にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ08

「というわけで、こちらが王国で話題となっていた錬金術師のアンジュカトリーナです」

 

「よ、よろしく~……」

 

 アンジュの勧誘を終えた後すぐに国王に掛け合った。

 国王もリゼ様にご友人と呼べる存在がいないことを危惧していたらしく、同性で将来有望な錬金術師ということもあり快諾していただけた。

 

 それから数日、アンジュを伴ってリゼ様のお部屋にご挨拶をしに来たのだが。

 

(ね、ねえ……。ナナシダ君……)

 

(なにかねアンジュカトリーナさん)

 

(リゼ様って凄い寛大だとか言ってなかった?)

 

(言った、素晴らしく聡明だとも)

 

(じゃ、じゃあどうしてあんなに私を睨んでくるのさ⁉ 私まだ何にもしてないが⁉)

 

 半月振りにご尊顔を拝見したリゼ様、しかしあからさまに「私は不機嫌です」と膨れた頬と、刺すような鋭い視線が俺達に向けられていた。

 

 一国の皇女ということもあり、初顔合わせのアンジュは額に汗を滲ませて俺に助けを求めてくる。

 

(ど、どどどどどうにかしてよ! このままじゃ私処されちゃうじゃん!)

 

(そんなことはない、リゼ様は仏のような方だぞ。むしろその発言こそ不敬だ)

 

「ねぇ……」

 

「ハッ!」

 

「は、はい!」

 

 長い沈黙を破るリゼ様のお声は鈴のように軽やかだった。

 やはり俺がいるべき場所はリゼ様の影付きなのだと再確認する。

 

「ナナシダ、すぐにもどってくるって、いってたよね……」

 

「はい、可及的速やかに任を終え帰還しました」

 

 本当はアンジュの勧誘が終わり次第はせ参じたかった、だが正式に国に保護と援助を受けるための手続きは多く、その手伝い兼アンジュの護衛を任せられてしまったのだ。

 

 それが、リゼ様のご不快を招いてしまったのかもしれない。

 

「やっとかえってきたら、しらない……おんながいるし……」

 

(ナ、ナナシダ君……もしかしなくても原因は君じゃない? もしかして私関係なくない?)

 

「ねえそこのひと」

 

「は、はい!」

 

「ナナシダとなかいいね、こそこそとたのしそう」

 

「い、いえ! そんなことないです!」

 

 4歳児……後もう少しで5歳になる幼女に詰められる14歳の少女。

 おかしいな、本来は頼れる姉のような友人になることを期待していたのだが、今の状況を見る限り既に上下関係が出来上がっているじゃないか。

 

「ナナシダと、どんなかんけい?」

 

「えっと……昨日までは話し相手になってくれたり、相談に乗ってくれたり……。守って……貰ったり?」

 

「へぇ……」

 

「ヒィッ⁉」

 

 ふむ、リゼ様はこんなにも冷たいお声を出せるようになっていたのか。

 これこそ人の上に立つお方が出せる覇気ということか……たった半月、お会いできぬ間にこんなにもご立派になられたのか……。

 

「わたし、これみてたの」

 

 リゼ様はご自身の携帯を見せてくる、そこには”どこでも場所が分かる君”の専用アプリが映っていた。

 唯一登録されている俺のGPS端末が赤い点となって点滅している。

 

「あ、あの……これって」

 

「リゼ様いけません、そちらは極秘事項です。アプリの存在を無闇に広めては危険です」

 

「ナナシダはだまってて」

 

 久しぶりの命令に体が喜んで反応する、即座に閉ざした口は微動だにせず。続く言葉は喉の奥にしまい込む。

 

「え、え? なんで黙ってるんナナシダ君? 私を一人にしないでよ! 今心臓ばっくんばっくんしてるんだけど⁉」

 

「わたしのナナシダッ!」

 

 つんざくような声が部屋に木霊する。

 発生源はリゼ様、しかしこんなにも取り乱したお姿を見たことがなかった俺は、自分でも驚くほどに動揺していた。

 

 俺でさえこうなのだ、アンジュはさらに困惑した表情で固まってしまう。

 

「わたし! わたしのなの! ナナシダはわたしだけのなの! あんたなんかいらない! じゃまなの! きえて! わたしのナナシダのまえにいないで!」

 

 たった半月、過ぎてしまえばあっという間と言える時間に、リゼ様になにがあったのだ……。

 焦ったようにわめき散らかすお姿は失礼ながら年相応とも言えるが、同年代と比べて達観した視野を持つお方なのだ。

 

 ご自身の立場、そして言動を理解しているリゼ様が髪を振り乱してアンジュに詰め寄る。

 

「なんで! わたしにはナナシダなの! ずっといっしょにいるの! なんであなたがいるの⁉ ここはわたしとナナシダの……ふたりだけのばしょなんだから!」

 

 感情のままに叫び、幼い体を駆使して必死に邪魔者と罵るアンジュを叩き出そうとする。

 しかし、勢いだけではどうにもならない。14歳と4歳という子供の年齢差というのはそれだけで暴力的だ。

 

 最初は混乱していたアンジュだが、取り乱すリゼ様を前に徐々に冷静を取り戻してく。

 そして――。

 

「リゼ様……私はナナシダ君を取りませんよ。ナナシダ君はずっとリゼ様のことばかり考えてたんですよ?」

 

「うそ! そうやって! いいことをいって、わたしがだまされるとおもわないで! わたしはヘルエスタおうこくの、だいにこうじょなんだから!」

 

「リゼ様! それ以上言ってはいけません!」

 

 思わず口を開いた。

 リゼ様の命を無視した、完全なる反意。しかし言わずにはいられなかった。

 

 取り乱しているとはいえ、王族が自信の地位を口に出すということはそれだけで意味を伴うのだ。

 リゼ様としてではなく、ヘルエスタ王国第二皇女殿下としての言葉になってしまう。

 

 しかも、権力を振りかざすようなことに使ってしまえば、ヘルエスタ王家の名に泥を塗ることになる。

 命令に背きたとえ不忠と罵られ、処罰されるとしてもリゼ様にそのような醜態を晒させる訳にはいかなかった。

 

「うるさい! ナナシダ! ナナシダはわたしのいうことだけ、きけばいいの! わたしのナナシダでしょ⁉」

 

「はい! 私はリゼ様のためだけに存在します」

 

「なら――」

 

「なればこそ、私の役目はリゼ様に好まれることにあらず。身命を懸けてリゼ様をお支えし、たとえこの場で処されようとも、リゼ様のために行動することが誠の忠誠と心得ます」

 

「なに……いってるの……。わかんない、むずかしい……いいかたしないで! かんたんにいって! わたしのいうことだけきいてよ!」

 

 今のリゼ様は正常な判断ができなくなっている……。

 これ以上の不忠……しかし、リゼ様のためならいかようにも……!

 

 そうして、リゼ様に度重なる不敬を心中で詫びながら動こうとしたときだった。

 乾いた破裂音が部屋に響き、あれほど騒がしかった室内が静寂に包まれる。

 

「ごめんな……でも分からないならこうやって教えるしかないんよ……」

 

 アンジュが呟くように言った。

 見れば彼女の右手は振り抜かれた後のような位置にあり、そしてリゼ様の左頬が赤くなっていた。

 

 アンジュが、リゼ様の頬を叩いたのだ。

 

「え……」

 

 おそらく初めての経験。

 王族として生きてきたリゼ様の頬を叩ける存在なんて王城には存在しないのだ、唯一家族である母君、そして姉君ぐらいだろう。

 

 基本的に家族内の関係もかなり良く、ましてや普段のリゼ様は品行方正。叱咤されることもなかった。

 

 だからこそ、第三者に頬を叩かれたのは人生で初めて。体をどこかにぶつけたときの鈍い痛みではない、刺すような鋭い痛みに、リゼ様は理解が追いついていなかった。

 

「ナナシダ君は物なんか?」

 

 未だ困惑しているリゼ様に、アンジュが膝をついて視線を合わせる。

 

「ナナシダ君はリゼ様のことを大切にしてる、たった数日話しただけだけど……。ナナシダ君は口を開けばリゼ様のことばっかりで、私はもうお腹いっぱいになるぐらいだったよ」

 

「……」

 

 リゼ様は呆然とした視線をアンジュに向ける。

 

「そんな、リゼ様大好きなナナシダ君をリゼ様は道具みたいに扱うんか?」

 

「ち、ちがう……」

 

 ようやく、絞り出すようなか細い声でリゼ様が答えた。

 だが、アンジュの力強い瞳がリゼ様を放さない。

 

「じゃあ、どうしてあんな酷いことが言えるんよ? 私の言うことだけ聞けって、そんなの奴隷じゃん……ナナシダ君が可哀想だと思わないの?」

 

「――ッ⁉」

 

 リゼ様の目が大きく見開かれる。

 いや、俺としては奴隷扱いで全然良いんだけど……。

 

 むしろそうして貰わないと、いざこの命を捨て石にするときとか色々大変になるだろ。いや、そんな状況になるわけがないんだけどね?

 たとえ他国と戦争状態になっても、影付きと影の一族を総動員するだけで多分大体は対処できるぞ。

 

 敵国に侵入して暴れてトップ層を人質にでも取ればいけるだろ。知らんけど。

 

「リゼ様はいいの? ナナシダ君が人として扱われないなんて悲しくならないの?」

 

「……ぃゃ」

 

「そんなんじゃいつかナナシダ君が離れて行っちゃうかもしれないよ、いいの?」

 

「よく……ない……」

 

 別に俺のことは本当に道具程度でいいんだけどなぁ……。

 しかし、それは俺の独りよがりだったようで、アンジュの言葉にリゼ様の瞳から涙が溢れ始める。

 

 そして小さく聞こえた意味を持たない声は、溢れる涙に比例して大きくなっていく。

 

「ナナシダ君、ちょっと席外してくれるかな……」

 

 本格的に泣き始めてしまったリゼ様は胸に抱えたアンジュがこちらを見る。

 

「分かった、リゼ様を頼んだぞ」

 

「任せて、こういうときは女の子同士じゃないとね」

 

 ここでごねても状況は悪化するばかりだろう、幸か不幸か……リゼ様の中でナナシダという存在は大切な人としてカウントされていたのだ。

 先ほど取り乱したのも、今泣いているのも両方とも俺が原因だ。

 

 歯がゆい思いを抱えながら、俺は部屋を出る。

 

「……だからって護衛を止める訳にはいかないんだよね」

 

 独りごちた後、天井裏に入りリゼ様の部屋に再入室。

 どこから刺客が来ようが、アンジュが何かをしようとしてもすぐさま対処できるように準備する。

 

 天井から見ると、リゼ様は俺が部屋を出たときと変わらず、アンジュの胸に抱かれながらすすり泣いている。

 

「……ら…………して」

 

 流石に話を聞いてしまうのはまずいと思い、耳栓をする。

 そうしてリゼ様とアンジュの二人が話す様子をつぶさに見守る。

 

「…………」

 

「………………」

 

 リゼ様が少し口を開けば、アンジュがそれに答えるように長く口を開く。

 返すように、おずおずとリゼ様がさらに答える。

 

 そんなやり取りが十数分続いたとき、リゼ様がご自身の携帯画面をアンジュに見せる。

 

「……」

 

「………………」

 

 お、アンジュが引いてる。リゼ様はいったいなにをお話に……気になる。

 だが、これ以上は護衛ではなく私欲になってしまう……我慢、我慢だ俺……。

 

「……!」

 

「…………⁉」

 

 なにかを力説するリゼ様、そしてギョッとして驚くアンジュ。

 

「…………」

 

「……!」

 

 そしてすぐさま落ち込んだリゼ様に、アンジュが肩を叩きながら「任せろ!」的なジェスチャーをする。

 

 最初はどうなるかと思ったが、アンジュのおかげでリゼ様の様子は落ち着きを取り戻しているようだった。

 目は赤く腫れていたが、次第にいつもの柔らかな笑みが現れ始める。

 やはりリゼ様には同性のご友人が必要だったんだ。

 

 自信の考えが間違っていなかったことを再認識していると、リゼ様とアンジュが立ち上がり廊下に出てこようとしている。

 音を出さないよう屋根裏を這って移動し、扉の前でずっとそこに待機していた体を装う。

 

「おまたせ、待った?」

 

「いや、全然。それよりもリゼ様は……」

 

 どうやらリゼ様はアンジュの後ろに隠れているようだった。

 アンジュにそう言えば苦笑とともに後ろへと手を伸ばし、リゼ様を前に引っ張り出す。

 

「ほら、リゼ。ナナシダ君に言うんでしょ?」

 

「……いま、リゼ様は呼び捨てにしたのか?」

 

 なんという不敬……天高きお方のお名前を呼び捨てにするなぞ……。

 俺も感情の制御が甘いようで、漏れ出てしまった殺気にアンジュが風が抜けたような音を喉で鳴らす。

 

「ち、違うよ⁉ リゼ様にしっかり許可取った! お友達が様なんておかしいって!」

 

「……リゼ様、そうなのですか?」

 

「う、うん……おともだち、だから……」

 

 確認すれば頬を赤くして嬉しそうに答えるリゼ様。

 

「そうですか……お友達ができましたか…………。それはようございました」

 

 よかった……。本当によかった。

 これで寂しくありませんね。

 

「うん、そ、それでね……ナナシダにあ、あやまりたくて……」

 

 安心のため息を全身で表現するアンジュを尻目に、リゼ様が手をモジモジとさせる。

 

「リゼ様が私に謝る必要などございません、私はリゼ様のために存在するのですから」

 

「ナナシダ君、それはよくないよ。リゼ様を思うのなら、自分を道具だなんてそれこそ不忠ってやつだぜ?」

 

 そう言われてしまうとぐうの音も出ない。

 当主が言っていたことをいつの間にか忘れていたようだ。

 

 道具としての心は俺の中でだけ、リゼ様から見た俺を演じなければ。

 

「……私が間違っていましたリゼ様。リゼ様のお心遣いを無碍にしてしまうところでした、お許しください」

 

「いいよ……。わたしも、ナナシダにヒドイこといってごめんなさい……」

 

 ペコリと、両手を前にそろえて頭を下げるリゼ様。

 それに対して俺も返すように頭を下げる。

 

「リゼ様のための私です、道具ではなく人として見てくださるのなら最上の喜びです。ありがとうございます、リゼ様」

 

「う、うん……えへ、えへへぇ……」

 

 やばい、このタイミングで照れ笑いは反則だ……。

 そのうえ久しぶりのリゼ様スマイルの威力は大きく、手榴弾を胸に抱えて起爆させたときのような衝撃が襲ってくる。

 

「……あれ? し、かい……が……」

 

 なにもされていないのに、意識が遠のく……。

 いつの間にか俺は地面に横たわっていた。

 

「え⁉ な、ナナシダ君っ⁉」

 

「ナナシダッ⁉」

 

 薄れゆく視界の中で、驚きと焦りを浮かべた二人の顔が見える。

 

「ナナシダいたいの⁉ ねえ! ナナシダこたえて! ナナシダ!」

 

「ナナシダ君! てすっごい言い笑顔で鼻血出してるけど、もしかして…………」

 

「ナナシダ! ナナシダアアアア!」

 

「いや、絶対嬉しすぎて気絶してるだけじゃん」

 

「ナナシダアアアアアアア!」

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