「想定より強いですね」
「だな。うちの街にいる憲兵団くらい強え」
【
僕たちを観察していた人たちだ。
「憲兵団ですか。ちゃんと戦ったことなかったんですが、強いんですか?」
「ああ。コイツらと同じくらいにはな」
その強さはプレイヤートップ層に一つ劣るくらいに力量だ。
正確に分析するなら、レベルとかのステータスはそこまで高くない。問題なのは知能だ。
NPCが本物の人間のようだと評した僕だが、それは戦闘面にも発揮されているらしい。
そこら辺にいるモンスターと戦っている気がしない。
モンスターがステータス任せの決まった動作をする、攻略の糸口が用意されているとしたら、こっちはステータス任せにせず、臨機応変に自身の対応を変更し頭を使って戦う、まさしく"人"だろう。
戦って勝った喜びはあるが、それと同じくらい後味が悪くなる。
これも全てAが前に放った言葉のせいだ。
『国ってことはそこに住む国民がいるってことだろ?』
そうなると、今倒したこの人達にも家族がいるのだろう。いや、そう言う設定がシステムより与えられていると言うだけで実際はいないのかもしれない。
だが、彼らの戦っている理由は、そういう愛とか絆とか、そういうものだった。そう戦って感じた。
「トドメは刺さなくて良いな?」
今転がっている敵は気絶しているだけで、まだ死んではいない。
殺すメリットとして、これから復活されて襲いかかられる心配がなくなる。
そして、経験値が手に入る。
彼らがどんな判定をされているのかは知らないが、【
NPCの経験値がどれだけかは分からないが、無い。と言うことはないだろうし、殺し得という考えもある。
「ええ。僕はそれでいいですよ。お二人もそれでいいですね」
「まぁ。戦ったのは二人で、僕たちは何もしてなかったから構いませんが。それでいいよね?」
「はい。流石のコンビネーションです」
【
二人は至近距離で見てなかったから、彼らに思うところなど何もないのだろう。
だが、それでいい。
敵はNPCだ。そこに感情移入して手が鈍って死んだなんてなったら目も当てられない。
僕は既に襲いかかってきた【
人だろうがNPCだろうと関係ない。敵対したら殺す。そんな覚悟があるのは僕たちだけで充分だ。
◆
工場地帯? 工業地帯? よく分からない施設を歩くこと数十分。
城へ徐々に近づけてはいるが、未知が分からないのと建物が高いせいで屋根に登っても道が分からないという事もあり、僕らは未だに歩き続けている。
途中で何人かプレイヤーに会ったが、彼らは僕たちのように堂々と歩いてる訳ではなく、隠れながら移動しているらしい。
彼らはステルスアクションをやっていて、僕らは無双ゲーをやっている感覚だ。
「やっぱここに配置されたプレイヤーって平均レベル高いですよね」
「運営もある程度調整してるんだろうな」
あんな風に告知しておいて低レベル層をこんな場所に放り込むとは思えないし、恐らくレベルによってエリアでも決めているのだろう。
「そろそろ私たちも隠れますか? 段ボールなら探せばありそうですが」
「VRゲームで段ボールに隠れるのはバレルのでは?」
「そうですか……。いえ、ですがでもバレない可能性も」
かぷちーのさんが途中で変な事を言い出したが、却下だ。
明らかに知能を持ったNPC相手に段ボールで誤魔化せるとは思えない。
「だって見てくださいよ、あれ」
そう言って僕が指さしたのは僕たちの行く道の先にある段ボールだ。
地面から少し浮いており、小さくゆらゆらしながら前に進んでいる。
後ろに穴とかが空いてないから、僕たちが後ろから見ていることに気がついていないのだろう。
「バレバレじゃないですか」
「そうですね。止めましょう」
恐らくソロプレイヤーがやっているのだろう。敵は当たり前の様に数の暴力を使ってくるし、ああやって隠れてやり過ごそうとするのはおかしな事じゃない。
隠れ方は問題おおありだが。
「一応声かけますか」
このイベントは別にランキング制というわけでもないし、プレイヤー同士は敵ではない。
だから声をかけず、あんな雑な隠密を指摘しないのは気が引けた。
「あー、そこの段ボールの人。バレバレなので止めた方が良いですよ」
近づいて後ろから声をかけた瞬間、段ボールが飛び跳ね、中から人が飛び出し、僕たちに襲いかかってきた。
「は?」
「あ?」
僕とAは威嚇代わりの殺気を出す。敵の攻撃はAが金槌で弾くように防いでくれた。
「どういうつもりだ、おい。プレイヤー同士戦うメリットなんてねぇだろ。落ち着けよ」
「プレイヤー? お前らはヤーミ王国兵ではない……っぽいな」
怪訝な目で僕たちを見るのは水色の髪をした美少女だ。短剣よりも短い、ナイフに似た武器を構え僕たちの体を観察している。
……あ。敵が全員つけていた、ヤーミ王国のシンボルの様な悪魔のマークでも探してるのか。
「違いますよ。貴方こそ違うんですか?」
「私をあんな奴らと一緒にすんじゃねぇ!」
不満げに、こちらへの警戒を解かずにそう言い放つ彼女の体勢には、分かりやすい隙が見当たらない。
強いな。瞬発性は【
そして何より、彼女が身に着けている装備。その全てに見覚えがない。
赤のチャイナ服。一般販売されているものではない、オーダーメイド品。
武器のナイフだってそうだ。エメラルドのような緑色の鉱石が柄に埋め込まれているナイフなんて、見たことがない。
「……いや、本当に誰ですかあなた」
攻略組なら僕は顔を全員把握している。
把握できていない実力者が0とは言わないが、こんな奇抜な格好をしている人間が僕の調査網から外れるか? 噂くらい耳に入るだろう。
あり得るとしたら【
彼女の正体について探っていると、ファットマンさんが何かに気が付いたのか、あ。と小さく漏らした。
「もしかしてプレイヤーじゃない?」
「プレイヤー?」
チャイナ服の彼女はどういう意味なのか分からないと言いたげに、僕たちを睨む。
「俺たちはプレイヤーだ。あんたはプレイヤーじゃないってことでいいんだな? あんたはNPCでこのゲームにログインしているわけじゃないんだな?」
「さっきからお前らは何を……」
プレイヤーかNPCかを見分ける方法はいくつかある。
まず【
二つ目が、メタ発言だ。NPCはおそらく知能が高すぎるが故に、思考に規制がかかっている。
だからこの世界がゲームだとか、自分がNPCとかそういったことが理解ができない。
問題は理解できないふりをプレイヤーはできるということだが、そこは受け入れるしかないだろう。
それにNPCを語るメリットが思いつかないしな。
つまり僕たちの言葉を理解できていない時点で、彼女はNPCの可能性が高いだろう。
「君は一体誰なんだ?」
「私は天ノヶ原王国から来た地竜萌香だ! お前らはヤーミ帝国の兵じゃないってことでいいんだな!」
天ノヶ原王国。初めて聞く名前だ。A達と目線を交わすが、全員知らないと目線で語っている。
「僕たちは今この街を襲っている者の一員ですよ。それで、はっきりさせたいのですが、貴方は僕たちの敵ですか?」
「敵じゃないぜ。私もちょうどこの国に用があってな」
「用があるのに敵じゃない?」
「……まぁ、いいか。敵討ちだよ。この国にいる悪魔崇拝の研究者。アベルをぶっ殺す為に私は来た。あんたらも、もしアベルを見かけたら私を呼んでくれ」
「あー、はい。よっとタイムで」
事情は分かった。彼女は敵ではない。
だが、敵味方以外にまた一つ話し合わないといけない事項が出てきた。
僕たちは彼女から少し距離を取り、コソコソと話を始めた。
「どう思いますか」
「NPCだろ。どこの世界にチャイナ服で戦う奴がいるんだよ。俺達現実の顔なんだぞ」
「素敵な格好だとは思うけど、このデスゲームでわざわざオーダーメイドでアレを作るとは思えないな」
「ファットマンはああいう格好が好きなの?」
「え? あ、いや、違うんだ。好きだけど、好きだけど」
「……お金貯まったら、ああいう格好してあげようか?」
「そこのカップル。高校生の前でいちゃつくな」
かぷちーのさんのチャイナ服。おとなしめの彼女がチャイナ服。……見たい。
「こほん。話を戻します。彼女がNPCだとして、あれはサブクエストだと思うのですが、受けますか?」
このゲームのクエストには二種類がある。
システムで認定されたクエストと、システム外クエストだ。
システムで認定されたクエストは、視界に映るゲームUIのクエストアイコンから確認できる、一般的なクエストだ。
だが、システム外クエストはそういったシステムからどんなクエストを受けていたとかを確認することが出来ない。
NPCからの個人的な依頼とかに多いタイプだ。だから重要なクエストではない……って訳でもなく、中にはそのクエストを進めて好感度を稼ぐことによって解放されるシステムで認定されたクエストもある。
そう考えると、このクエストのそう言って類いの物かもしれない。
手伝ってくれ、なんて一言も言われていないが、あんな気になる単語を出されてクエストでも何でも無いフレーバーテキストですよ、っていうのは無理があるだろう。
「手伝おうぜ。闇雲に動くより、目標があった方がやりやすい」
「僕も異論ないな。敵討ちを手伝うなんて、ゲームの王道じゃないか」
「私もクエストはなるべく受けたいです」
「分かりました。じゃあ受けましょうか」
満場一致で僕たちは、彼女の敵討ちに同行することに決めた。
ナチュアによる戦力評価
【
一話あたりの文字数について
-
3000字
-
5000字