にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
マ〇カーをアンジュ達と遊んでいた後の記憶がないが、起きた時のアンジュとリゼさんの反応を見る限り相当体調が悪かったみたいだ。
戌亥さん? はは、ジャガイモを一つ渡された程度かな。
蒸かして渡したらペロリしてたよ。
「奈田君! さ、責任取ってもらおうやないか! 私と結婚や!」
「ごめんなさい」
「なんでや⁉ なんでみんなそうやって私を振るんよ!」
「そう答えるのが正解だと思ったからです」
「ちゃう! 聞きたいの正解やないんや! ここの話やん!」
胸を叩くアンジュ。ドンドンとまな板を叩いたような音がした。
「……」
「……」
「なんやこっちか⁉ こっちがええんやろ⁉」
「ひぁあ⁉」
激高したアンジュが突然リゼさんの胸を叩く。
今度はドンドンなんて鈍い音はせず、ポフッという柔らかい音がした。
「ウチにもこれがあれば……このバインバインがあれば……」
「ちょ、ちょっとアンジュ! 変態! 人の胸触って絶望しないでよ!」
「振られて傷ついた私を癒してくれるのはこれしかないんよ! このおっぱいが全てを救済するんや!」
「せんわ⁉ アンジュだって錬金術師なら自力で大きくすればいいでしょ!」
目を潤ませながらリゼさんが言い放つと、手をワキワキさせていたアンジュの動きが止まる。
カチと地雷を踏んだ音が聞こえたのは俺だけではなかったようで、リゼさんも戌亥さんも「あ」と小さくこぼしていた。
「あは、あはは……私がそれを試さないわけがないんだよなぁ……」
「ご、ごめん……アンジュ、私そんなつもりじゃ……」
「いいんだよリゼ。私だって分かってる……あのとき一番に慰めてくれたのはリゼだもん」
なんだろう、何があったんだ? 絶対なんかあったよね、でないとその全てを悟ったみたいな表情できないだろ。
「アンジュ、傷を抉るようで申しわけないんだが。何があったんだ……?」
「へへ、ウチな? 前に試したんよ、研究を重ねて作り上げた魔法陣を使ってあのバインバインをウチも手に入れようとしたんやで……そしたらな、ちょっと失敗してもうてな……」
聞く限り地雷と呼べるほどのことだろうか?
よく聞く牛乳を飲めば背が伸びる迷信を信じて、毎日飲んだけど伸びなかった話とほとんど違いを感じられない。
しかし、三人の顔はそれだけじゃないことを物語っていた。
「バインバインを手に入れられなかったのか?」
「あ、あの……奈田さんがバインバインっていうのはちょっと、その……」
顔を赤らめて言いにくそうにするリゼさん。
話している相手がアンジュだから失念していた、この部屋には女性が三人もいるんだから言葉には気を付けるべきだった。
……んー、それだと俺がここで聞いているのもダメな気がするが。
「いんや、一回はな、一回は手に入れたんだ……バインバインを」
「なら万事解決だろ……いや、今の状態を見るとそうじゃなかったんだな」
地平線だもん、絶対やらかしてるじゃん。
ん? 俺はどうしてこの話を信じてるんだ、戌亥さんがケルベロスなのは事実として知っている、だけどそれはアンジュの語る錬金術を説明するものではない。
リゼさんだって、見た目は確かに高貴な人の空気をまとっているが話してみれば普通の女の子だ。ちょっと暗いところはあるけど。
……考えても仕方ないか、もともと地頭がいいわけでもないし。ケルベロスがいたんだから錬金術でも魔術でも、なんだったら吸血鬼とか悪魔とかもいるだろ。
「錬金術を使ったとき、最初は順調に大きくなった。リゼのバインバインを超えていにゅいのバインバインを超えることができた……」
ふーん、なるほどね。リゼさんより戌亥さんのほうが大きいのか、いや別に気にしてないけど。
だからリゼさん、顔を赤くして体を庇う仕草はやめてください。余計にあれな感じになるから。
そして戌亥さんは……気にしてないな、そうだよね。
「ただな、一個だけ術式にミスがあったんよ」
「ミス……」
「大きさの上限を決めてなかったんや……」
「あ……」
結末が見えた。
「私のバインバインは人間の基準を超えてどんどん大きくなったんだ……そして」
あまりに膨れて破裂した? 大きすぎて身動きが取れなくなった?
「そして、ロケットになったんや」
「ちょっと待てやコラ」
あんな深刻そうに引っ張って最後にオチ持ってきやがったぞこの貧乳錬金術師。
大きくなったのはまだ納得するが、大きくなってロケットになるってなんだよ……。
え、ロケットだよね? 軍隊が使うあのロケットだよな?
「ち、ちちちち違うんです奈田さん!」
「リゼさん……でもロケットはないでしょ。せめて破裂とか動けなくなったとかだと思うじゃないですか」
「分かる! 凄く分かるんですけど本当なんです! アンジュの胸が本当にロケットになったんです!」
「そりゃもう体から真っ直ぐ垂直におっぱいが完成したんだ……これが本当のロケットおっぱい、つってね」
「なんも上手くねぇよ」
話を聞く限り大層馬鹿げた内容だったが、それを語る本人はすごい落ち込んでいる。
これ以上責めるのは止めよう……俺はアンジュの肩にそっと手を置いた。
「な、奈田君! やっと私を――」
「貧乳はステータス、物好きはどこにでもいるから安心しろ」
「そんなこと言わんで私と付き合ってぇな! そして結婚しよ! 子供いっぱい作ったろうやないか!」
ば、バカ! ここには成人もしていない子がいるのになんてことを言いやがる!
「こ、子供……」
あーほら、リゼさんがまた顔を赤くして顔を伏せちゃったよ。今日何回目だよ……。
「結婚しないし、付き合わない、俺はまともな女の子がいい。偏食家じゃないんでな」
「でもほら、ゲテモノほど美味い言うやろ? つまり私もめちゃくちゃ美味しいはずやで? どんな私でも好きになってよ、受け入れてよ!」
「めちゃくちゃ美味しいって、めちゃくちゃゲテモノってことだろ。胃もたれしちゃうよ嫌だよ」
「もうダメや……奈田君でダメやったら私はもう誰とも付き合うことはできへんやん」
別にそういうわけじゃないと思うけど、この三人の中だったら一番異色感はある。
俺はできる限り柔らかい声を意識して、優しくアンジュに語り掛けた。
「大丈夫だアンジュ。きっといい人が見つかる」
「ほ、本当か? その言葉、信じてええんか?」
「あぁ! アンジュは見た目だけはいいからな、後は一生口を開かなければ多分行ける!」
「はは、なんでやろ。慰めてもらえてるんだよね? 何で心がこんなにも痛いんやろ?」
「よかったねアンジュ、顔だけはいいってさ。ほら、ドンと胸を張りな」
「どうしたんリゼ、今日キレッキレやん。私リゼの才能なめとったわ」
楽し気? なやり取りを続けていると時間は圧倒言う間に過ぎていき、時間は三人のコラボ配信の時間になっていた。
友人以上の関係ではないが、それでも彼女たちのファンからすれば男の影一つでもあってはいけない。俺は自室に戻り、三人は戌亥さんの部屋で配信に臨むことになった。
「お待たせ、まった?」
アンジュが掛け声と共に胸をドンと叩くことで配信が始まった。
同じ屋根の下で方や配信、方やその配信をユーチューブで視聴しているのだが、三人の掛け合いは今日一日で見てきた彼女たちそのものであり、本当に仲の良い三人組なんだな。
裏表を感じさせないところが彼女たちの魅力の一つなのだろう。
さんばかというグループで活動する彼女達は、デビューしばかりだというのに人気がかなり高い。
そんなファンの一人になっていた俺にとって、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「お疲れ様でした! バイバイ!」
「さいならー」
「じゃあねー」
「いや挨拶はせめてあわせよ?」
最後の最後までだれることなく終わった配信を見終わった俺は、映画を見終わった後のような不思議な感覚をため息と共に落ち着ける。
配信も終わったことだし労いも含めて飲み物とかちょっと食べられるのを作ろうか、と思って戌亥さんの部屋に向かい扉を開けようとしたところで、扉の先から聞こえてきた声に手が止まる。
「いやー! 終わった終わった-!」
「とこちゃん楽しかったねー!」
「せやねー。今度はアンジュかリゼの家でやりたいなぁ」
「へへ、いーにゅい。私の家ならいつでも開けてまんがな」
「とこちゃん止めた方がいいよ、アンジュの部屋すっごい汚れてるし」
「汚れてないが⁉ ピッカピカやぞ⁉ 風評被害止めてもろてええか?」
「私ケルベロスだから、地獄ほど汚くなければ大丈夫よ」
「んー……ギリ?」
「あれ? 私の部屋と地獄の天秤ってそんなに傾かない? 結構私の部屋で圧勝だと思ってたんだけど……」
配信終わったんだよね?
まるで今でも配信が続いているんじゃないかと思うほどに変わらないやり取りに、思わず携帯でユーチューブの配信画面を見て配信が本当に終わっているのかを確認してしまった。
ちゃんと配信は終了されていた。つまり、配信後も彼女たちはこうして変わらず楽し気に遊んでいるのか……。
「そういえばとこちゃん」
「んー?」
「奈田さんって今日みたいに体調を崩すことってよくあるの?」
「戌亥の対応結構早かったよな、慣れてる感じ合った」
「慣れてはないけど……奈田クンが倒れたのだって今日が初めてやったし」
「へぇ、流石とこちゃん。私なんてアタフタしちゃったよー」
「リゼはどっちかというと保護される側だしなー、王国に戻れば他の王家の皆からめっちゃ可愛がられるし」
ナチュラルに王国発言……。
俺、ここにいていいのだろうか? 黙って戻るのが正解なんだろうけど、いかんせん離れがたい。
裏話を聞いているような感覚に俺はこの場を離れる選択を取ることができないでいた。
「家の話はいいの! アンジュだって毎日錬金術の研究だー! とか言って、のめり込んで最終的に特級呪物作ったりしてたじゃん!」
「なんしてあの私の力作をそこまで貶せるの? ひどくない? 結構頑張ったんやで?」
「じゃあ今度とこちゃんに見せようよ」
「いーやーや! 見世物ちゃうんやぞ! 私の夢の青春を詰め込んだ聖書ぞ!」
「やーい、彼氏はできないくせにちょっと重い女の子に付きまとわれちゃうから、そうやって夢想しちゃうんだよー」
「ふ、ふん! い、いにゅぃはそんなこと言わへんもんな? な?」
「……アハァー!」
「いやいや、気まずいアハァー辞めてもろて、なに? 戌亥もそっち側? 明言されない分余計にダメージなんだけど……」
「へっへーんだ、とこちゃんはこっち側ー。アンジュは一人でピンク脳を育ててればいいんだよー」
特級呪物、気になる。
どうしたら夢の青春を詰めたら呪物になるんだよ。青春の一ページってそんな危ないものだっけ?
しかし、これ以上いるのは男としても人としてもどんどんゲスになっていく気がしてきた。
潮時だろう。そう思い離れようとしたときだった。
「い、いにゅぃ。奈田君って彼女とかいるんかな?」
まさかそっち方面で自分の名前が上がるとは思っていなかった。
一度は決心した足が再び止まる。
「どないしたん、急に?」
「アンジュ、アンタもしかして……」
「いや⁉ ちゃ、ちゃうんよ? そういう意味じゃなくてさ、ほら今って戌亥は奈田君の家に同居してるわけじゃん。だからちょっと心配でさ」
「心配……てなにが心配なん?」
「戌亥とそういう関係なのかなって……一応私たちもこうやってにじさんじって母体の中で活動しているわけだしさ……だから」
「アンジュ、そういうのよくないよ? お仕事はお仕事だけどさ、でもプライベートがあってのお仕事じゃん」
「いや、だからこそもしも付き合ってたりするなら、私とリゼでサポートしていけたらって思ってるんよ」
「あーそういうことね。それなら全然……とこちゃん、どうなの?」
そうか、そうだよな……。
アンジュの言葉を聞いたとき心臓にチクりと針の刺さる感覚がした。
表舞台に出ているということは、裏側を常に意識しなくてはならない。ましてやアイドルとして人気もある戌亥さんならなおさらのこと。
「奈田くんとは付き合ってへんよ、店長とバイトって関係でしかないかなー。奈田君も誰かと付き合ったりとか、特別仲良くしてる人いないんとちゃうかな?」
「そうなんだ、ちょっと安心しちゃった。とこちゃんの彼氏とかだったら私多分ギクチャクしちゃう気がしたから」
「なるほど、奈田君はフリーなんやね……げへへ」
「アンジュ……まさか……」
「ち、違うよ? 別にただフリーなら私がちょーっと仲良くなるために手伝ってもらえないかなぁとか思ってるだけだよ?」
「何も違くないが? なんでとこちゃんに聞いた後にそれ言うのよ。アンジュこそ視聴者に叩かれるよ⁉」
「い、いやぁ……なんでか知らへんけど。皆煽ってくるんよ……むしろ作れ! 的な感じの雰囲気あるし……」
「完全に同情されちゃってるじゃん」
「わ、私年齢的にもアレじゃん? 錬金術は年をとってもできるけどさ、恋愛っていうのは期限があるわけで……。今日奈田君と戌亥の話してる感じ見てたら羨ましくなってきたというか……」
「え、私と奈田くんの?」
「こ、コイツ……拗らせてやがる……」
拗らせてやがる……誰かいい男! アンジュを救ってくれ!
ゲテモノ好きなイケメンがアンジュの前に現れることを祈ることしか俺にはできない!
それにしてもアンジュの言葉、以外にも俺も刺さるんだよなぁ。
彼女とか出来たことないし、客とスタッフとして仲良くしてくれる人はいるけど、男女として親交のある人と聞かれれば居ないとしか答えられない。
「拗らせてるとはいっても、とこちゃんの目の前でそれを言うのは人としてどうなの?」
「だ、だから最初に聞いたじゃん! ただの同居人で、恋人じゃないって……」
「変なところに気を使ってどうするのよ」
「うぅ……わ、私だってキャピキャピたかったんや……奈田君の腕って意外と太くて逞しかったし、支えてもらったとき本当に胸がキュンってなったんよ。初めてやったんよ!」
「開き直られてもこっちが困るだけなんだが? とこちゃんもなんか言ってやんなよ」
「別にええと思うよ?」
「「え?」」
え?
「だってな? アンジュがもしも奈田くんを好きになることは自由やん。相手が悪い人間ならともかく奈田くんはおもろい人なんよ、だから私とかリゼがとやかく言えることやない」
「い、いぬい。じゃあええんか? 私、頑張ってみてもええんか?」
「ええんやで。奈田くんもアンジュに色々言ってるけど、それってストレートになんでも言える相手って気を許してるってことやろ?」
「や、やったー! いにゅぃ公認や! ガンガン行ったるでー!」
「でもいいの、とこちゃん? もしも、万が一、億が一アンジュと奈田さんが付き合っちゃったら気まずくならない?」
「そんな言う? もうちょっとオブラートとかなかったんかな? ないなら私のあげるよ?」
「大丈夫! 私そういうの気にしないし、それに……」
「それに?」
「大事なんは過程やなくて、結果やし」
「お、男前だ……」
……いや、そこは止めてくれよ。