「暇か?」
「暇です」
ある日、Aが訪ねてきたので即答した。
「よし、じゃあ遊びに行くぞ」
と言うわけで僕らは街中を闊歩する。
目的地は知らない。というよりも、これから決めるっぽい。
「なぁ、今日はお前に大人の遊びってのを教えてやろうと思うんだが、女とギャンブルどっちが興味がある?」
「ギャンブルですね。僕は純愛派なので」
「ほう。高校生だから女を選んでもおかしくねぇと思ったが、ギャンブルか」
「性病とか責任とか怖いじゃないですか」
「ここVRだぞ」
「……純愛派ですから」
実のところ僕は純愛派でもない。単純に面倒な関係性が増えるのが嫌なだけだ。断る方便って奴だな。
Aはそれを察しているのか察していないのか、豪快に笑うと僕の背中を叩き始める。
「じゃあ気になる奴とかいるのか」
「今はいないですね」
今は。今はというより、今もと言う方が正確だろうか。でもわざわざ訂正することでも無い。
「そうか。そうだな、先人として一つアドバイスしてやる。人にもうちょっと興味を持て。そうすりゃ好きな奴の一人や二人できるだろうよ」
「二人出来たらダメなのでは?」
「あ? 二人とも狙うんだよ」
「純愛派はそんなことしませんよ」
Aは駄目な大人だった。そもそも女とギャンブルに僕を誘う時点でいい大人とは言えないが。
そんな話をしていると、とある建物に着いた。ギャンブル会場……というにはいささか地味目な場所だ。
中に入ると外装とは打って変わって豪華絢爛な内装が……と言うことも無い。
テーブル席がいくつも用意されており、端にある棚に小道具がいくつも置かれ、奥に厨房があるよく分からないお店だ。
「A? ここは何ですか」
「テーブルゲーム屋だ。そうだな、うまいもんでも摘まみながらオセロでもやるか」
「ギャンブルはどこ行ったんですか」
「金を賭けりゃそれはギャンブルだ。てことで金出せ金」
「……まぁ、いいか」
ちょっとポーカーとかボールが転がってどの色の場所に落ちるか予想するゲームとか色々と興味があったが、そう言う場所は総じて騒がしいイメージだ。騒がしい場所はあまり好きじゃない。
ここは静かで少し居心地が良い。それに、一人じゃ出来なかったゲームも沢山ありそうだし良い機会だ。
「ちなみに、オセロのルールは分かるか」
「当然です。オセロはネットでやっても面白いですからね」
「現実でやっても面白いだがな」
Aは僕が現実でぼっちだという事を知っているので、それ以上は突っ込んでこない。
先手はじゃんけんで僕が買ったため、先手を貰った。オセロに先手有利があるかは知らないが、先手の方がなんか強そうだ。勝負って言うのは先に動いた方が戦局を操れることも多いしな。
そうして、5手目くらいになった。予想通り、僕の陣地である白の方が圧倒的に数が多い。
勝ったな(確信)
「なぁ、ナチュアってスポーツかなんかやってたのか? 随分と強いが」
「いや、スポーツはやってませんね」
現実での僕は中高共に帰宅部だった。
スポーツの様に体を動かすのは嫌いではないが、どうにも集団で動くというのが昔から苦手だったのもあるし、それ以上にやりたいこともあった。
「へぇ。VRゲームで動きが良い奴ってのは現実との動きの差異が少ないスポーツ万能って事が多いんだが、そう言う訳じゃないのか」
Aの言う説は聞いたことがある。といってもこの説はVR初心者限定だ。慣れてくれば太っていて運動ができない人間でもそこそこ動けるようになる。
大事なのは現実で動けるかではなく、運動神経とかだろう。
「僕は運動は出来る方ですよ。体も改造してますし」
「……改造? そりゃ、珍しいな」
改造。簡単に言えば生身のまま身体能力を向上させたり耐毒性や耐火性を上げたりといった物だろう。
例えば僕は身体能力の向上や、念じただけで体が鉄のように硬化する改造を施している。
「俺は
改造と一緒で日常を過ごすには不必要なもので、している人は少ない。
仕事で使うとしたらSPといった部類の仕事だろう。厳ついAにぴったりだ。
だからAが僕が改造を施していることに不思議だと思うのも無理はない。僕も今までの人生で自身に改造を施しているのは、せいぜい重度のアレルギーを患っていた人だけだ。
不必要な改造や
「まぁ、来るべき日に備えてですね」
「来るべき日?」
「ええと、情報過多により情報爆破というか、情報氾濫と言いますか、とにかく情報が暴走しネットワークが自己拡張を初めてローカルも含めて機械関係は余計な情報が一気に流し込まれて処理が出来なくなり暴走して世界が大変なことになるんです」
……。静寂。Aにしは珍しく、何を言うべきか悩むように無言でオセロの駒を動かす。
そうして、数手が過ぎた。
「陰謀論、って奴か」
「……まぁ、そうとも言います」
これに対し証拠などは僕は何一つ示せない。だから僕が出来ることは一人で生き残るための修行をするだけだ。
「僕の戦闘スタイルが、魔法をなるべく使わない近接戦闘なのも現実に
このゲームでの最強候補に躍り出ている理由がこれだ。
現実世界での、ゲームと同じくらいの身体能力の高さ。
そして、他ゲームも含めて戦闘スタイルを近接戦闘で固定していること。
魔法などは現実で流用できないし、ゲームによって扱いが違う。だが近接戦闘なら基本はどのゲームでも同じだ。
「なるほどね。高校生にしちゃ、随分と強ぇと思ったがそういう事情があったのか。アルミホイルヘルメットとかも用意してるのか?」
「はい。僕は接続者みたく体にチップを埋め込んでないので不必要ですが、必要となる人も出るかもしれないで家に何個か用意してますよ」
全人類の9割以上が、接続者と呼ばれ体にチップを埋め込んで裸眼でARを知覚出来るようになっていて、ネットサーフィンも出来るようになっていた。
残り一割以下の時代について行けてない、体にチップを埋め込まない
僕はそこまで思想は強くないが、接続者になると来るべき日に暴走してしまう危険性があるため、チップを埋め込んでいない。
僕のゲームでの名前も
「そ、そうか。アルミホイルか」
Aの顔が少々引き攣っていた。見慣れた反応だった。同級生達も似た様な反応をし、僕と関わるのを止めた。
馬鹿なことだ、とは思わない。証拠も無しにそんなことを言われてもこうなるのは当然だろう。
でも、これは絶対に起こる。僕はそう信じてるし、だからこそ準備を怠る気持ちもない。
理解して貰いたいわけじゃない。ただ、頭の片隅に残して貰えれば、実際に起こったときに少しでも早動けるようになる。
ここで別れたとしてもこの陰謀論は彼の頭の中に残り続ける。それなら、いい。
「よし、俺も仕事上そう言う情報は入ってくる。現実に戻ったら調べといてやるよ」
「……え? いや、あの、陰謀論者ですよ。僕」
「まぁ、そうだな。そんな陰謀論初めて聞いたし、どっちかの言うと現代版終末思想にも見えるが、どっちみちあんまり堂々と言う類いじゃねぇな」
「現実で関わるのは止めた方がいいんじゃ」
「あー、仕事柄そう言う奴ら相手にするの慣れてるからな」
想定外としか言うほか無い。
信じられない。こんな告白をして、なぜ普通でいられるのか。
「別にお前の言う情報氾濫云々を信じたわけじゃないぞ。お前を信じただけだ」
なんと返せばいいか分からない。こんな風に言ってくれる人は初めてだった。
皆は離れていった。僕は騙されていると笑った。
体の改造を見て、コイツはヤバイと悟られた。
「それによ、脳筋のお前が悪意を持って俺を騙すわけねぇからな。はっ、俺の勝ちだ」
勝利宣言をするA。彼の置いた黒のオセロに応じて、白一色だった場面が真っ黒に染まり始める。
あれ? まずくない。
おける場所を探す。あった。一枚しかこっちに裏返らない場所だ。これでは逆転できない。
「え? あああ! 嘘でしょ。僕がさっきまで勝ってたのに。嘘だ、Aも僕と一緒でいろいろ考えてる風の理論より物理だタイプだと思ってたのに」
「わるいな。俺は頭脳派なんだよ」
「なるほど。でも、序盤は僕が優位でした。頭脳派に優位に立ててた僕もまた、頭脳派と言うことですね」
「……そうだな。お前も頭脳派だ」
不思議だ。若干の間があったせいか、全くそう思ってそうに感じない。
「頭脳派として一つアドバイスして置くぜ。かぷちーの達にはそれ言うなよ。あの二人はマトモなんだから、そんなこと言ってると真面目にお前の事心配し出すぞ。今ですら、お前の事滅茶苦茶心配してるのに」