にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
「犯す」
強い力で床に寝かされ、端的な言葉と共に容易く破かれていく服、その光景を茫然と眺めていた。
抵抗の一つでも……できるわけがない。
着物を着こみ獣耳を生やした美女が、欲望のまま嬉々とした表情を浮かべ、本来頑丈なはずの衣類をブチブチと破っていく姿に圧倒されていたのだ。
「なんや、少しぐらいは抵抗すると思ったんやけど……。奈田クンもそのつもりやったん? そんなら早う言うてくれればよかったんやで?」
そんなわけない。
たとえ誰もが振り返る美女だとしても、柔肌からは想像もできない腕力で服を引き裂き、自尊心を踏みにじられて喜ぶ趣味はない。
「最初からこうすれば良かったんや、難しいことなんてない。取られるかなんて悩むのは私らしくなかった」
恍惚な笑みを浮かべながらも、戌亥の手はいっそ献身的な働きを見せる。
どれぐらい経ったのだろう、夢でも見ているような光景は終わりを告げた。
「あはぁ……なんやろなこの気持ち、初めてやわぁ」
独特な笑い声が鼓膜に届けられる。
顔を赤くし、だらしなく目じりを下げた戌亥が俺の露出した胸板に頬を擦り付ける。
そこにある心音を楽しむように、時折動きを止めては我慢できないと全身を使って動き、お互いの体が揺れる。
「いぬ、い……止めて……くれ……」
どこも圧迫されていないのに、声は小さく絞り出すようにしか出せなかった。
だが、戌亥は自慢の耳で俺の言葉をしっかりと聞き取っていた。
「なんで? なんで嫌なんや? 奈田クンも嬉しいやろ?」
「嬉しくない、こんなことされて……」
「こんなことって、どんなことや?」
わざとらしく戌亥が首筋を舐める。
何度も経験したザラリとした彼女の舌の感触、首筋という人体の急所は腕なんかよりも鮮明に脳へと情報を送り込んでくる。
喰われる、と。
「なあ……教えてくれへんの? なにをされるんが嫌なんや?」
挑発なのか、それとも俺の反応を弄びたいのか。ザラザラとした感触は首筋以外にも魔の手を広げていく。
首元、鎖骨、右腕、指先とマーキングでもするかのように這っていく。
「奈田クンの指って嚙んでると落ち着くんよなあ、なんでやろ? これからは毎日噛んでもええか? ええよな? 嫌がったら噛み千切るから気ぃつけてな?」
俺の人差し指を甘噛みする戌亥。
了承もへったくれもない一方的な命令、だが俺には頷く以外の選択は与えられていない。
頷かなければ数秒後、俺の人差し指は文字通り彼女の手に渡るからだ。
「わ、分かった……噛み千切らないでくれるなら、構わないから……」
皮膚を軽く食いちぎられたときの痛みを思い起こす、指を噛み千切られたときの痛みなんて想像もしたくないのに、不思議と高い解像度で想像できてしまった。
「やった! すっごく嬉しいわぁ……! やっぱ嫌やなんてなしやからな、奈田クンがええよって言うたんやからな?」
暫く右手の指をそれぞれ堪能していく戌亥。
噛むだけなら人差し指、しかし一番お気に召したのは親指だったらしい。
どうやら咥えた状態でも掌が頬に触れられる親指が、総合的な軍配を制したとか。
他人の右手を両手で掴み、傷をつけないよう注意を払って一本ずつ甘噛みをする様は、こんな状況でも彼女を憎たらしくも可愛らしく演出した。
「ぷはぁ……ああ、満足や~」
自身の唾液でふやけてしまった指から口を放した戌亥、これから毎日こうなるのかと無駄なことに思考が逸れる。
現実逃避に勤しむ俺の代わりに、現状を作り出した戌亥のピンク色の舌が侵略を再開させる。
「今日も動いたから少ししょっぱいなあ、私が綺麗にしてあげるわ」
ありがた迷惑とはこのことだろう。
思考の海でしか饒舌になれない俺のとは違い、彼女の舌は主張を控えることなく胸板へと侵攻してくる。
ザラザラとした感触が胸板の一部に近づくにつれて全身の鳥肌が立ち、その感触がソコに触れた瞬間。
「……ック⁉」
訪れた擽られたような感覚に、分かっていたも声が漏れてしまう。
「アハァ! やっぱここは弱いんやな、見てておもろいわ」
それまでコレといった反応を示さなかったことに退屈していたのか、戌亥は歓喜と共にソコを責めたてる。
「や、やめ、止めてくれ……!」
「いーやーやー、そんなん言うなら抵抗すればええんよ」
耐えきれない快楽に近い衝動に暴れようとするが、すぐに戌亥の両手に押さえつけられてしまう。
俺の意思を行動をもって表現するはずの両腕は、彼女の右腕で頭上付近に拘束され、残りの左腕に首を掴まれる。
「できるもんなら……な?」
指のとき同様、戌亥は執拗なまでにソコを自身の舌で舐めていく。
彼女の小さくも可愛らしい唇でチュゥという音を出しながら吸われ、前歯でブニブニと強弱を加えながら甘噛みを繰り返される。
そのたびに小さくない喘ぎが羞恥心を伴って漏れてしまい、戌亥を喜ばせた。
「奈田クンの反応ってやばいわ、見てると私まで興奮してくるやん。なあ、もっと声を聴かせてくれへん? もっと鳴いてくれへん? もっと、もっと……私のために啼けよ」
繰り返される痛みを伴わない暴力は、静かな店内に残響する俺の情けない声をもって昇華、それが彼女の征服欲を募らせていく。
「奈田クン分かる? 奈田クンのその声を聴くとな、お腹の少し下の奥が疼くんよ……! もっと……もっと! て納まりがつかへんの、奈田クンはどう思う? 私に教えてくれや、なぁ、なあ!」
ガリッ
無音でも確かにそんな音が聞こえた。
「あっがあぁぁ……⁉」
快楽のない純然たる激痛に今日一番の声が出てしまう。
それが今の彼女にどんな意味をもたらしてしまうのか、十全に理解していたのに……。
表面張力でギリギリ保っていた溢れかけのワインに、一滴垂らすだけで崩壊してしまうほどの器に、俺は水滴を叩きつけてしまった。
「アハァ! なんやその声! そんなん私を誘ってるやん⁉ そない誘ってやっぱり奈田クンも気持ち良かったんやろ! そんなはしたない声、他の誰にも聞かせたりしてせぇへんよな⁉ だめや……私、辛抱できそうにないわ!」
溢れたワインが外聞関係なく床に広がるように、戌亥から溢れた欲情という名の水は濁流の如く制御を失っていた。
凡そ正常とは思えない力で彼女の手が俺のベルトを掴む。
その瞬間、全身が警報を鳴らした。
「嫌だ! 止めてくれ戌亥! もう嫌だ! こんなこと……俺を、俺を解放してくれ!」
掴まれた状態で声を張り上げる。針で刺すような痛みを感じながらも絶叫する。
力いっぱいに瞼を閉じて、自由な部位ならどこでも暴れた。
ひたすらに声を上げていけばすぐに声は出なくなった。床に拘束された状態で暴れたせいで、背中のあちこちに鈍い痛みが残るが気にはならなかった。
どれだけ暴れたのかは分からなかった、だけど俺が暴れる間に戌亥から何かをされることはなかった。
そして気付く、何もされないどころか彼女は声すら発していなかった。
おかしい。
今の彼女がなにもしてこないはずがない、抵抗する俺に声の一つも掛けないなんてありえない。
そう思えば途端に恐怖が襲ってくる、衝動的な反抗心はすぐに鎮火した。
ゆっくりと、瞼を開ける。
「――ッ⁉」
数ミリでも動けば触れてしまいそうな距離に、あらん限りに見開かれたオッドアイが揺れひとつなくこちらを射貫いていた。
機械のように静止したまま、瞳の奥にあるドス黒いハイライトだけが目の前の存在が生きていることを証明していた。
彼女が呼吸をするたびに、吐き出した息が顔を擽る。
そして数ミリ先で瞬きすらしない瞳が、ゆっくりと近づく。
「……んぅ」
最初に感じたのは唇に感じた驚くほどの柔らかさ、皮膚と皮膚が触れているだけなのに感じる圧倒的な情報量、俺が保有する脳のキャパシティは簡単に吹き飛んだ。
だが、それを許さない存在がひたすらにこちらを見ていた。
経験がなかったが知識はあった、キスをするときは互いに目を瞑るものなのだと。
俺は驚きのあまりに閉じる選択を取れずにいたが、戌亥は目を見開いたまま凝視してくる。
お互いが目を見開いたまま、見つめ合う。片や恐れ戦き、片や揺れる素振りすら見せず。
「……ぷはぁ」
長く感じた触れるだけのキス、しかい解放されればまともに呼吸すらできておらず、そのことに気づく。
急いで酸素を取り込む俺に、再び彼女が距離を詰める。
再び行われる行為だが、二度目は明らかに違った。
「ん……んぅ……」
何度も襲う衝撃に固まってしまった俺を無視して、戌亥だけが我が物顔で暴れまわる。
そして、それが触れ合う。
「んンッ⁉」
舌に感じる異質な存在、触れればぬるりと蠢くそれは同じ存在なはずなのに、まったく別の生き物様だった。
自身の舌に絡みついてくる彼女の舌は、他人の口内だと言うのにしたり顔で闊歩する。
「んんんんっ‼」
両手を拘束され、首を絞められ、初めてのキスを取られ、口内を蹂躙されたことに声を上げる。
そんな一方的な光景が、彼女が唇を放したことで再び終わりを告げる。
「い、戌亥! こんなことは止め――ッ⁉」
解放された口で抗議しよとすれば、即座に戌亥の口で塞がれた。
「んんぅ……んふぅ……」
再び侵入してくる彼女の舌が、奥の方で縮こまっている臆病者を即座に見つけて絡めとっていく。
ヌメヌメとした感触が舌を痺れさせ、頭の中がどんどん空っぽになっていくのをぼんやりとした思考で理解する。
先ほどから瞬き一つ見せない瞳が、そんな情けない姿を容赦なく映し出す。
「ぷはぁ……」
数分だろうか、再び唇が離れる。
「戌亥、どうして……なんで……」
わずかな時間でも回復した頭で言葉を紡ごうとする、しかしそれを阻止するように即座に唇が強制的に重ねられた。
鈍い光を放つ二つの宝石に見取られながら行われる四度目。
「チュゥ……」
汚らしい湿った音と共に、口の中の唾液が吸い取られる。
「んふぅ……」
そして即座に口は離れる。
戌亥は口の中でなにかをかき回す素振りを見せ、それを満足げに飲み込んだ。
取られてはいけない何かを取られたような、官能的で凌辱的な光景を目にした俺は虚脱感に苛まされる。
「ん……」
5度目の接触。
またあの舌が襲ってくるのだと思った、だがいつまで待っても口内を蹂躙しにくる無頼漢は来なかった。
ジュ……チゥ。
代わりに送り込まれたのは生ぬるい唾液。
自分のそれとは違う異質な水質に嫌悪感がこみ上げる。
反射的に喉を閉め、口の中を戌亥の唾液で満たされれば唇が離れた。
飲み込むことができず、溢れるギリギリまで詰め込まれたソレを吐き出そうとした。
「出したら許さへん」
冷たい一言はそんな俺の行動を止めるには十分な力を有していた。
ではどうしたらいいんだ、そう思えば回答はすぐに提示された。
「飲め、少しも溢すな」
逆らう、なんて言葉は終始閉じることのないオッドアイを前に出てくることはなかった。
恐怖と生存本能が思考と体を繋ぎとめていた。
震える体を奮い立たせ、口内に満たされた戌亥の唾液を少しずつ飲み込んでいく。
その姿から一秒たりとも視線を外さない戌亥の表情が緩み、それを見た俺は思わず飲み込んでいた唾液を気管に流してしまった。
気管に流れた異物を吐き出すために咳きこんでしまう。
口内に残った唾液なんて考えている余裕はなく、襲ってくる痛みと咳に吹き出してしまう。
噴水のように舞い上がったソレが、床や俺の顔を濡らしていく。
「ご、ごべ、ん……いぬ、い」
直ぐに謝ろうと彼女の顔を見た瞬間、言葉が止まってしまった。
緩んだ表情は消え、能面のような恐ろしい顔がそこにあったからだ。
「どうして私の言うことが守れへんの?」
言葉と共に掴まれている首が徐々に絞められる。
「零さず飲むこともできないわけやないやろ? 私のじゃ嫌ってことか? なあ?」
「い、いや、じゃない! きが、にあいっえっ!」
ギリギリと締め付けられる痛みに襲われながらも必死に答えようとした。
最後には言葉にすらならなかったが、戌亥は聞き取れていたようだった。
「私が良いって言うまで、口を開けたままで飲み続けろ。次守れなかったら……」
首を絞めつける力が弱まり、どうにか呼吸を繰り返す。そんな俺に構うことなく戌亥は言葉を続けた。
「冥土に連れていく、そんで私の巣から永遠に出してやらんからな」
最終宣告に、俺は必死に頷いた。
今度はキスなんてなく、十センチ近く離れた位置で戌亥が口を開けた。
タラリと口から垂れてくるそれを、俺は口を開けて零さないよう必死に飲み込んでいった。
そこからは地獄だった。
永遠に垂れる彼女の唾液は一滴でも落とせば全てが終わってしまう、強迫観念に襲われた俺は生き残るためにひたすら飲み続けた。
自然と涙が溢れ、嗚咽をしてしまいそうになるのを堪えた。
一方的にすべてのことが最後まで行われてしまうのが恐ろしく、そしてそれ以上に自分が情けなかった。
もはや自分が何をしているのかすら分からなくなってきたときだった。
「おりゃぁあ!」
そんな掛け声と共にガラスの割れる音がした。