にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
正式にリゼ様の影付きになることができた、これで一日の大半をリゼ様の護衛に費やせる。
と思っていたのだが。
「当主、俺嫌われてる説あります?」
「唐突になにを言い出すんだバカ者」
定期的に行っている当主への報告時、最も重要な案件として当主に相談をした。しかし帰って来た反応は疲れたと頭を抱えるという、なんともおざなりな回答だった。
「いや、本当にヤバいんですって」
「やばいのはお前の頭だうつけもの……いや、言うだけ無駄だな。それで誰に嫌われてるんだ」
おー、流石当主。呆れてもちゃんと話を聞いてくれようとしてくれる。
「リゼ様です」
「……ふぅ、何をやらかした?」
「心外ですね、毎日しっかりと護衛に努めてます。いつも御傍で危険がないか気を張り巡らせています」
それなのに終始こっちをチラチラと見てきたり、体をプルプルと震わせたりと、明らかに俺に対して拒絶反応が出ている。
なにがご不快なのやら……皆目見当もつかないぞ。
「言葉だけ聞けば問題ないんだがな……ナナシダ、お前の言う御傍というのは第二皇女殿下の背後、正確には30cm後方で腕組みをすることか?」
「勿論、それが最適解でした」
なにを当たり前なことを、もしかしてボケたかジジイ。
「不思議だ、お前のポーカーフェイスに問題はない。なのに確実に私を馬鹿にしたと感じる」
「なにを仰いますか、定年間近なことをもっと自覚してください。いっそ隠居でもどうです?」
「……お前がリゼ様に嫌われている話だが」
うわ、面倒に思って話を無理矢理戻しやがった。
これが大人の対応って奴なのか……。
「お前は影付きをなにと心得る?」
「そりゃ、リゼ様の身の安全を最優先に考え行動することです」
「間違いではない、そのためにあの地獄を経験するのだからな。しかし、それは我らの事情。王家の方々からすれば与り知らぬことよ」
「はあ……?」
普段から堅苦しい物言いを好む当主だが、そのせいか度々回りくどすぎて何を言っているのか分からない時がある。
今がそう。もうちょっとストレートに言ってもいいと思うんだよ俺。
そんな思いが伝わったのか、顔にありありと出ていたのかもしれないが、当主は一度深いため息を吐いた。
「王家から求められる影付きの役目、それは護衛はもちろん小間使いや相談相手、余暇の相手と多岐に渡る。要は最も信頼のおける存在として影付きを見てくださっているのだ、恐れ多いことにな」
「なるほど、合点がいきます」
度々見る現国王が当主に見せる雰囲気はまさしく一種の友人に向けられるものであり、信頼し気の置ける相手を前にしているときのそれだった。
「視野が狭くなっていたみたいです、自分の役割はあくまで道具だと思っていました」
「道具に変わりはない、だがそれを王家の方々に見せる必要もない。王家の方々から見る我らが姿を作るのだ、気の置けない相手が四六時中侍らすなぞストレスを助長させるだけなのだ。それは我らの理念に反する」
「つまりリゼ様の前でいい恰好して気に入られろってことですね、合点承知の助」
「はぁ……、王家の方々の前でもだ大バカ者」
バカ者からランクアップしてしまった。
あれだけ頭を抱えていた悩みも当主に相談すれば一発解決だ。俺は早速リゼ様の警戒を解いて心をを許してもらえるために行動を開始した。
俺は手始めに自己紹介からやり直すことにした。
「リゼ様、少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
「い、いいよ……」
くっ、天使であるリゼ様が怯えさせてしまっているではないか!
笑顔だ! 笑顔は言葉以上のコミュニケーション術! 本に書いてあった!
「私の名前はナナシダです。王家の方々を守護する影の一族の一人でございます。そしてリゼ様を必ずお守りする影付きです。今後ともよろしくお願いいたします」
「ま、まえもそれ、したよ……?」
「はい、不敬ながら私はリゼ様と仲良くなりたいのです。ですから改めて自己紹介をさせていただきました、そして私とお友達になっていただけますか?」
現在俺は9歳、そしてリゼ様は4歳。性別も年齢も体格の差も大きいが、友達になればその全てが個性として受け入れてもらえる。
幼いリゼ様の友達というステータスがもたらす恩恵はすさまじいはずだ。
「おともだち……て、なに?」
「一緒に遊んだり、お話したりする感じですね。楽しいことを一緒にする関係です」
「たのしいことって?」
「そうですね、たとえば……」
俺は懐から今日のために用意して来た、対リゼ様お友達になりましょうウェポンを取り出す。
片手で持てる黒い筒、リゼ様の前で何もないと泳がしで見せる。
「おー」
筒を右へ左へと動かすと追従してリゼ様の顔も移動する……猫とかが餌に釣られて左右に首を振る動画を思い出すな。
そして素早く筒を持っていないもう片方の手の平の上に筒を立たせる。
「……」
「……」
十分なタメを行ってパッと筒を持ち上げれば、そこにはなかったはずのは花が一輪。
「わぁあ! すごい! すごい!」
あまりに古典的で誰にでもできる手品グッズにリゼ様が初めて笑顔を見せた。
「もっとやって! もっとー!」
両手を突き出してピョンピョンと飛び跳ねるリゼ様。
心が……浄化される……。
その後も市販品ながらも見栄えのいい手品を見せていく。
一つ一つの手品にリゼ様は喜び、手を叩いて飛び跳ねてくれた。
「ねえ! ナナシダ! おともだちになろう! もっとおもしろいのみせて!」
「御心のままに」
そうして俺は影付きとしてではなく、ナナシダとしてリゼ様と友好関係を築き始めた。
――その夜。
太陽に代わり夜空を照らす月が曇天に隠された夜は、微かな街灯の光を残せば暗闇の世界を作り上げていた。
「おい、手筈は整ってるんだろうな?」
「当たり前だ。小娘一人殺せば大金なんだ、ここまで準備すりゃあガキにだって簡単な仕事さ」
「それならいいんだ、悪く思わないでくれよ……。俺達みたいな底辺はこうしないと生きていけねえんだ」
そんな闇に包まれた世界で蠢く二人の存在があった。
夜盗のような言葉とは裏腹に、男達の装備は洗練されていた。
黒く塗装され人の身長を優に超えるスナイパーライフルを一人の男が構え、もう一人の男がナイトビジョン機能を搭載した観測ゴーグルで周囲を確認する。
熱源探知対策の断熱マントに身を包み、特殊素材で作られた靴は足跡を殆ど残さないという代物だ。
売るだけでもしばらくは遊んで暮らせる装備を身に纏い、闇夜に塗れた男二人が見据えるのはヘルエスタ王国の王城。
子供の拳が入るほどの銃口が就寝中の第二皇女が住まう部屋に向けられる。
「王族なんてもんに生まれちまったのが運の尽きだぜ……次生まれるときは庶民をお勧めするよ……」
小さく息を吐きながら、銃を構える男は集中力を高める。
男が覗くスコープには王城の外壁だけが映し出されており、とても人を狙っているとは思えない状況だが、確かに射線は壁一枚を隔てた先の第二皇女殿下に向けられていた。
本来であれば見えない先を狙うなんて芸当は不可能と言わざるを得ない、しかし銃を構えていないもう一人の観測手の男がそれを可能にしている。
銃を構える男はただ言われた角度に調節して、銃身を揺らすことなくトリガーを引くだけで天使の頭が吹き飛んでしまう。
……そんなこと、許すわけがない。
「おい、角度はこれでいいのか?」
銃を構える男が囁くが、観測手の男はそれに応えない。
「……おい、聞いてんのか? さっさと答えやがれ」
幾ら声を掛けようが、男の声は暗闇へと無為に消えていくばかり。
それもそのはずだ、さっきまで生きていた観測手の男は俺がすでに始末してしまったのだから。
死人に口なし。銃を持つ男がその異様さに気づき、覗いていたスコープから顔を上げたとき。
俺はリゼ様に向けられていた銃身を持ち上げて射線を空に向ける。
「なっ⁉ ……ッゥ⁉」
手に持っていた銃が唐突に動いたのだ、慌てて顔を向けて来た男の首を黒く塗装したステンレス製ナイフで切り裂く。
喉を切られた衝撃で痙攣を起こし始め、トリガーに掛けられていた指が震えそうになる前に指も切り落とす。
「夜は静かにだ、リゼ様のご就寝中だぞ」
スナイパーライフルから大口径の弾薬を全て抜き取っていると、俺を囲むように人影がいくつも飛来する。
影付きではない影の一族の実働部隊だ。
「遅いぞ、死体の処理は任せた。俺はリゼ様の護衛に戻る」
集まった同胞に俺はそう言い捨てる。同胞たちが遅れてきたのは十中八九当主の命令なんだろうが、それでも腐れ野郎の指先1つでリゼ様の身が危険に晒されていたのだ、八つ当たりぐらい許してくれ。
集まった部隊は俺の部下というわけではない、俺自身部隊とか持ってないしね。
しかし影の一族でトップに位置するのが当主であるなら、ナンバー2に影付きが存在する。命令権もこういった場合に限りではあるが許されている。
後始末を任せた俺は音もなく夜闇を駆けて、リゼ様の身辺警護に戻る途中。
「人を初めて殺したな……」
別に罪悪感があるわけじゃない、リゼ様を狙った連中の命なんてゴミ同然だ。
だが、ここまで心が微動だにしないのには少し驚いたな。どうやら長年投与した薬がもたらす恩恵は体だけではないのかもしれない。
そして朝。
「リゼ様、朝でございます」
「んー……」
高級ベッドに包まるリゼ様に声を掛ける、
可愛らしくも小さな唸りと共に布団の中へと籠城するリゼ様。
「リゼ様ー?」
「ん……んぅ……」
「起きてくださーい」
今日のリゼ様はなかなか強情なようだ、お友達になる前は俺が声を掛けるよりも前に起きていたのに。
どう対処するべきかと悩んでいると、布団の中からうつらうつらとした顔のリゼ様が首から上だけニョキっと生える。
「ななしだ~」
「御前に」
すかさずリゼ様の前に傅く。
「いっしょにねようよ~」
今、なんと仰った……。聞き逃すなんてことはない、聞き間違えるなんてもってのほか。
思い出すんだ! あ、こら海馬テメェ! リゼ様のお言葉をファイリングしようとしてんじゃねえ! リゼ様のお言葉は年月日にフォルダ分けして、時間単位に細分化、タイトルは分かりやすくして全部デスクトップに表示に決まってんだろ!
よーしいい子だ、そうだ、俺が何時でもリゼ様音声を思い出せるようにするんだ。
そうそうそうそう、うんうん、それじゃあ先ほどリゼ様が仰ったお言葉をくださいな。
ふんふん……なるほどね、これね……。
「ぐはっ⁉」
リゼ様のお言葉を認識した直後、対物徹甲弾を叩きこまれたとき以上の衝撃が襲ってきた。
衝撃のままきりもみ回転しながら吹き飛ぶ。
「あれ? なーなーしーだー? へんじがなーいー」
い、いかん! あまりの破壊力にSAN値が削れまくって不定の狂気になりかけていた。
幸いにもまだリゼ様の瞼は開いていない、俺はすぐに吹き飛ぶ前の状態に戻る。
「申し訳ございません、リゼ様」
「あー、いたぁ……。えへへぇ」
声を頼りにこちらを向いて陽だまりのような笑顔を見せるリゼ様。
桃源郷はここにあった……。
「じゃぁ……いっしょ、ねよー?」
「ぐふぅ⁉ な、なりません……! そのようなことを言ってはなりません、リゼ様……!」
まるで心臓に杭を打ち込まれているようだ。だが耐えろ! 俺は影付き、リゼ様第一に考えて行動するのだ。
「おき、て……くださいませ。国王陛下が朝食を共にとお待ちです」
「えー……しかたないなぁ……」
不貞腐れ気味な声と共に布団からモゾモゾと這い出てくるリゼ様。
俺は待たせていたメイド達を呼び出して部屋を後にした、なぜか踏み出す脚が鉛のように重く遅々とした歩みになってしまう。
「……」
部屋を出て扉を守るように立つ。
……俺、頑張ったよな?