

 

 

 

「…………っ!!」

 

正しくは歩夢の身体を狙ってビートアックスを振ったのだが、それに気づいた歩夢が避けた結果腕が切り落とされたのだ。

 

「ジャマトは敵だ。ジャマトは俺が殺す………皆殺す!!!」

 

瑠和はもう容赦がなかった。歩夢は切られた腕を抑えながら険しい顔で瑠和を睨む。だが、瑠和は今度こそ歩夢を仕留めようとにじり寄った。

 

 

ビートアックスを振り上げ、悲鳴にも似た叫びをあげながら、歩夢に向かって振り落とす。

 

しかし、その刃は、間に入った誰かに防がれた。

 

「いったい…………どういうつもりですか!?」

 

間に入ったのは歩夢の腕が切り落とされたことに激昂し、拘束を無理やり外した侑だった。侑はギガントソードで瑠和の一撃を防いでいた。

 

「エマさんに聞いた。果林さんも言った。ジャマトのライダーに気をつけろって。こいつが璃奈を殺した張本人でないにしろ、ジャマトは俺がすべてぶっ潰す!邪魔するならお前も敵だ!!」

 

瑠和はギガントソードを弾き、侑を切り裂いた。

 

「あうっ!」

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

瑠和が侑に標的を切り替えた隙に、歩夢は逃げ出した。しかし、瑠和は歩夢が逃げ出すことさえ気に留めず侑と戦闘を続けていた。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「おらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ミアとかすみはその様子を見ながら動揺する。

 

「ど、どうしよう止めないと!!」

 

「馬鹿言え!いま下手に瑠和を刺激すると今度はこっちが標的になる。戦意喪失におい込めるチャンスをうかがうしか………」

 

「でも!」

 

かすみが心配そうに二人を見るのも無理はない。瑠和と侑はすでに殺し合いといってもおかしくないほど激しくぶつかり合っていた。

 

『ギガント・ブラスター』

 

ギガントブラスターで弾丸をばらまくが、瑠和はビートアックスでそれを防ぎながら接近する。

 

「はぁ!」

 

「ぐぅ!」

 

ギガントブラスターでビートアックスを防ぎつつ、ゼロ距離でブラスターの弾を当て、瑠和をぶっ飛ばした。

 

瑠和はすぐさま立ち上がり、ビートバックルを起動させた。

 

『ビート・ストライク』

 

『ギガント・ストライク』

 

「はぁぁぁぁぁ………」

 

「おぉぉぉ………」

 

「「たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

 

二人の必殺技がぶつかり、爆発が起きる。技が相殺されたと判断した二人は再び接近戦に持っていく。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

再度ギガントソードとビートアックスが激闘しようという時、二人の間に誰かが入った。

 

ビートアックスとギガントソードは間に入った彼方に防がれた。彼方はシノビではなくニンジャバックルで変身し、ニンジャデュアラーで二人の剣を防いでいた。

 

「こ………の………」

 

『ラウンド1・タクティカルスラッシュ』

 

「いい加減にしなさい!!」

 

二人の剣を弾き、回転切りで二人を同時に吹っ飛ばした。

 

「あぐ!」

 

「がぁ!」

 

「なんで仮面ライダー同士で戦ってるの!?」

 

「…………うるせぇぇぇぇぇ!!!」

 

瑠和は立ち上がり、激昂しながら彼方に襲い掛かる。彼方はニンジャデュアラーで瑠和の攻撃を防ぐ。

 

「落ち着きなよ!ここで暴れたって…………璃奈ちゃんは…」

 

「うるせぇぇぇ!俺は………俺が!守るって!俺が…………璃奈を………」

 

瑠和は次第に力をなくしていき、その場に座り込む。

 

「…………」

 

「瑠和君……」

 

瑠和の心情を悟ったのか、侑も落ち着きを取り戻し、変身を解いた。

 

 

 

―ラウンジ―

 

 

 

歩夢がいなくなったからか、ゲームは中断され、5人はラウンジに戻ってきた。

 

「……………」

 

さっきまでの気迫は完全に消え去り、まるで燃えつきた焚火のような瑠和は彼方に寄り添われながらソファに座っていた。

 

そんな二人を見ながらミアは今後について話す。

 

「とりあえず、歩夢をどうするかだ。侑、君はどう思う?あの歩夢」

 

「…さっきはあんなことされちゃったからつい庇っちゃったけど………正直…歩夢らしくないって思う。声もしゃべり方も歩夢そのものだけど………どこか…違和感がある」

 

「エマさんから話が聞ければ、早いんですけどねぇ」

 

エマは一時的に目を覚まし、瑠和に何があったかを説明した後に再び昏睡状態になってしまったらしい。

 

「………とりあえず、ゲームのルールはわかったし当面は僕らで動こう。彼方」

 

「?」

 

「悪いけど、瑠和のこと見ててもらえるかい?また暴れだされたら………」

 

「うん。おまかせあれ~」

 

その日はそれで解散となった。彼方は再び瑠和を家まで送り届け、次のゲームに備えた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

―天王寺家―

 

 

 

都内某所にあるアパートの一室。そこには天王寺の表札がかかっている。そこに彼方は弁当を持ってきていた。ゲームが終わった日、彼方は瑠和を家まで送り届けたが、瑠和は最後までいつも通りの瑠和に戻ることはなかった。

 

そんな瑠和を心配し、彼方はお弁当を持って瑠和の家まで来たのだ。

 

「………瑠和くーん」

 

インターフォンを鳴らすが反応がない。もう一度鳴らすがやはり反応はない。

 

試しにドアノブに手をかけてみると鍵がかかっていないことに気付く。

 

「入るよ………?」

 

ドアを開けると部屋の中は真っ暗だった。寝ているのだろうか?そう思い部屋の中へ歩を進めると奥のほうから「ガタン!」と大きな音がした。

 

「…瑠和君?」

 

なにか、いやな予感がした。

 

その予感を直感的に信じた彼方はあわてて音のした方へ駆け出す。

 

居間へ入り、その隣の部屋の襖を開ける。

 

そこには、天井に設置したネクタイの輪に首を通し、宙吊りになりながら踠く瑠和の姿があった。

 

「…っ!瑠和君!!!!!!!!!」

 

たぶん、今まで出してきた声のなかで一番大きい声で叫び、彼方は瑠和の下半身を掴んで上に上げようとした。

 

「はな………せ……っ!」

 

「落ち着いて!早まらないで!」

 

瑠和が彼方を振りほどこうとさらに強く踠いていると、それが要因となったのか、ネクタイをかけていた金属製のフックが偶然折れた。

 

瑠和が落ちてきた勢いで彼方も倒れ、二人は床に倒れた。

 

「いたた…」

 

「なんで………なんで邪魔したんですか!」

 

「当たり前だよ!こんなこと………璃奈ちゃんも望んでないよ!!」

 

瑠和は急に表情を険しくし、彼方につかみかかった。

 

「あんたに何が分かる!!」

 

「きゃ!」

 

「俺は!!俺は……父さんと母さんが死んだとき!決めたんだ!!!絶対に何があっても!璃奈だけは俺が守るって!!!なのに…なのにぃ!!!!俺は………俺がぁぁぁぁ」

 

瑠和の力は、だんだんと弱くなり、うつむいていく。

 

「なんで俺じゃなかったんだ……なんの願いもない俺が………どうして」

 

瑠和は大粒の涙を流す。いままで、妹想いの優しい兄という面しか見てこなかった彼方にとってかなり新鮮な反応だった。

 

「………」

 

彼方はそっと瑠和を抱きしめた。今の瑠和は夢破れ、人生に何の希望も見出すことのできなかった遥にそっくりだった。

 

「璃奈だけじゃない………。初めて……………璃奈以外に大切だって思える人に出会ったんだ………その人すら……俺は」

 

「しずくちゃんだね……」

 

彼方は、しずくと瑠和の間に流れていた妙に親密な空気から二人の関係に気付いていた。

 

「………生き残ったなら…生き残った側の人間として………果たすべき使命があるんじゃないかな……」

 

「なんですか………それ…………俺にはもう守るべき人も……叶えさせたい願いも………だから…全部壊したくて……」

 

「見つけようよ。あなたの夢。望む世界。時間がかかってもいい。誰にでも幸せになる権利はあるんだから」

 

「…俺の………望む世界……」

 

 

 

―翌朝―

 

 

 

「ん………」

 

瑠和は自然と目を覚ました。記憶がはっきりしない。ぼやけた頭で何があったかを思いだす。

 

「そうか………彼方さんが来てくれて………それから眠っちまったのか」

 

ふと、居間からいい匂いが漂ってきていることに気付く。

 

「…………璃奈っ!」

 

一体何を期待したのか。これまであったことが夢であってくれないかと、叶わぬ願いを口にしながら扉を開けると、そこには彼方が立っていた。

 

「あ、おはよう~」

 

彼方はエプロンをして朝食を作っていた。

 

「彼方………さん」

 

「……………ごめんね?璃奈ちゃんじゃなくて」

 

「…………いえ…………でも、どうして?」

 

「君がまた変な真似するんじゃないか心配でねぇ。昨日はお泊りさせてもらったんだ」

 

「…………それは…どうも」

 

「朝御飯作ったから食べよう?さ、座って座って」

 

瑠和が居間の椅子にすわると、テーブルに朝御飯が置かれる。ごはん、味噌汁、ハムエッグ。一般的だが、なぜかとても暖かさを感じた。物理的にでなく心情的にだ。

 

「たぶん、この間からなにも食べてないんじゃない?ちょっと顔がやつれてるよ」

 

「はい…」

 

端を手に取り、味噌汁を一口飲んでみる。

 

温かい味噌汁が食道を通り、空っぽの胃に染み渡る。その瞬間、瑠和の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「………あれ」

 

「…瑠和君」

 

「…………………また、か…。もう、何度涙を流したんだろうな…。とっくに涙なんて枯れてるはずなのに…………本当に……鬱陶しい…」

 

「それって、生きてるってことなんじゃない?」

 

「?」

 

「悲しいこと、苦しいこと、生きてればいくらでもあるよ。楽しいことがあれば笑って、悲しいことがあれば泣く。当たり前のことだけど、それは生きてる人にしかできないことだよ」

 

「…」

 

「死んだ人の分まで生きる、笑う、泣く。生きてる人にしかできないこと。死んじゃった人の分まで~なんてよく言うけど、私はその通りだと思うな。それに」

 

彼方は正面に座っていたが、席を立ち、瑠和のすぐとなりに座った。

 

「あなたが死んじゃったら、誰が璃奈ちゃんのこと、覚えててくれるの?」

 

そう言って、彼方は瑠和を抱きしめた。

 

「…………彼方さん」

 

瑠和は彼方の腕を掴んで一緒に立ち上がり、そのまま近くのソファーへ押し倒した。

 

「ん…」

 

「……彼方さんっ!」

 

瑠和は彼方を求めた。少し驚いた表情をしていたが、彼方はそれを拒まずに受け入れた。

 

しかし、瑠和はすぐにハッとする。

 

「す、すいません………こんなつもり…」

 

「…んーん?」

 

彼方は瑠和の背中に手を回す。

 

「彼方………さん」

 

「ずっと、お兄ちゃんとして頑張ってきたんだよね。こ甘えたかったんじゃない?」

 

「……………」

 

「もう、いいんだよ。無理しなくて。璃奈ちゃんのことは忘れず、でも、お兄ちゃんのお仕事は、もうお疲れ様でいいんだよ」

 

そういわれた瞬間、瑠和の目の前に璃奈の姿が見えた。

 

「……………」

 

璃奈の幻影か、幽霊か、瑠和の前に現れたソレは、ゆっくりと口を動かした。

 

( あ り が と う )

 

「………………うぁ……」

 

瑠和の瞳から涙がこぼれた。そして歯を食いしばりながらゆっくりと彼方の胸に顔を埋めた。彼方の胸の中で子供のように泣きじゃくった。

 

璃奈を大切に思っていたのは事実だ。

 

だが、瑠和が璃奈を失ったことで一番自分を責めていた理由は「兄である」からだ。

 

「うんうん、辛かったね。お疲れ様」

 

「うあぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

いつの間にか、空の色は夕暮れに変わり、天王寺家の部屋の中には汗ばんだ肌を重ね、ソファーで寝転がる彼方と瑠和がいた。

 

「瑠和君。君の夢を………探しに行こう」

 

「……………ああ…」

 

 

 

続く

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