にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ06

 最近王城ではとある錬金術師の話が持ち上がっている。

 錬金術が一般常識として認知されているこの世界、たかが錬金術師一人が騒がれるなんてことはない。

 

 では、なぜ件の錬金術師が話題となっているのか。

 

 曰く、彼の者はヘルエスタ王国始まって以来の天才である。

 曰く、弱冠14歳にして国一番の錬金術師。

 曰く、人体の一部を意図的に肥大化させる新たな錬金術を作り上げた。

 曰く、曰く、曰く……。

 

 たった一人の錬金術師が持つにはあまりに多い逸話が原因だ、いつの世も噂話というのは尾ひれを付けて泳ぎ回るものだ。

 りぜ様にその人物の噂が届くころには、もはやその人物は噂が独り歩きして肥大化した偶像となっていた。

 

「ナナシダよ、勅命である。件の天才錬金術師、アンジュカトリーナを調査せよ」

 

「なして?」

 

 だからこそ、当主からそんな命令を受けた俺は首を傾げた。

 

 

「ねー、ナナシダどれくらいいないの?」

 

 たとえ勅命だろうとリゼ様の影付きがわざわざ出向く必要がるのかと思えば、国内の有能な人材は早めに唾を付ける必要があるらしい。

 

 そして目の前で不安げに見つめてくるリゼ様の配下などはおらず、今の内から集めていく必要があるのだとか。

 

 幼少からの人材確保は王族といった上流階級の人間にしかない常識であり、影の一族なんかはその典型例だ。

 王族が個人で保有できる防衛戦力が俺達のような存在とするなら、王族がより一層栄えるための手札が件の錬金術師となる。

 

「数日、若しくは数週間かと……とはいえ四六時中いなくなるわけではありません」

 

「でも……ナナシダ、いない……」

 

「では、こちらをお持ちください」

 

 言葉だけで不安や疑念を払拭し、信頼を勝ち取って安心してもらえるなんて思っていない。

 ポケットからリゼ様の手でも握れるほどの小さな黒い物を渡す、端に紐のついたそれは子供が持たされる防犯ベルに酷似していた。

 

「これなーにー?」

 

 見慣れない物体なだけに、リゼ様が物珍し気に眺める。

 おぅ……なんて純粋。同じ年のころの俺と比べればえらい違いだ。

 

「そちらを持っていれば、たとえリゼ様がどこにいようともナナシダが助けにくるお守りです。上にある紐をおもいきり引っ張ってください」

 

「んー、えい!」

 

 掛け声とともに勢いよく引っ張られた紐は、4歳児でも簡単に引き抜くことができた。

 紐を抜き取られた装置が防犯ベルであったのなら、けたたましい音を発して周囲へと異常を知らせたはずだが、あいにくこれは音や見た目に変化を起こしたりはしなかった。

 

「んー? ねーナナシダ、ひっぱったよー?」

 

 紐が取れただけ、好奇心旺盛なリゼ様からすればなんとも面白みに欠けたはずだ。

 

 疑問符ばかりを浮かべるリゼ様に俺は笑みを見せ、携帯を取り出す。

 

「そちらの紐が外れると、こうして私の携帯に連絡が来ます」

 

 画面を操作し、地図情報が映し出された画面を見せる。画面には拡大された地図と赤く点滅する丸が映っていた。

 

「このあかいのは?」

 

「リゼ様が持っている”どこでも場所が分かる君”がここにありますよーという点です。こちらを持っている限りこのナナシダ、たとえ地球の裏側でもリゼ様の元に馳せ参じることができるのです」

 

 確か、道具の正式名称は「自動追跡型ガードリンク」通称AGRらしいけど、4歳児にはもっと分かりやすい名前の方がいいだろう。

 制作元が影の一族で男所帯が故に堅苦しい名前になってしまっているが、性能はピカいちだ。

 

「おー、これならどこにいてもナナシダがみれる!」

 

 ……んー、そうじゃない。

 

「いえ、こちらを持っているのがリゼ様ですので……」

 

「えー、やだー……」

 

 確かにそうだよな、幼いとはいえリゼ様は女性だ。

 ”どこでも場所が分かる君”を持っている限り自分がどこにいるのかが丸分かりになってしまうのだから。

 

 りぜ様には紐を取ればとは言っているが、実際は紐を取るとアラートが俺を含め影の一族に届くだけで、GPS機能は常時稼働している。

 王族であるリゼ様をお守りするためとはいえ、リゼ様のプライベートを侵害しているのだ。

 

「申し訳ございません。ですがリゼ様の安全を第一に考えればこそですから、ひらにご容赦ください」

 

「ぶーぶー! じゃあナナシダもおなじになるのー!」

 

「はぁ……? その、同じというのは……」

 

「もういっこ! おなじの!」

 

 りぜ様のお気持ちが分からなかった俺は、とりあえず呼びで持っていた”どこでも場所が分かる君”を取り出し、リゼ様に手渡す。

 満足げに受け取ったリゼ様は、突然”どこでも場所が分かる君”の紐を抜き取るとドヤ顔で返してくる。

 

「はい!」

 

「え、あ、はい。頂戴いたします」

 

 訳も分からず受け取ると、リゼ様は自身の携帯を取り出して操作する。

 4歳児が携帯とか国王とかファンタチックなのに、価値観が最先端すぎるんだよな。

 

 多分もとが日本人だったからこその違和感なんだろうけど。

 

「あれ? あれ? ねーナナシダ―」

 

 意気揚々と携帯を操作していたリゼ様だったが、またもやハテナをこさえて自身が操作する携帯の画面を見せてくる。

 

「わたしもそれほしい!」

 

 指さすのは俺の携帯の画面、つまり”どこでも場所が分かる君”の専用アプリ。

 

「あーリゼ様もこのアプリをご利用になりたいと」

 

「そー、だからいれて―」

 

 ズイっと携帯を差し出してくるリゼ様。

 確かに市販品でもない道具にアプリだ、ユーザは影の一族だけだし。公にできる代物でもない。

 

 セキュリティ云々、機密性云々とうるさいのだ。

 

「ね? おねがい……?」

 

「少々携帯をお借りしますねー……はいどうぞー、これでいつでもご利用できますよー」

 

 りぜ様が欲しいって言ってるんだから、後から発生する問題は影の一族(アプリ管理者)がどうにかすればいいだけだよな。

 

「わーい! ナナシダありがとう!」

 

 だってこんなにも嬉しそうにしてくれるんだもの……。

 

「でもいいのですか?」

 

「え、なにが?」

 

「そちらで確認できるのは登録されたデバイス、えっと私が持っている”どこでも場所が分かる君”だけになりますよ?」

 

「うん!」

 

 そっか……。うん、なのか……。

 ……尊い。

 

「これでナナシダとおそろいだね!」

 

「おそ……ろい…………」

 

 おそろい……、リゼ様が俺とおそろいで喜んでる‥‥…。

 可愛くも面白くもない防犯用の道具なのに……。

 

「な、ナナシダ⁉ どうしてないてるの? イタイの?」

 

 俺のリゼ様愛が天元突破して自然と涙が流れていた……。

 

「ママにね、いたいときのおまじないおしえてもらったの、ニホンってところのおまじないなんだよ」

 

「いえ……! これは嬉しくて泣いているのです。リゼ様とおそろいが、私は嬉しくてたまらないのです!」

 

「お、おぉ……」

 

「このナナシダ! りぜ様から頂いた”どこでも場所が分かる君”を肌身離さず持ちます! そして家宝にさせていただきます! ありがとうございます!」

 

 床に膝を付き、臣下の礼ををする。

 

「よくわかんないけどやったー!」

 

 後顧の憂いを断つことができた俺は、高まった士気とリゼ様への忠誠を胸に任務へと向かった。

 

 

 ナナシダが軽い足取りで部屋を出ていく、すると部屋を満たしていた明るい空気が一変する。

 

 それもそのはず、人間がコミュニケーションをするには受け手が必要なのだ。部屋の主であるリゼが一人で騒がない限り、部屋には衣擦れの音のみが侘しく聞こえるのみとなる。

 

 ――いつもであれば。

 

「えへへぇ……」

 

 豪華なベッドの上、普段は大人しいリゼがうつ伏せに寝転びながら足をパタパタと遊ばせている。

 漏れ出る笑い声に芯はなく、吊るされた糸のように力のないモノだった。

 

「フンフンフーン~、フンフ~ン~」

 

 ご機嫌にオリジナルの鼻唄まで披露するリゼの視線は自身の携帯に注がれていた。

 画面に映っているのは先ほどナナシダに入れてもらったあのアプリ、幼子が見るには味気ない地図と一定の間隔で光る赤い丸のみ。

 

 誰もが興味を示しそうにない画面を見つめながら、しかしリゼはだらしのない笑みを浮かべるばかり。

 目じりを下げ、口の橋は吊り上がり、代わり映えのしない画面に蕩けるような眼差しを向け続ける。

 

「リゼ様~? いらっしゃいますか?」

 

 ナナシダが出ていった廊下に繋がる扉から女性の使用人の声が聞こえる。

 

「いるよー、でもいまちょっといいとこー」

 

 リゼは使用人に生返事を返す、なぜなら意識の大半を携帯の画面に向けているからだ。

 

「かしこまりました。お邪魔致しませんので、入ってもよろしいでしょうかー?」

 

 王族とはいえ子供のリゼに向けられる柔らかい言葉遣いを聞き、暫し考える。そしていいことを思いついたように気持ちを切り替える。

 

「はいっていいよー!」

 

「ありがとうございます。失礼いたします」

 

 リゼ、というよりは部屋に用事があった使用人が静かに扉を開けて入室する。

 しかしリゼが使用人に軽い足音を鳴らしながら近づく。

 

「みてみてー!」

 

 ずっと眺めていた携帯アプリ――ナナシダの認識では超の付く重要機密となっている――の画面を見せる。

 

「地図アプリ……ですか? それにこの赤い点は……」

 

「んふふー! これナナシダ!」

 

「まあ、そうなんですね!」

 

 さも当然のように言ってのけるリゼに、使用人も納得したように受け取ってしまう。しかし直後に首をかしげる。

 

「ですが、どうしてナナシダ様が映っているのでしょうか……。なにかの新しい遊びとかですか」

 

 ナナシダとリゼの関係は王城で働く使用人達の間では皆が知っているほどだ。

 正確には伝えられていないが、リゼの護衛を務める幼いながらも相当の実力を持つナナシダ。

 

 王族であり、幼い頃から信頼できる人間関係の構築が多岐にわたり必要なため、ヘルエスタ王国では王族一人一人に専属の護衛がいるのだとか。

 

 実質的な権限は持っていないが、王族からの信頼は厚く、歴代でも裏切りといった後ろ暗い話はついぞ出ていないのだ。

 王族への忠誠心の高さも他を圧倒しているため、彼らとの関係はそのまま王城での生活に直結すると噂されるほどだ。

 

 そんな忠臣を携帯の地図アプリに映している。

 使用人は思う、これは新しい遊びなのだと。鬼ごっこやかくれんぼに変わるナナシダが用意した遊戯なのだと。

 

「んーんー、違うよ」

 

 しかし、リゼが否定する。

 

「これね、ナナシダがどこにいるのかおしえてくれるの。だからいつでも、ナナシダがちかくにいるみたいなんだー」

 

「あら、リゼ様はナナシダ様が本当に好きなんですね」

 

「すき、なのかな……。でもいっしょにいるとたのしいし、あんしんするよ?」

 

「ふふっ、いずれリゼ様もご理解していただけます。一緒にいて安心できたり、楽しくなったりできるお相手は中々いないんです」

 

 リゼは思い返す、家族以外で一緒の空間にいたいと思える存在がいるのか。

 地図に映し出されている赤い点を見て心が躍る存在が、ナナシダ以外にいるのか。

 

「いない……」

 

 答えはすぐに出た。

 考えるまでもなく、最初から結論は出ていた。

 

 寂しいと思ったとき、つまらないと感じたとき、不安になったとき、ナナシダがそれを変えてくれた。

 ナナシダがいれば使用人達と一緒に楽しく遊べる。

 ナナシダがいれば退屈な時間が没頭するほどの楽しい時間になる。

 ナナシダがいれば見えないなにかに怯えることなく、彼の膝の上に座れば力が抜けるほどに安堵できた。

 

「ナナシダ、ずっとわたしといっしょに……いてくれるかな……?」

 

 だからこそ、突如名状しがたい恐怖に襲われてしまう。

 幼心が故の純粋な帰結。彼がいなくなったらどうなってしまうのだろうか。

 

 考えるだけで、刺す痛みが胸の奥に広がる。

 

「ね、ねえ……ナナシダはずっとわたしといっしょだよね? はなれたり、しない……よね……?」

 

 不安から目に涙をため、恐怖に体を震わせ、焦りから体は前のめりになっていた。

 使用人はそんなリゼの様子に驚き、直後に優しい笑みを浮かべる。

 

「大丈夫です。ナナシダ様はずぅっとリゼ様のお隣にいます。リゼ様の兄君や姉君にもナナシダ様のようなお方がおります。ですが皆様が王族の方々から離れたことはありません、ですからナナシダ様もリゼ様から離れるなんてことありえません」

 

 事実だ。

 どこから呼び寄せたのか、王家に付く護衛は高い戦闘力とそれに比例する忠誠心から任を外れたことがなかった。

 だからこそ使用人は思考することなく断言できる。ナナシダはずっと傍にいるのだと。

 

「そっか……そう、だよね……。えへへぇ……。は、はやくかえってこないかなー」

 

「ふふっ、そうですね。早くナナシダ様がお帰りになれるといいですねー」

 

 リゼと使用人は笑い合った。

 未だ拭いきれない不安を押し殺した笑みと、その心情を察するからこそ陰のない笑みを互いに向けあう。

 

「はやく……。早く……もどってきてね…………ナナシダ」

 

 おそらく自身が最も安心する名前を口ずさみ、リゼは再び携帯の画面に映し出される赤い点を追う作業に戻る。

 だが、先ほど以上の食い入るような視線を向けていた。

 

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