にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ07

 アンジュカトリーナと呼ばれる天才錬金術師の身辺調査を依頼された俺は、信愛なるリゼ様の護衛から離れなくてはいけず、苦汁の日々を過ごしていた。

 

 しかも件の錬金術師、アンジュカトリーナの身辺を調べれば調べるほど裏が見つからないのだ。

 当主から厳命された他国との繋がりの確認だが、対象は家から殆ど外出することはなく、第三者との会話は店員との「袋はどうされます?」「あ、はい。おねがいします」ぐらいだ。

 とても他国からの間者でもなければ、生まれも育ちもヘルエスタ王国。

 

 そして、次の目標であるアンジュカトリーナの研究内容についてだが……。

 むしろこれは報告したくない、俺の頭が心配されてしまいそうだ。だって――。

 

「ふへ、ふへへへぇ……私にもいつかこんな彼氏が……うへへ、へへ…………」

 

 自ら生み出したと思われる精巧に作られた男性の人形、研究室に数体置かれた彼らに向かい、アンジュカトリーナは涎を垂らしていた。

 

 そしてせかせかと高度に、そして緻密に組み上げられた錬金術を用いてイケメン人形を動かし、自分をお姫様抱っこさせたりと一人でイチャイチャし始めるではないか。

 

「はぁ……」

 

 そんな光景を天上裏から見させられること数日、もはや俺に緊張感はなく深いため息が増えるばかりだった。

 

 国一番の錬金術師、その才能はいかんなく自らの欲望を満たすために活用されていた。

 

「流石私! 天才だぜ!」

 

 そう言いながらもう一体のイケメン人形を動かして、自身の頭を撫でさせる。

 

 確かに天才だ、人形を動かすのに使用された術式。高度密度に組まれたソレがどれだけ異常なのか、少しでも錬金術の世界に通じている者ならすぐに理解させられる。

 素材を変え、武具を持たせれば立派な無人戦闘兵の出来上がりだ。

 もしも、この力と技術がヘルエスタ王国と不仲な国に渡りでもすれば、それだけで国同士のパワーバランスは崩れてしまう。

 

 俺の最終目標はアンジュカトリーナを国家お抱えの錬金術師として契約を結ぶこと、不可能なら国内でのみの活動へと誘導、他国への移籍を検討しているようなら……殺すこと。

 

 最後の手段、ヘルエスタ王家の方々は誰一人として望まないだろうが、影の一族は王家のためなら泥を被り、血を流す。

 要は、アンジュカトリーナを殺したとしても、隠すか誤魔化せばいい。なんだったら無言を貫けば有能な錬金術師の一人が死んだ程度ですむ。

 

「はぁ……イケメンに囲まれて死にてぇ……」

 

 物騒な考えが付いて回るが、目の前でだらしない表情を見せられれば最悪のパターンを考える必要はなさそうでよかった。

 

「アンジュカトリーナだな」

 

 となれば後は引き込む。それでもできればリゼ様と知己になってもらう。

 

「わっ⁉ わわわわわ! だ、誰⁉」

 

 自分以外の第三者の声に、アンジュは人形から転げ落ちて慌てふためく。

 

「急に声を掛けて申し訳ない。別に怪しい物じゃないから安心してくれ」

 

「え、こ、子供?」

 

 中身はともかく9歳の背格好、アンジュから見れば子供に見えるのは致し方ない。

 

「そう、子供。だから安心して話を聞いてくれ」

 

「いや無理だが? むしろ無理だが?」

 

「面倒だな……これでもヘルエスタ王国に属している。ナナシダが俺の名前だ、後で国に確認を取ってみろ」

 

「こんな子供でも働いてるとか、ブラックどころじゃない気がするんだけど」

 

 ……否定はしない。

 

「俺は孤児でね、幼い頃から手に職をってことだ。俺の話はともかく、今は国からの正式な話で来ている」

 

 懐からヘルエスタ王国の王族のみしか使用を許されない印を使用した封を取り出す。

 ヘルエスタ王国に住む国民なら誰もが知っているもので、正規以外の物を使えば事情はどうあれ重罪。

 

 そんな代物を見せれば途端にアンジュの顔に緊張を滲ませる。

 

「本当に国から……?」

 

「子供が相手で申し訳ないが、建設的な話をしよう」

 

「大人すぎないかな? 本当に子ども? ブラックな組織の取引現場とか目撃してない?」

 

 微妙に惜しい。教える必要もつもりもないけど。

 

「ははーん、さてはトラック転生だな。オラ魂の年齢教えやがれ」

 

「仮にそうだった場合は俺が年上だよな、敬語仕えよ小娘オラ」

 

「ひっ」

 

「冗談はさておき、この数年間で経験したことを説明すれば納得してもらえるとは思うぞ……聞きたいか?」

 

「え、遠慮しまーすぅ……」

 

 気にしなくてもいいんだぞ? 君の諸先輩方が積み上げてきたバベルの塔を登るようなものさ。

 いくら天才と言われていても14歳の少女、教えるにも内容が酷だ。

 

 自己紹介をそれぞれ済ませた後、俺はアンジュが国内で噂になっていることや、上層部が危惧していること、自身の立場などを説明した。

 彼女自身、基本的な活動範囲が自室兼研究所のこの部屋しかなく、食材や道具の買い出し以外で外に出ないこともあり俺から出た話は寝耳に水だったようだ。

 

「おかしい、私は理想の彼氏を夢見て遊んでただけなのに……」

 

 頭を抱えて唸るアンジュだが、その趣味が転じているのが現状だ。良くも悪くもアンジュがこれまでと同じ活動を続けていくのは無理だろう。

 

「だからこそ私が来たんです、アンジュさんの能力はここしばらく見させていただきました。このままではいつ厄介事に巻き込まれるか分かりません」

 

「ナナシダ君口調変わったよね……マジで年齢詐欺されてるみたい」

 

「今は仕事なので、意識の切り替えはできて当然です」

 

 聞けばアンジュも親元を離れて久しいらしく、今更迷惑を掛けたくないらしい。

 人脈も持たず、あるのは趣味で磨かれた錬金術師としての技量のみ。

 

「アンジュさん、貴方に頼れる人がいないのなら国を頼ってください。ヘルエスタ王家は心優しいお方ばかり、今回の申し出も単にアンジュさんの身を慮ってのことです」

 

「そうなんかなぁ……ナナシダ君の話を聞いたばっかりだから怖いんだけど」

 

「……ここだけの話にしてくださいね、俺は元々孤児です」

 

「そ、そうなんだね……」

 

 技術が発展したこの世界でもスラムは存在する、ヘルエスタ王国の治安は前世の日本に近いがだからと言って貧しくない人がいないわけじゃない。

 金銭以外にも理由は幾らでもある。

 

「でも王家の方々はそんな私を重用してくれています。普段はリゼ様の護衛も務めさせていただいています」

 

「リゼ様って、第二皇女殿下だよね? ナナシダ君ってもしかして凄い?」

 

「私というよりも、王家の方々の気質が素晴らしいからです。そんな方々だからこそ、アンジュさんを守ってくれると私は断言できます」

 

 ヘルエスタ家がどれだけ素晴らしいのか、登用されている使用人から噂は広まり、一定の信頼を誇る治政の手腕から国内での支持率は最高とも言えるのだ。

 

「それに、国以上のバックはありませんよ。ここの研究室も素晴らしいですが、国が用意する研究所は今まで以上にアンジュさんの研究を飛躍させてくれます」

 

「そ、そうだよね。国を疑ったら本当に信用できるところなんてないよね……」

 

 国じゃなくてその周りが信用ならんことしてるけどね。

 影の一族とか筆頭過ぎるわ。

 

「うん、私。国の保護を受けるよ」

 

「ありがとうございます。そう言って頂けると信じてました。資料は直ぐにこちらからお送りしますので、お待ちください」

 

 とりあえず今日の目的も無事完了だ。

 俺は意識を切り替えるために姿勢を改めてから、ゆっくり開けてアンジュを見る。

 

「ここらは個人的な話になる、アンジュさんにはリゼ様と会って頂きたい」

 

 まさかこんなことを言われるとは思っていなかったのか、アンジュが慌て始める。

 

「え、私なんかがお姫様と会っちゃってもいいの?」

 

「許可はこの後取ります、それ以前にアンジュさんの意思を確認したいんです。無理矢理に合ってもらってもいいことはありませんから」

 

「はえー、なんというか優しいんだね」

 

 感心するアンジュだが、別に彼女のためではない。

 

「全てはリゼ様のためですよ、王族であるあの御方には同性のご友人がいないんです」

 

「この時代でも王族ってそんな感じなんだね、でも同性でも私とお姫様って結構な歳の差だと思うけど……大丈夫なんかな?」

 

 十年という年の差は子供の成長で見れば大きいかもしれないが、長い付き合いになれば対したことじゃないはずだ。

 

「リゼ様は幼いながらに聡明なお方だ、同年代よりも年上のアンジュさんの方が適任だと私は考えています。アンジュさんも王族の方と繋がりを持てれば後々役に立つはずです」

 

「ま、まあ。断る理由もないし……あ、でも不敬罪で極刑じゃ! みたいなのは勘弁だからね⁉ 私のイケメン彼氏計画は始まったばかりなんだから!」

 

「暴言とかは庇えませんけど、リゼ様は寛大な方ですから。逆に気にされて委縮されてしまうとリゼ様に気を使わせてしまうので、できれば自然体でお願いします」

 

 護衛をしていて分かったことだが、リゼ様は相対する人、場所によって明確に対応を変えている。

 分かりやすいのが国王に対する呼び方だ、公の場では必ず”お父様”と呼ぶが普段は”パパ”と呼んでいる。

 使用人に対しても普段から遊ぶ者以外には一線引いた対応をしている。

 

「なんというか、王族って大変なんだね」

 

「ですからご友人と呼べる存在が必要なのです。私では務まりません、アンジュさんのように同性でなにかしらに秀でた能力を持っている人でないと」

 

「能力って必要?」

 

 首を傾げるアンジュだが、むしろかなり重要だ。

 

「生まれながらに得た王族の地位、幼い体に詰め込まれる英才教育。リゼ様に必要なのは”対等”な友人です、でないと両者にとって不幸な結果にしかなりませんよ」

 

 力の差は人間関係を残酷にも捻じ曲げてしまう。

 大人でもそうなのに、幼く自制の利かない年頃ならなおさら対立を生んでしまう。

 

 だからこそ、尊重できる重ならないカードを持った者同士での付き合いをするべきなんだ。

 

「リゼ様はお優しい方です。相手がご自身より弱者であるなら、弱者に向けたお優しい行動を取るでしょう。結果、弱者の反応は大きく分けて二つ……アンジュさんならご理解いただけるのでは?」

 

 幼い頃から稀代の天才と言われた才女、それが及ぼす影響とやっかみは体験済みなはず。

 勝手な邪推を肯定するように、アンジュは苦い笑みを浮かべる。

 

「あは、あははぁ……確かにね、そっか……。お姫様、リゼ様も同じなんだ……」

 

 少し落胆したような、安堵したような、凡そ14歳が見せるには大人びた雰囲気を漂わせたアンジュ。

 しかし直後に沈殿しかけた空気を振り払うような、勝気な笑みを浮かべる。

 

「おっけ! 私がリゼ様のお友達に立候補しようじゃないの!」

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