にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ05

 リゼ様が癇癪を起したといわれたが、人間生きていれば気に入らないことなんて無数に出てくる。

 

 だから愚痴ったり一時の感情の暴走なんかは誰にでも起きるというのが持論だ。

 

「なーんて思ってたんだけど……」

 

 現場に向かえば凄惨な光景が広がっていた。

 

「おぉぉおおお! リゼよ、どうした? パパが来たぞー?」

 

「いや! パパイヤ! あっちいって!」

 

「なぜだリゼ! いつもはパパ―って仲良くしてるじゃないか、ほら今日もおいで!」

 

「いーやー! パパじゃいやなのー!」

 

 ベッドの上でそんなやり取りをするのはヘルエスタ王国の国王その人、そして愛娘であるヘルエスタ王国第二皇女殿下であらせられるリゼ様だ。

 

 そして抱き着こうとする国王と、全力で拒絶するリゼ様。

 

「えっと、何があったんですか?」

 

 熾烈な攻防を繰り返す両者を見守っていた使用人たちの一人に話を聞く。

 しかし、話しかければ救いの神を見たかのように目を輝かせて詰め寄ってくるじゃないか。

 

「おお! ナナシダ様! 待っておりました! ささ、こちらへ!」

 

「え、あ、ちょ、ちょっと⁉」

 

 声を掛けていない他の使用人も続々と集まり、あれよあれよと拘束&目の前の紛争地帯へ投入されてしまう。

 

 そして言い争いに熱中し周囲が見えていなかった二人も、すぐ近くに投げ込まれた餌(俺)に機敏に反応する。

 

「ナナシダ!」

 

「チッ」

 

 うーん、反応がホント極端。

 

 リゼ様はそりゃもう取り繕うこともなく満面の笑みで迎え入れてくれた、だけど国王は執務室で見たときの威厳ある風体を捨て去り、愛娘に近づく蝿が来たとばかりの対応だ。

 

 おかしい、俺はまだ何もやっていないはず。

 

「どこいってたのナナシダ! はやくこっち!」

 

 リゼ様は嬉しさ半分不貞腐れ半分な表情でベットの上、しかも自分が座っている隣に来いと可愛らしくポンポンと叩く。

 

「ナナシダよ、分かっておるな?」

 

 国王は「そこから動けばどうなるか分かっているよな?」と初めて殺気にも似た視線を送りつけてくる。

 どうしよう……どっちを選んでも角が立つじゃないか。

 

 もはや配られたカードが全てジョーカー状態で迷っていると、リゼ様が頬をプクリと膨らませ。

 

「ねぇ……ナナシダはリゼといっしょ……いやなの?」

 

 目尻を下げて、小さく呟かれてしまう。

 

 何を迷っていたんだ……。俺が第一に考えるべきはリゼ様じゃないか、目の前の親馬鹿に何を言われよと知ったことか!

 

「御心のままに」

 

「な、ナナシダ……貴様ぁ!」

 

 いや、現実で貴様て初めて聞いたよ……。

 

「申し訳ございません国王陛下、ですが私はリゼ様の陰付き。たとえ国王陛下であろうとリゼ様の言、覆すは不忠切腹の所業になりましょう」

 

「小僧ぅ……!」

 

 いや、だから現実で小僧も初めて聞いたよ……。なんていうかキャラ濃いなこの人。

 

「ナーナーシーダー! はーやーくー!」

 

「申し訳ございません、すぐに」

 

 そうして邪魔者(国王陛下)をもはや意図的に除去したリゼ様が催促ポンポンを繰り返す。

 やばい、このお姿を写真に収めて額縁に飾りたい。

 

 と思っていると戦友の一人が携帯を持ち、俺に向けてサムズアップをしてくるではないか。

 セキュリティ的にどうなの? んなもん知るか! それよりも国宝じゃい!

 

「お待たせしました、リゼ様」

 

 後顧の憂いが無くなった俺はすぐにリゼ様の隣に座る。

 しかし、ここに呼び出したところで遊び道具の類いを今は持ち合わせていない、いったい何をしようというのだろうか。

 

「んふふー! ナナシダはそのままでたいき!」

 

「はい! 待機します!」

 

 どこぞの駅前忠犬に負けない意思と共に不動となった俺に、鼻息を荒くしたリゼ様が近づいてくる。

 そしてなんと! リゼ様が俺の膝の上に乗ったではないか!

 

「このままたいきー!」

 

「しょ、承知しました……!」

 

 なんだと……⁉ なんだこの状況……!

 戦友よ! 俺の人生はここがピークなんだ! しっかりカメラに抑えてくれ!

 

<戦友> サムズアップ

 

 戦友! お前! まじ、その……ホント…………お前ぇ!!

 

「おぉぉぉ……リゼよ、なぜだ、なぜなんだ……」

 

 情けない声と共に泣き崩れる国王。

 ショックなのは分かりますけど、さすがに一国の王が膝から崩れ落ちるのは止めていただけますか?

 

 なんかこう、凄い罪悪感です。

 

「り、リゼ様……?」

 

「んー? なーにー?」

 

 真下から満面の笑みでこちらを見上げるリゼ様……あ、天使だ……。

 窓から入り込む季節の風がふわりとリゼ様の美しい長髪を揺らす、風に乗って届けられる花の香り。

 

 膝から感じられる幼い体が発する少し高めの体温、嬉しそうに左右に体を揺らす天使の姿は、まるでここだけが心地の良い春風の吹く桃源郷を思わせる。

 

 蝶が舞い、風が吹き、辺り一面の草花が地上の波を魅せる。

 空を見上げれば少々の薄い雲を残して青空が広がり、照りつける太陽が風で冷えた体を優しく温めてくる。

 

 平穏と平和、そして仄かな幸せを詰め込んだような光景が広がる。

 あぁ、なんて素晴らしい世界なんだ……。

 

「……ぃだ、……しだ! …………ナナシダ!」

 

 あまりの幸せに幻想を無想していた俺の頬がパチリと音を立てて叩かれる。

 次いで聞こえたのは大声で名前を呼ぶリゼ様……はっ⁉ 俺今何を……。

 

「も、申し訳ございませんリゼ様、少々その……ぼーっとしてしまいました……」

 

 なんたる不敬! リゼ様のお声を聞き逃すなんて……!

 

「ぼーっとしちゃったの? だいじょうぶ? つかれてるの?」

 

 しかし、心優しき天使はそんな愚者にも寄り添おうとして下さる。

 

「ねぇ、つかれてるなら……ここでねちゃおうよ。ねぶそくはね、からだにわるいんだよ?」

 

 4歳児に心配される9歳……いやほんと、リゼ様って4歳とは思えない聡明さだよ。あと天使。

 

「いえ、それよりもリゼ様とこうしてご一緒する方が私は心が落ち着きます。申し訳ございませんが、今暫くお付き合いいただければと」

 

「ほんとー?」

 

「ええ、本当です。リゼ様のお隣にいるのが、私の喜びですから」

 

 偽りのない本心を語れば、途端に心配そうな顔からニンマリと笑みを浮かべるリゼ様。

 

「えへへぇ……。こほん、うむ! よきにはからえ!」

 

 国王を真似ているのか、頬をほんのりと赤くしながら頑張って尊厳に振る舞うお姿がより一層愛らしさを演出していた。

 なるほどね、これは国宝ですわ。認定師を後で連れてこよ、一発だろこれ。

 

 てそうじゃなかった。

 

「リゼ様、できればあそこで項垂れております国王様も……ご一緒されてはいかがですか?」

 

 まさか話を振られるとは思っていなかった国王、項垂れた状態から頭だけを持ち上げこちらを見る。

 

 止めろ、おっさんの捨て犬みたいな顔なんて見たくないんだよ。でも、愛娘に疎外されるなんて親心には辛いはずだ。

 

 ましてや当主が諦めるほどの子煩悩、そして相手は天使リゼ様だ。

 等しくリゼ様を愛する者同士の微力ながらの御状、というと国王に失礼だけど。

 

 だから目を輝かせないでください、イケオジのキラキラ目なんてニッチな需要満たす人はこの場にいないんだぞ……。

 

「国王陛下……お労しや……」

 

 いたわ。

 使用人、特にメイドなんかは結構な数がノックアウトされてるわ。

 

 そりゃそうだよな。

 国民から絶大な支持を受け、公私共に非の打ち所がないお方だ。より身近に接する使用人なんかは国王の人の良さを十全に理解している。

 

 そんな人が悲しそうにしていれば同情してしまうのが人の情ではないか。

 

「えー……」

 

 しかし、一番重要な愛娘はそうでもないらしいが。

 この間まで「お父様!」て感じだったのに……。女性の成長というのは目を見張るものがある。

 

「うぅん……」

 

 膝の上でめっちゃ唸るリゼ様、多分脳内で熾烈な天使と悪魔の戦いが行われているんかもしれない。

 しかし、以外にも終戦は早かったようで。

 

「やっぱりダメ!」

 

「ガーン……!」

 

 ガーン言うたぞ……。

 意外にもリゼ様出した答えは拒否だった、これには国王以外に使用人達や俺も驚いていた。

 

 なんだかんだ言っても、リゼ様が国王を好いているのは見て分かる。

 現に自身の言葉でショックを受けた国王を見て、大層申し訳ないという表情を浮かべている。

 

「ま、まってパパ!」

 

 あ、なんだ。まだ話の途中だったのか。

 

「い、いまはナナシダ! パパはつぎ!」

 

「リ、リゼ……!」

 

「だからパパ、おしごとがんばって……ね? わたしといっしょだと、ダメ……だよ……」

 

 後半に向けて萎んでいくリゼ様のお言葉で、この場にいる全員がリゼ様の真意を理解する。

 同時に驚愕する。

 

 幾ら英才教育を受けているとはいえ、一般の4歳児ができる思考ではない。

 国王が言っていた言葉が脳裏をよぎる……そういうことだったのか。

 

 なにが原因かと言われれば環境そのものだろう、王城での生活は必然的に数多の人を見聞きする。

 リゼ様はいつも政務に追われ、大変そうにしている国王や側近の姿を目にしていたのだ。

 

 優しい心をお持ちのリゼ様からすれば、大事な父親の時間を自分が取ってはいけないのだと、優しさが故に思い込んでしまっていたのかもしれない。

 

「リゼ様」

 

「なに、ナナシダ?」

 

 そんなの良くないに決まっている。

 子にとって血の繋がる父親は一人だけなんだ。

 

 国王である前に父親を頼れないなんて状況がどれだけリゼ様にストレスを与えていたのか……。癇癪を起こしたのだって、そういったストレスが原因かもしれない。

 

「申し訳ございません、どうしても外せない用事がありまして……」

 

「ぇ……ナナシダ?」

 

「当然すぐに戻って参ります。私の居場所はリゼ様のお近くなのですから。ですが、その間は国王陛下と一緒にいて貰えますでしょうか」

 

「う、うん……あ、でも……」

 

 複雑そうに俺と国王を見比べ、上手く言葉が見つからないのか口が開いては閉じてを繰り返していた。

 

「国王陛下にも休息は必要なのです。でないと先ほどの私のようにぼーっとしてしまいます、リゼ様は国王陛下そうなってしまってもよいのですか?」

 

「だ、だめ! パパはおうさまなの! げんきじゃないと!」

 

「り、りぜ……」

 

 自分が嫌われていたわけではなく、誰よりも大事に思われていた事実に国王陛下の顔が歪む。

 父親になったこともない俺には分からないが、子を持つ親というのは得てして強く、そして子供のためなら頑張れる存在なんだと信じている。

 

「ですから、私にしていただいたように、国王陛下をリゼ様が休ませてあげてください。そうすればいつでも元気な格好いい国王陛下として頑張れるのです」

 

「でも……」

 

 チラチラと国王の顔を盗み見るリゼ様、しかし本人は隠している様でも周囲から見れば丸わかりだ。

 

「国王陛下も少し頭がぼーっとしているのではありませんか?」

 

 そう言えば、国王も納得いった顔をして、わざとらしく頭に手をやる。

 

「あ、ああそうだな。最近は政務が立て込んでおったからな。少しばかり、こう……頭がぼーっとしているかも……いや、しているな。これでは倒れてしまいそうだ」

 

 ……演技下手だなぁ。

 声は棒読みだし、頭がと言っているわりに表情は期待してますって顔している。

 

 国王としての顔の使い分けはあれほど凄いのに、娘の前では演技一つ満足にできない。つまり普段から家族には嘘をついていないということだ。

 

 そんな大根役者でも、リゼ様の目にはまさしく病人に見えたのだろう。

 

「た、たいへん! ぱぱだいじょうぶ⁉」

 

 顔を青くして慌てて駆け寄るリゼ様。

 

「リゼ、済まないがここで一緒に休憩をさせてくれるか? そうすれば元気になれそうなんだ」

 

「きゅうけい! きゅうけいしないと! ……リゼも、いたほうがいいの?」

 

「もちろんだとも、リゼと一緒にお休みできれば何倍も元気になれるんだよ」

 

 親として愛情に溢れた笑みを浮かべた国王が、リゼ様の頭を撫でる。

 

「だから、儂と一緒にお休みしてはくれんか?」

 

「す、する……いっしょにおやすみ、する……!」

 

 そんなやり取りを目にしたギャラリーは誰が言うでもなく、静かに部屋を後にしていく。

 

 リゼ様と国王、そして俺だけが最後に残り。

 

「ではリゼ様、すぐに済ませて戻って参りますので。その間国王陛下をお頼み申し上げます」

 

「うん! まかせて! わたしがんばる!」

 

 一度深くお辞儀をした俺は部屋を後にした。

 これからは親子の時間だ、そこに俺のような存在が入り込む余地も、必要も無い。

 

 今世の親は俺を捨てたようだが、それはごく少数の話。悪い出来事はよく耳に届くが、蓋を開ければなんてこと無い。

 たとえ王族だろうが、そこには家族の愛で満ちている。

 

 リゼ様には多くを経験して、豊かに育っていただきたい。そこに親の愛情は絶対に必要なのだ。

 

 部屋を出た俺はすぐさま陰に潜んで護衛の任務に就こうとしたのだが、それに待ったをかけた男がいる。

 

「当主……」

 

「若造が粋なことをしたな」

 

「はは、当然のことをしただけです」

 

「そうか……では付いてこい」

 

 当主はそれだけ言うと踵を返して歩き始めてしまう。

 

「え、あ、あの? どうしたんですか当主、俺これから護衛に戻ろうかと思ってたんですけど」

 

「いらん、既に最大の警戒態勢で護衛をさせている。これを突破できるのは陰付きぐらいだ」

 

 そんなことは分かっている、どんな状況でも周囲の把握を怠ったりはしていない。

 

「それに、丁度私は陛下から部屋に近づくなと言われてしまったからな。私だけそんな扱いは許容できん、お前も道連れだ」

 

「ぇえ⁉ なんですかそれ! 自分がのけ者にされたからって俺を巻き込まないでくださいよ!」

 

「うるさい、当主命令だ。今日は街の巡回に行くぞ、街の様子は肌で感じねば得られぬ情報もある」

 

 なんだろう、すっごい取って付けた感のある文句だな。

 

「飯でも奢ってやる、さっさとこい」

 

「はぁ……。へいへい……付いていきますよぉ……」

 

 これはなにを言っても無駄だな、俺は大人しく当主の巡回に付き合い、その腹いせに飯をこれでもかと食ってやった。

 

 あ、後で聞いたけど。リゼ様の癇癪は、起きたら俺がいなくて不安になったからだってさ。

 やったぜ、国王に勝った!

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