このデスゲームに死人はいない   作:八雲せは

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第4話「最強の殺人鬼」

 デスゲーム開始から三ヶ月。

 

「A! おまっ。やりましたね!」

「わりぃなナチュア! 俺の一人勝ち……なっ!」

「すみません、私の勝ちです」

「とほほほ。僕全く活躍できませんでしたね」

 

 なんだかんだ言って、俺はあの時のメンバーと常に絡んでいた。

反逆者(リベリオン)】の『A』と【共同体(ペアベンジャー)】の『ファットマン』と『かぷちーの』。

 全員が気を許せる人たちで、今トランプで遊んでるところだった。

 

「もう一回です」

「負けず嫌い過ぎだろおまえ。何連続負けだよ」

「ナチュアさんトランプはあまりお得意ではないですね?」

「やる友達がいなかったので……」

「ナチュア君。現実に戻ったらいつでも僕たちに連絡してきて良いからね?」

 

 現実で友達がいないことを告げたら同情されてしまった。

 とまぁ、こんな感じで僕は現実の話をちょくちょくするくらいには彼らに絆されている。

 

「ナチュアさんを虐めるのは可哀想なので、次の話でもしましょうか」

 

 かぷちーのさんが試合を切り上げようとしてきた。負けっぱなしなのは気になるが、大事な話が始まりそうだからしょうがない。だからこれは敗走じゃない。

 

「運営から告知がありましたが、このゲームが始まった3ヶ月目。メインストーリーも随分と進みましたね」

「俺達はあんまり関わってないけどな。てか6割くらいお前が進めたようなもんだろ、ナチュア」

「ええ、まぁ」

「否定しねぇのかよ。やっぱやべぇなお前の戦闘能力。このゲームで一番強いんじゃねぇの」

「どうだろう。僕以外にも強い人間は何人かいると思う。有名どころだと、の『アルペン』とか」

「ちょ、ナチュアくん。その名前をそんな気軽に……呼んじゃ……」

 

 ファットマンが引き攣った様な顔で咎めてくる。だが、その言葉は長く続かない。

 絶句したように目線が僕の背後に釘付けになっている。

 かぷちーのさんは怯えたようにファットマンの服の袖を掴んでいた。

 Aは冷や汗を流し、唇を舐めていた。

 ここまで露骨な反応をされると、何があったのか嫌でも分かってしまう。

 

「気配消して後ろに立たないでくださいよ。アルペン」

 

 意味の無い行動に呆れながら、後ろに振り返るとそこには長身の長髪の、シルクハットを被った金髪の男が立っていた。

 さらさらな黄金の髪はまるで女性のようだが、コイツは細身というわけではないため女性と後ろ姿だろうと女性に間違えることはないだろう。

 

「つれない言葉じゃないか。ナチュア。私たちの仲だろう?」

「【殺人鬼(キラー)】と馴れ合った記憶はないんだが、お前の記憶だとどうなってるんだ?」

「ふふふふ。はははははは。私にそんな口をきくのは同胞を除けばお前くらいだよ。私が怖くはないのか」

「別に。お前の怖いところは武力だけだろ。僕と同じように人望がないのと、自信過剰だから僕を襲うとしても一対一だ。それで、僕たちが戦えば僕たちの勝率は半々。なら僕が勝つ」

 

 この回答により一層上機嫌そうに笑い声を上げるのはこのゲームで一番の危険人物。

殺人鬼(キラー)】『アルペン』。自身をキラーと偽らず申告する男がこうも堂々と町中に姿を現しているには理由がある。

 

 今から3ヶ月前。ゲームが始まって一週間くらい経って頃だろうか。

 

 この男は、自分がキラーだとプレイヤーが集まる広場で堂々と宣言した。

 広場は一気に緊張に満ちる。

 だが、この男はそんな場の雰囲気など気にせず、アイテムボックスからとある物体を並べ始めたらしい。

 それは、死体の首だった。

 人の首が総勢15。その全てが、【殺人鬼(キラー)】の首だった。

殺人鬼(キラー)】のFateはプレイヤーを5人以上殺害すること。

 こいつはキラーのクリア条件を果たすだけでなく、必要以上に【殺人鬼(キラー)】を殺すことにより、もうこれ以上人を殺す必要が無いという事実と恐怖を植え付けた危険人物なのだ。

 

「ああ、それは違う。違うぞ。私と違い、貴様は一人ではなかろう。見てみろ、お前の後ろにはお前を慕う奴らがいるではないか。不思議な物だな。私もお前も同じ人でなしだというのに」

「よく言うよ。どうせ誰が誰なのか覚える気もない癖に」

「覚える必要がないからな。私が覚える必要のある顔なぞ、この場ではお前くらいだ。ナチュア」

「気持ち悪いこと言うなよ。最初も首を並べたって話も合ったが、わざわざ首を切り取るってお前顔に異常な執着でもあるのかよ」

「どうであろうな。だが表情が変わらない分、生首になってくれた方が覚えやすい面は否定出来んよ」

「はぁ。アンタ、歓迎されてないって気がつかないのか? 見てみろ、ここは酒場だって言うのに、お前が来てから滅茶苦茶静かじゃないか」

「ん? 私はこの町に出入りしても良い存在だと認識していたのだがな。入るときも誰にも何も言われんしな。ふむ……そこの貴様。そこで安酒を飲んだショートソードに手をかけている貴様だよ。私はこの酒場に歓迎されていないのか? 違うよな。私は歓迎されているよな?」

 

 可哀想に。アルペンに絡まれた酒場の隅っこでひっそりしていた男が顔を青くして素早く頷いているよ。

 

「だからってそこらの知らない人に絡むなよ」

「ふむ。残念だ。君以外は私を歓迎しているようだが、君だけは私を歓迎してくれていないらしい。空気を読む、というのも社会人になる前に覚えた方が良いだろう」

「お前だけには言われたくねぇよ。というか僕が未成年前提の話は止めてくれ」

「うん? 違うのか」

「……」

「そこで否定しない時点で肯定している様な物なのだよ。覚えておきたまえ」

 

 そう言って颯爽と奴は酒場から出て行った。いや、本当に何しに来たんだよ。僕に用事があったんじゃないのか?

 それとも本当にただ純粋に酒場に来ただけだった? なのに歓迎されてなかったからしょんぼりして帰って行ったのか?

 

「悪いことしたかな」

「いや、あの男相手にそれ言えるお前はヤベェよ」

「えっとね。ナチュアさん。あんまり危ない人を挑発したらダメだよ?」

「うんうん。危ない人には近づかない。それが鉄則だよ」

「近づかないのは無理。あの人、僕に目をつけてるから。というか、あの人が認知してるのって僕含めて数人しかいないし、これからもつきまとわれると思う」

「お前、なんて奴に目をつけられてるんだよ……」

「一ヶ月くらい前にメインストーリー進めたら、ストーリー上の敵対戦力に傭兵であの人が雇われてたから殺し合っただけだよ。その時は時間切れで決着はつかなかったけど」

 

 殺し合う。このゲームが本当にデスゲームなのかは未だに明らかになっていない。だからだろうか、自ら誰かを殺そうとは思わないが、殺されそうになったら殺すという事にあまり抵抗を感じない。

 この三ヶ月間で三人ほど【殺人鬼(キラー)】に襲われたが、全員HPを0にしてきた。その時だって感情はそこまで揺るがなかったのは、アイツの言うように僕が人でなしだからだろうか。

 

「殺す……か。ナチュア君はこれがデスゲームだと思うかい」

 

 ファットマンさんが、どこか憂わしげに問う。

 

「どうでしょうね。そういうことが無いように何重にもチェックされてた機械を使ってたんです。いくらVR関係の技術かブラックボックスを使用して、まだ謎が多い技術だとしても不可能だとは思いますけど」

「ええ。僕もそう思います。ただ、それだと一つおかしい。VR機が正常に動作しているのなら、外した瞬間に僕らは強制ログアウトがされるはず。しかし、その気配は未だにない。僕らは三ヶ月間も現実世界で寝たきりになっている」

 

 嫌な話だ。となると病院か何処かで僕らは収容されてるのだろう。素人が寝たきりの人間の世話を出来ているとは思えない。

 そしてそうなると社会的な問題になるはずだ。でも、三ヶ月間現実側からのアクションはない。

 

「……考えてもしょうがないですよ。私たちは、私たちで出来る事をしましょう」

「ああ。かぷちーのの言うとおりだ。様は死なずにFateをクリアすれば良いだけの話だろ? 簡単だ簡単」

「簡単って……。僕たちと違って貴方の【反逆者(リベリオン)】とナチュア君の【攻略者(プレイヤー)】はそう簡単にクリアできる代物じゃないでしょう」

 

 ファットマンが心配そうにこちらを見てくる。そうやって素直に心配されるとどう反応したら良いか分からなくなってしまう。

 もう僕の中ではファットマン&かぷちーのさんはこのゲームの中の清涼剤みたくなってしまっていた。

 

「なんだ、心配してくれてるのか」

 

 揶揄うようにAが笑う。そういえば【反逆者(リベリオン)】だって僕のと同じように達成条件が難しいジョブの筈だが、そこまで達成しようと動いてる姿を見たことがないな。

 

「A。ちゃんと【反逆者(リベリオン)】の攻略してんですか。国落としなんて情報、まだ僕の所には回ってきてないですし、サブストーリーに何か関連する物とかあったり」

「いや、何もないな。【反逆者(リベリオン)】のFateをクリアしたって報告もない。手がかり0だ。ま、大丈夫だろ。国落としなんてでかい話が内々に進むとは思えない。絶対に話が広まるはずだ」

 

 とまぁ、こんな感じで僕たちは現状を話していく。そんなことをしていると、注文をした覚えのない商品が僕たちのテーブルに並べられた。

 

「頼んでないですよ?」

「俺からのサービスだ。あんがとな、坊主。あんな物騒なやっさんがいたら酒場が辛気臭くなっちまうところだったぜ」

 

 そう話すのは商品を持ってきたこの酒場の店主。ようはNPCだ。

 このゲームのNPCはすごい。凄いという言葉が適切なのかわからないほどに、異次元の技術力が使われていた。

 

「ありがとうございます。あの人のこと知ってるんですか?」

「この町でアレを知らん商売人がいたらソイツはセンスがないな。広場で首を並べるようなおっかない奴だぞ?」

 

 会話もスムーズにでき、プレイヤーの行動も把握して感情をあらわにするNPC。まるで生きているかのようなこの存在は、ほかのゲーム、いや世界中どこを見ても見られない存在だ。

 最初は裏方でスタッフが演じてるんじゃないか、と疑っていた人もいたがNPCの数的にスタッフを雇っているのは現実的ではないということになり、超技術が使われたNPCだと、プレイヤーの中で見られている。

 酒場の店主はそのあと、ごゆっくりと言い残し元の場所に戻っていく。

 

「はぁー。緊張した。やっぱりこのゲームのNPCは怖いですね。僕はレトロゲームが好きなのでどっちかというと無機質なNPCが好きなんだけど、やっぱり若い子だと抵抗感とかないのかな? どうですが、ナチュアくん」

「ファットマンさんも若いでしょ。僕としては別にNPCだろうと人だろうと、やることは変わりませんし、思うところはないですね」

 

 それが僕の本音だ。

 別にNPCだから虐げたり、無視したりする必要もないだろう。

 あれだ、ぬいぐるみ相手ぶん殴ったりしてる人を見たらうわぁ、とドン引くのと同じ感覚だ。

 人だろうと、人じゃなかろうと、扱いは丁寧にするべきだろう。

 そんなことを考えていると、ふとAとNPCの関係性を思い出した。

 

「そういえば、AはNPC相手に結構情報収集してたりしますよね。僕もメインストーリーの進行の関係でNPCの人と話すことはよくありますが、Aもあんまり抵抗感とかはない感じですか?」

「ああ。話してみりゃわかるが、あいつらは生きてる。このゲームでな。なら俺たちと同じだろ? このゲームから出られずに生きてる俺らとこのゲームで生きてるNPC。どこに違いがある?」

 

 その解答は随分とAらしいと感じさせるものだ。

 Aは豪胆な男で、細かな部分は気にしない節がある。クエストの関係上敵対した相手がいたとしても、そのクエストが終わった後にその相手と酒場で飲んでる姿をよく見る。

 そんな男にとってはNPCか人間かなんて関係ないのだろう。

 

「いやぁ、NPCと僕たちは違うでしょう。……ねぇ?」

 

 僕と似た価値観を持っているAだが、そんな思想はファットマン達には共感できないものらしく、かぷちーのさんがファットマンの言葉に頷いてる。

 

「そうか。……ま、これに関しては個人のスタンスだ。いたぶったり度を越したことしなきゃ俺も何も言わねぇよ」

「そんなことしませんよ。いくらNPCだとしても、そんな気分が悪くなるようなこと」




次投稿:2023/07/31 00:00
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