「ナチュアさん。素材採取に行きませんか?」
「いいですよ」
とある日の朝、【
二人きりだ。彼女の彼氏であるファットマンさんは別行動。
素材採取。このゲームでは鍛冶といった要素はないが、NPCに素材を渡して装備を作成して貰う事は可能だ。
今日はそのための素材採取と言ったところだろう。
「ファットマンさんにちゃんと言ったんですか?」
「言いましたよ。ナチュアさんには今度埋め合わせとして一緒に出かけて貰うって言ってました」
「なるほ……ん?」
あれ? 少しおかしくないか。こういう時は普通埋め合わせとして彼女のかぷちーのさんが一緒に出かけるのでは?
「ふふ、私たち二人きりでお出かけなんて初めてですね」
「そうですね。普段はファットマンさんが一緒にいましたからね」
ファットマンさんとかぷちーのさんは彼氏彼女という以上に【
二人が離れるのには少々リスクがある。このゲームには非戦闘エリアなんてないからな。
この前僕とファットマンさんが二人で訓練したときは、かぷちーのさんは【
「聞きましたよ。勉強嫌いなんですか?」
一体何の話だと思ったが、この前ファットマンさんと話した話の続きらしい。
どうやら、二人は僕が危険な場所に身を置いているのが心配らしい。
「嫌い……というより、他にやりたいことがあるのであんまりしようと思えないと言いますか」
「すっごく、その気持ち分かります。私も受験生だったときにゲームが手放せなくて。でも、勉強も頑張っていくと楽しいって思えることもあるんですよ?」
「あの、勘違いされてそうですけど別にゲームをやりたくて勉強を疎かにしているわけじゃありませんよ?」
「え? そうなんですか。ナチュアさんもかなりのゲーマーらしいので、てっきり」
「そうですね。色々なゲームもやってますけど、それ以外の時は筋トレか工作ばっかりやってるので、メインはそっちですしね」
「筋トレですか。もしかして、スポーツマン?」
「いや、あんまりスポーツとかはやらないですね。ただ、何かあったときの為の体力作りってだけですよ」
「ゲームで家に引きこもってるよりは良いと思いますよ。 私もたまにランニングをするんです。そのおかげで健康体でゲームをいっぱい出来ます」
今の話と関係あるが、僕たちの体はなぜか現実の体を再現している。
どんな技術を用いたかは分からない。でも、身長は少なくとも僕が月一で測定している値と一致していた。
体型もそれは変わらず、現実の時と一致している。
となるとだ。
今、僕の隣で布製の服を着ていて、ある程度体型が分かるかぷちーのさんも現実と同じ体型と言うことになる。
「どうかしましたか?」
「え、いや、なんでもないですよ?」
ファットマンさんもそうだが、この二人本当に顔面偏差値高いな。
二人ともゲーマーらしいのに太ってもないし。
「そうだ。現実に戻ったら、オフ会に行きませんか?」
唐突に、かぷちーのさんはそう切り出す。
オフ会。
今までやったことのないものだが、不思議と嫌な気持ちは湧いてこなかった。
「皆でボーリングでもやりましょう。せっかく仲良くなれたのに、ゲームが終わってさよならとか寂しいですよ」
「ボーリングですか。やったことないんですよね」
「ふふ。なら私が教えてあげます。実は私、ファットマンにボーリングのスコアで勝ってるんですよ」
「へー。それは意外ですね」
ファットマンさんとかぷちーのさんは役目がはっきりしている。
ファットマンさんが前衛で彼女の護衛。かぷちーのさんは後衛で魔法を使用し、補助や敵を攻撃する役目だ。
体を動かすのは主にファットマンさんだから、運動系は彼の方が強いと思ったのだが、そうじゃないみたいだ。
「目指せストライクです」
現実に戻ってからか。
僕がここにいるのはデスゲームに強制参加だったから。
ゲームをやっていたのは、近接戦闘の練習のため。
それも全ては来たる日の為だ。
ボーリングに行ったとして、何のためになるというのか。
暴走した警備様ロボット相手にボーリングで対抗するとでも?
だから断ろう。今までの僕ならそうしてきた。
「楽しみですね」
だが、自然と出てきたのはそんな言葉だった。
……?
「どうかしましたか?」
自分から出た言葉が信じられず、呆然と立ち止まってしまった僕の顔を、心配そうに彼女が覗く。
「いえ、認めるしかないなって」
主語のない言葉に、彼女は首を傾げる。
ああ、本当に認めるしかない。
命の危険があるような場所だからこうなったのか。もし現実でも同じ様な死が隣り合う状況になればこうなるのかは分からない。
でも、間違いなく今は言えることがある。
「どうやら僕は、僕が思っていた以上に皆さんの事が好きみたいです」
「なんですかそれ。ふふ」
なんだか少し照れくさい。
それはかぷちーのさんもそうなのか、お互いに無言の時間が続く。
そんな時だ。背後で誰かが地面を踏みしめる音が聞こえた。
複数。敵? いやそれにしては音が平穏だ。
「よぉぉぉぉお! ナチュア」
独特の甲高い巻き舌。姿を見なくても誰かは分かる。
この世界は財閥によって支配されていると信じている、攻略組の陰謀論タナカだ。
「陰謀論タナカさんでしたか。驚かせないでくださいよ」
全く、と変に走った緊張を解き音の方を向く。
そこには、陰謀論フォースがいた。
……は?
「ふっ。アレは青春をしていたな」
「けっ。僕が一番嫌いな言葉だ」
「うおおお! 励め青年! だが敵わぬ恋に打ちひしがれるなよ!」
財閥系陰謀論者タナカ。
謎の一家世界支配系陰謀論者スズキ。
この世はゲーム系陰謀論者サトウ。
上位者存在系陰謀論者タカハシ。
互いに譲れない思想の持ち主であり、犬猿の仲であった4人が勢揃いしていた。
ありえない。
この四人がストーリー攻略とか以外で一緒にいるなんて、今まで見たことがない。
異常事態に思わず一歩下がりそうになると、視界の端に、状況が飲み込めずキョトンと、お友達ですか? と僕を見るかぷちーのさんがいた。
……下がっちゃダメだ。
かぷちーのさんを隠すように一歩前に出て、彼らを睨む。
「何のようですか? 随分と豪華なメンバーですが」
「そんな警戒しないでくれよナァァァチュア。俺達はお前を勧誘しに来たんだ」
「勧誘ですか。少なくとも、貴方たち四人がそろってる時点で碌な勧誘ではなさそうですが」
「俺達は気がついちまったんだよ。世界の真実って奴によぉ!」
世界の真実。この四人がいる時点で碌な物じゃなさそうだと、眉を顰める。
僕が警戒していることや、ハイテンションな巻き舌の様子に何か感じることがあったのか、かぷちーのさんが少し心配そうに僕を見ている。
断るか?
いや、ダメだ。
忘れてはいけないが此奴らは攻略組の前に陰謀論者だ。
腐っても攻略組。実力に関してはこのゲーム内でもトップクラス。
ここで断ったりして逆上し、発狂した彼らが襲いかかってきて僕はかぷちーのさんを守り切れるか?
ちらり、と陰謀論タナカを見る。
「楽しくなってきたぜぇ!」
ハイテンションなこの男は【
僕の見立てじゃ、プレイヤースキルだけで見るなら僕と最強の【
だが、あくまでも防御特化の男。初手で無力化すべきなのは、この男じゃない。
陰謀論スズキ。【
序盤こそこの中で最弱と行っても良いが、戦いが長引くにつれ真価を発揮するタイプだ。
初手でスズキを倒す。その後にデバフ使いの【
そうすれば残るのは防御特化の陰謀論タナカと近接攻撃特化の【
プレイヤースキルプレイヤートップレベルで防御特化の陰謀論タナカと、近接戦闘だけ見れば僕以上の陰謀論タカハシ。
この二人を相手にするのは中々骨が折れる。というよりも、普通にやったら勝てないだろう。
だから、普通には戦わない。
本来なら修正される可能性があるから出来ればメインストーリー関係で使いたかった裏技。
だが、かぷちーのさんの為なら惜しむ理由がない。
「勝手に盛り上がってないで、詳細を教えて貰えませんか。何も聞かずに頷くなんて出来ませんよ」
「タナカは少々高ぶりすぎだ。これからはこの私が説明を引き継ごう。我々は世界の真実に気がついた」
「それはさっき聞きましたよ」
「黙って聞け。高校生。その真実とは、私たちの知る事実は決して競合する物ではないと言うことだ」
「……とうとうイカれましたか」
「現実は上位者によって構築された世界だ。財閥とエフォート家は上位者によって用意された運営だろう。開発と運営が別で用意されているのはソシャゲでもあることだしな。そして、今回の事態は上位者によって次世代に生き残る人間を選別するために用意された試練だ」
あまりにも光景無糖な話に唖然としてしまう。
頭がおかしかったのは元からだったが、悪化している。
あの優しいかぷちーのさんが完全に不審者を見る目になってるぞ。その事実の重さにあんたら気がついた方が良いよ。
「そして、なぜ選別をする必要があるのか。その最後のピースが、君だ。ナチュア」
目をカッと見開き、衝撃の真実風に言うスズキだが、人の真実を嘘で塗り固めないで欲しい。真実なのにうさんくさく見えてしまう。
「君の世界が情報過多による機械の暴走で滅びるという試練。これこそが、僕たちの最後のピース」
「ナチュアさん?」
え? と言う風にかぷちーのさんが僕を見る。僕は目をそらした。
「スッー。何のことか分かりませんね」
「そして、この真実に気がつかせてくれた人こそが、この方だ!」
陰謀論フォース。彼らの影に誰かが隠れていた。
ぴょこっと顔を出して、前に出てきたのは一人の少女。
長い神秘的な銀髪に、透き通るような白い肌。これがデスゲームだと忘れてしまいそうな、真夏にいそうな真っ白なワンピース。
「初めまして。ナチュアくん。お噂はずっと聞いていたので、ずっと会ってみたいと思ってたんです。ふふ、年齢が近いって聞いてましたが、お噂以上にかっこよくて、ちょっと緊張しちゃいますね」
はにかむ彼女の姿は、もしも【
だからこそ、分からない。
「誰だ……?」
「自己紹介が遅れてしまってすみません。アイカ。私は白雪アイカと申します」
白雪アイカ。聞いたことのない名前だ。
最近はしていないが、序盤などは特に情報収集を怠ったことはない。
優れた容姿に、陰謀論フォースを束ねる話術。
この二つを持っていて、僕が知らないなんてありえるのか?
「いや、もしかして貴方が陰謀論フィフスの最後のメンバーですか」
陰謀論フィフス。
陰謀論フォースには、幻の5人目が存在しているらしい。
攻略組のメンバーに聞いても、口を濁され教えてくれなかったが、彼女がその5人目となれば全てが繋がる。
僕の情報網は攻略組にかなり依存していた。その攻略組が教えてくれなかった人など、幻の5人目以外にいない。
だけど、どうして攻略組の人は白雪アイカの存在を教えてくれなかったんだ……?
「いや、それはお前のことだぞ」
「え?」
「え?」
スズキの冷静な指摘に、気まずい時間が流れる。
僕が、コイツらと同等に扱われていた……?
馬鹿な、僕は真実しか語ってなかったって言うのに。
信じられないが、そうなると本当にこの女は何なんだ?
「あ、教祖……?」
ぽつりと、かぷちーのさんが小さな声でそう漏らす。
「何か知ってるんですか?」
「はい。最近勢力を伸ばしている組織だったはずですよ。確か、そこのトップの名前が彼女の名前と同じなはずです。ただ……」
「教祖、と呼ばれるのは少し恥ずかしいですが、少しでも皆様の心の拠り所になれていると嬉しいですね」
教祖。組織。宗教か?
「ただ、組織というのは違います。私たちはただ仲良くしているだけで、組織と言われるほど大それた物ではありませんよ」
嘘だ。
彼女の背後にいる陰謀論フォース。彼らの彼女への眼差しは友情などではない。
言うならば、敬愛。教祖と呼ばれるに相応しい感情を彼女は向けられていた。
「彼らは言葉の綾で勧誘なんて言っちゃいましたが、本当は私が貴方と話すきっかけが欲しくて、仲介を頼んだのです。よかったら、私とお友達になってくれませんか?」
そう言って、彼女は微笑んで僕に手を伸ばす。
まるで天使の様な笑顔で、シミ一つない綺麗な腕を伸ばす。一体その手に何人の手を取ってきたのだろうか。
動作の一つ一つに迷いがない。綺麗な動作。思わず手を握り返してしまいそうになるほどの、疑念を挟めないような、そんな動作だ・
「その手を握る前に一つだけ。貴方のジョブは何ですか」
「私は【
【
Fate:ゲーム終了時にFate達成者が生存者の七割以上であること
「そうですか。ありがとうございます」
友達などになる気はない。が、手を握る程度ならいいだろう。
その後も形だけの会話を求められるかもしれないが、僕が彼女の話術に飲み込まれなければ良い。
そんな気持ちで手を取ろうとしたら、僕の腕をかぷちーのさんが止めた。
「かぷちーのさん?」
彼女は黙って僕に首を振る。ダメだよ、と諭すように。
そして僕に腕を下ろさせると僕の前に立ち、教祖を真っ直ぐに見る。
「お引き取りをお願いします」
教祖は微笑みを崩さない。ただし、後ろの陰謀論フォースの表情が、固まった。
「かぷちーのさんでしたね。私は貴方ともお友達に」
「それは光栄ですが、それなら後日お願いします。大人四人をこんな街外で引き連れてきて、上位者とかよく分からないことを捲し立てて、そんな人たちにナチュアさんを渡すことは出来ません」
「貴方はナチュアくんとどのような関係なのでしょうか」
「友達です。大切なお友達で、仲間で、私たちの守るべき子供です。彼に変な事を吹き込まないでください」
教祖の微笑みは崩れない。
「そうでしたか。失礼致しました。なら、本日はここまでにさせていただきますね」
彼女は僕たちに背を向け、陰謀論フォースを引き連れて、僕たちとは逆方向に歩いて行く。
そんな彼女たちの姿が見えなくなると、かぷちーのさんが緊張の糸が切れたかのように息を吐く。
「はぁ~。怖かった。ナチュアさんも、ああいう危ない人について行っちゃダメですよ」
「すみません。その、僕が目をつけられたせいでかぷちーのさんまで変な事に巻き込んでしまって」
「こういう時は、ありがとう。って言ってくれたら嬉しいです。私はナチュアさんのそう言う顔より、笑顔の方が好きですよ」
そう言う彼女の笑顔は、教祖なんて言われていた彼女よりもよっぽど優しく、そして綺麗に見えた。
心が温かくなるのを感じる。教祖にあってから、いつの間にか冷えていた心が解けていく。
「ありがとうございます」
「はい。じゃあ、行きましょうか」
当初の目的通りに、僕たちは歩いて行く。
それにしても【
【
少し、警戒が必要だな。
評価及び感想お待ちしております。
一話あたりの文字数について
-
3000字
-
5000字