このデスゲームに死人はいない   作:八雲せは

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お久しぶりです。不定期でこれからも更新していきます。


第16話「error」

「なるほど」

 

 そう呟きながら、敵の攻撃をいなす。

 

「コイツ、この体の大きさに慣れてないですよ。図体がでかくなったはいいけど、それを活かせてません」

 

 この図体の無限の回復力。正直寝そべってゴロゴロする質量の暴力の方がこっちとしては恐ろしいというのに、斧での攻撃に拘るその姿に強者の風格はない。

 

「これがデスゲームじゃ無けりゃ楽しかったんだけどな」

 

 Aが敵の攻撃を避ける。相手の足元に張り付き、敵の持つ大きな斧のリーチを活かせないように僕たちは立ち回っていた。

 当たれば死ぬ可能性がある攻撃を持つのろまな敵。デスゲームでない場所でトライアンドエラー出来るのなら良ボスと言われた可能性もあったが、デスゲームじゃ議論の余地無しにクソボスだ。

 

「地竜の奴は何やる気なんだろうな」

「さぁ。特攻アイテムでも持ってるんですかね。でも、事前情報だと敵は召喚術士って話だったのにやってるのは悪魔合体でした。シナリオ的に特攻アイテムを用意出来なさそうですが」

「ま、とにかく時間稼ぎしてようぜ。最悪このクエストの制限時間が来て強制中段になるだろ」

「はは。強制ゲームオーバーじゃなければいいですけどね」

「いや、そりゃねぇ…………ねぇ……よな? なぁ、ナチュア。お前が全力を出せばコイツを倒せるか?」

「勝率2割程度ですね。僕じゃ一撃の重さが足りません」

 

 僕が隠している技を使用すれば、微かだが可能性は生まれるだろう。

 だが、足りない。

 僕はどちらかというと一撃の重さに拘らず、傷を細かく与えていくテクニックタイプだ。

 だが、それじゃあ敵の回復速度と相性が悪い。

 もっと一撃の重さを。

 ダブル技術を使用したAの『城壁崩し』でもまだ足りない。もっと大威力が必要だ。

 

「そうか。なら大丈夫だな。そこは俺が補う」

「さっきのじゃ足りませんよ」

「安心しろ。お前が力を隠してるように、俺だって色々と隠してるんだ。いざとなったら使ってやるよ」

「……運営に修正されないことを祈りましょうか」

「だな」

 

もしもの時の為に、こんな会話をしながら時間稼ぎに徹する。

地竜萌香が失敗しなければ、この会話だって必要のないものになるだろう。

 

「出来たわ! 皆どいてなさい!」

 

 どうやら準備は出来たらしい。僕とAは悪魔から距離を取り、道を空けた。 

 

「武想展開! からの偶像解放!」

 

 正直に言えば、彼女の言っている事は何一つ分からない。攻略組の情報網にも引っかからない単語の応酬だ。

 でも、これだけは分かる。

 これは、必殺技だ。

 彼女の全身から、緑色の風が吹き荒れる。その風に乗って木の葉が舞い散り、彼女の背から、蔦が伸びて悪魔を絡め取った。

 

「朽ち果てなさい。世界樹《ユグドラシル》」

 

 このゲームには必殺技なんてない。

 スキルという物はあるが、そのどれもが必殺技というには、少々物足りない代物だった。少なくとも、派手さはない。

 

「A。これは少々厄介なシステムが今後実装されますよ」

「ああ。アプデするデスゲームとかふざけんなって思うな」

  

 蔦によって絡め取られた巨大な悪魔は暴れだそうとするが、それよりも先に蔦が奴を締め付ける。

 そして、蔦から伸びた棘が悪魔の体に食い込み、血しぶきを上げた。

 

 『武想展開』『偶像解放』この二つが新要素のキーワードだろうか?

 

 それにしても、

 

「なんか拍子抜けですね。時間稼ぎだけでいいなんて。僕としては敵は自分の手で倒したいタイプなのですが」

「安心しろ。どうやら、まだみたいだぜ」

 

 蔦に絡まった悪魔は、苦しみもがき、そして体が小さくなっていく。

 

「私の力で、アイツの回復力を無効かしたわ。今なら攻撃が聞くはずよ」

 

 肩で息をし、顔色が悪い状態でチャイナ服の女、地竜萌香は地面に膝をつけていた。

 

「なるほど。ちなみに、なんであなたは苦しそうにしてるんですか?」

「技の代償……よ。わるいんだけど、後は任せてもいい……?」

「いいですよ。A。やりましょう」

「おうよ」

  

 縮んだ悪魔を観察する。

 体長2.5mくらいの巨漢。頭が羊顔だが、だからと言って角を有効活用しているわけでもないから、ほぼ姿は人間といっていいだろう。

 手足は二本。それプラス尻尾があるが、尻尾も縮んいるせいでリーチが短くなっている。脅威度は小さい。

 どんな理屈か知らないが、手に持っていた武器も小さくなっていた。

 ご都合主義って奴か? 

 片手でもギリギリ持てるサイズの大斧。リーチでは僕と同等だろう。

 

「これはあれですね。ボス戦で言う第二形態っぽいですし、まずは僕が戦ってみます」

「任せた。いつでも泣きついて良いぞ」

 

 そう言い残し、僕は悪魔に向かって駆け出した。

 両手には何も持たない。機動力重視だ。

 悪魔の大斧が剣を横になぎ払う。それをスライディングの要領で回避して奴の足元に躍り出る。

 そしてアイテムストレージから瞬時に大剣を取り出し、悪魔の足を切り付けた。

 

「浅い。肉が固いですね」

 

 足に埋もれた刃から手を離し、後ろに飛び去る。

 短くなったとは言え、足元を攻撃する程度の長さはあったか。僕のいた場所を尾の先端が貫いていた。

 

 Aを呼ぶか? いや、もうちょっと粘るか。

 

「それにしても、随分と図体がでかくなりましたね。ひょろがりだったの気にしてたんですか?」

 

 あからさまな挑発。だが、それに奴は反応し、愚直に僕の元に走り出す。

 知能の低下? いや、元々煽り耐性はなかったのか。とにかく、煽りは有効か。

 PKKで得た経験を活かせそうだな。

 

「どこ見てるんですか? うすのろ」

 

 攻略者(プレイヤー)スキル『バックステップ』×攻略者(プレイヤー)スキル『風車』

 

 奴の体に刺さった大剣をアイテムストレージにしまい、すぐさま取り出す。

 そして回転切りをする『風車』を発動中に、自身の背後方向に転移するスキルを組み合わせ、敵に背を向けた瞬間に敵の背後に転移して無防備の背中を切り付けた。

 今度は体に刺さるなんで事態を防ぐために浅めを狙ったかいもあり、奴の体からは血しぶきがピュッと漏れる。

 

「悪魔も血は赤いんですね。汚いんで、止めて貰って良いですか」

 

 怒り沸騰の様子で、悪魔は雄叫びを上げた。そして、僕に向かって斧を振り回す。

 横、縦、斜め、横、上、下、横。全ての攻撃を見切り、回避する。

 

 動きは単調だ。大体が相手の目線と足元、手首を見れば次の動きが予想できる。

 

「なんか、拍子抜けですね」 

 

 敵の性能も把握できた。

 攻撃力特化。一撃が重いがその代わりモーションが大振りで次の行動が分かりやすい。

 注意すべきは、ついつい大斧を注視してしまい意識外に持って行ってしまう尻尾。だが、それもトリッキーな動きはしてこないから、意識さえしていれば躱せる。

 ああ、本当に、なんというか。

 

「弱い」

 

 あとは流れ作業だ。相手の動きに合わせてこちらは動き、隙があったら攻撃する。相手が冷静になりそうだったら挑発をする。ただそれだけ。

 相手のHPを見ることは出来ないが、相手の動きや焦りといった部分から読み取るに、恐らくもう少しで倒せるだろう。

 

「ん……?」

 

 僕が大剣で足を切り付けた。先ほどまでは通っていたはずの攻撃が弾かれる。

 新技? HPが減ってきたから新たな行動が解禁されたのか?

 

 悪魔は斧を手放すと、口の前で手を使って筒を作る。

 

「あれは……!」

 

 地竜萌香の声が響いた。その声には焦りが混じっており、急いで何かを唱えていた。

 

「全員私の後ろに来なさい!」

 

 なるほど。おそらくこれはイベント演出だな。

 納得した僕が彼女の後ろに行くと、彼女の前には薄緑色のバリアのような物が張られる。既にその中でおお、とファットマン&かぷちーのさんが感嘆の声をあげていた。

 

「あれは私の故郷を滅ぼした、奴の凶悪な技よ……! 絶対ここから出ないでよ。出たら、命の保証は出来ないわ」

 

 へー。なら最初から使えよ。というツッコミを抑え、僕は大人しくバリアで悪魔の行動を見守る。

 

 悪魔が手で作った筒の中に、赤い光が凝縮される。恐らく、手で作った筒に力を貯めて弾を撃ち出したり、ビームを撃ったりするのだろう。

 

「試してみるか」

 

 ぼそっと、そんな声が隣から聞こえた。

 その声の持ち主は、あっさりとバリアから外れ、僕たちの前に立つ。

 

「馬鹿! 戻りなさい!」

「何やってるんですかA!」

「Aさん。それはダメですよ。イベント攻撃なんて当たったらただじゃ住まないと思います」

 

 三者三様の反応で、Aを非難する中、僕は不思議とAを非難する気にはなれなかった。

 Aの表情が、僕の制止の言葉をせき止める。

 

「まぁ、見てろって。面白い物見せてやるよ」

 

 大胆不敵。僕にはAが何を考えているかは分からない。でも、出来ないことをやるほど、馬鹿ではないことは分かってる。

 なら

 

「やっちゃってください」

「ナチュアくん!?」

 

 僕に出来るのは彼を信じて激励をすることだ。

 

「はっ。よく見てろよ。これが、この世界の攻略法だ」

 

 Aが大きく息を吸い込み、手に持った小槌を構える。そして、制止。

 極限までの集中状態。空間は悪魔の力を蓄える音しか響かず、それ以外の音が消失したかのような錯覚を覚えるほどの気迫がAから出ていた。

 

 そして、時は来た。

 悪魔の口から放たれるは一筋の赤いビーム。人一人包み込むほどの大きさのあるビームは真っ直ぐ僕たちの前に立つAに迫る。 

 

「オリジナルスキル『国堕とし』」

 

 Aの体がブレる。それは何重にも重なっていた。

 

 ダブル技術。僕がそう呼んでいるバグ技だ。

 体を同時に何重にも動かす、現実では不可能なゲームならではのバグ技。その動きを重ねることで、攻撃の威力は何倍にも増す、ゲームバランス崩壊技だ。

 僕ですら二重が限界のその技を、Aは何十と重ねていた。きっとその威力はこのゲームでは想定されていない威力になるだろう。

 

 おそらく根本のスキルは【反逆者《リベリオン》】スキル『城壁崩し』。

 ただでさえ使い勝手の良い高威力の技が何十倍にも威力を増幅させ、悪魔の放つビームとぶつかり合う。

 

 ドンっ!

 

 という轟音と衝撃が僕たちを突き抜ける。

 おそらく、これはイベントムービーの様な扱いだったはずだ。

 悪魔の放つ派手なビームを地竜萌香のバリアが防ぐ。ただそれだけの、僕らの干渉のしようがない観賞イベント。

 だが、そこに一つの異物が生じた。

 

 イベントでプレイヤーの介在余地がないからか、その攻撃は超高威力になっている。通常プレイでは防ぐ事など不可能な攻撃。

 

 それをAは――

 

「これがこのゲームの攻略法だ」

 

 弾き返した。 

 そのままの軌道で帰っていたビームは悪魔の頭を蒸発させ、この地下室の天井を破壊した。

 

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 破壊された部分にこのゲームで初めて見るエラーコード表記がびっちり現れる。本来あの壁は破壊不能オブジェクト指定されていたのだろう。

 だが、それをAは打ち破った。真っ赤に染まったそのエラーコードはこのゲームの想定外の事態が起きている雄弁に語っていた。

 

 ◆

 

「なんなんだ今の技! 凄いじゃ無いかA!」

「もう! 違うでしょファットマン! Aさん。今後あんな危ないこと止めてくださいね! 私、ほんとーうにヒヤヒヤしたんですよ」

「わりぃわりぃ。だが、見せてやりたくてな」

 

 にやりと笑うAの目線の先にいるのは僕だ。 

 確かに、圧倒された。圧巻の光景だ。僕はこのゲームでエラーコードを表示させたことなんてない。

 いってしまえば、僕の出来ることはエラーと表示されないだけのバグ技。その程度でしかない。

 この世界に根本的なダメージを与えるようなことは出来なかった。

 出来ないと思っていた。だが、出来る。Aのやっていた技を極めれば、何かを成せるかもしれない。

 

 

「凄い……わね。家の国にもこんな強い人間なんて滅多にいないわよ」

「あ、そういえばいたんでしたね。チャイナ服さん」

「チャイナ服じゃなくて地竜萌香よ」

「それで、地竜さん。目的だった研究者は倒しましたし、目的は達せましたか?」

「そうね。私も気分が晴れたわ。これで国に良い知らせを持って帰れる」

 

 そう言って、彼女は僕に手を伸ばしてきた。僕はそれに答え、握り返す。

 

「ありがとう。この恩は一生忘れないわ」

「大げさですよ」

 

 クエストクリア!

 そんなポップアップが視界に映った。システム外クエスト……始まりはポップアップとか出ないが、終わりにはしっかりと報酬が書かれたポップアップが表示されるようになっている。

 書かれている報酬は僕のレベルアップに必要な経験値の半分くらいだ。

 

「やった。レベルアップですよ」

 

 かぷちーのさんが小さくジャンプしてファットマンさんに抱きついていた。

 

「僕もだよ。ナチュア君のおかげだね」

「Aはどうですか?」

「俺か? 俺は少し足りなかったな。ま、このあたりにはまだまだ敵いそうだし、雑魚がりでもしとけば上がるだろ」

 

 忘れてはいけないが、今回のはサブクエスト扱いだ。本来のクエストは国落とし。それはまだ達成できていない。

 

「地竜。お前はどうする? 俺達はこの国でまだ暴れるが」

「私? 私はそうねぇ。この国がどうなろうが興味ないし、国に帰ろうかしら。ああ、でもお土産とか欲しいし、この国以外で少し観光でもするわ」

「そうか。じゃあな」

「ええ、また縁があったら逢いましょう」

 

 そう言って、彼女は扉の先へ消えていく。

 それを見届けた僕らは顔を見合わせた。

 

「どうしましょうか。ここは一応敵の本拠地の地下ですし、そのまま上行きますか?」 

「それもいいが、時間が気になるな」

 

 チラリと、Aが腕につけた腕時計を見る。この腕時計には時間を見る以外の効果は無い、ただのアクセサリーだ。

 

「確か、午後5時が制限でしたよね。その時間になると拠点に強制転移だったと思います」

「今は午後4時。今から一時間がちょっと厳しいかな。それに、僕とかぷちーのだと流石に足手纏いになっちゃうよ」

「そうか。じゃあ明日だな。このクエストって最高三日まで連日で行われるって概要にかいてあるし。それでいいよな?」

「はい。OKです。じゃあ、上に上がりましょう」

 

 僕は、この時に上に上がるなんて選択肢をとるべきではなかった。

 いや、そもそも攻略組最前線になどなるべきではなかった。

 ファットマンさん達のように、誰かに攻略を任せ日々を過ごす。そんな生活をするべきだったんだ。

 僕はこのゲームを理解していない。僕だけが、このゲームをプレイしていない。

 ここまでの行動に後悔はない。

 でも、この行動での後悔だけは一生忘れない。

 

 だって、そうだろう?

 

 僕たち4人の中から一人死んで、僕はひとりぼっちになるんだから。

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