にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ09

 リゼ様にアンジュというご友人が出来て早くも3年が経っていた。

 

 7歳と成長されたリゼ様は言葉遣いもいっそう達者になり、詰め込まれた英才教育は多岐に渡った。

 さらにアンジュという天才錬金術師の英知はいかんなく発揮され、リゼ様に多方面での一助になっていた。

 

 俺も巻き込まれることが多かったが錬金術を用いた遊びなども、リゼ様にはかなり刺激的だったようで、二人の関係は良好の一言に尽きた。

 

 そんな、素晴らしいご成長を遂げたリゼ様だが最近困ったことが起きている。

 

「ナナシダ―早く―」

 

 夜、寝間着に着替えたリゼ様が布団に寝転びながらポンポンと、あからさまに人一人分に空けられた空間を叩く。

 

「リゼ様、どうかそれだけはご容赦を……」

 

「ぶー、いいじゃん! 一緒に寝ようよー!」

 

 7歳になられたリゼ様だが、先日唐突に「一緒に寝よう!」と国王にでも聞かれればギロチン確定の呪文を使われたのだ。

 

 それ以降、毎晩のようにこうして布団で一緒に寝ようとするリゼ様VS絶対にお断りする俺、の構図が出来上がるのだ。

 

「えーなんでー、私と一緒に寝るのがいやのか⁉ 不敬だぞー!」

 

「不敬と言われましても……」

 

 むしろお誘いに乗る方が不敬な気がする。

 俺も今年で12歳、前世なら小学校を卒業して中学生に切り替わる時期だ。

 

 体がそういう作りになる前だとしても、こういった話はできるだけ裂けていくべき。後々噂になろうものなら目も当てられない。

 

「それにリゼ様と一緒に寝るなんて嬉しすぎて昇天してしまうほど嬉しいですよ」

 

「ほ、本当……?」

 

 瞳を潤ませて上目遣いという王道の組み合わせ、それにプラスしてご自身の毛布で口元を少し隠すことで、受けてに隠れた口元を都合のいいように解釈させる。

 ……なんて高度なテクニック、3年前の俺ら気絶は必死だっただろう。

 

「本当ですとも、私のような者にそのような温かいお言葉、感謝に耐えません」

 

「ねーいつも思うんだけどさ、どうしてナナシダはいつも硬い話し方なの?」

 

「自身の立場を弁えているだけです」

 

「はい、今日から敬語禁止!」

 

「……リゼさ――」

 

「き ん し! 次敬語だったら一緒に寝ること! これは命令だぞ!」

 

 リゼ様は逞しいことに他者への命令を覚えになられた。

 とはいっても今のように理不尽を強いることはない……いや、俺からすれば無理難題なんだけどね。

 

 あくまでも茶目っ気からくる冗談のようなものだ……いや、今回のは目がマジだって語ってる。

 

「ふっふっふ! 私も7歳! ナナシダを言い負かすことなんて簡単なんだから! ほら! 大人しく来て!」

 

 悪戯な笑みを浮かべて勝ち誇るリゼ様、しかしそのお言葉は事実を言い当てていた。

 

「……かしこまりました」

 

 言葉を崩すこともできず、されとて命令に逆らうこともできず。俺は肩を落とす。

 

「ですが、国王陛下に確認してまいります。そのうえでご許可をいただけましたらです」

 

「んもう……お父様に言ったら絶対ダメって言われちゃうじゃん」

 

 超の付く子煩悩な国王なら絶対に許可しないだろう。

 リゼ様はご不快に思われるかもしれないが、口調を崩さないで添い寝を回避するにはこれしかなかった。

 

「では、確認してまいります」

 

「あ、まって私も行く!」

 

 そういって布団から起き上がるリゼ様。

 

「かしこまりました、夜は冷えます故こちらを」

 

「ありがとー」

 

 手触りの良い大き目のストールで温かくしてもらい、二人で国王の元に向かった。

 

 国王の部屋に向かい扉に手を掛けようとしたときだった。

 

「ご用向きを伺いましょう、リゼ様」

 

 音もなく天上から当主が現れる。

 初めて天上から当主が下りてきたときは驚いていたリゼ様だったが、今では慣れた様子で平然と答える。

 

「お父様に会いに来たの、通して」

 

 俺に向けられるときとは違う、硬く強い口調で言い放つ。

 当主がこちらを一瞥するが、すぐさまリゼ様に向き直る。

 

「かしこまりました、ですが今は夜も深くなりつつあります。日を改められた方がよろしいかと」

 

「何度も言わせないで、そんなに長居するつもりもないの。私だって早く寝たいのよ」

 

「……委細承知」

 

 突っぱねるようなリゼ様の言葉、当主は一度礼をすると音もなく姿を掻き消す。

 

「入ってよいぞ、リゼ」

 

 それから数分もしないうちに扉の奥から国王の許可が下りる。

 中に入ると装いはラフだが、執務に勤める国王の姿があった。

 

「このような時間に話があると聞いたが?」

 

「はい! 私、ナナシダと添い寝がしたいのです! ご許可を下さい!」

 

「ふむふむなるほどのぅ、ナナシダと添い寝……うむ、ダメだな」

 

「どうしてですか⁉」

 

 断られるとは思ってもいなかったリゼ様は、余裕な表情から一変して国王に詰め寄る。

 

「年端もいかぬ娘が男と添い寝など、許可できるはずがなかろう」

 

 しかし国王の反応は意外だった。

 俺は国王がもっと取り乱したり、リゼ様ではなく俺が叱咤されるか処罰されるものだと思っていた。

 

 だが国王は落ち着きを払い、まるで予想していたかのような対応を見せている。

 

「お父様! どうしてダメなのですか! ナナシダと一緒に寝るだけですよ!」

 

「リゼよ、その言葉が意味するところを理解しておるのか? ナナシダは単なる護衛だ、そのような者に気を許し過ぎではないのか?」

 

 至極御もっとも。

 アンジュの御かげで以前よりもリゼ様との信頼関係は強まっていると実感しているのだが、強くなりすぎる関係とはそれはそれで問題なのだ。

 

「ナナシダは単なる護衛ではありません! 私のた、た……」

 

 国王の言葉に反射的に声を張り上げたリゼ様だったが、すぐに勢いは沈下。

 そして火種が燻るように呟くのみで、言葉を続けることができなくなっている。

 

 顔を赤くし、何かに必死に耐えようとするリゼ様を前に、国王は気付かれない程度の優しい笑みを浮かべた。

 

「リゼよ、聞くのだ。我々ば一国を統治する王族だ、行動には責任が求められる。変化の激しいこの世であるのなら、なおさら半端な行いは身を亡ぼす」

 

 国王は父が子に優しく諭すような声と、王という頂きから見守るような優しい眼で、俯いてしまったリゼ様を見やる。

 

「お父様が、なにを、言っているのか……分かりません……」

 

「今は分からずとも好い、だが努々忘れるな。我々の行動には多くの影響を及ぼす、覚悟を伴わない言葉は愛する者を否応なく傷つけるのだ」

 

「……はい」

 

 国王の話は分からずとも、リゼのために言葉を尽くしていることは理解できた。

 だからこそリゼ様は大人しく、そして弱弱しく答える。

 

「考えるのだ、そして決断するのだ。示しなき道は幾万の茨が待ち受けよう、踏み出せば茨に心身は傷つけられる。傷つくことを恐れれば歩みは止まり、道半ばで朽ち果てるだろう」

 

 言葉は鋭く、暴力的なまでにリゼ様へと注がれる。

 そのどれもが愛ゆえの鞭だと、誰もが理解できた。

 

 強く、耐えるように握りしめられていたリゼ様の手を、国王の皺の目立つ大きな手が包み込む。

 

「乗り越えるのだ、恐れを、痛みを……。さすればお前の求める物は手中ぞ。必要なのは揺るがぬ覚悟、それさえあれば手に入らぬはこの世界だけじゃ」

 

 国王の言葉にリゼ様が顔をゆっくりと持ち上げる。

 

 国王は笑う、悪辣な王者の笑みを見せる。張り付けたのか、剥がれ落ちたのか、勝者の言葉が部屋を満たす。

 

「王族とはそういう者だ」

 

「お父様かっこつけててダサい、恥ずかしくないの?」

 

「んぬぅうううう! 娘が辛辣じゃああああ!」

 

 だが、そんな王者をリゼ様が一刀に伏す。

 国王は顔を両手で覆い、耳まで真っ赤にした顔を隠しながら悶える。

 

「儂頑張ったのに! 娘のために恥ずかしいセリフいっぱい練習したのにぃいいい!」

 

「おぉ……国王陛下、なんとお労しい……」

 

 しかも悲しきかな、冷めた目で見つめるリゼ様と俺とは対照的に、国王と当主は悲痛に苛まれる。

 出来の悪い劇を見せられたリゼ様はもはや興味なしとばかりに振り返る。

 

「戻りましょう、ナナシダ」

 

「御意に」

 

「あ、待つんじゃリゼ!」

 

 そのままスタスタと部屋を出て行こうとするリゼ様だが、国王の制止に一度だけ止まり。

 

「お父様、ありがとうございました。得難い教訓を私は得ることができました」

 

 笑顔で言い放ち、再び歩き始めるとそのまま部屋を後にする。

 

 続く形で俺が部屋を出ようとしたときだった。

 

「ナナシダよ、リゼを頼むぞ」

 

 背後から聞こえた国王の声に、俺は振り返る。

 先ほどの取り乱しが嘘のように、国王の鋭い眼光がこちらを射貫く。

 

「お前はまだ気づかなんだ、どんな形であれ儂はソレを咎めはせん。ただ――」

 

 全身を襲う寒気、銃弾を防ぐ体を手に入れてから久しく感じることのなかった恐れ。

 毒され続けて鈍くなった心を掴まれ、無理矢理に鼓動させられているかのように全身の血が高速で巡る。

 

 俺はこれから逃げてはいけない。腰に重心を落とし、腹に力を入れ、逸らさぬよう目を見開く。

 

「儂の娘、国一つと心得よ」

 

「……リゼ様がお望みとあらば」

 

 体は確かに正直者だ。しかし臆することはない、リゼ様が望めば俺はそれを叶えるだけだ。

 深く一礼をした後、俺はリゼ様を追って部屋を出た。

 

「ふんっ、最後まで自己を出さなんだ」

 

「教育の賜物、と言いたいところですがあれは少々特殊でして。リゼ様のご尊顔を拝見する以前よりナナシダの自我は希薄でしたから。リゼ様の影付きを拝命して以降、あれでも少しは改善したのです」

 

「……ふむ、難儀なものだな。未だ全てを抄うことは叶わぬか」

 

「陛下、我々は雛ではありません。籠の扉は常に開いております、飛ぶも飛ばぬも、飛躍も失墜も自由なれば。こぼれ落ちたのではありません、陛下が御気に病む道理もございますまい」

 

「言ってくれるな……。だがそれでも夢想を抱き、背を見せるが王の勤めよ」

 

「我が主よ……」

 

「さしあたってワザップで新しい陣形を見つけるかの、将棋でお主に勝てぬようではこの舌も強気には語れまい」

 

「……御相手、努めさせていただきます」

 

 

 部屋に戻ったリゼ様はすぐに布団へと潜り込んでしまわれた。

 

「ナナシダ……。お父様の話を聞いて、どう思ったの?」

 

 布団の中からくぐもったリゼ様の声、落ち込んでいるのだと分かるほどに暗いものだった。

 

「流石国王陛下のお言葉、経験を伴った重みのある身に――」

 

「そうじゃない」

 

 布団が蠢き、リゼ様がお顔だけを外に出してこちらを見つめる。

 

「……ナナシダは、私のことどう思ってるの?」

 

 不安げに揺れる大きな瞳を前に、不覚にも思ってしまった。

 星のように、綺麗だと。

 

「答えて……」

 

 布団の中から手が伸びてくる。

 伸ばされたリゼ様の手が袖を掴む。

 

「私のこと……す、好き……なの……?」

 

「リゼ様……」

 

 袖を掴むリゼ様の手が震えていることに、俺はしばらくの間気付くことができなかった。

 慌てて手を取ったとき、リゼ様の手はひどく冷たかった。

 

「わ、わたし……お父様の前じゃ言えなかったけど、ナナシダのこと……す、好きだよ」

 

「……勿体なき、お言葉です」

 

「どうして、答えて……くれないの?」

 

 俺は安心させるように、震えるリゼ様の手を強く握った。

 

「リゼ様のお気持ち、恐れ多くも私は嬉しく思います。私の人生において今ほど幸福なことはございません」

 

「……なにが言いたいの」

 

「誠に申し上げにくいことであります」

 

「いいから……言って」

 

「リゼ様、そのお気持ち。真の想いでござりましょうか?」

 

 ピクリとリゼ様のお体が紐で引っ張られたように、一瞬の痙攣を見せる。

 

「人の想いは千差万別、同じ思いでも動く舌は別の形を取ることもあります。先の言葉、それはどのような想いからでございましょう」

 

「……なにを言っているのか、わかんない」

 

「隣人に向ける物でしょうか、ご家族に向ける物でしょうか、アンジュのような友人に向ける物でしょうか、物に向ける物でしょうか」

 

「お、お嫁さんに……なりたい、やつ」

 

 流石に7歳が言葉にするには難しいだろう。

 そう、リゼ様は言動が大人びているが未だ7歳。小学1年か2年のお年頃だ。

 

「そう想って頂けたこと、私の誉れです」

 

 小学2年の時に芽生えた恋心、普通であれば淡い青春を過ごし酸いも甘いもやがては思い出となり昇華されるだろう。

 

「ですが、リゼ様は私以外に年の近しい異性との交流がございません」

 

 普通であるなら。

 リゼ様は王族だ、普通であるわけがない。

 

「よくあることです。よく遊ぶお友達が好きになり、それを恋心か親愛かも判別が付けられず衝動的になってしまうことが」

 

 リゼ様の最近の行動はここから来ているのだろう。

 

 どう表現していいのかも分からずとにかく一緒にいたいと思ってしまうようなものだ。

 だからこそ、リゼ様の突発的な行動は夜。俺が御傍を離れるときに決まって行われるのだ。

 

「……ぅ……ぃ……」

 

「これから先、様々な出会いが待っております。私なんかが及びもしない、人間性に富んだ素晴らしいお相手が」

 

「ち……ぅ」

 

「話に富み、リゼ様の心を揺さぶるほどに楽しいひと時をくださる、楽しい人が。人柄に富み、リゼ様をときに支え、ときに引っ張ってくれる頼もしい人が。徳に富み、リゼ様と同じ目線を持ち、横に立つことができる人が」

 

「ち……が……」

 

「そのときに思われるでしょう。あぁ、あれとは違う。この想いこそ恋心なのだと」

 

「ちが……う」

 

「ナナシダに向けたあの想いは……幼心が生んでしまった勘違いだったのだと」

 

「ちがうっ!」

 

 握っていた手が強い力で振り払われる。

 布団の上に立ち、怒りが収まらないリゼ様が睨みつけてくる。

 

「違くありません」

 

 しかし、事実は事実だ。

 たとえ怒りに思考を支配されようとも、この想いは本当なんだと世界に訴えたところで事実が変わることなんてありえない。

 

「私は! ナナシダが好きなの! 絶対に絶対に好きなんだから!」

 

「……誠に、申し訳ございません」

 

 自然と体が両手と両膝を付いていた、額を床に擦りつけて俺は謝罪と共に土下座をしていた。

 

「どうし、て……。あやまるの……」

 

「私という存在が、リゼ様の御心をここまで掻き乱してしまいましたこと。ここに謝罪いたします」

 

「やめ、て」

 

「影付きにあるまじき行いにございます。この行い、へルエスタ王国に住まい王家の庇護を受ける民の一人として許しがたく。自害のご許可を賜りたく伏して願い奉りまする」

 

 まさかこのような理由で自害することになるとは思わなかった。

 しかし、俺にとって人生の全てとも言えるリゼ様に対する不忠。誰よりも俺が自身が許せなかった。

 

 どんな理由であれリゼ様のお顔を曇らせ歪ませてしまったのだ、初めて自らの命をこの手で断つべきだと思った。

 普通の刃では強靭なこの肉体を傷つけることもできずに折れ曲がってしまうだろう、銃弾でも死ぬまでには何発も必要。

 

 だからこそ、自分の手がなによりも自信を脅かす槍となる。

 土下座の姿勢から正座に切り替え、真っすぐにリゼ様を見やる。

 手刀を心臓が位置する胸に宛がい、リゼ様のご決断を待つ。俺の命はあの日、初めてご尊顔を伺ったあの日からリゼ様のために使うと決めているのだ。

 

「ダメッ!」

 

 泣き叫ぶような声と共に、小さな衝撃に襲われる。

 抱き着かれた衝撃は小さかったが、それ以上に一瞬だけ見えたリゼ様の涙が大きなショックを与えた。

 

「ごめんなざい! もう、言わないがら! しんじゃいやだよぉ……!」

 

 なんと愚かなことだろう、これ以上お顔を曇らせたくないと思い行動すれば尽くが裏目に出てしまう。

 どれだけ体を強くしようとも、鉛玉を防ぐ皮膚を手に入れようとも、こんなにも傷つけてしまっているではないか。

 

「ナナシダが死んじゃったら、私も死ぬから!」

 

 声だけではなく、体も震わせながらリゼ様が叫ぶ。

 

「それはなりません……。リゼ様のお命と私のとでは意味も重さも違います」

 

「そんなの私が決める! ナナシダがなにを言っても絶対に死んでやる! いやだったらナナシダも死なないで、私を止めてよ!」

 

「……ですが」

 

「命令よ! ナナシダ! 今後私の許可なく死なないこと!」

 

「御意に」

 

「今日のことがダメなら、今日ここで私が言ったことは忘れて……」

 

「御意に」

 

 抱き着いているリゼ様の体の小さな震えが、少しだけ収まる。

 あぁ……不敬だ、こんな考えを持ってはいけないというのに……。この状況に胸が高鳴っていた。

 

 道具であるはずの俺という存在が、ここまでリゼ様に影響を与えたという事実がどうしようもなく心を満たしていた。

 いや、自分を道具と思うのはやめたはずだったな。

 

 3年前、リゼ様に流させてしまったあの涙を冒涜するようなものだ。許されるわけがない。

 

「私だけじゃ、ずるい……ナナシダも抱きしめてよ」

 

「……ご命令とあれば」

 

 自分の体より一回りも小さな体を壊さぬように、綿菓子を持つように抱きしめる。

 この化け物の体は気を抜けば何もかもを壊してしまいそうで、俺は初めて力加減することに苦心した。

 

 人の体とは驚くほど脆いのだ。

 

「ナナシダ、もう死なない……?」

 

「リゼ様がお望みとあらば」

 

 少しでも安心してもらえるよう、声を柔らかくする。

 そうすればリゼ様から聞こえる鼓動の音が少しずつ緩やかなものになっていく。

 

「だめ、こういうときは”はい”以外言っちゃダメ。難しい言葉だと、遠くに感じちゃう」

 

「はい」

 

「頭、撫でて……」

 

「はい」

 

「もう少しこのままでいて……」

 

「はい」

 

「少しだけ強く、抱きしめて……」

 

「はい」

 

「もう少し、強く……」

 

「……はい」

 

「もっと、強く……」

 

「痛くは……ございませんか?」

 

「うん、少し痛い……でも」

 

 少しだけ顔を放したリゼ様はこちらを揺らぐことなく見据えながら、泣きはらしたお顔でほほ笑む。

 飴細工が熱に浮かされて端が溶けはじめているのかのような甘い匂いがした。

 

「痛いくらいが落ち着くの」

 

 窓から差し込む月明かりがリゼ様を照らす。

 自分の肉体が未だ幼いことに初めて安堵した。

 

 それほどまでに薄く照らされたリゼ様は美しく、そして……魅力的に見えてしまったのだ。

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