このデスゲームに死人はいない   作:八雲せは

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第8話「犯人の処遇」

「ふむ。それで私の元に来たわけか。ホームズ」

 

 僕達が最初に向かったのは、最強の【殺人鬼(キラー)】アルペンの元だった。

 いるかいないかは賭けの様な物だったが、幸運な事にコイツは今日もホームにいた。

 ホーム、と言ってもシステム的に守られてる場所じゃない。

 街の外れにある、空き家を占領してるだけの悪質な所業で手に入れた物だ。

 

「なんでコイツに」

 

反逆者(リベリオン)】のAが嫌悪感まるだしだ。A以外にもついてきた【平和主義者(ピースメイカー)】で聖女と呼ばれているエミリーも【指導者(リーダー)】のブブブブレイブさんも、緊張を滲ませ友好的な態度とは決して言えない。

 皆がこんな調子なので彼との交渉は僕に一任されていた。

 

「簡単な推理だよ。ワトソン君。この中で一番アングラな世界にいるのがこの人だし、なんか危なそうな情報の一つや二つ持ってるでしょう」

「ふむ。凄いあやふやな根拠で訪ねてきたものだな。しかし、君がホームズとなると私はモリアーティーか」

「よく分からない名前出してないで、今回の話で何か関係ありそうな話ないですか」

「いや、モリアーティーは……いや、どうでもいいか。ふむ、一応いくつか心当たりのある情報を持っているが、欲しいかね?」

「ああ。欲しい」

「そうか。なら、君の連絡先を教えて貰おうか」

「僕がどこに住んでるかなんて知ってるでしょう。フレンド機能も無いのでこれ以上教えられる連絡先なんてありませんよ」

「いや、私が知りたいのは君の現実(リアル)の連絡先だとも」

 

 その言葉に、背後で息を呑む音が聞こえた。

 そうか、現実の連絡先か。アルペンが現実でマトモな人間だとは思えないし、教えるかどうかは迷い所だ。

 

「おい、教えるわけねぇだろうが。行くぞ、こんな奴に構うだけ無駄だ」

 

 Aは気分を損したと、怒りの表情を浮かべ僕の腕を引っ張ろうとする。だけど、僕はここの場を動きは一切無かった。

 

「いいですよ。電話番号……はあれか。住所の方がいいですかね」

 

 だろうな、と言いたげにアルペンは微笑む。それとは対称的に、僕の同行者達は困惑を通り越して僕への怒りと心配を前面に出していた。

 

「ダメですよ! ナチュアさんだって学校で怪しい人に色々教えちゃイケませんって習ったでしょう?」

「大人として俺も忠告する。ダメだ。それはダメだよナチュアくん。現実の情報は安売りして良い物じゃない」

 

 僕を隠すように、【平和主義者(ピースメイカー)】と【指導者(リーダー)】の二人は前に出た。

 

「ばっ。おまっ何言ってんだよ! コイツは現実でもマトモじゃないだぞ!?」

 

 そして、Aは僕の肩を掴んで揺らし、その後アルペンを指さした。

 ……現実でも?

 

「ほう。貴様は私の事を知っているか。興味が出てきたぞ。名前を名乗れ」

 

  珍しく、アルペンの興味がAに映った。当の本人は冷や汗を流しながらもアルペンを睨み付ける。

 

「テメェに名乗る名前はねぇよ」

「くくく、まぁいいだろう。今は気分がいい。ナチュアは今度じっくり話を聞こう。では、情報だったな」

 

 何が彼の琴線に触れたのかは分からないが、上機嫌になり情報を落としていってくれる。

 アルペン曰く、

 ・今回の被害者は最近宝物をゲットしていた。

 ・宝物を横取りしたりなど方法は様々だが宝物所有者を狙う【収集家(トレジャーハンター)】がいる。

 ・被害者は元々【殺人鬼(キラー)】による殺害計画が上がっていた。しかし先に殺されたせいで【殺人鬼(キラー)】が殺気立っている。

 

「ふむ、これくらいだな」

「僕の推理通り、動機は宝物。容疑者は【収集家(トレジャーハンター)】で確定ですかね」

「けっ。結局犯人に繋がる情報はねぇじゃねぇか。使えねぇ」

「どうしましょうか。見た目はスキルやアイテムを使えばいくらでも変えられますし……。このままじゃ捕まえられませんよ」

「俺が攻略組に声をかければ戦力だけは集められるが……相手を見つけられなきゃどうにも出来ないぞ。流石に長時間攻略組を動かすのは無理だ」

 

 同行者達はこれからどう動くべきかと悩み、アルペンは僕たちの姿を見て、いや僕を見てどうするのかと、面白そうに見ていた。

 そんな目で見られても、僕が出来ることは一つだけ。

 

「よし、囮捜査しましょう」

 

 

 ◆

 

 

 実は僕は宝物を所有していた。

 宝物――『南琥珀の虎人形』は収集家(トレジャーハンター)のFateの一つ。

 

収集家(トレジャーハンター)

 Fate:トレジャーリスト内にある宝物を一つ以上ゲーム終了時に所有していること

 

 この宝物を手に入れられた僕は直ぐに売ろうと考えていたのだが、考え直して未だに所有していた。

 理由としては今は金銭に困っていないこと。そして僕より強い人はあまりいないから襲われてもあまり問題が無いこと。

 むしろこれを売ることで買った人が周りに襲われる方が、僕としては困るから売るに売れない状況でもあった。

 

「問題は誰が囮をやるか……ですね」

 

 言い出しっぺの法則に則るなら僕だが、残念なことに僕は有名人らしい。そんな僕を襲う度胸は容疑者にはないだろう。

 というかここにいるメンバーは全員無理だ。

 

「攻略組に無名の【収集家(トレジャーハンター)】の人とかいませんか」

「いないな。【収集家(トレジャーハンター)】はそんなに強いジョブじゃないし、奴ら全員サブクエ攻略に必死でこっちと関わりは薄い」

「エミリー。君の知り合いに【収集家(トレジャーハンター)】の人は?」

「いません。子供達の貯めに寄付してくれる人は何人かいるのですが、このような事を頼めるような人は誰も……」

「Aは?」

「いねぇな。アイツらと関わると宝物の争いに巻き込まれっかた関わり合いたくねぇし」

 

 全滅である。当然僕にも【収集家(トレジャーハンター)】の知り合いなんていない。

 

「一応聞きますが、アルペンはどうですか?」

「いないな。そもそも私が人の名前はわざわざ覚えると思うか?」

「そうですね」

「そもそもの話、なぜ貴様らはこの犯人を追っている? もう犯行は終わった。逃走中ならまだしも、もう手がかりもないのだ。諦める方がよっぽど有意義な時間の使い方が出来るのでないか?」

「それも……そうだが」 

 

 最前線に立つブブブブレイブさんはそれを理解しているのが、言葉が弱い。彼のような立場になると今の時間すら他のことに費やしたい気持ちだってあるのだろう。

 対して、聖女と呼ばれる様なエミリーはまだ強気だ。現実でも常識人として生きていただろう彼女の意見は酷く真っ当で、眩くて、脆い。

 

「悪いことをした人を捕まえる。当然のことです」

「で?」

 

 そんな当たり前の倫理観は、目の前の男には通じない。

 倫理観なんて物は僕たちにとっては一歩踏み出せば踏み越えられる境界線に過ぎない。

 

「で? とは」

 

 困惑した様子で彼女はアルペンに聞き返す。まさかそこに突っかかってくるとは思っていなかったのだろう。

 

「捕まえてどうする? ここには警察などいない」

「それは街の警備隊に引き渡して」

「くくく。引き渡して終わり。ふむ、これが一般人の限界か。それでいいのならそれでいいのではないか。ただし、ナチュア達の意見は違うようだがな」

 

 え? と彼女が僕とAの顔を見る。

 彼女に映る僕たちの顔はどう見えただろうか。殺意に満ちた顔に見えるだろうか。そうふと思ったが、それないだろう。きっと今の僕の顔は――無だ。

 

「尋問して殺します」

「殺す」

 

 僕とAの意見が被る。いや、Aは尋問はする気は無いのか。長引かせれば逃げられる可能性が高くなるし、そういった危険性を排除したいのか。

 

「な、なんで」

「警備隊に渡しても、プレイヤーは街内に入れなくなるだけだよ。しかも入れなくなるのも別にシステム的に無理って訳はないから、変装すれば入れるよ」

 

 そんな変装用アイテムも街でしか買えないが、購入できなくてもスキルの中には変装用のスキルがあるからそれを取得すれば良い。

 取得できないのならなおさら最悪だ。生きていくために街の外で人を襲ってアイテムを手に入れる必要が出来る。盗賊の生誕だ。

 

「悪即断。まだこのゲームが始まって半年も経ってない。生ぬるい空気は困るよ」

 

 なぜ人が殺人をしないか。それはメリットよりもデメリットが大きいからだと僕は思う。

 でもこの世界ではデメリットよりもメリットが大きくなる場合がある。

 その状況を覆したい。

 殺人を犯してアイテムや経験値を奪い、私欲を満たすメリットを上回るデメリット。

 完全無関係の筈の攻略組のリーダーと、聖女と、プレイヤー最強候補の僕が全力で殺しに行くというデメリット。 

 

「だ、ダメですよ。人が人を殺すなんて……」

「殺すに足る理由はある」

「理由があっても、人を殺すのはダメです!」

 

 彼女は頑なに、反対の意思を見せた。

 彼女は変わらない。この半年間、常に人の命を救うことだけを考えている。

 悪いことだとは思わない。それは素晴らしいことだ。

 だけど、彼女はいずれ知らなきゃいけない。全ての命を救うことなど出来ないって。

 必要性のある殺人を。切り捨てるという選択肢を。

 

 ◆

 

 囮作戦は成功した。

 金の力を使って囮役の確保。攻略組を利用した金の力の協力要請により、噂の流布。

 それにより、犯人は驚くほど簡単に囮に引っかかった。

 ハッピートリガーとでも言うのだろうか。

 犯人の人殺しへの引き金が緩くなっていたと言うことだろう。

 これは、まぁ、嬉しい事だ。こちらとしても罪悪感を抱く必要がなくなる。

 

 場所は街から離れた森フィールド。地面に転がり、怯えたようにこちらを睨む緑髪の男。

 そして、そんな男を囲う僕とA、ブブブブレイブさんとエミリー。囮役の人はもう帰った。

 仲間がいるかもしれないし、もう少しここにいたらと誘ってはみたが、後味の悪い物をみるのはごめんだと、逃げ足には自信があると言って颯爽と街に戻った。無事に街に辿り着く野のを祈るしかない。

 

「なんで! なんで、こんな事になるんだよっ! 僕がそんなに悪いことをしたか? これはこういうゲームじゃないか!」

「そうですね。まぁ、殺された人にも落ち度は合ったと思いますよ。貴方が殺さなくたって、宝物を所有していると周りに露見している時点で手放すべきだった。事実、貴方以外にも【殺人鬼(キラー)】に狙われたようですし」

「なら、こんな事止めてくれよ!」

 

 必死にこちらの説得を試みようとする彼は、僕の言葉に表情を明るくし、すがりつくようにこちらににじり寄る。

 

「そうですね。とりあえず、宿屋の壁を壊したときに、被害者はどんな感じだったか教えて貰って良いですか。壁破壊と同時に攻撃の衝撃で殺せたのか気になりまして」

「へ、へへへ。ありゃ無理ですよ、壁破壊した時に攻撃が全て壁に座れて先にいるキャラには攻撃できないですよ。へへ、答えたんで――」

「ええ。もう用済みです。死んでください」

 

 聞きたいことは聞けた。このまま言葉を交わす必要も無い。

 

「ま、待ってくださいよ。そうだ、俺を殺したら宝物がどうなると思うんですか! 俺、三つも宝物持ってるんすよ。このまま殺したらどこにある分からなくなりますよ。そうだ、俺を殺せるわけがない!」

「所有者がいなくなったアイテムは後日競売にかけられるシステムになってるので、心配の必要はありません」

 

 だからこそ、僕は一切の躊躇もなく彼に刃を振り下ろした。

 

 カキンと、金属のこすれる音が聞こえた。肉を裂く感触はなく、手には防がれたという感覚が残る。

 

「待てよ、ナチュア」

 

 Aが僕の剣を防いでいた。エミリーと、犯人がホッとした顔をしている。

 

「何のつもりですか」

「お前が手を汚す必要は無い」

 

 パッと、犯人は希望を見つけたとばかりに嬉しそうにAを見る。

 そしてそんなAに同調するように、エミリーは続けた。

 

「私が責任を持って彼を引き取ります。もう絶対に、悪いことなんてさせません」

「いいや、その必要も無いぜ」

 

 Aが振り返り、そのまま犯人を斬り殺す。

 

「俺が殺したからな」




ストック切れました。(7/30日現在)
今後不定期になっていきます。
予定では30話以内には話が完結する予定(順調にいけばもうちょっと短い)なので、もう少しだけお付き合いお願いします。


間に合いました。次回更新:2023/08/03 18:00

Tips
ブブブブレイブはブレイブと略されると、ちゃんと呼んでくれと要請する。
理由は名前をちゃんと覚えて貰えた方がゲーム終了時の投票で有利になると考えているため。
周りは有能だけどコイツの名前めんどくせぇなと思ってる。
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