Before Days -case of DGP- 作:瑠和
「よしっ」
近江彼方はこの日、趣味のお菓子作りをしていた。完成したお菓子を彼方が通う「虹ヶ咲学園」の、彼方の所属している「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の仲間たちへ配るために小包にしていた。
「あ、お姉ちゃんできたの?」
そこへ彼方の妹、近江遥がやってきた。
「うん、みんなに配るんだ~」
「おいしそ~……ん?なんか、数多くない?」
「え?」
彼方が用意した小包は、全部で14個。同好会にいるのは彼方を覗いて12人。
そして、同好会には所属していないが、彼方の彼氏が一人いる。恋人に渡すものがあったとしてもひとつ多いのはおかしかったのだ。
「あれぇ?……まぁいいや!じゃ~遥ちゃんにあげる!」
「え?いいの!?ありがとうお姉ちゃん!」
「なんかいい匂いがする…」
そんなとき、部屋の奥から彼方の彼氏が起きてきた。実は昨日、遥と彼方の母は気を遣って態々家を空け、彼方と彼方の彼氏はお楽しみだったのだ。
「あ、おはようございます!」
「おはよー、瑠和君」
「え?」
「…………え?」
「瑠和って………誰?」
彼方の彼氏は、瑠和なんて名前じゃない。その場にいた全員が硬直する。
「…………あれ?彼方ちゃんなんで間違えちゃった?」
間違えた理由すら、彼方にわからなかった。一度も聞いたことのないような名前を口走った彼方は、困惑しながらも恋人と学校へ向かった。
ー虹ヶ咲学園ー
「…………」
「嵐珠さん?」
廊下を歩いていた桜坂しずくは廊下の窓で黄昏る嵐珠を見つけた。普段見かけない場所にいる嵐珠を見て、エマは声をかけてみる。
「しずく……」
「どうかしたんですか?」
「……………なんだか、大切なことを忘れている気がするのよ」
「大切なこと……?」
「ええ、本当に大事なことなのに………何か…」
しずくは不思議な気分だった。それは、しずくも感じていた感覚だったからだ。高校に入り、スクールアイドルと演劇を行い、時折躓くことがありながらも仲間たちと乗り越えてきた。
そんな充実した毎日だったはずなのに、なにか物足りない。心にぽっかり穴が開いたようなそんな気持ち。
「実は………私も」
嵐珠にそのことを伝えようとしたとき、目の前に白と黒の服を纏った女性が現れた。
「…………え?」
「………おめでとうございます。今日からあなたは仮面ライダーです」
女性は少し浮かない顔をしながら二人に箱を差し出した。
「仮面………」
「ライダー?」
嵐珠は疑問を思いながらもその箱を受け取った。しずくも一緒に受け取り、スライド式の箱を開ける。箱の中には、デザイアドライバーとIDコアが入っていた。
「これは………」
顔を上げると、白と黒の服の女性はすでにいなかった。
「………何だったんですかね…」
「でも、なんだかこれ、見たことがあるような…」
嵐珠がIDコアに手を伸ばそうとしたとき、その手を誰かが掴んで止めた。
「それに触らない方がいい」
「え?」
顔を上げると、見覚えのない青年が嵐珠の前に立っていた。髪はピンク色で、どこか璃奈に似ている髪型と顔つきに、どこか懐かしさも覚えた。
「あなたは…」
次の瞬間、窓から何かが校内に飛び込んできた。
「!?」
振り返ると、そこには金色の大角に、紫色のボディの仮面ライダー。否、ジャマ神バッファが現れた。
「次の仮面ライダーはお前たちか」
「な、なんなんですか!?」
しずくが困惑していると、青年が嵐珠と彼方を庇うように前に出る。
「悪いがここでの騒ぎは勘弁願おうか」
「俺はすべての仮面ライダーをぶっ潰す。そのためにどこであろうが戦う」
「………君たちは逃げろ。こんな箱はおいて」
青年は二人にそう伝え、ジャマ神バッファの前に立つ。しずくと嵐珠は互いに頷き、その場から走り去った。
「………そうか、この世界を作ったのはお前か」
「ああ、そうだ」
青年の名前は、瑠和。ただの瑠和であり、仮面ライダーギャーゴである。瑠和はデザイアドライバーを装着し、二人が置いていったミッションボックスを開く。
「ウォーターと………よし、ビートだ」
瑠和はビートをデザイアドライバーに装着し、変身した。
「さぁ、来い」
「ああ」
瑠和が手をバッファに向けて突き出すと、バッファの真横から強風が吹き、バッファを校舎の外へと追いやった。瑠和もバッファを追って校舎の外へ飛び出す。
「なんだ………今のは!」
「さぁな、風が吹いただけだろ」
「はぁっ!!」
バッファはゾンビブレイカーで瑠和に攻撃を仕掛ける。瑠和はビートアックスでゾンビブレイカーを防ぎつつ、バッファの脇腹に蹴りを入れた。
しかし、バッファにダメージが入る様子はない。
「……?」
「無駄だ!俺に仮面ライダーの攻撃は通じない!」
バッファはビートアックスを弾き、瑠和を蹴り倒した。瑠和は地面を転がったが、すぐに体勢を立て直す。
「なるほどな、なら、これはどうだ」
瑠和は手を掲げる。その瞬間、バッファの近くにあったマンホールが吹き飛び、バッファに命中する。
「なに!?」
「…」
さらに急に吹き始めた風が海沿いの道の柵を外し、外れた柵はバッファの身体に絡み付き、拘束する。
「な、なんだこりゃあ!」
「お前はたしかに仮面ライダーの攻撃を無効にするらしい。だが、仮面ライダーの攻撃で副次的に起きた物理現象までは無効にできないようだな」
「なんだと…」
「この虹ヶ咲学園は俺が作り出した世界だ。ここで俺はあらゆる事象を起こすことができる。さっきのもたまたまマンホールの蓋が飛び、たまたま吹いた風がたまたま柵のネジを緩め、たまたま吹き飛び、たまたまお前の身体に絡み付いただけの話だ」
「…そんなバカな話が…」
「いわば俺の力はデザ神の力だ」
「っ!」
「さぁどうする、俺はお前に勝てないだろうが、お前も俺に勝つことはないぞ」
刹那、瑠和の死角から弾丸が飛んできた。瑠和はそれを見ないで弾いた。
「まったく、ジャマ神になっておいてなんて様?」
瑠和が振り返るとそこには見慣れない女性が立っていた。
「ベロバ!邪魔すんじゃねぇ!」
「こいつは一筋縄じゃ行かないわ。だから、」
『LASER ON』
ベロバと呼ばれた女性は銃型の変身アイテムを使い、巨大なウシ型のライダーに変身した。そしてその巨体で瑠和に向かって拳を振り上げた。
「おっと」
ベロバの拳を瑠和は跳ねて躱し、ビートアックスから火炎を纏った斬撃を繰り出したが、ベロバにはまるで通じていない。
「…………なるほど。ならばこれはどうだ」
瑠和は少し考え、指を鳴らす。しかし、何かが起こることはない。
「………?」
「今度は何を…っ!」
ベロバがそのまま攻撃に転じようとした瞬間、何か大きな音が聞こえた。
「なんの………音?」
音の方を見る。音がするのは空。視線を向けると、巨大な隕石がベロバに向けて振ってきていた。
「な………っ!」
「これなら少しは効くだろう」
「こ………校舎にいる人間も巻き込まれるかもしれないのよ!?」
「安心しろ。隕石はお前に命中するが、その破片、影響はたまたま虹ヶ咲学園の人間には当たらない」
「なるほど……だったら!!!」
ベロバは唐突に校舎に手を伸ばし、近くにいた女子生徒を掴んだ。そしてつかんだ女子生徒を隕石の方へ向ける。
「!?」
「これでも隕石は当たらないのかしら!?」
「貴様!!」
すぐにデザ神の力でどうにかしようとしたが、ここまで状態が進んでしまえば「たまたま」どうにかすることさえ難しい。瑠和はとっさにビートバックルを起動させ、ベロバの前に飛び出した。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
『ビート・ストライク』
瑠和は何も考えず隕石に向かってライダーキックを放った。無理をしたその理由は簡単だ。ベロバにつかまった女子生徒は、近江彼方だったからだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
いくら仮面ライダーといはいえ、隕石をどうにかできる力など持ち合わせているはずもない。しかし、デザ神の力と合わせ、瑠和は何とか隕石を砕き切った。
「……………っ!あいつはっ!」
隕石の粉砕によって生じた粉塵が晴れ、バッファがあたりを見回したが、すでに誰もいなかった。
「逃げたわ。まぁ、少なくとも無事ではないでしょ。あとは適当なところで追い詰めればアンタの勝ち♪」
変身を解いたベロバが、にやにやしながらバッファの肩に寄りかかるが、変身を解いたバッファ、吾妻道長はベロバの手を振り払う。
「お前の手助けなんかなくても、俺は勝てた。あんな卑怯な真似しやがって……」
捨て台詞を吐いて道長は次の標的を求めて歩いて行った。残されたベロバは道長の背中を見ながら妖しく笑った。
「…………べー」
―夢の大橋―
「はぁ………はぁ……」
「だ、大丈夫?」
瑠和は彼方を抱えながら夢の大橋まで歩いてきいた。
「ああ………怖い思いをさせたな」
「………ん?彼方!?」
瑠和が歩いている向かい側からは「たまたま」、彼方の彼氏が歩いてきていた。彼方とボロボロの青年を見つけると、すぐに駆けてきた。
「彼方!大丈夫か!?」
「う、うん…彼方ちゃんは大丈夫………」
瑠和は彼方を彼方の彼氏に預けるとそのまま去ろうとした。
「ね、ねぇアナタ……」
「俺のことは気にするな…………彼氏さんと幸せにな」
「………いったい、何があったんだ?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―テレコムセンター裏―
「はぁ………はぁ……」
夜、瑠和は傷ついた身体を引きずりながらテレコムセンター駅の裏にいた。壁にもたれかかり、IDコアを取り出すと、小さなヒビが入っているのが分かった。
「……………そう………長くはもたないか…」
力なく壁にもたれかかりながら倒れる。すると、そこに、一人の少女が現れた。
「アナタは………」
―虹ヶ咲学園 寮―
「う…………」
瑠和が目を覚ますと、見慣れない天井が広がっていた。
「あラ、目を覚ましたかしら?」
聞きなれた声。声の方を見るとそこには鐘嵐珠がいた。
「嵐珠…………」
「………やっぱりアナタ、嵐珠のこと知ってるのね。教えなさい?あなたは誰?」
「ただいま戻りました~」
「色々買ってきた」
そこになにやら料理道具やなんやらを持った、天王寺璃奈、桜坂しずく、エマ・ヴェルデ、近江彼方が現れた。
「あなた、近くの駅に倒れていたのよ。たまたま近くにいたみんなに連絡とって、あなたのための料理をしようとしていたところ」
「………俺は見ず知らずの人間だぞ!?そんな家に入れるなんて……」
「見ず知らずじゃないわ。アナタ、嵐珠たちを助けてくれたし………彼方の命恩人だって聞いたから…」
「………」
「お、起きたんだね~。いやぁ、あの後探しても見当たらないから心配してたんだよ~」
「…………彼方や、しずくはわかるが、なんで璃奈とエマさんまで………」
「…………やっぱり、彼方ちゃんたちのこと。知ってるんだね」
瑠和の反応を見て、彼方は何かを察したような顔で言った。瑠和は一瞬ハッとしたが、すぐにそっぽを向いた。
「…いや。知らないな」
「あなたはいったい…何者なんですか?」
「………さぁな。君たちを狙ってる悪質ストーカーかもな」
「…………しずくを呼んだのはアタシと一緒にいたから。彼方は助けられたから。エマは料理の手伝いのために。そして璃奈は………あなたに似ていたから」
「………そんなチビ、知らね………うっ!!」
瑠和は唐突に胸を押さえて苦しみだす。
「大丈夫!?」
瑠和はとっさにIDコアを取り出す。見ると、IDコアのヒビ割れが進行していた。
「く………そ………ここまでかよ」
「なんの話!?」
「彼方………璃奈………嵐珠……しずく……エマさん………ほかの同好会のみんなにも伝えてくれ……げんきでやれよ……」
『mission failed』
その言葉と共に、瑠和は消滅してしまった。
「え………」
「そんな………どうして…」
「…………もっと、聞きたいことがあったのに…どうしても、忘れちゃいけないような………気がしてたのに」
彼方がぐっと拳を握った瞬間、声がした。
「そう、忘れちゃダメ」
「!?」
声がした方を見ると、そこには半透明な少女が立っていた。その少女は、どことなく高咲侑に似ていた。
「ゆ……侑ちゃん!?」
「いや………少し違う?」
「私のことはどうでもいいよ。そんなことより。彼のことを思いだして。彼は、あなたたちの幸せを願ったけど………それじゃ彼が幸せになれてないから……」
「それってどういう……」
「ごめんね、時間がないんだ。きっと思い出して……」
その言葉と共に侑に似た少女は消えてしまった。
―瑠和が優勝したDGP直後の時間軸―
「これ以上はダメか………」
先ほど、彼方たちに話しかけてたのはこの時間軸のUだった。創世の女神の力で、未来に干渉していたのだ。そこに、薫子の後任のゲームマスターギロリが現れた。
「いったい何をしている」
「やっぱり見つかっちゃったか………このままじゃ、彼が報われないから、どうにかしたかったんだけど」
そういってUは瑠和のデザイアカードを見せる。瑠和の願い。それは、「今回のデザイアグランプリで消滅したライダーが幸せに暮らせる世界を管理する力」とある。つまり、虹ヶ咲学園も、虹ヶ咲学園でスクールアイドルをやっている人間も、すべて瑠和が作り出した世界だったのだ。
「………1プレイヤーに肩入れすることは、ナビゲーターだとしても許される行為ではない。やはり人間に管理させることは間違いだったか」
「だったらどうする?」
「君には彼らのいない別の世界で記憶を消して生活してもらう。後任ももう、ツムリという我々がデザインした存在に決まっている」
「そっか………。頑張ってね、瑠和君。私にできるのは………これくらいだから!!!!」
次の瞬間、Uは願いを書いたデザイアカードを創世の女神に掲げた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「思いだしてって…………そんな唐突に言われても…」
一方こちらは様々なことが起こりすぎて混乱している彼方たち。だが、嵐珠だけは不思議と落ち着いている。嵐珠は荷物を漁り、小箱を持ってきた。
「……ねぇ………私、日本に来るとき、これを持ってきたの」
「え?」
「ずっと、なにかわかってなかった。潜在的に大事なものだって思いながらずっと持ってた………。でもこれは」
嵐珠は小箱を開けて中身を取り出した。そこには、デザイアグランプリが行われていた時の、13人が写った写真が入っていた。
「これは……………」
その写真を見ると同時に
全員の脳にあふれ出す
激闘の記憶
「…………これって…」
「なんで……」
全員が困惑していると、嵐珠の部屋に次々と同好会のメンバーが飛び込んできた。
「ねぇ!!みんな!!」
人数が集まりすぎたので、同好会のメンバーは全員寮の外に出た。そして、全員で嵐珠が持ってた写真を見る。確かに見慣れない服装と見た目の13人が写っているのだが、どこか、引っ掛かりを感じていた。
「…………これって」
「まだはっきりと思いだせないけど………まだ一人、誰かいた……?」
「いったい……だれ?」
その疑問が共有された瞬間、彼方は自身の家に向かって走り出した。
「彼方さん!?」
「待ってて!!」
―近江家―
「ただいま!!」
「おかえり~お姉ちゃん、彼氏さんがわぁ!!」
彼方は遥の隣を猛スピードで抜け、自身の部屋に飛び込んでいった。部屋の中には彼方の彼氏が訪れていた。
「わ、彼方おかえり……」
「…………ごめんね!急用があって!!」
彼方は急いで自身のスクールバッグをひっくり返す。
「か、彼方?」
「これじゃない………これでもなくて………ええと」
「彼方!!」
彼方の彼氏は少し声を大きくして彼方を振り向かせる。
「…………何?」
「なぁ、今日様子おかしいよ………今だって、今日の変な男のところに行ってるって聞いたし………いったい何がどうなって……」
「………それは」
彼方が視線を落としたとき、彼方が探していたものを見つけた。
「あ………あった!!」
彼方はそれをもってすぐに部屋を出ようとした。しかし、それを彼氏が止める。
「か、彼方!なぁ、俺、彼方と一緒に居られて幸せだ………この間、お家デートして…部屋と……居間でえっちしたときも、すごく幸せだった………彼方は、ちがかったのか?」
彼方の彼氏の不安ももっともだ。急に現れた謎の青年に託され、さらにその見ず知らずの他人のためにわざわざ夜遅くに出かけたのだから。
「…………ごめんね。あなたのことは嫌いじゃないよ。でもね、多分、彼方ちゃんにはもっと大事な人がいたんだ」
「え?」
「アナタより、同好会のメンバーより、遥ちゃんより、大事な人………。今でもあなたは嫌いじゃないよ。でも………ごめんなさい!!」
「彼方!!!」
彼方は彼氏の手を振り払って走り出した。ごめんなさい、と後ろで自分を呼ぶ相手に謝りながら。
―虹ヶ咲学園寮前広場―
「お待たせ!!」
彼方は慌てて戻ってきた。
「彼方さん!!」
「これ………これに………きっと…」
彼方が持ってきたのは普段使っている手帳。その最後のページを開き、カバー裏に入っていた写真を取り出す。
「…………どうして」
写真には、彼方と、誰かが写っていた痕跡があった。しかし、もう一人の顔ははっきりしない。ぼんやりとした「なにか」が写ってるだけだ。
「なんで…………大事な人のはずなのに!!忘れちゃいけないはずなのに!!」
理由はわからないが、彼方の瞳からはぽろぽろと涙があふれてきた。それは何故なのかもわからないまま。
「彼方さん、落ち着いて」
「一緒に思いだしましょ。私も、なんだか思いだしたくてたまらないの」
璃奈と嵐珠は彼方の持ってる写真に手を添えた。
「…………そうだ」
それに続き、しずく、エマ、ミア、果林、栞子、せつ菜、歩夢、侑、愛、かすみが手を添えていく。
「私たちも、なんだか覚えている気がします」
「ね?不器用で」
「ぶっきらぼうで」
「妹思いで」
「おせっかいで」
「優しいんですけど」
「自分のことは見えてなくて」
「人のために走って」
「戦って」
「涙を流せるような………」
全員の記憶に僅かずつだが、ある人物の人相が浮かび上がってくる。
「………………瑠和…………君」
刹那、彼方の持ってた写真が輝き、光がオーロラのようなカーテンのような何かを13人の前に作り出した。
「これは………」
そして、そのオーロラカーテンの奥から足音が聞こえてきたと同時に人影が見えた。全員の視線がそちらに向く。しばらくすると、オーロラカーテンから一人の青年が現れた。
「…………どうして…俺は」
先ほどの青年と同じ顔つきだが、少し若い。そして、虹ヶ咲学園の男子用制服を身にまとった天王寺瑠和が現れた。
「……………る……瑠和君!!」
「お兄ちゃん!!!」
彼方と璃奈が最初に瑠和に飛びついた。瑠和は二人を受け止める。
「どうして…………俺のことなんか………」
「当たり前だよ!どうしてあなたのことを忘れさせたの…」
「だって、この世界は俺のわがままで作り出した世界だ………お前たちのこれまでの人生を……」
「そんなの関係ないわ。だって、あなたは私たちのことを想ってこの世界を作ったんでしょう?」
「みんなの願いを叶えたうえで、幸せに暮らせる世界を………。こんな幸せな世界なら、私たちいつでもウェルカムです」
「……………そうか………そうか………ごめんな………彼方…璃奈。寂しく…させたよな」
「当たり前だよ」
瑠和は二人を抱きしめる。
「愛してる………」
―翌日―
「おはよう瑠和君」
「おはよう彼方。彼方の朝飯が食えるとは、幸せだな」
翌日、瑠和と同好会の全員は昨日のことを忘れ、いつも通りの生活を送っていた。それは、Uが最後に行った行動のおかげだ。
Uは記憶を消され、別世界に飛ばされる前、ナビゲーター特権で叶えさせた最後の願い。それは「同好会にいる全員が瑠和のことを思いだし、そのまま幸せに暮らせる世界」だった。
全員が幸せに暮らせる世界のためには、前の世界の記憶は必要なかったのだ。
「さぁて、璃奈と遥ちゃん起こして、今日はアイラを案内してやらないとな!」
彼方と瑠和は進み続ける。
数多の願いを積み重ね、実現させた世界を。
fin…?