このデスゲームに死人はいない   作:八雲せは

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第10話「陰謀論バトル」

「あの、どいてもらって良いですか?」

 

 攻略組。それはこのゲームの最前線にたち、ゲームを攻略するプレイヤーにつけられた総称である。

 別に何らかの組織に加盟しているとか、そういう難しい条件はない。

 

 だから中には攻略組のメンバーなのか微妙な人もいるが、僕なんかは間違いなく攻略組のメンバーと認識されているだろう。

 そう、だというのに

 

「広場に行けないんですけど」

 

 広場。攻略組が何かの打ち合わせをするときはそこに集まるようになっている。

 建築物の売買を出来ないこのゲームでは、こんな風に公共の施設に集まるしかない。

 なのだが…………。

 

「いや、その。なんだ。今はタイミングが悪いって言うか」

 

 挙動不審な様子で、ブブブブレイブさんが僕の前に立ち通せんぼをする。

 噂では、今日は攻略組のメンバーでメインクエストに関する考察を行う筈だ。

 ならば、僕も参加しないといけない。基本的にソロでメインクエストを攻略しているから、僕の持っている情報は、僕しか知らない可能性が高いだろう。

 だというのに

 

「もう五分以上そう言って止めてきますけど、本当にどいてくれませんか?」

 

 5分。それだけあれば中で何か起きてても解決出来そうな物だが、自体は一向に動かない。

 異常事態。そう言って良いだろう。

 

「すいませんが、強制的に入らせてもらいます」

 

 このゲームでは非戦闘エリアなど存在しない。

 街中というわけで僕もガチ装備という訳じゃないが、最低限の装備はしている。

 それに、プレイヤースキルは制限など出来ない。

 

 僕が動き始める事を予見して、ブブブブレイブさんは腰を低くして、僕が何時動き出しても邪魔する体勢に入った。

 僕にはよく分からないが、スポーツでも現実でやっていたのだろうか? 少しこなれたブロックの動きだ。

 右、左、右とフェイントを入れるが最小限の動きはするが、完全には引っかからない。

 流石攻略組のトップ。票集めのために命がけで人気取りをしているだけの実力はあるな。

 

「ブレイブさん。下に注意ですよ」

 

 そう言いながら、僕が思いっきり地面を蹴った。

 右に行く? 左に行く? それじゃあダメだ。

 僕が選んだのは、右上だった。

 

「ブブブブレイブだ! ――って、させないっ!」

 

 彼はワンテンポ遅れてついてくる。

 ワンテンポ遅れだからといって油断は出来ない。腕を伸ばせば足を捕まれる程度の距離だ。

 だから僕は、右にある民家の壁を蹴り上げ、左上に跳ぶ。

 

「なっ。く――間に合わねぇ!」

 

 腕を必死に伸ばすが、彼では僕に届かない。

 恐るべきは届かないと言っても、拳一個分くらいの距離しかないことだろう。

 ブブブブレイブさんのおそらくこのゲームで一番の瞬発力。攻略組の中で最も初動が早い男。一歩間違えれば捕まっていたのは僕だ。

 

「先に行かせて貰いますね」

 

 でも、そのトップスピードが何時までも続けられるわけがない。だから僕は警戒を緩めて彼から背を向けて広場に走った。

 途中に攻略組のメンバーが見える。僕の顔を見てあちゃーと、手を顔に当てていた。

 奇妙な反応。だが、周りはブブブブレイブさんみたく僕を止める気はないようなので、僕は走るのを止めてゆっくりと、妙に人気がない広場の奥へ向かう。

 

 そして、なぜ人が広場の奥から離れていたのか。どうしてブブブブレイブさんが僕を広場に行かせようとしなかったのか。全ての理由が判明した。

 

「だ、か、ら! 言ってんだるろぅぅぅぅ。 世界は財閥に支配されてるんだよ」

「財閥? くだらない。そんなの存在しない。この世界はエフォート家によって支配されてるんだ」

「はぁ。お前らそろいもそろって頭おかしいんじゃねぇの。 現実がそんなクソゲー設定にされてるわけないだろ。なんでわざわざ日常系人生ゲームでそんな裏設定用意されてると思ってるんだよ」

「君たちは何時になったら目が覚めるんだ。今も僕たちは上位存在による選別が行われているというのに。ああ、なぜ誰も気がつかない。これは終末を生き残る人間を選別するために上位存在により用意された試練だと言うことに……! 愚かな。このままでは生き残れんぞ……!」

 

 そこには、攻略組の問題児。陰謀論フォースがいた。

 陰謀論フォース。攻略組に入るくらい実力があるが、陰謀論者であり、嘘を周りに撒き散らす害悪プレイヤーである。

 可哀想な人たちだ。と僕は思う。

 あんな嘘を信じて、世界の真実である情報氾濫による確定した滅びに気がつかないなんて。

 

「ちっ。また一人哀れな陰謀論者が現れやがった」

「自己紹介ですか。陰謀論タナカさん」

「タナカだタラァァァァナカ! 陰謀論は余計だって何度も言ってルロゥ」

 

 巻き舌の凄いこの陰謀論者のプレイヤーネームはタナカだ。

 彼はこの世界が既に解体されているはずの財閥がまだあって、(解体された財閥が生き残ってるのか、それとも新しい財閥なのかは僕は分からない)この世界を支配していると主張しているスタンダードな陰謀論者だ。

 現実でもネットの世界でたまにこの思想を垂れ流しにしている人がいて、煙たがられている。SNSも数日後にはBANされているし、恐らく大量様々な人間に通報されているのだろう。

 

「何で分からないんだ。財閥がいるのはデータが証明している。どうして接続者が90%もいるのか。この急速な普及具合の理由。全て財閥が世界をコントロールしているからだっていうのに……!」

 

 接続者。様は体にチップを埋め込み、AR眼鏡なしに裸眼でインターネットと接続し、つながれる存在。

 

「チップ技術が生まれてまだ150年も経っていないのに普及率90%。これは財閥の力が働いてないとおかしな数字だというのは、高校生でもだるろぅぅぅ?」

「それは元々のAR眼鏡の普及率が100%だったのと、外国が先んじてチップ技術を受け入れて健康被害がないことが確認できたのと、日本政府がチップを埋め込むことを推奨して、補助金を出しまくったからであって、財閥の力じゃありませんよ」 

 

 財閥なんて怪しい企業の存在はない筈だ。当時のネットの様子とかも調べたことがあるが、どこもかしこもチップ埋め込みの広告やステマが流れていた。AR眼鏡も普及していたらしいし、それらがいらなくなるし政府からお金も貰えるなんてなったら普及も進むだろう。

 

「ナチュアの言うとおりだ。財閥など存在しない。なぜなら、世界を支配しているのはエフォート家だからだ」

 

 僕に乗っかる形でそう主張するのは陰謀論スズキだ。

 彼は世界がエフォート家という、昔から存在する名家によってコントロールされていると主張し、世界の金銭の3割をこの一家が所有していて、誰もが知る大企業にはこの一家の息がかかっているらしい。

 僕はこういった陰謀論には少し詳しいが、このゲームに来て初めて聞いた陰謀論だ。

 陰謀論スズキは若干厨二病っぽいし、恐らくオリジナル陰謀論だろう。

 

「はあ。なんで僕がこんなアタオカ連中と同列に扱われてるんだ。超高度のシュミュレーションゲームだって、事実を主張しているというのに。まさか、倫理コードで思考がロックされてるのか?」

 

 ため息を頻繁につく気だるげな男は陰謀論サトウ。

 僕たちが現実だと思っている世界は実はシュミュレーションゲームの中で、僕達は本当の現実の記憶を消してゲームで遊んでいる最中だと主張しているヤバイ人だ。

 この説自体は有名な物で、なんだったらサトウはこの陰謀論とあの有名な世界五分前仮説を融合させてこの世界が五分前に出来た物と主張している。

 

「いや、日常系人生ゲームでデスゲームが開催されるわけないでしょ」

 

 僕の冷静なツッコミに陰謀論サトウは無視を決め込んだ。

 

「ナチュア君! 目を覚ますんだ。上位存在の試練を乗り越えるには、現実を直視する必要がある。いつまでも現実逃避をしていると、生き残れないぞ」

 

 僕に気を遣っている風な呼びかけをしてくるのは陰謀論タカハシだ。

 この世界は上位存在によって監視されており、このデスゲームは上位存在による次のステップへ行くため人間を選ぶための選定だと主張している、新機軸の陰謀論を展開する男。

 

 この人達四人を纏めて、僕は陰謀論フォースと呼んでいる。

 困った人たちだよ。陰謀論なんて信じてしまって。全て嘘だと言うことは、明らかだ。

 その証拠だってある。

 

「皆さん、そんな話ありえないんですよ。この世界はいつか情報過多による情報氾濫により、ネットワークが自己拡張を行いその影響でローカルも含めて機械関係が暴走を始めます。財閥とか、エフォート家とか、人生ゲームとか、上位存在とか。そんな人たちがいたらそんなの起きないんですよ」

 

 誰が何を言おうと、これだけが真実だ。彼らの話が嘘という証明はこれだけでなせる。

 だが、そこで諦めないのが彼ら陰謀論者だ。

 

「ネットワーク自己拡張ってぬわぁぁに言ってんだ」

「ローカルはネットワークに接続されてないからローカルと言われているんだ。勉強になったな、高校生」

「はあ。訳が分からない。だから陰謀論者って奴は嫌いなんだ」

「ナチュア君! 現実を見るんだ! 未来は僕たちが前を向き続ける限り明るい!」

 

 当たり前の様に、誰も真実を見ようとしない。

 

「……なるほど。認められないのも仕方ないですね。真実というのは、いつも優しいとは限りませんから」

 

「ぬぁぁにいってやがる。こうなったらしゃーねぇ。陰謀論バトルだ!」

 

 陰謀論タナカが、とうとう実力行使に出た。

 陰謀論バトル。HPが残り4割になったら負けのバトルだ。

 少し面倒だという気持ちがある。

 なんせ、彼らがいくら陰謀論者と言っても、攻略組。全員癖のある強さがある。

 

 例えば、言い出しっぺのタナカは【反逆者《リベリオン》】で防御のプロだ

 防御だけで見れば、このゲームで一番と言って良いだろう。

 その防御の強さから攻略組のメイン盾と呼ばれるのは伊達じゃない。

 この前のボス戦だって誰かからメイン盾来た! これで勝つる! と周りから頼られるくらいには凄まじい防御技術を持っている。

 防御力だけなので僕に勝てる要素はないが、逆に彼が勝とうとしなければ僕が彼に勝つことも出来ない。

 

「ふっ。真実のたたき込んであげよう」

 

 このなぜか上から目線の陰謀論スズキは【収集家《トレジャーハンター》】で(トラップ)使いだ。

 この急な場では充分な実力を発揮できないだろうが、もし事前に彼が用意していた場であったら、僕だって負ける可能性が出てくる。

 

「はぁ。なんで戦闘に持って行きたがるのか。だから陰謀論者は嫌いなんだ」

 

 ため息をつく少し暗い陰謀論サトウは 【攻略者《プレイヤー》】だ。

 ただし、取得しているスキルは【愚者《フール》】の物が多い。

 

 というのも、【愚者《フール》】の割引スキルにはデバフ系が豊富だ。そこで彼は序盤で攻略組に入り、ポイントの余裕がない時期に【攻略者《プレイヤー》】であることを証明し、攻略組公認で【愚者《フール》】のスキルを取得している。

【愚者《フール》】ははっきり言って表に姿を現さない。潜伏しているせいで研究もあまり進んでいないため、彼は攻略組にとっては貴重な存在だ。

 当然僕も研究が出来ておらず、純粋なプレイヤースキルでは負けるとは思えないが、スキルの対応にミスれば負ける可能性がある。

 

「いいだろう! 正義は必ず勝つ!」

 

 無駄に暑苦しい陰謀論タカハシは【平和主義者《ピースメイカー》】だ。

 戦闘スタイルは徒手空拳で、はっきり言ってマトモに戦いたくない相手だ。近接戦闘のセンスだけなら僕以上。

 僕のメイン武器が片手剣、もしくは両手剣だからリーチの差を利用して優位に進められるが、懐に入られると間違いなくダメージを食らう。 

 

 全員が陰謀論者なのに、陰謀論が絡まないときは普通に会話が出来て、なおかつ実力者だからと受け入れられているだけの実力を持っている。

 

 だが――

 

「陰謀論バトルスタートだ!」

 

 ――勝つのは僕だ。

 

 

 ◆

 

「つっよ」

「流石陰謀論フィフス最強で攻略組最強の高校生だ。実力が違う」

「タナカも勝ちに行かなきゃ、もうちょと粘れたんだろうがな」

「てか誰だよ。ナチュアくん通した奴。高校生に悪影響だから近づけるなって決まっただろ」

「す、すまん。止められなかった」

「ブレイブお前なぁ」

「ブブブブレイブだ。いや、本気出されたら流石に止められないだろ。見ただろあの力」

 

 最後に立っていたのは、僕だった。

 外野が何か言っているが、今はそれより目の前で負けている陰謀論フォース達が大事だ。

 

「真実はいつも一つ。そして真実が虚偽に負けるはずもない。これで、何が正しく真実なのか分かったはずです」

 

「次は、負けねぇ!」

「ふっ。もしかしたら、君ならばエフォート家に対抗できるかもしれないな」

「はぁ。そもそも、戦いで負けらからって世界の真実は変わらないっていうのに」

「うおおおお! 僕は嬉しい! 君のような子が新時代に残ってくれることが!」

 

 まぁ、勝ったところで考えを変えるような人たちじゃないんだけどね。




主人公のまともな戦闘描写は4話か5話後になります。
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