にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ01

 俺が転生した世界の時代背景は前世と同じ現代基準だった。

 というか日本あったよ、世界地図の端っこにあったよ。

 

 もはや前世に転生した俺は、5歳児にして仕えるべき天使を見つけ、天使を絶対に守れるほどの力を求めた。

 そこで問題になるのは何事も気持ちだけではどうにもならないということだ、どれだけ体を鍛えたところで銃弾を防げる訳がない、防弾チョッキを着こんでも死ぬが死にそうになる程度だ。

 

 と、前世の俺はそう思っていた。

 いやはや自分の見ていた世界がどれだけ小さいのか、死ぬほどの激痛と共に思い知らされたよ。

 

「ぐがあああああっ!」

 

 太陽の当たらない地下深く、鼠すら寄り付かない薄暗く陰湿で不衛生極まりない一室。

 ということもなく、現代らしく真っ白で清潔感溢れる映画でしか見ないような研究施設の一室、素材の良い実験用のベッドの上で俺は絶賛断末魔を響かせていた。

 

「ほう、まだ叫び声が出るか。意識を保っている、つまり余裕があるということだ」

 

 白衣を着た当主が冷徹にも状況を分析し、さらに投与する薬を増やしていく。

 どうしてこんな拷問じみた行為を5歳児に行うのか、いじめ? 実験? マッドなやつ?

 

 勿論、全ては力を得るためだ。

 日本が存在するこの世界、しかしヘルエスタ王国には錬金術が存在していた。

 

 馬鹿な俺には分からない天才達の生み出した英知の結晶、しかし効果は俺にも理解できるほど劇的だった。

 

「これでどうだ?」

 

 投薬を増やした当代は新しいおもちゃを見つけた悪魔のように狂気に染まっていた。

 全身の痙攣が強まり、体内で臓器が縦横無尽に移動しているかのような激痛と不快感が襲う。

 

「があがああアガっがガああぐぐぶっぐぶぶ……」

 

 泡、シャボン玉のような大粒じゃない。

 ミキサーに掛けられた野菜ジュースが作るような泡が、どこから生み出しているのか溢れ出る。

 

「これでようやくか、今回の器はなかなかどうして運命を感じるほどだな」

 

 科学者らしい恰好で、科学者らしくもない当主の言葉を最後に、俺の意識は途切れた。

 

「起きたか、計測に入るぞ」

 

「ぁぃ……」

 

 そして目覚めれば変化した体の馴らしと、データの計測を行う。

 集積されたデータはそのまま次の同胞、俺のような男児に有効活用されるらしい。

 

 研究服を着た大人の同胞に抱えられ、息も絶え絶えな状態で壁に大の字に固定される。

 ぼやけた視界からはこちらに向けられたのは銃、この国の警察に配布されている9mm口径を吐き出すハンドガンだ。

 

「撃て」

 

 当主の言葉と共に鳴り響く銃声、刹那に腹部へと襲い来る激痛。

 だが、歪な音を発しながら俺の腹が弾丸を受け止める。ジャイロ回転する弾丸が皮膚を巻き込んで引きちぎろうとするが、巻き込まれるだけで弾丸の回転を逆に止めてしまう。

 

「今回で受け止めたか、見張るべき成果だ。ナナシダ、これは誇るべきだ」

 

 四肢を拘束されて痛みに身を竦めることすらできない俺に、ありがたくもない当主からのお言葉を頂く。

 そして当然のように次に用意されたのは、片手で使うには大きい銃だった。

 

 貫徹性を高め、体内の破壊力をさらに持たせた7.56mm弾を弾き出すアサルトライフル。

 一発でも命中すれば体内で乱回転、傷口からは想像もできないほど臓器をズタズタにする悪魔の産物。

 

「撃て」

 

 聞きなれた台詞と共に腹部に打ち込まれる弾丸。

 9mmでは血を出さずに受け止めたが、7.56mm弾を受け止めきることはできず、弾丸が半分程度刺さったところで停止した。

 

「素晴らしい。防護服無しでここまで耐えられるのであれば、すぐにでも実戦を経験させるべきだな」

 

 痛みにもがく俺を無視して当主のご機嫌メーターはグングン上昇しているな。

 しかし、悲しいかなこの地獄の試練は諸先輩方は皆通過している、俺だけじゃなく皆がこんな思いを乗り越えているのだ。

 

 これの意地悪なところは強制ではないということ、狂気としか言えない悪魔の所業に耐えられる人間は少ない。

 何も実戦ばかりが一族の生業ではない、脱落した者はこうして研究員や物資の調達と言った後方支援に回される。

 

 しかも自身が耐えられなかった試練を通過した者をサポートするのだ、結果として分かりやすく従事する仕事でのヒエラルキーが確立されていく。

 

「次を持ってこい」

 

 次々と用意される現代兵器を文字通り体で味わっていく。

 体中が弾痕まみれだ。

 

「ふむ、ナナシダ。お前の体は既に戦闘部隊と同等だ、どうする?」

 

 どうする、というのはこの狂気を辞めて実働部隊に入るかという意味だ。

 地獄の生活を初めて早1年、この狂気の行いは続ければ危険が高まる。

 単純に肉体が限界を迎えるのだ。

 

 だからこそ、ある一定のラインで終わらせてしまうのが通例だ。

 

「はぁ……はぁ……この体なら、皇女殿下を絶対に……守れますか?」

 

 肉体の頑丈さだけではない、毒物への耐性や運動能力の向上も同じだけ飛躍する。

 だが、そんなものはどうでもいい。

 俺が重要視するのはただ一つ、リゼ・ヘルエスタ様の御身を万事から守れるか否か。

 そこに妥協は存在しない。

 

「お前一人では無理だろう、所詮は人の身。故に我らは一族として王族をお守りするのだ」

 

「それじゃ、だめ……です……!」

 

 初めてだった、命を懸けても守りたいと思えたのは。

 これはエゴだ、俺だけの力であの人を守れるようになりたい。

 

「フー……! フー……! 俺が……俺が守るんだ……あの御方を……! 俺だけが、守る……っ!」

 

 組織としてはあり得ない思想だ、王族を一人で守る……なんと傲慢な思い上がり。

 分かっていても抑えることはできなかった。

 

「フハ、フハハハ……」

 

 普段から冷血漢な当主らしい愉快と言うにはほど遠い乾いた声。

 声一つでここまで底知れない存在感を放てる生物はいるのだろうか、少なくとも俺は初めて見た。

 

「……来週までに体を順応させておけ、廃人になっては何も成せんぞ」

 

 ひとしきり笑った、いや嗤った当主は言い捨てると部屋を後にした。

 俺が意識を保っていられたのもそこまで、すぐに視界が暗転して目が覚めれば見慣れた研究所の天上だった。

 

 

 結果として俺の肉体改造は継続されることになった。

 今まで手加減? をされていたのだと理解できるほどの薬の投与と実験、そして訓練のドMサイクルに何度も心が折れかけた。

 

 だけど、そのたびに脳裏に現れるのはたった一度目にした皇女殿下の眩い笑顔だった。

 思い出すだけで折れかけていた心に鋼の杭が打ち込まれ、色を失いかけたモノクロの世界に新たなインクが塗られて鮮明に映し出した。

 

「……終いだ」

 

 そうして永遠とも思える地獄の日々は唐突に終わりを告げた。

 俺の首筋にもはや飯以上に見慣れた薬を注入した当主が、呆れ混じりにこちらを見る。

 

「お前の体は既に薬に対する耐性を得てしまった。馬鹿げたことだが、お前の体はこの薬を水か何かと勘違いをしているようだな」

 

「俺、褒められてます?」

 

 最近薬を投与されて痛みを感じるもなくなっていたから、俺も薄々勘付いてはいた。

 もう少し褒めてもいいのではないだろうか、自分で言うのもなんだが多分歴代でも最高の仕上がりだと思うぞ。

 

「これを褒めていいのか私には判断がつかなんだ。言えるとするなら、賞賛……だな」

 

「あの当主が困惑してる……」

 

「私とて人間だ、後はお前のような化け物が暴走……いや問題ないか」

 

「え、暴走?」

 

 今更な質問だったのだろう、当主が呆れから馬鹿にするような雰囲気を感じた。

 

「最初に説明しただろう。薬の効果は絶大だ、だが並みの精神では耐えられる代物ではない。肉体よりも先に精神が壊れれば暴れ散らかすただの獣に成り下がるとな」

 

「うわ……多分薬の使い過ぎで記憶飛んでる気がする」

 

 因みにだが、長期にわたる薬物の投与で俺は言葉を取り繕うのを止めていた。

 当主も何も言わないし、当初の無表情冷血漢という印象が強いせいで勘違いしていたが関わればなんのその、普通にいいおっちゃんだった。

 

 薬のやりすぎで表情筋が死滅したんだなって思えば、言動の中に大人としての責任感とでも言うべき優しさがあった。

 ……言葉遣いとかがアレだから気付くのに一年以上必要だったけど。

 

「断言しよう、我ら影の一族においてお前以上の存在はいない。お前が命を捧げて王家を守護するのならば、王家の血が流れることは無いだろう」

 

「そのために血反吐はいて来たんだ、流させるわけがない」

 

 そう、全てはこの時のため。

 リゼ様に初めて出会った4年前、あの御方をお守りするため。この地獄を生きてきた。

 

「だが、最後。最後にテストをしてもらう」

 

「……テスト? 最後に劇毒でも飲ませるつもり?」

 

「ふっ、お前に毒が効くものか。お前は二年前に言った、あの御方を俺だけが守るっと」

 

「あは、アハハ……あれは若気の至りというか」

 

「今でもその言、曇ってはおらんな?」

 

 当主から見定める視線を向けれる。

 先ほどの曖昧な返しは許さないと暗に告げられ、俺は表情を消した。

 

「当たり前だ。俺だけが、あの御方をお守りする」

 

 不思議と心は落ち着いていた。

 圧倒的な自己主義、それはロマンとも言える。

 

 たった一つ、そのためなら自分の命すら惜しくはない。

 知性も教養もない、絶対的な自己表現。まさしくロマンだ。

 

「ならば証明せねばなるまい。お前の力を王家の方々の御前で、そして"影付き"となれ」

 

「影付き……?」

 

「王家と影の一族は強い繋がりを持つ、呪いとも言える絶対的な主従の関係だ」

 

 ……なに言ってんだこのおっさん。

 と思って見返してみれば、帰ってくるのは伊達や酔狂ではない事実を述べているのだと、そんな当たり前の視線だった。

 

「王族一人に対して必ず影の一族から”影付き”と呼ばれる存在が現れる。絶対的な忠誠を誓い、御方のためなら死すら厭わず、地獄の鍋にも臆せず浸かるたった一人の私兵だ」

 

 そう言われてしまえば、初めてばかりのこの感情が明確に表現されたかのような、気持ちのいいおさまりを感じてしまう。

 

 確かに死ぬは死ぬほど嫌だ、でもあの御方が脅かされるのは死んでも嫌だ。

 あの時から、心の中の天秤は見比べる必要もない程に傾いていた。

 

「今代はお前なのは確実、だが何事にも意思だけでは万事に押しつぶされ、守るべき王家に凶刃が向けられるだろう。だからこそ証明するのだ」

 

 できなければ死ね。当主の言葉の最後に、その文字が見えた。

 同時に、向けられる瞳には父親が子供に向けるような温かい色も混ざっていた。

 

「お前は誰よりも強い。だが臆せば馬の脚はウサギのように脆く、強靭な牙は赤子の爪へと成り下がる。瞳を曇らすな、地の硬さを知れ、自分が何者なのか常に見定めよ。それだけでお前は守り切ることができる」

 

「随分と、優しいんですね……」

 

 目の前の大人に言い負かされっぱなしだったのが気に入らなかった、だから出たちょっとした反抗心。

 だが、当主はそれすら受け止めてほほ笑む。

 

「なに、先達者は後進を導く。人間らしい道理ある仁義だ」

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