僕がボロ宿に泊まっているのには実は深い理由がある。
ボロ宿なのだから当たり前だが、あの宿はかなり安い。
そのため、この宿に泊まる際には一括払いで長期間泊まるNPCが多いのだ。
だから僕の隣の部屋はNPCで埋まっている。
それの何がいいのか、というとだ。
「被害者は【
こういった事態を防ぐためだ。
今この部屋にいるのは【
そして、この部屋に元々いて僕たちにツッコミを入れたのは僕に土下座をしてきた【
「聖女さんにプレイヤーズクラウンなんてビッグネームが来るような所じゃないだろうに」
「……聖女?」
「や、止めてください。私、そんな大それた名前なんて……」
聖女というのはエミリーの事らしい。僕は知らなかったが、ブブブブレイブが言うからには有名人なのだろう。
彼は【
「僕がいるのは今回の犯人に聞きたいことがあるからだな」
「俺もだ。あとコイツの付き添い。というか、俺はビッグネームじゃねぇのかよ」
「あ、えーと。Aは名前が短すぎるのとはっきりとした成果がないので……」
「ほーん。そういうもんか。で、今回の事件について、知ってること教えて貰えるか? 聖女にプレイヤーズクラウンが協力するんだ。嫌とは言わねぇよな?」
Aの厳つい顔で言われたら断れるわけもなく、ブブブブレイブは今回の事件の概要を説明する。
事件が起こったのは、今から3時間前の事らしい。
宿屋のとある部屋から大きな、何かを破壊したかの様な大きな音がし、宿屋全体が衝撃で震えた。とのことだ。。
事態の把握のために、発生源と思われる部屋に宿屋の主人が訪ねた所、返事がなく部屋に強制的に入ろうとした瞬間にまた大きな破壊音が。
急いで部屋に入るとそこには部屋に外へ繋がる大きな穴と、隣の部屋へ通じる大きな穴が空いていた。
そして、隣の部屋には死体と荒れた部屋が残されていたらしい。
「とまぁ、プレイヤーの殺人事件だな。最近は数が減ってきたが、逃走するのに宿屋の壁を破壊するっていう王道パターンだ」
「王道……なんですか? 部屋の壁を破壊するのが」
「聖女様は知らねぇかも知れねぇが、【
「けど、今回はそれだけじゃありませんよ。隣の部屋の壁を破壊する。しかも被害者は【
今回の事件に僕が首を突っ込んだ理由はこれだ。
壁を壊して外に出るのはいい。それは既知の方法だ。
けれど、壁を壊して隣の部屋に侵入するのは机上の空論で実際に行うとどうなるか知っている人はいない。
そう、今回の犯人以外は。
「それにしても、ご遺体って回収されないんですね」
エミリーが部屋で横たわる死体を見て、悲しそうに手を合わせた。
僕もそれに習って手を合わせて一礼する。
「そういえばそうだな。ブブブブレイブさんが手を回してくれたんですか?」
「ああ。憲兵団の中に見知った顔のNPCがいてな。どうせ腐るとかそういうのはないんだ。事件解決のために回収はちょっと待ってくれってお願いしたんだ」
「それはありがたい。おかげで、犯人が絞れる」
僕はお礼を言った後、死体を観察した。
ブブブブレイブさん曰く刃物による殺傷。確かに死体を見ると部屋着であろう布の服が切り刻まれている。
「何か分かったかホームズ」
「ホームズ? 僕が?」
「ああ。こういうのは気分が大事だからな。さしずめ、俺はワトソンって言ったところか」
ホームズ。僕がシャーロックホームズと言うのか。
だが、Aの言うことにも一理ある。人間何かを行動するにはスイッチを切り替える必要がある。休日モードから平日の学校モードに切り替えるようにだ。
だから僕がホームズになるというのも間違った行動じゃないだろう。
つまり、僕はホームズなのだ。
「それで、どうだ」
「簡単な推理だよワトソン君。……まずいな、僕はホームズについてこの台詞しか知らない」
「安心しろ。俺もワトソンが誰かしらねぇ。助手……だよな? それともヒロインか?」
「さぁ。でも物語って言うのはボーイ・ミーツ・ガールが人気なんだし、ヒロインなんじゃないのか?」
「マジかよ……。しゃーない。今代のワトソンは男ってことにするか。ボーイ・ミーツ・ボーイだ」
さて、ホームズとして推理をしようか。
まず、犯行現場の観察からだ。
侵入経路は間違いなく隣部屋から続く壁に空いた穴だろう。
死体があるのは部屋のベッドのから少し離れた場所。
犯行時刻は今から三時間前ということだから午前五時くらいか。
このゲームにも睡眠システムは導入されているから、普通なら寝てる時間だな。
部屋が荒れているのは壁を破壊したときの影響?
死体を見る。死体に刻まれた切り傷。
ベッドから離れた死体。
被害者は恐らく抵抗したのだろう。破壊音で目覚めた彼は襲撃から身を守るために抵抗。抵抗された犯人は戦闘を開始した。
部屋が荒れているのは戦闘をした影響だろうか?
いや、アイテムボックスが開けられている。となると犯人は金目の物を盗み出した?
「ブブブブレイブさん。最初の破壊音から二回目の破壊音までどのくらいの時間が空いたか分かりますか?」
「二分くらいって言ってたな」
二分。僕と最強の【
二分で殺害に成功したと考えると、かなり短い。両者には明確な実力差か、対人戦闘の経験差があったと考えるべきだろう。
「被害者の身元は分かってるんですよね? ジョブが分かってるって事は」
「ああ。被害者は『テンプノートα』。ジョブは【
流石リーダー。聞けばドン引くレベルでプレイヤーの情報を持ってるだけはある。秘匿されている筈のレベルは別の角度から解析するなんて。
僕の現在のレベルが37。最先端を行ってるはずの僕でもこの程度だ。【
「想定以上に被害者のレベルが高いな。相手がよほど人殺しに慣れてないとこんな早く殺せないだろ」
「ん? それは当たり前じゃないんですか。【
「エミリー。これは本当に【
犯人は【
疑う。全てを疑う。
はっきり言えば、エミリーが犯人の可能性だってあるしブブブブレイブが犯人の可能性だってまだあるんだ。
「ブブブブレイブさん。隣の部屋を借りてたのが誰か分かりますか?」
「宿の記帳に書いてあった名前は『アノテーション』だな。だが……」
「おお。犯人の名前分かったんですね! なら後は聞き込みすれば!」
「どうだろうな。難しそうだ」
「どうして。名前さえ分かってれば」
「偽名だ」
エミリーは知らないのかもしれないが、【
その中に、『アノテーション』なんて名前はない。
プレイヤーリストの中にはどう発音するんだよ、っていう名前もあるし敢えて別のプレイヤー名をつけてる人もいるが、わざわざ殺害をするのに本名を使うとは思えない。
「だけど身長とか体格、性別は分かりますよね?」
「店主さんが受付をしたときは緑髪、身長180センチメートル前後の男だったらしい。ただ、具体的な顔についてはフードを被っていて見れなかったらしい」
身長と性別しか分からないか。まぁ、いい。後は犯行現場から要素を絞り出せば良い。
「まず、これは間違いなく計画的犯行で彼を狙った物でしょう。しかも、宿屋で犯行を及ぶ必要があったはずです」
「ホームズ。自分の中だけで推理をするんじゃ無くて俺達のも話してくれ。特に聖女なんかはついていけてない」
「分かったよワトソン君。簡単な推理だよ。まず、計画的な犯行な事はフードを被って受付を行い、わざわざ隣の部屋に入って壁を壊した時点で偶発的な犯行と言うには無理がある。そうでしょう?」
「ああ。しかも犯行スピードも二分となりゃ、明らかに犯人は冷静に行動してやがる。突発的な行動ならもっと無駄があって良いはずだ」
「ではなぜ、彼が狙われなければならなかったのか。ただ殺したいだけなら宿屋ではない場所でもっと殺しやすい人がいたはずです。宿屋で彼を殺さなきゃいけなかった。その理由がある」
「その理由ってのは何だろうな。部屋にあるアイテムボックスが空いてるのと関係あると思うか?」
そう、この殺人事件におけるキーワードは二つあると、僕は思っている。
・【
・アイテムボックス
【
【
Fate:トレジャーリスト内にある宝物を一つ以上ゲーム終了時に所有していること
そして、アイテムボックス。
このゲームでは個人が持てるアイテム容量は無限ではない。むしろ少ない、と不満を覚えているプレイヤーも多いだろう。
それを解決するために、冒険に出かけてアイテムを大量に持って帰りたいときは馬車などの外部ストレージを使うわけだが、では持ち帰ったらどうするか。
この世界に倉庫の様なアイテムを預かる施設がない。となると個人管理になってしまう。
そこで宿屋などにアイテムボックスと呼ばれる箱を持ち込みそこにアイテムを収納する。というのがプレイヤーの基本になっている。
宿屋ならば、外部から侵入されることはない。今回のように壁をぶち破って侵入するのは特例だ。
「【
「となると、犯人の目的は被害者の命ってよりは被害者の持ち物って可能性もある訳か」
察しの良いA、もといワトソン君は僕の言いたいことをいち早く気がつき話に乗ってくれる。
なぜ外で殺さなかったのか? 被害者が目当てのアイテムを持っているとは断言出来なかったからだ。
なぜ宿屋で殺したのか? アイテムを置いておく場所なんて個人ストレージか宿屋に置いておくアイテムボックスくらいだからだ。
「こうなってくると犯人が【
「そうなると犯人候補が多すぎるぜ。どうやって絞り込むよ」
「簡単な推理だよ、ワトソン君。死体を見てください。切り傷であることから犯人は刃物系の武器をメインに扱っていたはずです。サブでこんな迅速な殺害できるとは思えませんしね」
「メイン武器が刃物か。他には絞り込めるモンはないのか?」
「そうだな、刃渡りは短い方の武器でしょう。戦闘スタイルは一撃が重いタイプじゃなくて何でも切り付ける技巧派。使用したスキルは壁破壊が【
「【
「ええ。【
「ってことは」
「ええ。犯人は【
後ろでは当たり前の様にホームズ気分で犯人のジョブや動機を推理した僕に少し引き気味の人たちがいたが、無視だ。だって僕は今、ホームズだからね。
次投稿:2023/08/02 18:00
Tips
ナチュアはホームズを見たことないので、全て雰囲気で喋ってる。簡単な推理だよ、ワトソン君なんて台詞を自信満々に言ってるが、語感だけでなんとなく喋ってるだけ