にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
自分の力を証明する機会は当主から話を聞いてから数日と待たずに巡ってきた。
試練は簡単、コロシアムのような作りをした場所での戦闘。
しかし試練と呼ばれるだけありその内容は聞くだけでも容赦のなさを感じさせられた。
「王家の皆々様、本日は我々一族の雄志をご賢覧頂けること恐悦至極に存じます」
現代チックにアレンジされたコロシアムの中央で、優雅に一礼するのは影の一族当主だ。
一族自体が秘匿性が高く知るものも王家のみ、よって観客は影の一族と王族のみであり空席の目立つ観客席となっている。
「誠に勝手ながら我々影の一族から新たに影付きが現れました。その男、リゼ・ヘルエスタ皇女殿下をお守りするに足ると私が保証いたしましょう」
観客は少ない、だが会場に充満する空気の密度は異常なまでに高まっていた。
「しかし! 言うは易く行うは難し。私の言葉だけ王家の皆様にご納得していただこうなどと傲慢は持ち合わせておりません」
いつになく饒舌な当主だが、それだけ俺に期待をしてくれているのか、はたまた影付きが現れたというのがそれだけ良くも悪くも影響を持つということかもしれない。
「なればこそ! 証明いたしましょう! 新たなる影付き、ナナシダの価値をここで!」
「うむ、我々ヘルエスタ王家は代々影の一族、そして影付きに命を預けてきた。疑いはせん、故に魅せよ。我々に仕える新たな臣下を、我々が手にする最後の武器を存分に振るうのだ」
現ヘルエスタ国王が芯のある声で答えると、当主から合図が送られる。
ここからは俺が主役の舞台だ。
先達者の言葉は忘れていない、地に着く足の感覚を確かめながら舞台へと上がる。
「改めて名を、影の一族に現れた新たな影付きナナシダでございます。誠に自分勝手ではありますが、ナナシダは歴代でも最強と断言いたします」
舞台に上がった俺は当主の横に立ち、客席に立つ威厳に満ちたヘルエスタ国王を相対する。
「ほほう、お主がそう申すか。しからばリゼを襲う魑魅魍魎は露のように掻き消されるだろう」
国王と顔を合わせたのは今回で二回目、赤ん坊の第二皇女殿下を見つめているときの温もりを持った人の親ではなく、清濁併せ呑み幾万の民の命を守ってきた王としての姿がそこにあった。
「そのもの、合うのは二度目だな。数年前よりも大分成長したようだ、しかしその小さき体でリゼを……ヘルエスタ王国第二皇女を悪鬼の魔の手から守れると、そう言うのだな?」
途端、体にのしかかる重力が強まったと錯覚した。
これが王の持つ格とでも言うのだろうか、前世のアニメとかでよく見るアレは本当だったんだな。
「言葉は重ねる度に翼を増やし羽のように軽やかになりましょう。言葉よりも私の振るう武器を持って忠義を証明したく存じます」
「ふむ、幼いながら弁が立つようだな。其方の忠義しかと見定めよう……リゼよ、こちらに来なさい」
「はい、お父様」
緊迫した空間を解くような、天心声が木霊する。
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王の優しい声に呼ばれて現れたのは一人の少女、数年前の赤子からは見違える成長を見せた第二皇女殿下だ。
あの時の感覚が蘇る。
「この者が今から力を証明する。お前を守る最後の盾であり、お前の眼前に立つ全てを悉く切り裂く最強の剣としてな」
「んー?」
王の言葉は4歳児の子供には早すぎたのだろう、可愛らしくも首をコテンと傾けて疑問の声を上げてしまう。
やばい、めっちゃ可愛い。やっぱ間違ってなかった、ナナシダという男は皇女殿下のために存在するんだ。
あの人のために剣を振るい、降りかかる厄災はこの身で受け止めるのだ。
「ナナシダよ、これより行われる試練に打ち勝てねば二度と顔を合わせることもなかろう。リゼに言っておくことはあるか?」
最後の温情を王が投げかけてくる。だが俺は首を横に振った。
「リゼ様をお守りすることすらできぬのなら、この命に存在価値などございません」
「……影付きは皆こうなのだな」
呆れた口調の王、しかし向けられた視線は俺ではなく隣に立つ当主だった。
ふーん、当主も俺と同じ反応を見せたのか。
「我らが忠義、その帰するところは同じなれば」
なーに自慢気に答えてんだよ。
俺も大概変だけど、当主も別ベクトルで絶対変だよな。
「リゼ、よく見ておくのだ。今は分からずとも良い、だが決して忘れてはならない。いずれこの光景がお前の支えとなろう」
「はい! お父様!」
「……」
「ナナシダ、試練を始めるが……」
「……」
「その前に鼻血を拭け」
おっと。
そうして始まった試練だが、内容は至ってシンプルで百人組み手ならぬ百人対戦。因みに俺一人対影の一族百人な。
てか一族多くね? とも思ったが、王族を守る一族だ。
任務は実働部隊以外にも人員は多岐にわたって必要になる。総数で言えば千ぐらい行きそうだな。
実際は秘匿性を持たせるため一族内でも情報統制が成されているから、実際の所は分からない。唯一知っているのは当主だけだろう。
「……っ!」
思考がそれ掛けていた所に投げ込まれたナイフを掴み取り、投擲してきた一人に投げ返す。
王の前で流血は御法度だ、故に武器の殺傷性は低くされている。
しかし、たとえ刃が潰されていようと一定の重さと堅さを持った物質が直撃すれば、普通の人間なら悶えるほどの痛みだろう。
なんだけどなー。なーんであの威力の攻撃を食らっても平気で動いてんだ此奴ら。バケモンかよ。
威力だけなら銃弾と同じなんだぞ。
大人数での戦闘、アニメとかなら声を上げたりするのかもしれないが、あいにく日陰者な集団だ。誰一人として声を挙げることなく、三桁の男達が暴れ回っているのに声一つ聞こえないという異常状態が出来上がっている。
「相変わらず影の一族の戦いは静かだな」
「王族の御前。静かに処理するのも我々には求められますから」
「にしてもだな……」
百人の男達から攻撃を受けながらも客席で話す当主と王の声を盗み聞く。
当主本人が最強と呼んだ俺だ、技術はさすがに年の功だがそれを容易に覆す身体能力を持っている。
避けたりはするが、正直この程度の攻撃では傷一つ付かないというのは一種の余裕を持たせる。
だからこそ周囲を観察しながらの戦闘も行えていた。
「おとうさまー、ぜんぜんわかんないー」
しかも流れ弾を考慮して銃器を使わない戦闘は接近戦となり、人を超えた身体能力で行われる攻防はその道の人間にしか理解できない。
つまり、第二皇女殿下からすれば百一匹の男達があっちこっちに走り回っているだけにしか見えないのだ。
「つーまーんーなーいー!」
当然、飽きる。
最初は高速で動く俺達にテンションマックスだった第二皇女殿下も、退屈のあまり王のお膝の上でブー垂れてしまっている。
退屈させるわけにはいかない、さっさと試練を終わらせないと。
様子見でセーブしていた力を一気に解放して、観客に並ぶ王族だけではなく相対している影の一族でも捉えられない速さで駆ける。
血は流せない、なので一人一人確実に意識を切り取っていく。
「わー! ひとがたおれちゃったよおとうさま! たすけないと!」
あぁ、なんて清らかなお心を持っているんだ……。
「ずるいぞお前ら、俺だって心配されたい……」
思わず愚痴がこぼれるのも仕方ないよな? だからお前ら「なに言ってんだお前、ふざけんなよ」みたいな目で見てくんな。
仲良く全員おねんねして心配されてやがれ。
そうしてドンドン数を減らしていき、最後の一人の意識を刈り取った。
コロシアムに立つのが自分だけになったことを確認し、俺は王族が座る方向に深々とお辞儀をする。
「国王陛下、いかがでしょうか」
いつの間にか俺の隣に立っていた当主が王に問いかける。
「ふむ、素晴らしいの一言に尽きるな。ナナシダ、お主がリゼの影付きになったことに感謝しよう」
「もったいなきお言葉」
王からのお褒めのお言葉に再び礼をしたところで、俺は足の筋肉を全力で行使して跳躍した。
ドンッ! と地面が爆ぜる音が鳴り、試練のときでも見せなかった俺が出せる最高速で王族の前まで移動。
そして第二皇女殿下の僅か数十センチ手前にまで迫っていたナイフを受け止める。
掴み取るなんてしない、ましてや周囲に王族がいるのだから弾くなんてもってのほか、最優先はナイフから天使を守ること。それにはナイフの進行方向に立ち、体という面で受け止めるのが最適解。
対物ライフルを受け止めたときと同等の衝撃が腹部を襲う。
幸いにもこの体の堅牢さは常軌を逸している、軽く血が流れる程度の傷で済んだ。
「リゼ様、お怪我はありませんか?」
すぐさま振り返ってリゼ様に傷がないかの確認を行う。
痛みなんかどうでもいい、たとえ試練でもリゼ様に武器を向けた当主にマグマのような怒りが湧くが、それも些事。
なによりも優先するのはリゼ様の安否。
怯えさせてはいけない、できる限り優しい声と笑顔を持って語りかける。
「え、あ……え……」
腹部の裂傷を腕で隠しながら声を掛ければ、未だに状況が分かっていないのかリゼ様の口から漏れるのは意味を持たない物ばかりだった。
流し目ではあるが汚れ一つ付いていないことを確認した俺は、笑顔を見せる。
「少し、強めの風が吹いたみたいですよ。目にゴミは入っていませんか?」
「だい、じょうぶ……」
「それは良かったです」
俺が守ったなんて知ってもらう必要は無い、ただこの人には笑顔でいてほしい。
試練がこれで終わり出ないかもしれないため、周囲に気を配れば各王族を守護する形で人影が増えている。
さすが諸先輩方とでも言うべきか、今まで姿を見せなかった影付き達がそろい踏みだ。
当主程ではないにせよ、かなりの猛者ばかりだ。というかこれで軍隊作った方がよくね? と思えるほどには過剰戦力とも言えた。
因みに、唯一国王の前に立たなかった当主に俺を含めた全影付き達から、遠慮の無い殺気が向けられる。
「皆のもの、これにて試練を終了とする」
そんな空気を無理矢理断ち切るようにして王が宣言する。
「通過儀礼とはいえ、お主が我が家族に害をなさないと知っているとはいえ、毎度ながら肝が冷えるな」
肩の力を抜いた王の物言いに、今日一番の修羅場が徐々に解けていく。
当主もそれに合わせるように、わざとらしく肩を竦めてみせた。
「不快とあらば――」
「その言葉、聞き飽きたわい。後で儂の部屋に来い。ワザップに新しい将棋の陣が乗っていたのでな、それを試してみたいのだ」
「陛下……恐れながらそのワザップ……いえ、申し訳ございません。処理を済ませた後伺わせていただきます」
この世界にもワザップ!あるのかよ……。しかも当主、その反応って前世のアレと一緒で嘘ばっかりなんだろ?
多分何度も言ったんだろうな、そして全て失敗してるんだろうな……大丈夫かこの国?
「新たな影付きナナシダよ、其方をヘルエスタ王国第二皇女リゼ・ヘルエスタの影付きとして、ヘルエスタ王国国王がこの場を持って正式に認めよう。一層の忠義、期待しておるぞ」
「御心のままに」
……最後にかっこよく締められてもなぁ。
なんて言える空気でもなく、俺は静かに臣下の礼を取った。