「第一回攻略会議を始める!」
これは、このデスゲームが始まって一か月目の話だ。
このゲームのメインストーリーは一本だが、メインクエストは同時並行で何個も存在している。
ん? と最初は思ったが理屈は思ったより簡単だ。例えば、とある秘密兵器を作るために鉄が30個。綿が30個欲しいとする。そうなった場合、一人に銅と綿を30個依頼するだろうか?
ここでは、銅30個と綿30個を別の人間に依頼する。
実は話はもっと複雑で違う派閥の依頼を受けて、そのクエストの進捗具合でどちらの派閥が勝つかが決まってメインストーリーが分岐するというのもあるが、とにかくメインストーリーにかかわるメインクエストは一つではない。
だから、最速でメインクエストを攻略しているであろう僕だが、ほかの人だってメインクエストをしっかり受けている。
「さて、よく事態を呑み込めてない人のために説明しよう。近々このゲームのメイン舞台になってる厳炎帝国が闇の勢力と武力衝突が起こる。その際に現れると予想される将軍──わかりやすく言えばボスを俺たちが倒すクエストが発注された」
まぁ、ここら辺の話はどうでもいい。大切なのはこの後だ。
「ここまで俺が仕切ってきたんだ。責任を取って俺が勿論、この後もリーダーをやらせてもらう。そして、これからは今回のクエストと関係ない。個人的なお願いだ。俺のジョブは【
【
なるほど。納得をする。あの面倒なジョブをとる人間がいることが驚きだが、面倒くさいリーダー役を買って出てくれた理由には納得がいった。
まぁ、だからと言って彼が【
「ちょっと待ってもらいたい。 それは、おかしいのではないか?」
「なんだ。俺がリーダーをやるのは不満か?」
「私もジョブは【
「なんだ。あんたもリーダーをやりたいのか」
「いいや。あなたがリーダーをやることには否定はしないさ。だが、その後のすぐに投票をしてくれ。この言葉には少々警告を投げざるおえない」
どういうことだ。とあたりがざわついた。僕は数日間働いた金全額費やしてジョブリストを購入していたため、指摘されるであろうことを既に理解しているから端っこでぼけーと突っ立っているだけで済んでいる。
「投票はゲーム終了までいつでも大丈夫だが、再投票は認められない。それなのにあなたに票を投げるのは、得策ではなく、それを隠して投票させようとする行為は悪質ではないか」
「悪質……だと? それはこっちのセリフだ。今この場でそのような言葉を投げ、まとまっていたチームの和を乱すあんたの方が悪質だろ」
「それは違うな。このまま進めば、彼らが損をする」
その断言に、周りの目線が鋭くなる。さっきまでリーダー面しようとしていたやつが人を騙して損をさせようとしていた。その事実は重い。
「損だと……?」
「まず、あなたが途中で死亡した場合。その場合投票券は戻ってこない。だからその投票は無意味になる。次に、後日別の人間と親交を深めたとして、その人物が【
「それならこっちの言い分だってあるぞ。じゃあ投票券を持った状態で死亡したらどうなる。無駄だ。なら無駄になる前に投票してもらった方がいいだろ」
周りが彼らの発言にざわつきが最高潮に達した。彼らの言葉のどれにも嘘はなさそうだ。どれも真実で、だからこそこの会話は難しい。
即時投票をするべきなのか、しないべきなのか。
また、この事実をリーダー面していた男が隠していたのか。
そんなどうでも良いことでざわつく場を、僕は静かに眺めていた。
「ナチュア! あんたはどうなんだ。最前線に立っている身として、何か意見はないか」
まじか。端っこでうんうんと頷いているだけですむと思っていたが、指名されてしまったら表に立たざる追えない。
面倒だ。非常に面倒と言わざるおえない。
「どうでもいい」
「どうでもいい……? 今、真剣な話を」
「真剣な話で、どうでもいい。これは個人がどう考えるかの話で正解なんてないですよ。二人とも間違ったことは言ってない」
この問いに答えなど存在しない。正解など無いのだから、議論なんて無駄にしかならない。
そう伝えると両者も傍観者も納得したような雰囲気が流れる。
だけど、こんな風に思考を停止されたら困る。
「それよりも、問題は別にあります」
「問題?」
「投票画面を見てください。投票画面には、既に死亡したプレイヤーを含めて全プレイヤーの名前のリストが表示されます。便利ですよね。偽名とか言われたらこの画面を開いて検索すれば適当な物だと直ぐに分かる」
これだけ見ればただの便利機能だ。これ以外に全プレイヤーの名前が書かれたリストなど存在しない。本来の用途ではないが、このデスゲーム内では必須級の情報だろう。
問題は、そんな便利機能に出来る物があることだ。
投票画面なんて見たことなかったのだろう。先ほどまで騒いでた人間が、おお、と驚嘆の声を上げる。
「おかしいでしょ、これ」
「何がおかしいって言うんだ?」
既に僕の言いたいことを理解したのか、半分くらいの人が口をつぐんでいるが、まだ理解できてない人の一人が口を挟む。
「なんで、投票先が全プレイヤー分用意されてるんですか」
「いや……それはきっと平等性を保つためじゃないのか。【
「それもありますね。では、全プレイヤーが投票先になることによる問題も発生することも分かりますか?」
「えっと。何か、あるか? 別に投票する俺達に何かメリットがあるわけじゃないし、投票されても何か得られるのは【
「【
【
Fate:ゲーム終了時にFate達成者が生存者の七割未満であること
「【
周囲が息を呑む音が聞こえた。そして、視線が【
疑惑の目線だ。
【
そんな疑惑の視線を受けて、二人がたじろぎ、僕を呆然とみる。その目はそんな風に思われているのかという呆然なのか、それとも見抜かれると思っていなかったからか、判断はつかない。
最初に言ったように、どうでもいい話だ。
「僕のスタンスを言います。別にお二人が【
「どうでも良いって事は無いだろ。俺達に今後指示をする人間が、【
「それなら、暗躍できないように周りがしっかりすれば良いだけです。とにかく、僕はゲーム終了直前に、最も有能で【
◆
さて、これが最初に言ったようにデスゲームが始まって一ヶ月目の話だ。
つまり、今から二ヶ月前の話になる。
そして今。僕の前にはあの時最初に【
「俺にどうか投票をしてください」
「いや……あの」
返答に困ってしまう。
今僕達がいるのは僕が泊まっている宿屋の個室の中。つまりは僕の部屋だ。金のなかった頃から泊まっている安宿で食事なし、風呂なし、ベッドはなくて布団で廊下を歩くと床が軋むようなボロ宿。
長期外出するため、床を掃き掃除などしないため埃が舞っている床に、彼は頭をつけていた。
「顔を上げてくれませんか」
そう声をかけても、彼は顔を上げない。
どうにも理解が出来ない。なぜ彼は土下座などしているのだろうか?
彼の立場は攻略組のリーダーの一人だ。リーダーと言ってもジョブのリーダーではないが、とにかく、あんまりなミスさえなければ安泰な立場だと認識している。
「前も言ったように、投票するのはゲーム終了間際ですよ」
「分かってる! その時に、俺の投票して欲しい!」
「そんなこと言われても……。僕は有能だった人に投票するだけなので」
僕のスタイルははっきりと宣言していた。
それに、人によって票の重さは変わらない。だったらスタイルをはっきりさせてる僕ではなく、そこら辺にいる人に泣きついて投票して貰った方が良いだろう。
「こんなことしても僕が意見を変えないことくらい貴方なら分かるでしょうに。僕以外の人にそういうのはやった方が良いですよ。効率が悪い」
「君は、投票券を二つ以上持ってるだろ」
「……なるほど」
投票券。【
「誰か入手したんですか」
「ああ。そう言う情報がいくつも上がってきている。なら、君が……プレイヤーズクラウンの君が複数所持していない筈がない」
「え、待って。僕プレイヤーズクラウンなんて呼ばれてるの? 嘘。やだ」
「知らなかったのか。てっきり、全員知っている渾名だから君も知っているばかり……」
待って。全員この渾名を知ってるの? 何それ、恥ずかしい。由来はなんとなく分かるけど、とてつもなく恥ずかしいんだけど。
「君は全プレイヤーの中で一二を争う存在。生き残る可能性だって高い……! だからこそっ!」
顔を上げた彼は真剣な表情だ。だからこそ困ってしまう。同情してしまいそうだ。
同情は毒だ。毒は自分を蝕み、周りに伝播する。だから決してしてはいけない。その信念が揺るぎそうになる。
「そうやって土下座しても、僕は意見を変えません」
「ああ。分かってる! でも、君の心に影響を与えることは出来る。君は、優しい人だ」
「優しい……?」
「もしも、俺と同じくらい有能な人がいたら君は土下座した分俺に投票してくれる。そういう子だ。だから、これには意味がある。卑怯な大人ですまない……! だが、俺は生きたい! そのためなら泥水だって啜る覚悟だ!」
「分かった。分かりましたから! とにかく、貴方の言っていたことも、したこともちゃんと覚えておきます! だから、部屋から出て行ってください!」
そうしてようやく、彼は部屋から出て行ってくれた。
僕は話を聞いていただけなのに、不思議と疲れがたまった気がする。
今日はいつものメンバーで集まる予定もないため、暇だ。
やることもなく、だからといってこの部屋に留まるのも気が進まない。こんなボロ宿は寝る以外の目的でいるのは向いてないからな。
そう言う訳で、街の中に僕はぶらり旅だ。
目的地無し。目標無し。
街の中は殺傷禁止エリアだから安心安全……なんてことは全くない。ちゃんと人を殺せるので装備は最低限調えておく。
この世界では味覚がしっかりと再現されている。おかしいね、確か食事要素を持たせる場合はおいしくしないようにと規制が入る筈なんだけどね。
そのくせに食べても太るというわけでもないので、気にせず今日は食事と行こう。
と言うわけで、何か良い店はないかとお店を見て回っているととある女の子の目が合った。
知り合い……と言うには縁が薄く、他人と言うには情が湧きすぎた少女。
「お久しぶりです! プレイヤーズクラウンさん!」
「うん、その呼び方を止めようか」
初日に会った【
次投稿:2023/07/31 18:00