にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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ちなみに、本作品の主人公の名前は名前検索で0件だったものを採用しています。


戌亥02

「何見てんの」

 

 デジャブだ。

 経営している犬カフェの従業員(犬)用の遊び道具を買うため、俺が街に出掛けると再び彼女に出会ってしまった。

 特徴的なオッドアイが面倒そうに細める彼女、地獄でのあいさつはひどく淡白なのかもしれない。

 

「すみません、芋をめちゃくちゃ抱えてたので……」

 

 ジッと見ていた原因は彼女が両手に抱えている大量の芋、美人と芋って意外とマッチするんだな。

 

「芋……あげへんよ」

 

「要りません」

 

 さっと芋を守るように構える。

 どんだけ芋好きなんだよ。

 

「あ、そういえばまだ名前言ってなかったですね。奈田 神室(なだ かむろ)です、名前を聞いても大丈夫ですか?」

 

「戌亥とこ」

 

 え、それだけ?

 

「い、戌亥さんですね。よろしくお願いします」

 

 いったい何をよろしくするのか分からないけど、こういう時の言葉って何を言ったらいいかわからないよな。

 

「よろしゅぅ」

 

 戌亥さんって見た目のわりにサバサバしてるよな、単純に俺に興味ないだけかもしれないけど。

 でもいまだに信じられないな、こんな美人が地獄のケルベロスなんて。

 ……地獄ですら信じてなかったんだけど、目の前で見せられた超回復が全てに説得力を持たせてしまった。

 

「それで、戌亥さんは何をやってるんですか?」

 

「芋をどこかで焼こうと思ってんよ、だから場所探し中なんよ」

 

「家で焼けばいいんじゃないですか?」

 

 焚火とかで本格的にやりたいとかでなければ家で十分だろうけど、アパートとかだと自由な庭もないか。

 

「家? ないよ?」

 

「家がないって……あぁ、地獄から来たばっかりだから家がないのか」

 

「そ、お金もないし。だからこうして芋を焼ける場所を探して彷徨ってるんよ」

 

 地獄の番犬が金欠、そして芋を焼きたくて放浪中。

 誰に言っても信じてもらえないだろう。

 

「あれ、芋ってどこから持ってきたんですか?」

 

「くれた。プラプラ歩いとったらおじぃさんが強盗にあってな、その強盗が私にぶつかって来たからコツンってしたんよ」

 

 コツン……。その擬音で合ってます?

 

「そしたらおじぃさんがお礼言うて芋くれた」

 

「強盗さんは生きてましたか?」

 

「殺すわけないよ、腕が変な方向に曲がったくらい」

 

 曲がっちゃったかぁ……。

 最大限手加減したうえで曲がったんだろうな。

 

「ちなみにですけど、芋の調理方法は何を考えてます?」

 

「そこら辺の木ぃ集めて燃やすだけやで」

 

「コンクリートジャングルな世界で……。チャレンジャーですね」

 

 明らかに即通報からの警察出動、邪魔された地獄の番犬が警察を蹴散らかす光景まで想像できた。

 ま、俺には関係ないし? またあの鋭いジャックナイフで精神をずたずたにされたくないのでここは撤退しよう。

 遊びグッズは買えないけど、従業員(犬)達も分かってくれるだろう。

 逃げるを選択。

 

「芋焼けるといいですね、それでは俺は失礼しますね」

 

「そや! あんさんの家貸してくれへん?」

 

 残念、回り込まれた。

 

「あーちょっと今日は用事がありまして」

 

「……へぇ」

 

「申し訳ないです」

 

 再び逃げるを選択。

 

「嘘は関心せぇへんで?」

 

「……う、嘘なんてついてないです」

 

 無念、回り込まれた。というか肩掴まれいたたたた。

 

「地獄の番犬が人間の嘘を見分けられへん分けないよ、そういう連中にお仕置きするのが私の仕事なんやで?」

 

「す、すみません。どうか命だけは……」

 

「家……貸してくれるよな?」

 

「……はい」

 

 戦う? 馬鹿言わないでくれ全面降伏だ。

 超常の存在には古くから頭を垂れろって古代の壁画にも描いてあるだろ。

 コツンで腕をへし折る存在を後ろに、家兼運営するお店に向かった。

 

「へぇ、結構広いんやんか」

 

 自宅のキッチンを我が物顔で占領する戌亥さん。

 キッチンはどれだけ使っても構わないんですけど、うちの従業員が怯え切っているのをどうにかしてもらえませんか?

 

「どうぞ芋を思う存分調理してください」

 

 そう言って俺は部屋の隅で集まり、全身を震わせている従業員達を宥める。

 だいじょーぶだぞー、どうにもできないけど死ぬときは一緒だからなー。

 そうしてどうにか犬達を落ち着かせ続けていると、思いのほか時間は進んでいたようで戌亥さんの「出来た!」の声が聞こえてきた。

 あー! せっかく落ち着いてきたのにまたプルプル怯えちゃった!

 

「出来たでー」

 

 調理した芋を鍋いっぱいにして持ってくる戌亥さん。

 俺は流れるように玄関のドアを開ける。

 俺の行動に戌亥さんは頭を傾げる。

 

「何してんの? 出掛けるんか?」

 

「あれ、料理も終わったから帰るのかと……」

 

「なんでー、せっかくいっぱいあるんやから少しぐらいあげるよ」

 

 いやぁ……芋よりも早くお帰りお願いしたい。

 俺と犬達の平穏のため、ここはどうかお引き取りを! なんて言えるわけないよな。

 

「ありがとうございます。頂きます」

 

「んふー、今日のはよう出来たからたーんと食べぇや?」

 

「芋を蒸かしただけじゃうわぁ! 美味しそうですね!」

 

 今、言いかけた瞬間全身が震えがるほどの恐怖を感じてしまった。

 慌てて取り繕えば満足げに笑う戌亥さん。

 

「せやろ?」

 

 テーブルの上にドカッと鍋を置くと、中から無造作に一つ取り出して頬張る戌亥さん。

 

「んー! やっぱ芋最高! 世界の全てが芋になればえぇのになぁ……」

 

 芋、好き過ぎじゃね?

 

「じゃ、じゃあ俺も一つ頂きますね」

 

「ええよ! ジャンジャン食べてな! いぃーっぱいあるから!」

 

 今だ湯気の上がる芋を手に取り、熱さをどうにか逃がしながら取ってきたバターを乗せる。

 冷蔵庫から取り出した直後で、固形化していたバターが芋の熱で溶ける。

 溶けたバターの匂いが混ざった芋、こんな状況なのに食欲はどこまでも素直だった。

 芋を齧り、あまりの熱を舌の上で逃がしながら噛んでいく。

 

「美味いですね」

 

 ただ芋を蒸かして、バターを塗って食べるだけなのにこの美味さは反則じゃないだろうか。

 そう思っていると戌亥さんの視線がこちらに向いていることに気づく。

 

「あ、あの~何か?」

 

「んーん、ちょっとなぁ」

 

 ちょっと、と言いながらも戌亥さんからの視線は外れることはない。

 俺何かした? 不敬罪で噛み殺されたりしないよな?

 

「なぁ……そのバター、私にもくれへん?」

 

「へ? あ、バターですか。どうぞどうぞ! いくらでも使ってください、塩もマヨネーズもありますよ!」

 

 半ば強引に家に上がり込んで、今日自己紹介したばかりの人のキッチンを占領したのに、バターとかはちょっと気にしてるのはどんな線引きだ?

 ここで機嫌を損ねるわけにもいかないので、俺は急いで芋に合う調味料を揃える。

 

「えー! なんか催促したみたいで悪いなぁ!」

 

 満面の笑みでバターやら塩やらを順次芋に乗せては食していく戌亥さん。

 頼むからその笑顔のまま帰ってくれないかなぁ。

 一つ、また一つともすごい速さで芋を消費していく戌亥さん。鍋いっぱいにあった芋が姿を消すまで時間は掛からなかった。

 

「ふぅ、食べたぁ……」

 

「それはよかったです、じゃぁ鍋とかは俺が片付けるので戌亥さんはお帰りになって大丈夫ですよ?」

 

 最後の言葉は言わないほうがよかったのかもしれない、でも小心な俺はこの空間に耐えられなくなっていたのだ。

 早く帰って欲しいという感情が溢れてしまった。

 幸いにも戌亥さんは気にした様子もなく「悪いなぁ」と言って席を立ってくれた。

 やった! 我が従業員達! 怯え、息を潜める時間から解放されるんだ!

 

「いやぁ、久しぶりに芋食ったわ~」

 

「そうなんですねー」

 

 お客さんによってではあるが、普通のお客さんならここで会話を引き延ばす、でもそうじゃないなら同調するだけ。追加で質問することもない。

 そうすると会話のない空白は生み出され、その微妙な空気から逃げるように帰っていくのだ。

 

「ほな帰るなぁ」

 

「はい! どうぞお気をつけて!」

 

 帰る家ないのにどこに帰るんだろう、気になる。でも聞かない、だって帰って欲しいから。

 そうして、人外とはいえ、半ば無理やりだったとはいえお客さんである戌亥さんに、そんな不躾な考えを膨らませていた罰が当たったんだろう。

 

「また来るでぇ~」

 

「ありがとうございます! お待ちしておりまええっ⁉」

 

 やめてくれ! そう叫びたかった。

 でも言ったら多分食い殺される、俺にできたのは戌亥さんが出て行った玄関をただ見つめるだけだった。




奈田神室という名字ですが以下の感じで考えてます。

奈:由来は祭りの供物として供える、からなしの木という意味らしいです。
田:田んぼですね、普通。

神:まんまです。
室:色々意味はあるようですが、今回は”入れ物”という意味を採用
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