にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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戌亥17

「子供が作りたい好きなんやけど……」

 

 へぇ……ほぉ……ふぅん……嘘だろぉ……。

 

「戌亥大丈夫か? 病院行くか?」

 

「なんでや、私おかしなこと言うてへんやろ」

 

「いや十分変だと思う、俺人間、貴方ケルベロス。おーけー?」

 

「おーけーおーけー、私のことバカにしてるってことは分かったわ」

 

 だって俺人間だし、ケルベロスが人間好きになるとか信じられないだろ……。

 

 ……でも戌亥って嘘が嫌いなんだよな。だからこそ今まで彼女の言うことは全て真実なんだと、疑うことなく受け取ってきたわけで……え、まじ?

 

「……本当?」

 

「なんべん言わせんねん……。異種族なんて普通やし、私の生みの親もそうやし」

 

「い、言われてみれば……え、じゃあ本当の本当に……?」

 

「はぁ、面倒やなぁ……次同じこと聞くなら仕置きするで」

 

「ご、ごめん……」

 

 やばい、凄く気まずい……。

 というか思ってもみなさすぎて頭真っ白だよ、さっきまでのシリアスムード完全に壊れたんだけど……。

 

 でも、これって告白されたってことでいいんだよな? そうだよな?

 くそっ。こういうときに限って女性経験ゼロの弊害が……!

 

「い、戌亥。す、好きだって言ってくれたのは、嬉しいんだけど。返事はちゃんと考えてから出すようにするから……」

 

 流れで付き合うなんて良くないしな。

 しっかりと考えて、お互いに後悔のないようにしなくては。

 

 男はいつでも誠実に、俺の名言。

 

「返事ってなに?」

 

 ……おや、雲行きが。

 

「え、と……その戌亥は俺のことが……す、すす、好きって言ってくれたら、その、つ、付き合う付き合わない的な話になるんじゃ……」

 

「……あっ」

 

 なにかに気付いたと目を見開く戌亥。

 よかった、話が通じなさすぎて一瞬俺が色々やばい奴なのかと思ってしまいそうだった。

 

「人間はそうやったっけ?」

 

 おっと、そのパスは想定できなかった俺が悪い。

 

 現代日本で交際をせずに結婚する人もいると聞いたことはあるけど、でも大抵は見合いだったり交際関係じゃなくてもそれなりの関係だったりするはずだ。

 

 そうなると、今戌亥が話しているのはあっち側での価値観なのかもしれない。

 

「まさか、神って違うの?」

 

 そう聞けば頭を悩ませる戌亥。やっぱり人間とは少し違うっぽいな。

 

「う~ん、私の場合は友人のしか知らないんやけど。前にその友達が花を摘んでる女神に惚れたー言うてな、どっか行ったと思ったら攫ってきたんよ」

 

「へっ⁉ それって誘拐じゃん!」

 

「それでな、結婚してもうてな」

 

「話が1話で終わったっ⁉ 絶対間に擦った揉んだあっただろ!」

 

「ない、今でも仲良うしてるで」

 

「神って……なんなんだ……」

 

 ……友人が誰かは知らないけど恨むぞ!

 

 でも、そういうことなら戌亥さんが俺を好いてくれていることは事実なのだろう。

 憶測でしかないが、好き嫌いを隠すなんて感覚すらないのかもしれないし。単純に今までは俺が気付いてなかったということか……。

 

 よし、意識切り替えてけー。気張っていこー。

 

「大丈夫か? さっきから顔キモいで」

 

 へぇ……辛辣じゃん、ちょっと泣きそうになったよ。

 

 あ、そうか。今まで好きな状態でアレだったから、今更彼女の反応が変わるとかもないのか。

 …………今までのアレコレまったく解決してなくね?

 

 むしろ約束云々も俺が好きでしてるってことは今後もソレは増えるわけで、間違えたら精神崩壊必須の拷問を喰らわなければならないってことじゃん。

 

 ……悲報。もはや人生詰んでた、しかも冥界の番犬だから死んでも逃げられねぇ……!。

 

 なるほどね、俺って今そういう立ち位置にいるのか。

 ふんふんふん……。

 

 ま、好きでそういうことをしてくるなら嬉しいと思えたから万事オーケーということで。

 

「じゃあ話を戻してバイトを増やすかどうかについて、しっかりと話し合おうか」

 

「急に冷静になったな、というか嫌なんやけど。結局話なんて進んでないやん!」

 

「いや進んだ! 文明開化の音が聞こえた! 嬉しすぎてニヤケが止まらないけど、今日中に決着付けるぞ!」

 

「もうなに言うてるのか全然分からへんやん!」

 

 その後、人生最高潮に有頂天になっていた俺は戌亥に怯むことなく戦うことができた。

 戌亥は最後まで嫌の一点張りだったが、最終的には不承不承ながらも妥協案に小さく頷いてくれた。

 

 初めて戌亥に勝てた気がする。

 

 

 ――数日後。

 

「こんちゃーす!」

 

「こ、こんにちわー……」

 

「……まいど」

 

「いぬぃどうしたん? めちゃテンション低いやん、ほらアンジュの笑顔で元気だしな!」

 

「体調悪いの? 私の水筒、あ……今日ブラックコーヒー入れてたんだ。ごめんとこちゃん」

 

「体調は悪くないから気にせんでええよ、ありがとうなリゼ」

 

「いぬぃ? 私だって気に掛けてたよ?」

 

 定休日のお昼時、リゼさんとアンジュが訪ねてきた。

 出迎えた戌亥はめっちゃ不貞腐れてる。尻尾を見る限り二人が来たこと自体は嬉しいはずなんだけどな。

 

 二人からは見えていないけど、左右にゆらゆら揺れてるし。

 

「ごめんね急にこんな話をしちゃって」

 

 店の中に入って貰った後、お茶と簡単なお菓子を出した俺は二人に対して謝罪した。

 

 リゼさんとアンジュに来て貰ったのは、戌亥と決めたバイト雇用の妥協案についてだからだ。

 

「いいですよ、私も配信以外でバイト探してましたし」

 

「私はリゼと戌亥がいるなら全然OK!」

 

 俺が出した妥協案、ちゃんと聞けば戌亥が嫌がっていたのはこの店に知らない人を入れたくないということだった。

 であれば回避策は簡単。彼女にとっての友人であるリゼさんとアンジュにバイトとして来て貰うことだ。

 

 方や皇女で方や錬金術師ということもあり、毎日はできなくても週に数回程度なら大丈夫だと快諾して貰えた。

 

「それでバイトを始める前にいくつかの確認事項と、書いてくるようにお願いした紙を貰えるかな?」

 

 戌亥にもバイトを始める際に出して貰った必要書類と、食品と動物を扱うためアレルギーなどの確認を行う。

 

 幸いに二人とも体質的な問題がなさそうだったので、後は適性能力の確認だけとなった。

 

「二人にはフロアを担当して貰う予定なんだけど、一応料理もできるか確認していいかな?」

 

 女性だから料理ができるなんて偏見はない、というか本業な分俺の方が上手くないとダメなんだけどな。

 だが、俺以外にも料理ができる人がいればフローの組み方も広げることができるし、場合によってはより効率のいいタスクも組める。

 

「わ、私は最近始めたばかりで……ハ、ハンバーグとかなら……」

 

 おずおずと答えてくれたのはリゼさん。ハンバーグなら包丁もある程度は使えるな。

 

「ハイ! ハイ!」

 

「はい、アンジュカトリーナ一等卒さん。お答えください」

 

「ア、アハハ……なんか配信見られてるんだって思うと恥ずかしいなぁ」

 

「うぅぅ……恥ずかしぃ……」

 

 頬をポリポリするアンジュの隣で、リゼさんが耳まで赤くして顔を両手で覆った。

 や、やばい。アンジュ向けたつもりが、リゼさんの方に被害が。

 

「そ、それよりもアンジュは料理とかできるのか?」

 

「ハイ! この間ピーラーで指先なくなってからご無沙汰です!」

 

「うわ⁉ 痛い痛い!」

 

「ちょっとアンジュ! もうちょっと言葉選んでよ! 私まで怖くなっちゃうじゃん!」

 

 ピーラーでは起きやすい事故ではあるけど、アレで結構怖くなっちゃうんだよな。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「痛い経験を思い出させてこっちもごめん。とりあえずは予定通りフロアをお願いするよ」

 

 料理はできなくても、全部が全部調理して出すわけじゃないし。

 盛り付けだけのとかなら比較的簡単だ、そこから始めて貰うのもありかもしれない。

 

「そういえばとこちゃんは料理しないんですか?」

 

「いぬぃって料理できなかったっけ?」

 

「……できるでー」

 

「できるけど、なぜか戌亥に任せると食材が減るから……とくにジャガイモ」

 

「私悪くないもん、ジャガイモが勝手に私の口に飛び込んでくるだけやし」

 

「もうそれ食べてるんよ、好きすぎでもはや無意識じゃん」

 

「それじゃ、最初の確認も終わったからこっからはバイト前の練習をしよう。着替えは更衣室に入ってるから、着替えてきて」

 

 戌亥がバイトを始めるとなったときに一式用意したのだ。

 買ったはいいが、元々彼女が着ている服が給仕にピッタリすぎて、使われることはなかった悲しき制服達。

 

 結局、新品同然でタンスの肥やしになっていたあいつ等を供養できるな。

 

 更衣室から戻って来た二人の姿は見違えるほどに劇的だった。

 

「おー、流石に美形は何を着ても似合うな」

 

「わっはっはっは! 惚れてもええんやで?」

 

「あはは……ちょっと不思議な気分です」

 

「ええやん二人とも似合ってるで!」

 

 犬カフェということもあり、バイトの制服は男女関係なくパンツにしている。

 二人とも脚が長いモデル体型だから、思わず見惚れてしまいそうなほど似合っていた。

 

 リゼさんはその長い髪が邪魔にならないようポニーテールに縛っていた、いつも以上に凛としてかっこいいと可愛いを混ぜたみたいになっていた。

 聞こえる……聞こえるぞ。新たな客の足音が……。

 

「奈田君悪い顔しとるでー、悪代官にしか見えねえ。へっへっへっ、旦那ぁ悪だくみするならアチキも手伝いやすぜ?」

 

「あはは……奈田さんって普段優しいですけど、ちょっと意外です」

 

「そうかな? これでも経営者ですから、少しでも利益になるなら見逃す道理はないですね」

 

 戌亥同様、二人を目当てに女性のお客さんが増えそうだ。

 

「うちは犬カフェなので基本は従業員である犬達を見てもらいながら、同時並行でフロア業務をしてもらうことになります」

 

 ここが一番他のカフェとかと違う動物カフェの特徴だな。

 

「犬達は調教してあるから基本問題ないけど、攻撃されれば逃げるし抵抗も当然にする。たとえお客さんが先になにをしたとしても店が受ける被害は一緒、どれだけお客さんが傷つけられたか、どれだけ管理を行えていたのかに左右されます」

 

「そうですよね、噛まれて血が出たりしたら大問題ですよね」

 

「勿論、来店していただく際には事前注意、注意喚起のポスターもはってあります。それで大抵は理解あるお客さんが来てくれますが……例外は幾らでもあります」

 

 ナンパ男とかな。

 バイトを始めてから戌亥をナンパする男性客も現れたぐらいだ、戌亥ファンの視線と本人のストレート暴言を喰らって大抵が逃げ帰っているが。

 

「なので、犬達の様子を一番に注意をお願いします。問題が発生した場合は俺が担当するから直ぐに声を掛けてください」

 

「おー、奈田君頼もしいなー」

 

「で、でもお客さんと問題があったときってお店に不利ですよね……。強気にこられたら私、ムリです……」

 

「うちは完全に個人店だから、言い方は良くないけどこっちに正当性があれば他よりも強気に出れるよ。無責任なことは言えませんが、二人になにも起きないように努めるので安心してください」

 

 地域に根差した店というのはこういう時に有利だ。

 そう言えばアンジュ元々平気そうだったが、リゼさんは安心したように息を吐いた。

 

「そう言えばさっきから奈田君敬語じゃん、どうしたん?」

 

「サービス業でタメはちょっと難しいですからね、営業中はこっちの口調です」

 

「なんか普段よりもビシィ! としてるやん」

 

「あはは、今のアンジュさんに言われると素直に喜べませんね」

 

 見た目だけで言ったら誰が見ても負け確定だ。

 スタイル良し、顔良し、話し方も気さくで明るい。中身さえ見なければ非の打ち所がない。

 

「わーお、喋り方きざやん! 私の奈田君を返してくれ!」

 

「こっちの方が意外と受けがいいので、恥は捨てていきましょう」

 

「私ちょっと不安になってきちゃった……。上手く喋れるかな……?」

 

「大丈夫やん! リゼは考えすぎなんよ、配信じゃもっと多い数に見られて話してるやん」

 

 薄い胸を張るアンジュさん。確かにあれだけの人に見られながら喋ったり歌ったりできるのは一種の才能だ。

 もしも、俺がその立場にいたのなら二言以上の言葉は出てこないな。

 

「それとこれとは訳が違うよ! 配信はあくまでもチャットだからどうにかなってるだけだもん! 王国民が全員後ろで見てたら私灰になってるよ!」

 

「リゼさんならすぐに慣れますよ。もしも本当に難しければ、お客とのやり取りが少ない仕事を担当してもらえれば十分ですから」

 

「あーあ奈田君はリゼにだけ優しいよなー。私にももっと愛情を持って接しろ―! バイト一日目でストライキ起こすぞー!」

 

「アンジュさんの場合はなんでもそつなく熟せそうですし……。でもアンジュさんも女性ですから、困ったことや力要因が必要なら――」

 

「奈田君に頼ってええんか⁉ さっすが頼れる男はちが」

 

「戌亥さんにお願いしてください」

 

「ありゃぁ……奈田君が一気にかっこ悪く見えたよ」

 

 何とでも言うがいい、この場で最も身体能力に秀でているのは戌亥さんだ。異論は認めん。

 

「成人男性を片手で持ち上げられる人がいるなら、発言を撤回しますよ」

 

「なにその戦闘民族みたいな思想」

 

 顔が引きつるアンジュさん、そしてリゼさんが何かに気が付いた様に声を上げる。

 

「成人男性を片手で……も、もしかして……」

 

「……ハハ」

 

 いやーあの時はビックリした、まさか胸倉掴まれたまま地面から足が離れるとは思わなかった。

 そのくせ持ち上げた本人は重さを感じていないときた、力で勝とうなんて元から諦めていたけど、種の違いを見せつけられた一件だ。

 

「そ、それじゃ。色々言いましたけど早速挨拶の練習からしてみましょう! 大切なのは一に声、二に笑顔、最後に姿勢をビシッと決めればOKです!」

 

「リゼ、奈田君無理矢理なかったことにしたで」

 

「わ、私に言わないでよ……」

 

 そうして練習できるところから始めることにした。

 リゼさんはリズム感も良いためか、言えば理解するし、何度か反復すればテンポよく吸収していく。

 

 アンジュさんはリゼさんと正反対、圧倒的に体を使うことに慣れてない感じだった。

 バランス感覚に至っては致命的で……どうして手に持ったお盆よりも先に、持ち手がバランスを崩すことができるんだ?

 

 とは言っても二人が真剣に取り込んでくれたおかげで、概ねの練習を終えるころには明日からでも働けるぐらいに上達してくれた。

 

 二人のあまりの集中力には脱帽ものだ。

 

「じゃあ最後に俺と戌亥さんがお客さんとして来るので、最初から通しでやってみましょう。失敗するのも練習なので最後まで笑顔は忘れないようにしてください」

 

「よっしゃみせてやんよ!」

 

「は、はい!」

 

 アンジュさんはともかくリゼさんの返事は緊張から硬くなっていた。

 練習とはいえ実際にお客を相手にするとなれば最初は緊張してしまうものだ、そういったのも含めての練習だからリゼさんには頑張って貰うしかない。

 

 戌亥さんと一度店を出て、少しの間を置いてから入ろうとした時だった。

 驚くほど弱い力で袖を引っ張られた。

 

「い、戌亥さん?」

 

「なあ、奈田くん。えらい二人と楽しそうやったな?」

 

 袖を掴んでいる戌亥さんを見れば、少し不満げに頬を膨らませていた。

 可愛いかよ。

 

「そ、そうですかね? まあ遊んだこともある中ですし……怖がられるよりはいいと思いますけど」

 

「ふぅん……」

 

「あ、あのぉ……何かありました?」

 

「知らん、ケルベロス心が理解できひん奈田くんには教えて上げへん!」

 

 戌亥さんは言い捨てると店に入って行ってしまった。

 

 理解できないことには申し訳ないと思うが、ケルベロス心を理解できる人っているのだろうか……。

 

 もしかして二人に嫉妬してるとか……?

 ……ない、ナイナイナイナイ! 絶対にない! 我ながら自己嫌悪に陥るぐらいにはヤバイ発想だぞ!

 やばい顔が熱い、学生以来の羞恥心にダラダラと汗が流れる。

 

 はあ、女性経験皆無の男はこれだから黒歴史を量産してしまうんだよ、多分俺が気付いてないだけでやらかしてたんだな。

 

 後でどう謝罪するべきか、レパートリーが増えつつある土下座フォームをピックアップしながら、俺も戌亥さんの後を追いかけて店の中に入った。




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