このデスゲームに死人はいない   作:八雲せは

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第6話「愛人救済」

「本当にその変な名前流行ってるのかぁ」

「わ、私は格好いいと思いますよ!」

「うん、ありがとう」

 

 名前も知らない【平和主義者(ピースメイカー)】の彼女のオススメの喫茶店に足を運び、僕たちは雑談に興じる事になった。

 僕としても彼女の近況は気になっていたところだ。

 僕と彼女の立場はかなり違う。僕は最前線で戦っていたが、彼女の顔は一度も見ていない。

 だから、違う世界の話を彼女から聞けるはずだ。

 

「久しぶり。そういえば名前を言ってなかったね。僕はナチュア。その変な渾名じゃなくて、そっちで呼んでくれ」

「はい。……なんか口調が優しくなってませんか?」

「そうか? あんまり意識はしてないけど……。まぁ、デスゲームだし、とげとげしい口調だと敵を作るだけだし、自然と柔らかくなってる……のかなぁ?」

「無意識だったんですか……。初日遇ったときはハリネズミさんの様に俺に近づいたら火傷するぜ。みたいな雰囲気だったのに」

「うん、それは絶対違うって断言出来るよ。それで、君の名前は」

「私はエミリーです。あ、早速ケーキ注文しましょうよ。ここのケーキすっごく美味しいんですよ。現実じゃないみたい」

「うん。これはゲームだしね。しかも規制もかかってないみたいだし、現実じゃ再現不可能な味とかも表現できるのかも」

「はへぇ。詳しいですね。流石ナチュアさんです。お噂は色々と聞いてますよ」

「……噂って」

 

 少し嫌な予感がして、聞くか悩んだが聞くことを選ぶ。

 

「えっと、プレイヤーの中で一番強いとか。最強高校生とか。対『アルペン』用兵器とか」

「うん、頭が痛くなるような情報ありがとう」

 

 僕が高校生と言うことは誰にも話していないというのに、当然のように見抜かれてしまっているのが、なんか嫌だな。

 

「先に言って置くけど、僕は一番強いわけじゃない。アルペンとは相性が良かっただけで、強さだけで語るなら向こうの方が強いし、僕より強い人だって何人もいる」

「いや、だとしてもかなり凄いこと言ってますからね。もう、私と比べる事がおこがましいくらい、凄いです」

「エミリーはこの三ヶ月間なにしてたんだ?」

「子供の保護とお金稼ぎと互助会の開設です」

「……それは、僕よりも凄いことしてないか?」

 

 エミリーは凄い謙遜していたが、していることは僕よりもとんでもないことだ。

 僕は運営の用意したレールはただひたすら走っているだけに過ぎない。つまる話は学校と同じ様な物だ。簡単と言うほか無い。

 だけど、エミリーのやったことは違う。子供の保護なんて僕は考えていなかった。冷血とか言われる人間だって、保護をしない、という事を考える。選択肢に挙げてなお却下するだろうが、僕の場合は選択肢にすら上がっていない。

 このゲームでの保護というのは中々出来ることじゃない。保護される方も保護する方が信用できる人か分からないし、保護する人は保護するなりにやることが多すぎる。

 このゲームは自立して初めて人並みの生活が出来ると、僕は思う。

 

「いや、私なんて全然。周りの人に頼らないと何も出来なくて……」

「充分だ。周りの人に頼ってるって事は、信用できる人を見つけたんだな」

「はい! 皆さん本当に凄い人なんですよその分何も出来ていないのが申し訳ないんですけどね」

 

 ようやって笑う彼女の笑みには若干の影が見える。相当負い目に感じているようだが、僕からかけられる言葉は少ない。

 彼女が実際にどれだけその活動に貢献しているかとか、そういったことを何も知らないからだ。無知で褒めたところで、そんな軽い言葉で立ち直られても、またすぐに倒れる。

 

「だから、新しいことを始めようと思うんです。例えば、【愛人(ラバー)】さんたちの――」

「止めとけ」

「……何でですか? あの人達、皆今凄く大変そうで。いい人だっているんですよ?」

 

 納得がいかない様子で、彼女は口をつけていた紅茶をテーブルに置いた。

 

「一つ目、いますぐ出来る安全な救済方法がない。二つ目、いい人に見えるのは当然だからだ。彼らは、いい人にならざる追えない状況に追い込まれてるのだから。だからそれを理由にするのは、違うだろ」

「何ですか、その言い方。甘色さんは…………!」

「その、甘色さんって言うのが元からいい人なのか、それとも【愛人(ラバー)】だからいい人になったのかは知らないし、興味は無いよ。でも、大多数の【愛人(ラバー)】は優しい人だったんじゃない。優しくならざるおえないだけだ」

 

愛人(ラバー)】 

 Fate:30人以上と性行をすること

 

 現在彼らはプレイヤー最底辺の立場にいた。

 その立場はもしかしたら【殺人鬼(キラー)】よりも下かもしれない。

 

「そういうの、私嫌いです」

「そうか。僕は無条件の考えなしの奉仕って言うのが大嫌いだ」

 

 沈黙が降りる。僕はこういう雰囲気も大丈夫だが彼女はそうじゃないのだろう。悔しそうに、少し涙目になりながら僕に語りかける。

 

「どうにかならないんですか」

「無理。僕も考えはした。例えば街のど真ん中、そうだな。広場なんていいね。あそこで致すんだ」

「あ、あんな公衆の面前で!? 破廉恥です」

「そうすれば、【殺人鬼(キラー)】は動けない。大人数の前で人を殺せば、必ず捕まるからな、でも、これは無理だ。勿論、理由は分かるよな?」

「その、そういうえっちぃことは個室じゃないと行えないからですよね」

「なんだ、あんな反応してたから知らないと思ってた。そう。この運営は謎の倫理観でそういうことは二人っきりの個室でのみ行える事になってる。だから、その案は無理だ」

「なんと言えば分かりません……。もしそんな制限がなければ救える命があるかもしれませんが、制限されてなかったら……」

「じゃあ次に考えたのは宿屋での順番制。複数人の行為相手を募集して、部屋の前で待機させるんだ。それで一人一人呼び込み、終わった人間も待機列に加わる。そうすれば誰かが殺したら次の人間が直ぐに分かるし、対処も簡単だ」

「それです! それですよ!」

「落ち着いてくれ。これは無理なんだ」

「えっ。で、でも条件は満たしてます…………よね?」

 

 条件とは、先ほど言ったように性行為をするためには個室でなければならない、個室内に二人のみであること。この二つだ。明文化されているわけではないが、そういう条件であるというのは公然の事実だ。

 確かに、僕が挙げた案はこの条件を満たしている。でも、制限云々ではなくもっと簡単で分かりやすい理由でこの案は無理なんだ。

 

「宿屋の人に怒られる。そりゃそうだ。個室の前で宿泊客でもない奴が何人もたむろするなんて、迷惑だ。しかもその目的が目的だ。たたき出されるよ」

 

 この世界のNPCはこの世界で生きている。だからこそ、この対応は当たり前だ。

 

「なら全員その宿屋に泊まれば良い、なんて考えたが少なくともそんな宿屋を僕は見つけられなかった」

 

 その宿屋を貸し切りにしたら、廊下でたむろっていても文句を言われる可能性が低いのではないか。

 そう考えたがそれはこのゲームの文化によって阻害されてしまっていた。

 どうやら、このゲームの宿屋は長期滞在がかなり多い。僕たちプレイヤーと違い、NPCの中では一年契約をしている者も珍しくないらしい。そうなると、貸し切るタイミングがない。

 

「そう言う目的の建物だってある。現実で言うラブホだな。でも、そこも廊下で待機してたらたたき出されるから無理だ」

「そんな場所もあるんですね……」

「それにこのゲームはコンテンツ量を抑えたかったのか、マイホームって要素がない。だからNPCに依存しない建物を借りたり、建てたりして自由に扱うことも出来ない。だから、無理なんだよ」

「そうだ。部屋の前じゃなくて宿屋の前ならどうでしょう! それなら宿屋の人に怒られないですよ」

「宿屋の後ろから出て行かれたら? 勘違いしている人が多いけど、このゲームの建物は破壊不能オブジェクトじゃない。外からの破壊方法は見つかってないけど、内側からなら破壊可能なことはもう【殺人者(キラー)】の中じゃ有名だぞ」

 

 情報源は最強の【殺人者(キラー)】『アルペン』だ。アイツたまに三分ルールとか言って時間制限付きの殺し合いをしようとしてくるからな。その際に無駄に情報をくれるせいで【殺人者(キラー)】に詳しくなってしまった。

 

「そうだ。宿屋の人を全員覚えておくんですよ。出てきた人が見覚えのない人だったら、それは【殺人者(キラー)】です。見覚えのある顔でも、誰かが出てきたら部屋に行っていることを確認。確認する人以外は出て行った人の尾行。どうですか。完璧です」

「この世界に写真はない。だから顔の共有も大変だし、NPCに大勢でストーカー行為とか憲兵団飛んできて下手にしたら街への出入り禁止になるぞ、うまくバレないようにやったとしても、対策なんていくらでも建てられる」

 

 憲兵団。NPCによって構成されているこの町の守護者達。その実力はまちまちで、中にはプレイヤーくらい強いキャラもいる。

 こんな組織があるのに『アルペン』が出禁になっていないのは殺したのが犯罪者だったことと、実力が高すぎて憲兵団でも対処したら甚大な被害が出ること。

 まだ一般人に被害を出していないこと(僕への攻撃は街の外だから憲兵団の範疇外だ)

 と、色々理由がある。この世界の倫理観はどうなってるのか、運営に問いたい。

 

「でも、ナチュアさんの話は全部最悪を想定したものですよね。充分、使える案だと思います」

「それで誰かが死んだら? 責められるのはエミリー。君だぞ」

「絶対なんてありませんよ。だから、私に出来るのは信じることです。私の信じた人を信じること」

 

 そう告げた彼女の顔は、僕には少々眩しすぎた。

 疑う。それが、僕がこのゲームで最も大事にしていることだから。

 信じる事と疑うことは表裏一体だと、僕の尊敬する人が言っていた。

 だけど、僕には未だにその意味を理解することが出来ない。

 疑うことを信念にしている僕と、信じることを信念にしている彼女。これが表裏一体な筈がない。

 

「……。はぁ。僕の案を採用したいなら、今のうちに【愛人(ラバー)】を集めて半年以上監視してからにしてください」

「え?」

「そもそもの問題がジョブの偽装なんですから、半年間で信頼関係を築いておけば問題も減るでしょう。半年以上も【愛人(ラバー)】のふりをする人なんていないでしょうし」

愛人(ラバー)】は現状最弱候補のジョブである。そんな【愛人(ラバー)】のふりを半年以上するくらいなら、もっといい殺しの方法がある。

 

 つまりは持久戦。Fateなんて物は早く終わらせたからって早期クリア特典があるわけじゃない。最後までにクリアしておけば良い。

 

「……それ、最初から言ってくれればいいじゃないですか。いじわる」

 

 今度こそ、彼女は穴がない作戦だと思ったのか目を輝かせた後に、少しふてくされたかのように、テーブルに置かれたジュースに刺さったストローに口をつけた。

 確かに最初からこれを言えよと誰しもが思うだろう。でも、僕はそれでも言いたくなかった。

 

「だって言ったら採用するだろ」

「はい。……もしかして何か問題が?」

「いいや、【愛人(ラバー)】にとっては問題なんてないんじゃないか。けど、エミリーって聖女って呼ばれてるくらいだしなんかグループとか組織とか作ってるんだよね。子供の保護もやってるんだし」

「そうですよ。まだ小さいし、組織っていうよりグループですけど、皆で力を合わせて頑張ってます」

「そうか。なおさら教えたのが後悔しそうだよ」

「何でですか?」

「このゲームで弱いのは敬遠される。組織の構成員の大多数が【愛人(ラバー)】? そんな組織に入ろうと思う人はいないよ」 

 

 このゲームにギルドやらパーティーの概念はない。フレンド登録なんていう便利機能もない。だから組織を作ってもシステム的なメリットはないから、自分たちでメリットを見つける必要がある。

 横のつながりとか色々と手に入れられる物がある。

 だが、【愛人(ラバー)】はどう足掻いても弱者だ。弱者同士が手を取り合って助け合う。美しい姿だ。

 でも、大多数の人間は【愛人(ラバー)】ではない。弱者のグループに強者が入るとどうなるか。無意識だろうと、食い物にされるだけだ。

 このゲームに集団を補助するようなフレンド機能とかがない以上、弱者が強者の役に立つ事なんて、精神的なものしかない。システム的な、物理的なメリットなんてない。

 

「君はもっと地盤を整えるべきだ。【愛人(ラバー)】の救済は後回しにしてでも、味方を増やす。それが君のするべき事だと僕は思う」

「でもそれじゃあ、間に合わない人が」

「その間に合わない人は、君の大切な人なのか? ならその人を個別に保護すれば良い。【愛人(ラバー)】としてではない、友人として」

 

 そう言う訳じゃないのは分かってる。彼女の言っているのは繋がりの無いような他人の事だ。

 焦ってソロで危険な場所に行って死ぬような、そんな人を助けたいと彼女は言っている事は分かっていても、その意見を通すわけには行かない。

 

「大多数を救うために少数を切り捨てろと言っているわけじゃ無い。少数を救うために大多数を救うんだ」

 

 詭弁だ。でも、僕はそれを言うのを止めない。

 これは彼女のためでもあるが、それ以上に僕のために彼女には最大規模の組織を作って貰う必要がある。




次投稿:2023/08/01 00:00
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