このデスゲームに死人はいない   作:八雲せは

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第11話「ファットマンとの訓練」

「ナチュア君。ちょっと僕の訓練に付き合ってくれないかい?」

「いいですよ」

 

 今日は【共同体(ペアベンジャー)】のファットマンさんに誘われ、訓練場に来ていた。

 訓練場、別名アルベルトの空き地だ。

 攻略組が初期の時にクリアしたクエストなのだが、選択肢を間違えたのかアルベルトさんの別荘が更地に。それで出来たこの空き地は、いつの間にかプレイヤーが集まってそれぞれが勝手に訓練する空き地になったのだ。

 ごめんよアルベルトさん……。でも、若い頃に薬盛られて一夜の過ちを犯してしまったなんて設定見抜けるわけないじゃないですか……。

 

 訓練場に着いた。そこには既に人がいて、それぞれが思い思いに訓練をしている。

 その中にはちらほら攻略組のメンバーもいて、僕を見て少し動きが鈍っていた。

 

「さて、早速だけど僕と模擬戦してもらって良いかな?」

「模擬戦ですか。別に良いですけど、制限はどうしますか?」

 

 自惚れのような話だが、僕とナチュアさんでは僕の方が強い。それはプレイヤースキル的にも、レベル的にも、ジョブ的にもだ。

共同体(ペアベンジャー)】の割引スキルはどれも相方がいないと真価を発揮できない物ばかり。ソロだと【愛人(ラバー)】未満に実力は落ちてしまう。

 

「自由で良いよ。ただ、圧勝されたら僕が得られる物が少ないし、そこは手加減して貰えると嬉しいな」

「了解です」 

 

 なかなかにやりやすい条件だ。負けない様に、そして負かさない様に戦えば条件を満たせる。

 僕はアイテムストレージから瞬時に片手剣を取り出し、両手で握る。

 

「何度見ても凄いな。真似できる気がしないよ」

 

 ファットマンさんは、僕の片手剣の取り出し技術に感嘆の声を上げる。

 アイテムの取り出し。簡略化すれば脳で取り出すように指定するだけなのだが、これが中々難しい。

 僕は訓練の末、ラグなく瞬時に片手剣を取り出し、手の中に納めることが出来る。

 

「それにその剣。本当に片手剣なのか、知ってるはずの僕ですら疑いたくなるよ」

 

 彼の視界の先にあるのは僕の片手剣。

 いや、片手剣と呼ぶにはあまりも大きい、両手剣の遜色のない大きさの片手剣だ。

 

 

「一応カテゴリーは片手剣ですよ。そうなるようにオーダーメイドしましたし」

 僕の武器は、一つ一つ素材を丁寧に自身で集めた特注品だ。

 このゲームには鍛冶師のプレイヤーはいない。しかしNPCの鍛冶師はいるので、素材さえ渡せば特注品を作ってくれることもあるのだ。

 そこで僕がお願いしたのは、両手剣と間違えるような大きさの片手剣。

 闇に紛れる様にと黒に染まった刀身に、手から滑り落ちないようにと黒豚から剥ぎ取った皮を巻き付けたグリップ。

 僕のセンスが光る素晴らしい一品だろう。

 

「僕もオーダーメイドにしようかな。でも、確かオーダーメイドって素材結構重いんだよね。かぷちーのと別けやすいように素材をすぐに換金しちゃうから位置から集める必要あるし、労力と見合うかな?」

「集めてる間に型落ちになるかもしれませんから、一からというのはオススメ出来ませんね。攻略組に入るつもりがないのなら、無理してオーダーメイドにしなくても大丈夫だと思いますよ?」

 

 攻略組にだってオーダーメイドの物を使用しているのは3割にも満たない。

 売り物>素材交換で手に入る武器>オーダーメイド。

 攻略組での使用武器の割合はこんな感じで、かかる労力はこれの逆だ。攻略組ですらこれなのだから、ファットマンさんたちも売り物の武器を使っていても問題ないだろう。

 むしろ、常に最新の武器が手に入るという意味では一番安定して強くなれそうだ。

 

「じゃあ次からは素材のいくつかは売らないで取っておこうかな」

 

 そう言って、ファットマンさんも武器を取り出す。彼の部機種は王道を行く片手剣だ。

 僕のような変則的な物ではなく、右手に剣を。左手に盾を持つタイプのオードソックスなスタイル。

 

「じゃあ、行きますよ」

 

 武器を構えた瞬間を見計らい、距離を詰める。そして剣を薙いだ。

 

「おっっも」

 

 盾でファットマンさんが攻撃を防ぐが、これは両手剣の様な片手剣。

 両手で全力を込めた攻撃に、片手で持つ盾で防ぎきるのは難しいだろう。

 弾かれた剣を僕は手放し、アイテムストレージにしまう。持ったままでいたら弾かれた方向にどうしても体が行ってしまうからだ。

 軽くなった体を利用し、僕は片足を挙げてそのまま盾を踏むように蹴った。

 

「ほんとその異次元のスピードは怖いよっ!」

「基本技能ですよ」

 

 体勢を崩したファットマンさんを狙うように、僕は両手を構える。空の構え。その手には何も握られていない――はずだった。

 次の瞬間にはその手の中には両手剣と見間違える片手剣が現れており、全力で切り上げる。後の事など考えない。この一撃でHPの大半を削る気持ちで全力だ。

 ファットサンが無理矢理地面を蹴り、後ろに倒れるように跳ぶ。

 躱された僕の剣は空を切ってしまった。両手剣の様に重いこれの大ぶりは、相手に当たらなければ大きな隙になる。

 だから

 

「【攻略者(プレイヤー)】スキル『風車』」

 

 スキルを使用して無理矢理コンボに繋げる。

 剣に引っ張られるように体勢が崩れそうになっていた僕の体が、謎の力により右足を軸にくるりと回転する。

 そして、裏拳の要領で回転切りを仕掛けた。

 

「わざと声にだしてるでしょ」

 

 ファットマンさんはそれをスライディングの様に回避し、そのまま僕の太ももを切り付けた。

 このゲームには部位欠損は死体になるか、特殊なスキルを使用されないと起きない。

 だが、痛みはある。

 太ももにくる痛みに耐えながら、剣を振るってファットマンさんを狙うが、転がるように回避されてしまった。

 

「足を狙ってくるとか、本気ですね」

「今日はナチュア君に本気を引き出すことが目的だからね。あ、いやスキルとかそういうの全解放されると勝負にならないから止めて欲しいけど」

 

 普通のゲームでは安全のためにと何%以上ダメージカットしなければいけないかは法律で決まっている。だが、このゲームではそれが守られていないのか、明らかに他のゲームよりも痛みが鋭い。

 だから攻撃を受けた箇所はどうしても動きが鈍くなったり、次の動作をするのが遅くなる。

 足が狙われれば、動きにくいし攻撃の際に踏み込みも甘くなる。できるだけ攻撃はされたくない部位だ。

 

「スキルの発動だって、もう声に出す必要ないでしょ?」

「そうですが、出した方がファットマンさんもやりやすいでしょうし。無言でスキルを使って欲しかったら、もっと僕の余裕をなくしてください」

 

 スキルの発動はアイテムストレージと同じように念じるだけで発動できる。

 だが、そこそこ難しいため初めのうちは声に出した方が成功率が高い。

 声に出すのは自転車に乗るとき、初めての時は補助輪をつけるような物だ。もう僕は使用する必要はない。

 

「じゃあ、お次どうぞ」

 

 ◆

 

「結局、本気を引き出すことは出来なかった……か」

 

 訓練が終わり、ファットマンさんは地面に座り混み、悔しそうに呟く。

 結局、僕があれから本気を出すことはなかった。

 出す必要がなかった。

 

「ファットマンさんは強いですよ。プレイヤースキル自体は攻略組と同等だと思いますよ。かぷちーのさんと一緒に攻略組に入って欲しいくらいですよ」 

 

 これはお世辞でも何でもない。

 ファットマンさんはリアル大学生のゲーマーだ。数多のゲームをやりこんできたその腕は決して弱くない。

 ジョブの【共同体(ペアベンジャー)】のおかげで、かぷちーのさんと二人で戦えば僕だって、勝つために本気を出さなきゃいけないくらいには、この人は強い。

 

「はは。そう褒められると嬉しいけど、攻略組はね。流石に危なすぎるよ。僕だけならまだしも、かぷちーのを巻き込みたくないからね」

 

 かぷちーのさんはファットマンさんのリアル彼女。だからわざわざ危険な場所に放り込みたくないのだろう。

 

「そうですか。残念です。お二人が攻略組に入って、本気でレベリングをしてくれるなら僕の本気を見せようと思ったんですけどね」

「ナチュア君の本気か。想像がつかないな。あの高速アイテム操作を使っても本気じゃないわけでしょ?」

「あれは基本技能ですからね。そうですよね?」

 

 僕たちの戦闘を見て学ぼうとしていた、空き地にいた攻略組の人たちに問いかける。彼らはいやいやいや、と首を横に振っていた。

 ……基本技能……だよね?

 

「はは。やっぱりナチュア君は数段上だね。まずは、そこからか」

 

 うーん、どうするべきだろうか。

 僕の持つ技術全て教えた方が良いだろうか?

 中にはまだ攻略組にすら見せたことのない、運営に見つかったら修正される可能性があるような技術もいくつかある。

 ナチュアさん達が覚えられるかは分からないし、運営に見つからない様に乱用して欲しくないけど、覚えていたらもしもの時の備えにはなるだろう。

 僕がこの場でナチュアさんに本気を見せないのは、見せたら一方的な戦いになるし、観客に僕の実力を見られるからだ。

 人に見せれば、リスクは増える。だけど、Aとファットマンさん、そしてかぷちーのさんは別だ。この三人になら、僕の本気を見せても良い。

 僕もどうしてか分からないけども、この三人にはたとえ僕が損をする事になったとしても生き残って欲しい。

 この気持ちはきっと――

 

「よし、ここじゃ落ち着かないしご飯食べに行こうか」

 

 人の金で食う飯はうまい。そんな思考に、僕の考えは上書きされて先ほどまで考えていたことを忘れてしまった。 

 

 ◆

 

 場所を移し、とあるお店の個室に僕たちはいた。

 ここなら【収集家(トレジャーハンター)】の『聞き耳』さえ使用されなければ会話の内容は漏れないだろう。

 

「リアルの詮索は厳禁かもしれないけどさ、ナチュア君って高校生だよね」

「そうですね」

 

 あっさりと肯定した僕に、ファットマンさんは少し驚いたように僕を見て、嬉しそうに微笑む。

 

「勉強とか大丈夫?」

「正直苦手です。全体的な点数は、平均を下回ってます」

「へぇ。それはちょっと意外だな。ナチュア君って、勉強とかもさらりと覚えて満点取るタイプだと思ってたよ」

「僕をなんだと思ってるんですか。学校じゃ別に普通……普通ですよ」

「はは。そうか、普通か。うん、そうだね」

「僕の話はいいでしょ。ファットマンさんはどうなんですか。大学生なんでしょ」

「そうだよ。かぷちーのと同じ大学に通っててね。大学の話興味ある?」

「うーん、多分進学はしない……と思うのであまり」

 

 今は高校一年生で、進学とかがずっと先で考えたこともあまりないというのもあるが、進学という物にあまり興味が引かれない。

 学ぶという意味で大学に行くのは良いだろうが、あんまり関係のないことまで学んだり、就職の足掛かりにしようとはどうしても思えないのだ。

 だって、世界は滅びる。荒れた社会に学歴なんて何の意味もないだろう。

 それをファットマンさんに伝えるつもりはない。

反逆者(リベリオン)】のAにも忠告されたし、ファットマンさんとかぷちーのさんに心配もかけたくない。それに、どんな反応をされるのか少し怖い。

 

「進学する気ないんだ。珍しい。いや、けど立派だともうよ。僕なんか、なんとなくで大学生になったからね。働きたくないなーなんて。はは、駄目な大学生だ」

「別にそんなもんじゃないですか。皆」

「そうだね。だから、流されずに自分の意思で進学しないって決められるのは凄いと思うよ」

「そんな、褒められる事じゃ」

 

 そんな風に褒められると照れてしまう。別に、そんな深い考えがあるわけじゃないというのに。

 

「もう。この話止めです。それで、本題はなんですか。わざわざ個室なんて用意して」

「本題って程の話でもないんだけどね。ナチュア君、勉強に不安とかない?」

「勉強ですか? えっと、話が見えてこないのですが」

「遠回しすぎたかな。率直に言うとね、ナチュア君。攻略組の最前線にいるの止めない?」

 

 予想していなかった内容に、更に伸びていた箸が止まる。 

 

「勿論、【攻略者(プレイヤー)】だからストーリー攻略に関わるなって言ってるわけじゃ無いんだ」

 

攻略者(プレイヤー)

 Fate:ゲームをクリアすること

 

 僕のジョブだ。このFateを達成したいと、ゲームが終了しても消去されてしまうらしい。

 ゲームの終了というのは何なのか。時間制限があるのか、さっぱり分からない。

 

「でもさ、ナチュア君の負担が大きすぎると思うんだ。聞いたよ。攻略組の中でも、ストーリー進行の大部分を君が担当してるって」

 

 事実だ。攻略組の中でも大半の人はパーティーを組み堅実に進める中、僕は実力のごり押しで速いスピードでメインストーリーを攻略している。

 その危険性は語るまでもない。ストーリーが進めば進むほど難しくなるというのに、一人で進んでいるんだ。誰かのフォローはない。

 しかもこのゲームには人数による難易度調整なんて物は存在しない。一人で挑んでも、三人で挑んでも敵の強さは同じだ。

 

「かぷちーのと二人で話したんだ。ナチュア君が望むなら、勉強とか教えようって」

「えっと、その、ありがとうございます?」

 

 二人の気持ちは素直に嬉しい。いや、勉強するのは嫌だけど、心配してくれてるのが分かる。

 多分僕が【攻略者(プレイヤー)】ではなかったら、攻略組にすら止めないか提案してきただろう。

 嬉しい。でも、この提案にはのれない。

 

「すみません。でも、僕は少しでも早く外に出たいんです」

「それは皆一緒だよ。でも、急いで死んじゃったら意味が無いよ」

「でも……」

 

 ゆっくりしていたら外で情報氾濫が起こってしまうかもしれない。

 今僕たちの体が現実でどんな扱いになっているかは分からない。

 おそらく、病院にでも搬送されて生命維持装置でもつけられているのだろう。

 そこに情報氾濫が起こったら? 生命維持装置が暴走したら?

 死ぬ。メインストーリーとか、Fateとか何も関係なしに死亡するんだ。

 それは、それだけは避けたい。

 誰も分かっていない。僕たちの現実の首には、死神の鎌がかかっていることに。

 

「ごめんなさい」

「謝らなくていいいよ。こっちこそ、ごめんね。急な話で」

「いえ、謝らないでください。本当に、嬉しかったです。なんといいますか、その。とにかく、嬉しかったです」

 

 うまく言葉が出てこない。感情が先走って、理屈が追いついてこない。

 ただ一つ言えることがあるとしたら、この関係がずっと続けば良い。

 僕はこのとき、心の底からそう願った。

 

 ……これがデスゲームだと忘れているかのように。




今後の展開について整理しましたが、30話以内に完結すると思います(まだ書いてない)

一話当たりの文字数についてのアンケート始めました。
文字数が多いほど当然投稿頻度も落ちます。

一話あたりの文字数について

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