にじさんじヤンデレ物語 作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員
2021年バレンタインボイスです。
良いですね、優しく、相手を思いやる皇女殿下のお姿はなんというか……心が浄化されますね
リゼ様の影付き兼お友達になって数日、今日も今日とてリゼ様はご壮健であられる。
「ナナシダがおにー!」
雲一つない晴天の下、リゼ様はこちらに手を振り天真爛漫に駆けていく。
リゼ様は普段の聡明さもさることながら、運動面においても秀でていた。
子供が持つ無尽蔵のエネルギーをフルに活用して縦横無尽に走り回る。
「では数えますね」
皇女ということもあり、リゼ様は同年代の友人はいない。
だが、ヘルエスタ王家は全国民が認めるほど家族の絆が強い。だから基本的な余暇はご姉妹の誰かが遊び相手となり、その一助として俺もその役目を賜っている。
今行っているのは鬼ごっこ、他の使用人も数人巻き込んで行われていた。
でも、やはりリゼ様には同性の友人が必要だと俺は思っていた。
「十! それではリゼ様! 鬼がいきますよー!」
友人としてリゼ様を楽しませることはできる、だけど男の俺ではできないことなんて幾らでも存在する。
今はともかく思春期を迎える前には女性の友人を作っていただきたい。
俺が見繕うのでもいいが、それはリゼ様のためにはならないだろう。人間関係の構築はそれ一つで人生を豊かにする一因を担うのだから。
「リゼ様ー! どこですかー!」
頭では余計なことを考えていても、参加している他の使用人たちと連携を取り適切な刺激を提供する。
やってることは至極単純、使用人たちがそれとなくリゼ様が隠れている場所に誘導してもらうのだ。
ずっと隠れていてはつまらないからな。
「あ、リゼ様見つけましたよ! 待てー!」
「わきゃー! にげろー!」
偶然を装い適度に追いかけ、疲れさせない程度で見失う。
「くそー! リゼ様を見失ったー! あ、クラッツさんだ! 待てー!」
「はっはっは! 見つかってしまいましたか! でも捕まりませんよ!」
そして近くにいる使用人を追いかけて一人二人捕まえれば、いい感じに休憩の取れたリゼ様を再び追いかける。
ヘルエスタ家に仕える使用人は遊び相手だろうが全力だ、全力で彼の方々を楽しませるのだ。
それを知ったとき、俺と使用人は熱い握手を交わしたのは良い思い出。今では戦友とさえ呼べるだろう。
「リゼ様ー! どーこーでーすーかー?」
そうしてリゼ様以外の殆どを捕まえ、残るはリゼ様だけとなった。
戦友たちとお膳立てをしたのだ、最後はしっかりとリゼ様を捕まえれば今回の遊びも大成功と言えるのだ。
「ナナシダ様!」
しかし、なぜかリゼ様の位置を教えてくれていた使用人の一人が慌てた様子で走りこんできた。
全速力だったのだろう肩で呼吸を繰り返しながらも必死に訴えかけて来た。
「り、リゼ様が! 木に、登られて……!」
使用人がとある方向を指さす。
「なるほど、了解です。直ぐに向かいますね」
俺の目が一時的に離れていても問題ないように幾人かの同胞が周囲を警戒している。
安全を確保された城内の庭だ、例え襲撃者がきても同法が時間稼ぎと連絡をしてくる手筈になってい
……本音を言えば四六時中後方腕組護衛をしていたいが、遊ぼうと願われれば私情は後回しだ。
できる限り急いでリゼ様のいる方向へ走れば、木の上でプルプルと震えているリゼ様がいた。
「ナナシダ様が来てくださったぞ!」
「な、ナナシダ様……! 姫様を!」
リゼ様が昇った木はかなり大きく、生まれも育ちも良い使用人たちには木を登る術がなかったようだ。
「後は任せてください、すぐにお助けしてきます」
リゼ様がいる場所はかなり高い位置であり、4歳児の体でどうやって登ったのか疑いたくなってしまうほどだ。
木に指を食い込ませてリゼ様の元へ向かうと、太めの木の枝先に浮かぶ潤んだ瞳が俺を捉える。
「ナ、ナナシダ~……」
いつもの利発的な様子はなく、怯え切った弱弱しい声色だった。
登るまでは良かったが自分が想像する以上に高い位置だと気づかなかった様子だ、そしてそのまま怖くなり下りられなくなったといったところか。
「リゼ様、ご安心下さい。ナナシダが助けに参りました」
「ナナシダ~!」
しかし、俺が来たことで逆に焦ってしまったリゼ様があろうことか、震える足でこちらに走り出してしまった。
木の枝が平らなわけもなく、よくて楕円だ。しかもリゼ様の動きに合わせて枝が揺蕩<たゆた>えば簡単にバランスを崩してしまう。
「リゼ様! ナナシダが向かいますゆえ、そちらでお待ちください!」
「うわ~ん! ナーナーシーダー!」
声を張り上げるがパニック状態のリゼ様はこちらの言葉を聞き取ることなく、泣き叫んで不安を訴えかけてくる。
そしてより一層枝が揺れた瞬間。
――ズリ。
「ぁ……」
「リゼ様っ⁉」
足を滑らしたリゼ様が茫然とした表情で枝から滑り落ちてしまう。
すぐさま木を蹴って落下していくリゼ様を抱き込む。当初の想定とは違うが、胸の内に抱き込めればどうとでもなる。
「な、ななしだ……?」
不安げなリゼ様を落ち着かせるために笑みを向ける。
「ご安心くださいリゼ様、このナナシダ。何時如何なる事態でも貴方様をお守りします。だから笑ってください」
「う、うん……」
落下中の体を動かして衝撃に備える。
もしも背中などで地面に激突すれば、抱えているリゼ様にも衝撃がいってしまう。だから俺は脚だけで着地する。
ズドンッ! という音と共に脚に凄まじい衝撃が走る。そしてリゼ様に衝撃が行かないよう胴体と脚をクッションに衝撃を無理矢理吸収。
「リゼ様、もう大丈夫ですよ。ほら」
目をぎゅっと閉じているリゼ様をそっと地面に降ろす。
リゼ様は地面の硬さを感じると力いっぱい瞑っていた目を開く。
「じめん……」
安定した足場の感触を確かめたリゼ様は、そのままさっきまで自身がいた木の枝を仰ぎ見る。
あまりの衝撃に引っ込んでいたらしい涙が洪水のようにあふれ出す。
「うわ~ん!」
子供らしい純粋な恐怖からの解放は安堵をもたらし、同時に齢4歳には制御できない感情の激流が涙となって処理されるがゆえだった。
「怖かったですね、ここは安全ですよ。このナナシダがいますからね!」
「ななしだ~!」
「はい、偉いですね。よく我慢できました、流石ヘルエスタ王国第二皇女殿下です」
「んぐ、ぇぐ……ななしだ……ななしだ~……」
堪らず胸に飛び込んできたリゼ様を受け止め、言葉と同時に頭を撫でて落ち着かせる。
「はい、ナナシダですよ」
「こわ、こわがっだ! ずっごぐごわがっだああああ!」
言語化できなかった恐怖が、徐々に昇華されていく。
分からないが分かり、何に恐怖したのかを知り、故により鮮明に恐ろしく感じる。
「そうですね、怖かったですね」
それからも大声で泣き叫ぶリゼ様。
子供がどうして大声で啼くのか、それは涙と大声はストレスを発散させ、気持ちを落ち着かせる効果があるからだ。
極度の緊張状態から脱するための生存本能がなす、人間が生まれた瞬間から持つ反射的な自己防衛。
「だがぃどこやだ! もういや! ご、ごわいんだよー!」
「高い所は危ないですからねー、これからは気を付けましょうねー」
「うん……! ぎおづけるぅ! うぁあああああああああん!」
だからこそ泣くなと言ってはいけない、涙を止めてはいけない。
疲れるまで声を上げさせ、枯れるまで涙を流させる。
俺はただ何もせず、されとて無視はご法度だ。
嘆きを受け入れ、気持ちに寄り添う。
「すぅ……すぅ……」
そして泣きつかれて寝てしまったリゼ様を抱えて寝室へ向かう。
「では、着替えとか後のことは頼みます」
「はい、お任せください」
ベッドに寝かせて後のことを使用人に任せた俺は、そのままとある場所に足を向ける。
リゼ様が泣き疲れて眠るまでそれなりの時間を要した。
現場にいた使用人が国王に報告してくれたそうで、リゼ様を寝かしつけた後で執務室に来るよう呼びたてられていた。
執務室に向かうと扉の前に立っていた護衛にボディチェックをされ、中に通される。
普段はここまで厳重ではないのだが、この間のリゼ様暗殺未遂があったばかりということもあり、厳重体勢が敷かれていた。
「ナナシダです。失礼します」
執務室にいたのは二人、一人は国王陛下。
そしてもう一人は国王陛下の影付きである当主。
「よく来た、リゼが木から落ちたそうだな」
「はい、私が付いていながら誠に申し訳ございません」
「よい、幼い頃の経験は多い方が好ましい。良くも悪くもな、お主がリゼの影付きになってからというもの、あの子にも笑顔が増えた」
「勿体なきお言葉」
「この間の暗殺未遂のときもお主に助けられた、何か褒美を出さねばならんな」
陛下が血迷ったことを言い始めたのだから慌てて辞退を申し出る。
「陛下、発言をお許しください」
「許そう、申してみよ」
「このナナシダ、褒美や見返り欲しさにリゼ様の影付きになったのではございません」
そう答えれば一瞬にして空気が凍る。
元凶は陛下ではなく当主だ、自分の使える人の言葉を否定するような物言いに遠慮のない殺意が向けられる。
――口を慎め。
意味合いはそんなところだろうが知った物か、許可は国王がくれたのだ。
「リゼ様をお守りすることのみが私の存在価値なれば、斯様な申し出は私の剣を私欲に錆び付き、容易く鈍へと成り下がりましょう」
てか当主、あんたも同じ思考回路してるなら賛同してくれよ。
ちょっと国王にモノ申せばこれか? ぁあん?
「左様……であるか」
「親が子を愛するのに理由が要らぬように、天上に御座<おまし>すリゼ様へ捧げる忠誠もまた然り」
「ほほ、お主が十にも満たないなどほとほと信じられんな」
「叶うのなら、より一層リゼ様を私の手で守る栄誉を賜りたく。血の一滴にいたるまで捧げる愚挙をお許しください」
膝を付き、首を垂れる。
そのまま微動せず国王の言葉を待つと、聞こえてきたのは軽快な笑い声だった。
「わっはっはっは! よくぞ申した! それでこそヘルエスタ王家が信を置く影の一族ぞ、儂としてはちとつまらんがな」
同時に、当主から向けられていた殺気も消える。
「では……」
「十も生きておらぬ小さき益荒男<ますらお>の覚悟、同じ男として受けねば儂が民草の笑いものになろうて」
「過分なお言葉、痛み入ります」
「あの子は聡明だ、故に幼いながらに気を使いすぎる。最近は儂にもどこか余所余所しい、親として情けない限りだ……ナナシダよ、お主には期待しておるぞ」
「ハッ! 必ずや」
一国の王が発する言葉、その意味を知らないわけじゃない。
認めてもらったわけじゃない、リゼ様の影付きとして今はまだ見定められている途中でしかない。
あくまで俺の覚悟を認めてくれただけ、後は結果を見せるのだと自身が置かれている状況を再認識していると、通路の扉から慌しい足音が近づいてきた。
「こ、国王陛下! 大変です!」
扉を勢いよく開けたのは使用人の一人だった、しかし顔は青ざめておりよほどの緊急事態なのだと察せた。
「騒々しい。申してみよ」
「リ、リゼ様が癇癪を起しています!」
……そんなに焦るほど?
「な、なんだとおおおおおお! そのような一大事なぜもっと早く報告しないのだ!」
おぉ、王様? さっきまでのかっこいい姿が消え去ってますが大丈夫ですか?
「え、あ、あの? 国王陛下?」
「ナナシダよ! リゼの影付きであるなら今すぐ立つのだ! 急げぇええええい!」
別キャラのように捲し立て、飛び込んできた使用人を連れ部屋の外へ走り出していく国王陛下。
「当主」
唯一部屋に残っていた当主に助けを求める、流石に今見た光景は何かの間違いだよな?
さっきまで国王と親という二つの顔を両立させ、威厳ある立ち振る舞いを見せていた誉ある姿が本当なのだと言ってほしかった。
「諦めろ、あのお方の子煩悩は生粋だ」
……さて、リゼ様のところに向かうか。