このデスゲームに死人はいない   作:八雲せは

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第15話「ダブル」

「それで、敵の詳細って分かってるんですか?」

「当然よ。アベルは城の地下にある実験室に籠もってるわ。アイツは召喚術使うから、本人がヒョロイからって油断するんじゃないわよ」

「召喚術ですか」

 

 ――それは初耳のシステムですね。

 そう言いかけた口を閉じ、無言でAと視線で会話を行う。

 

 'これ、想像以上に敵強い可能性ありませんか?'

 'やるっきゃねぇだろ'

 

 召喚術。他のゲームでは珍しくない要素だが、このゲームでそんな能力は聞いたことがない。

 所見の能力と戦うのは少し不安だ。このメンバーなら負けることはないと思うが、本気を出さないといけなくなる可能性がある。

 

「召喚術ってどんな能力なんですか?」

「そうね。魔物を使役する能力って考えて良いわよ。しかもただ使役するだけじゃなくて強化したりもするから、野生で見た事がある魔物よりも強いから注意が必要ね」

「なるほど。初めて聞く能力なのですが、これって禁術だったりしますか?」

「そんなことないけど、やっぱり評判は良くないからじゃないかしら。素人には野生の魔物と見分けとかつかないし。そのせいでこっちじゃ使う人がいないとかじゃないの」

「なるほど」

 

 うーん。微妙だ。このイベントを進めることで召喚術が使えるようになるのかと思ったが、この言い方だと使えなさそうか?

 そんな事を話していると城まで辿り着いてしまった。

 城の裏出口から離れた、何の変哲のない壁。ネズミ一匹も入れない壁の前に僕たちは立つ。

 

「A。お願いします」

「任せろ」

 

反逆者(リベリオン)】スキル『城壁崩し』

 Aが金槌を振りかぶる。小さな金槌だ。

 だがスキルによって増幅された力は、とてつもない破壊力を生み出す。

 石造りの城壁が、スキル名通り崩れた。

 

「よし。行くか」

「正面から言っても敵がいるからこうやって壁を破壊した方が楽なのは分かるけど、防衛側から見るとクソゲーだね」

「でも、ちょっとワクワクしちゃいますね。壁を崩してもいいとなると色々と可能性が広がりますから」

 

 ファットマンさんとかぷちーのさんは少し興奮した様子を見せる。

 そういえばこのスキル『城壁崩し』なんて名前なのに城のフィールドなんてなかったから、初めて真価発揮できたのか。

 

「右から来てます。早足。僕が対応します」

 

 穴を開けた先は廊下だ。広い廊下に、音がよく鳴り響いたのだろう。兵士らしき人影が走ってこちらに向かってきている。

 鬼ごっこをしてもいいが、挟まれたりしたら最悪だ。先に対処しておこう。

 

「賊め! 覚悟!」

「どうも、賊です」

 

 兵士の装備は槍だった。複数人が廊下を塞ぐように横に並んで槍を突き出し、僕の串刺しを作ろうしてくる。

 だから僕は両手剣に見える片手剣をアイテムストレージにしまい込み、壁を蹴って高く跳び、彼らの背後に回る。

 

「大人しくしていてくださいね」

 

 そしてしまった武器を改めて取り出し、背中を思いっきりぶった切る。彼らの装備しているプレートのおかげで、彼らは死にはしない。

 だが両手剣に間違えられるような大質量による衝撃は伊達ではなく、彼らはそのまま壁に吹き飛ばされる。

 

 流石兵士と言ったところだろう。レベルも高いのだろう。まだ全然動けそうだ。

 スキルの使用には魔力――いまゆるMPを消費する。だからあんまりスキルは使用したくないので、僕はアイテムストレージから針を取り出す。

 

「痺れてください」

 

 針の名はキラービー。

 攻撃力は小さいが、相手の肌に触れたら絶対に1ダメージを与えられる能力と、麻痺毒を流し込む力を持つオーダーメイドの武器。

 その危険性から表の鍛冶師は扱っておらず、【殺人者(キラー)】の極一部しか入手できない代物だ。

 僕は【殺人者(キラー)】をカツアゲして手に入れた。

 

「よし」

 

「キラービーか。物騒な物持ってんな」

「こっちじゃこれって普通に出回ってるわけ? 私の国じゃ暗殺者が持つ禁制品なんだけど」

 

 Aと同行者NPCのチャイナ服、地竜萌香がマジかコイツみたいな目で見てくる。

 いや、だって便利だし。どんな道具だって人次第。つまり僕が使っている限りこれは正義の武器だ。

 

「この武器ってそんな珍しいのですか? 私たちには普通の針に見えるのですが」

 

 ファットマンさんとかぷちーのさんはこれが何か知らないようで、不思議そうな表情で引いてる二人を見ている。

 そんな二人にどんな武器なのか言うのは憚られたのか、彼らは口を濁していた。

 

「じゃあ、先に行きましょうか」

 

 ◆

 

 城の地下。そこへ向かう道中は想像以上に敵は少なかった。

 

「はっ。どうせ秘密の実験でもしてたから兵士の連中も地下の研究室を知らないんだろうな。いい気味だ」

 

 男勝りに笑うチャイナ服の女はそう言っているが、僕にはそれが侵入者がいても自身で対処できる自信があるからだと捉えられて仕方が無い。

 このゲームの世界観は完全は結構近代的だ。例えば壁には明らかに科学的な証明が取り付けられていて、地下にも関わらず明るいままだ。

 

 地下だからか、ほのかに涼しい道を進んで行くと研究室に辿り着いた。

 流石研究室。世界観無視の科学的なカードキー形式の鍵で開かないようになっている。

 コンコンと壁を叩いてみた。感触が随分と重たい。

 

「これどうしましょうか」

「あー。私だけなら私が破壊しても良いんだが、魔力を結構消費するんだよな。A? で合ってるよな? アンタがさっき使った技でこれ破壊出来ない?」

 

 無理だろう。と僕は予想した。

 これはさっき崩した壁とは全くの別物だ。あれでは威力が足りない。

 何度も打ち込めばいけるか……? と思ったが、こういうのは一気に威力のある物を打ち込まないと破壊できない気がする。

 

「いけるぜ」

 

 いけるのか。本当に?

 疑うようにAを見るが、当の本人は飄々と金槌を軽く投げては受け止めてと、遊びながら準備をしている。

 

 そして笑うと金槌を大きく振りかぶった。

 

「『城壁崩し』」

 

 腕が何重にもブレて見えた。

 壁と衝突した金槌は踏ん張らないと後ろに下がってしまいそうになるほどの衝撃波を撒き散らし、爆発音にも似た轟音が廊下に響いた。

 壁が粉々に割れ、粉塵が舞う。

 

「おおお! A! こんな凄い威力をいつの間に放てるようになったんだ! さっきのは手加減でもしてたのか?」

「おうよ。俺の力があんな低度なわけ無いだろ」

 

 ファットマンさんがAを褒め称え、本人は嬉しそうに答える。

 そんな光景を僕は冷静に見て、分析し、結論を出していた。

 

 ダブル。いや、トリプル? 

 

「どうかしましたか?」

「いえ、凄いなと」

「そうですよね。私は魔法が好きなので魔法を鍛えていますが、物理でもあんなことが出来るなら、少し憧れてしまいます」

 

 違う。あれは普通に鍛えて出来る技じゃない。

 あれは僕がダブルと呼んでいる、バグ技だ。

 

 動くときに二つの動きを同時に行う、現実じゃ不可能な裏技。

 現実では体は一つ。二つ同時に動くなんて不可能。

 それはこのゲームでも同じだが、これは現実ではない。優先度が同一の動きの場合、このゲームは異常を発し二つの動作を同時に行う。

 

 それを今Aはやった。二つでも高難易度だというのに、今あの人は何重に技を重ねた……?

 流石Aだ。 

 

 ◆

 

 

 

「ふはははは! よく来た来訪者よ。その血肉、我が供物となるがよい!」

 

 研究所の先。広い空間の儀式場。そこで行われたチャイナ服の地竜萌香と、悪魔崇拝の研究者、アベル。

 この二人の会話はこれで終了した。

 なんでもこの研究者は地竜萌香の故郷を悪魔召喚の実験場にしたらしい。その唯一の生き残りが彼女だ。

 一応、概略だけ覚えておこう。

 

「でけぇなおい!」

 

 アベルは最後の言葉と共に、巨大化した。地下室が広いから天井に頭が突き刺さるという愚行は犯していない。

 奴の姿は山羊の頭をした黒の二足歩行な巨大な悪魔。その手にはその巨大な体躯に見合ったサイズの斧が握られている。まさに質量の暴力だ。

 

「攻略組じゃどうやってこういう奴らと戦ってんだ!?」

 

 斧による攻撃を各自必死に避けながらAが問うてくる。 

 ファットマンさんとかぷちーのさんは攻撃が届かない距離に退避して貰っているため、今射程範囲にいるのは僕とA、そして地竜萌香だけだ。

 

「タナカさんがヘイト稼いで他の人が攻撃! 以上です!」

「クソ使えねぇ!」

  

 ああ、本当にこの状況に当てはめられない!

 この中で盾を持ってるのはファットマンさんだけ。けど、片手で使う盾だ。あの巨大な斧による攻撃を正面から受け止められるとは思えないし、受け流せる技量はこのゲームじゃ陰謀論タナカしか持っていない。

 

「ファットマンさん! 絶対に防げるって自身はありますか!?」

「ない!」

「了解です! そこでかぷちーのさんの護衛お願いします!」

「おいナチュア! 右だ!」

 

 Aの鬼気迫った声と共に、右から空気を裂くような音が聞こえた。右を見ると、尻尾のような物が勢いよく迫ってきている。

 

「っぶないですね」

 

 剣を盾のように構え、そのまま受け止める。僕は吹き飛ばされるが、なんとか両足で着地。ダメージは0だ。

 

「A。コイツもNPCと同じです。だから、あと数回ほど流しますよ」

「オーケー。本気で踏ん張ってやらぁ」

 

 どこだ。斧か。尻尾か。どれで次は攻撃してくる。

 正解は、そのどれでもなかった。

 足。サッカーボールでも蹴るように、奴は僕たちに蹴りを入れ込む。

 

 斧、尻尾。足。

 

 奴の足元に潜る。そのままアキレス腱を切ろうとしたら、尻尾が僕に襲いかかってきた。

 

「そうなんども、吹き飛ばされませんよ」

 

攻略者(プレイヤー)】スキル『風車』

 

 尻尾の攻撃を真正面からぶつかり合おうなんて馬鹿なことはしない。

 芯より下を狙い、くるりと回転。奴の攻撃を上へ弾く。

 そしてそのままアキレス腱も切り付ける。

 

 ぐごわぁぁぁぁ!

 

 そんな叫びが悪魔から上がった。

 だが

 

「なるほど」

 

 僕たちプレイヤーには部位欠損はない。それはモンスターでも例外ではないが、巨大モンスターには例外的に部位欠損が適応されていることがある。 

 だが、コイツは違……!?

 

「A! 今から僕が攻めるので、相手の傷をしっかり観察してください」

「なんだが分からねぇがしくるなよ!」

 

 アイテムストレージから伸縮性ワイヤーを取り出し、ワイヤーと繋がったナイフを手に持つ。

 

攻略者(プレイヤー)】スキル『投擲』

 

 投げられたナイフは悪魔の肩に刺さり、僕はワイヤーを縮ませて奴の腹部当たりに飛び上がった。

 ワイヤーから手を離し、片手で持っていた剣を両手で構える。

 

 本来なら、使う予定はなかった。だがもうAが使った以上隠す必要は無い。

 

「オリジナルスキル『十文字斬り』」

 

 

僕は剣を縦に振った。

 

僕は剣を横に振った。

 同時に奴に漢字の十のような切り傷が生れる。

 

 先ほどAが見せたダブル技術。通常ならあり得ない、同時に二つの動作を行う技術を使い、スキルを使用せずにスキルのような動作をする、僕のオリジナルスキル。

 

 自由落下する僕の体を、悶えながらも腕を振り回すようにして悪魔が狙う。

 

「なるほど」

 

 またワイヤー付きナイフを取り出し、奴の肩に突き刺す。それで腕を回避して、床に着地した。

 

「A。傷はどうですか」

「ありゃ部位欠損無しでHPは削れてるパターンじゃないな。部位欠損あり。ダメージは通ってる。でも直ぐに回復してやがる」

 

 僕がつけたはずの十字傷。それはもう消え去っていた。

 自動回復。僕らがどれだけ傷をつけようと、奴のHPはすぐさま回復する仕様になっているらしい。

 

 こういった場合、何か仕掛けがあってそれを解く必要があるパターンが多い、例えばアベルの悪魔化を解くアイテムが研究室内にあるとかだ。

 

「どうすっか」

「敵の動きの癖はある程度把握してきました。ですが、回復されるんじゃこっちに勝ち目はありませんよ。何か手を考えないと」

 

 ファットマンさん達に研究室を洗って貰うか? 

 いや、あの二人だけだと心配だ。Aと三人でやってもらう方が良い。

 僕と地竜萌香の二人で時間稼ぎか。いや、信用できない。

 地竜萌香も特攻アイテム探し組で、僕だけで時間稼ぎをした方が注視する相手が減って楽になる。

 

「僕が一人で時間稼ぎをします。他の人は研究室に行って特攻アイテムを探してください」

「分かった。何分耐えられる!」

「一時間は耐えて見せますよ」

「見つけられなかったらどうする」

「その時は……」

 

 その時はどうする。撤退か?

 

 ……僕とAの力を合わせれば、ごり押しで倒せないだろうか? HPを回復すると言うことは、ダメージ自体は食らってるんだ。回復される前に、大火力で押し切る。

 通常の方法じゃ無理だ。だけど、普通じゃない方法を使えば?

 

「待って。その必要は無いわ。少し時間を稼いでちょうだい。私に秘策がある」 

 

 ごり押しのやり方を考えていると、チャイナ服で敵の攻撃を避けている地竜萌香が会話に入ってきた。

 なるほど、必要なのは特攻アイテムじゃない。NPCによるイベントだったか。

 

「なるほど。分かりました。かぷちーのさん! 援護お願いします。 ファットマンさんは乱入者警戒! Aは僕と一緒に敵のヘイトを稼ぎましょう」

 

 さてと、攻略開始だ。

 




キラービー入手経路

「貴方Fateは達成済みですか?」
「はっ。達成も出来てないような雑魚がお前なんて殺しに行くかよ」
「そうですか。未達成なら殺してましたが、ならいいです。ちなみにキラービーって持ってますか? 持ってるならください。見逃してあげます」
「は?」
「今後絶対殺しはしないでくださいね。したら僕が殺しに行きます」

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