「A。あの人達はどこにいるんですか」
Aは答えない。答えないが、その答えは彼の手にあった。
ハンマー。彼の持つ片手で持てる小槌がかれの掌に収まっていた。
「殺したんですか」
「はぁ」
ため息。その顔に浮かぶのは若干の憂いが帯びている、達観した表情だった。
「彼らに襲われたんですね。それで、レベル差と人数差から思わず殺害してしまった。それだけですよね」
気がついたときには僕は早口になっていた。早口で、反論など許さないと。
僕は知っていた。
いや、僕は知らなかった。
僕の知っているAのスキルは【
僕はそれしか、Aの使用できるスキルを知らない。
Aは一つのスキルを極めるなんて風にいっていたが、本当にそうか。
Aは今回のクエストを受け、喜んでいなかった。【
Aはどうしてキラービーなんていう、【
Aはどうして【
Aはどうして、攻略組でもないのに僕と肩を並べられるほどのレベルを所有している?
僕はその答えを知っている。
「俺は【
「答えになってないですよ。貴方は【
「嘘だよ。嘘。馬鹿正直に自分が【
「なんで、このタイミングで言うんですよ」
「潮時だと思ったからだな」
あっさりとした答え合わせ。
Aは【
それなら、それならまだ僕たちは仲良く出来る。元通りになれる。
「A。貴方の実力ならFateを達成してるんじゃないですか」
「まぁな」
「なら! なら、まだ間に合います。ファットマンさん達はまだ気がついていません」
Fate達成済みならもう殺しをする必要は無い。
そして、今までAの【
それなら僕らは一緒にいられる。
【
「ナチュアさん、Aさん、大丈夫でしたか?」
最悪のタイミングで、かぷちーのさんが現れた。
「おう、かぷちーのか。そっちは大丈夫か?」
「はい。ファットマンが着いてますから。本当は同性の私もいた方が良いのでしょうが、お二人が心配で」
「そうか。NPCだろうと優しくするその正確は美点だと思うぜ。ちなみに、俺達は今俺が【
「あの、冗談……ですよね?」
「冗談じゃないぞ。これでも既に10人以上殺してる。はっは。案外あのクソ野郎の次に殺してるんじゃないか?」
「A!」
壊れた蛇口のように、犯行を暴露する彼の言葉を無理矢理遮る。
10人以上殺してる? どうしてだ。Fate達成なら5人でいいじゃないか。
「ってわけだ。俺はもうお前らと一緒にはいられねぇよ」
「なにがですか」
「かぷちーのの顔を見てみろよ」
かぷちーのさんを見る。そこには信じられないと、驚きの顔をしてAを凝視していた。その顔には、仄かに嫌悪感が張り付いている。
「な?」
肩をすくめる彼の姿には悲壮感はない。だろうな、とあるがままを受け入れていた。
「理由があるはずです。俺の知ってるAは理由もなく人を殺すような人間じゃありません」
「そうだな、一応あるぜ。第二Fateって知ってるか?」
Fate。それはジョブごとについた使命のことだ。
例えば僕の 【
「いえ、聞いたことがありません」
「そうか。これはFateクリア者の中でも限られた人間に解禁される要素でな。俺の第二Fateは30人殺すことだ」
「報酬は」
「運営への質問権。はっ。要は俺は運営に聞きたいことがあって30人殺すって訳だ」
「その言い方的にまだ……」
「ああ、満たせてねぇな。人数までは言う気はねぇが、俺はまだ殺すぜ」
殺す。そう明言した。してしまった。
条件は満たされた。
何の?
僕が定めた、【
「最後の通告です。もう誰も殺さないでください」
「断る」
「そうですか…………」
残念です。
そう心で呟き、僕はトップスピードでAの首に、呼び出した片手剣を叩き込もうとした。
本当に? 本当に僕がAを殺すのか?
それは一瞬の躊躇。
よく物語で一瞬の隙が勝敗を分けるなんて言葉を見るが、あれは達人同士の話だ。
普通の人間同士の戦いでは、一瞬の躊躇なんてそもそも認識すら出来ない。
そう、だから普段なら問題が無かった。
普段殺しているキラーだったら、この躊躇なんて問題がないはずだ。
問題は、今目の前にいる【
ギン!
という金属同士のぶつかり合う音。
僕の大剣と見間違えてしまうような大剣が、Aの首元で金槌に防がれていた。
「A!」
叫ぶように僕は彼の名前を呼びながら、大剣を更に押し込む。
レベルでは僕が勝ってる。ステータスは僕の方が上の筈だ。このまま剣を首にねじ込む……!
「いいのか? かぷちーのが見てるぞ?」
反射的に、力を込めるのを止めて後ろに跳ぶようにAから距離を取る。
そして、彼女を見た。
かぷちーのさん。ファットマンさんの彼女。僕たちの仲間。その彼女が僕たちを見ている。
彼女は固まっていた。目の前で何が起きているか分からないと、思考が停止している。
そして、僕と目が合った。
その目に映る感情は、恐怖。
「じゃあな」
Aは小槌を振りかぶり、壁を突き破って外に出る。外からファットマンさんの声が聞こえる。
「待て!」
「ま、待って」
Aを追いかけようとする僕の袖を、かぷちーのさんが掴んだ。
「えっと、あの」
言葉が続いていない。考える前に体が勝手に動いていたのだろう。
言葉が出てくるのを待つべきか……?
いや、ダメだ。その間にAは逃げ切る。
「すいません、今度ゆっくりお話ししましょう!」
「あっ……」
僕を掴む腕を振り払い、僕はAの逃げた方向へ駆け出す。
その先にはファットマンさんが困惑した様子で立っていた。
「Aはどっちに行きましたか!?」
「向こうの方に行ったよ。どうしたんだい?」
「すいません! 説明はかぷちーのさんに聞いてください!」
ファットマンさんの指さす方向へ駆け出す。
できるだけ高い場所から見下ろせるように、家を登り屋根から屋根に飛び乗るような走り方だ。
そのおかげで、Aの事を見つけることが出来た。
「逃げないでください!」
大声で呼び止めるが、Aはこちらを一瞥しただけで止まる気配はない。
走りながら屋根を蹴り上げ、瓦の破片の空中でゲットする。
【
瓦の破片は真っ直ぐとAの行く先に衝突し、ようやくAは足を止めた。
「どーも、追いつきましたよ」
「話はさっき終わったろ?」
屋根から飛び降りた僕を面倒そうに出迎えたAの手には、金槌が握られていた。
腕に着いたクロスボウにも、当然のように矢が装着されている。
「終わってませんよ。貴方はもうこれ以上人は殺さないと誓うだけでいい。そうすればあとは全て元通りだ」
「……まさか、お前は人殺しが受け入れられるとでも思ってるのか?」
「それは」
「無理だよ。それは無理だ。どんな事情があろうとも、自ら人殺しをする奴は一般人には受け入れられねぇ」
「どんな人を殺したんですか。Aが、何の罪もない人を殺すとは思えないです。それ次第で、まだ可能性は」
「そうだな。NPCに暴行を加えていたやつら。PKをしてたやつら。まぁ、そういう奴らだな」
その言葉を聞いて、僕はホッとしてしまった。
してしまった。
「やっぱり……な」
悲しそうにAは僕を見る。
「ナチュア。いいか、確かに俺が殺してきたやつは悪人だ」
そうだ。Aは悪を殺しただけ。正しき行いをしたんだ。
「だが、それは俺にとって悪人ってだけだし、そのどれもが、現実だと殺されるほどの罪じゃない」
「そ……れは」
「ナチュア。お前も俺もおかしい側の人間なんだよ。一般人には受け入れられない」
「……」
思い出すのはかぷちーのさんの表情。彼女は僕をみて恐怖をしていた。
どうして?
Aが【
違う。
彼女は僕に恐怖していた。
ついさっきまで仲良くしていた人間を、躊躇無く殺そうとした僕に、彼女は恐怖を覚えていた。
躊躇はした。それは対面したAなら分かるだろう。
でも、彼女には分からない。
いや、躊躇したとしてもそれだけだ。
僕は今もさっきも、Aを殺す気だ。
「ナチュア。お前、もう既に何人か人を殺してるだろ」
「なんで……」
なんでAがそれを知っている?
心臓の音がいつもより大きく聞こえる。
「まさか、見てたんですか」
「まぁな。お前は戦闘能力はたけぇが、索敵能力に関してはイマイチだってのは、一緒にいた俺がよく知ってるよ」
「このゲームの殺人数は一番多いのがアルペンの野郎だろう。じゃあ二番目は? さっきは俺なんて言ったが、実際は誰なんだろうなぁ」
答えられない。答えられるわけがない。
だって、
僕は一体何人殺したんだっけ?
20231010に改稿しました
改稿後:Aがキラーバレをしてまだまだ殺す気宣言をして困惑。困惑が続いてAが逃げた後に「分からねぇよ……!」と嘆く。それをみたかぷちーのさんが追いかけて連れて帰ってくる様にナチュアを説得。
改稿後:Aがキラーバレをしてまだまだ殺す気宣言をしたので頃好き満々でかぷちーのさんに怖がられる。
一話あたりの文字数について
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5000字