にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ10

 リゼ様の一緒に寝たい騒動があってから数日、以前までと同じ距離感を維持するのが難しい状況が続いた。

 しかし、時間とはかくも偉大だ。時間を経ていくごとにリゼ様との会話量も増え、以前同様のやり取りが行える程度には回復できたのだ。

 

 たまにハグや頭を撫でることを所望されたりと全部が全部元通り。というわけでもないが、それでも影付きの役割を全うできるというのは大戦果だ。

 

「おまたせ、待った?」

 

「待ってないが?」

 

 リゼ様のお部屋に入って来たのは稀代の天才錬金術師、アンジュカトリーナ。

 今日は二人が定期的に行っている懇親会、という体の遊ぶ日。

 

「じゃじゃーん! 今日のクッキーは王城近くに新しくできたスイーツ店のお菓子でーす!」

 

「凄いじゃん! あれって結構並ばないといけないんだよね?」

 

「いやー、実はあのお店とちょっと関りがあってね。お店で使ってる道具の一部を私が完全オーダーメイドで作ってるんだよ」

 

 国からバックアップを受けている錬金術師が作った道具。

 それだけでも話題性を持っているのだ、オーダーメイドともなればそれだけで店の評判にも繋がるはずだ。

 

「んで、そのオーダーメイドを安く売る代わりに、優先的に買わせてもらえるってわけ」

 

「おー流石国家錬金術師!」

 

「そうそう、両手をこうしてパンッてすればあら不思議、ただの木材が立派な住宅模型に! とはならないんだが」

 

「大丈夫、後は腕と足だけだから」

 

「失くせと? この美少女錬金術師の手足を捧げろと? まずは弟をつくら、な……」

 

「……」

 

 不思議だ、どうして二人の視線が俺に集まる。

 

「ナナシダ君、ちょっと協力してくれないかな? 報酬は新たなかっちょいい肉体でどう?」

 

「その肉体に肉はあるのか? せめて銃弾をも弾く私の体に勝る鉄を持ってからだ」

 

「ナナシダがアレになれば……永遠?」

 

「リゼ様、どうかご再考下さい。そんなことせずとも永遠にお仕えいたします故、捧げるのはバカの手足だけでお願いいたします」

 

「え、ほ、ホント⁉ えへ、えへへぇ……そっか、ずっとなんだ……」

 

「おーい、二人だけでイチャイチャせんといてくれるかな? しかもさらっと私だけ真理の向うに行かされてない?」

 

 真理究明は錬金術師の性なんだろ? 安心しろ、金髪兄弟なんか最後は五体満足で戻って来ただろ。

 

 俺はアンジュが用意したお菓子の内、リゼ様が苦手な甘いものではないお菓子を割って食す。

 

「リゼ様、毒は含まれていないようです。こちらは甘さも弱くお気に召すかと」

 

「あ、ホントだ。美味しい!」

 

「おうこらいいんか? 私化けるぞ? 全身白モヤになって知った風な口きくぞおら」

 

 どうしてそっち側で待ってるんだよ。連れていかれる側の発言とは思えないな。

 

「ねーアンジュ―このお菓子美味しいよー」

 

「んーリゼちゃんはマイペースだね~。でももうちょっとコミュニケーションとろっか、私の投げたボールがそこに転がっちゃってるしさ。キャッチボールにしてはあまりに一方的だと思わない?」

 

「リゼ様のお食事を邪魔するんじゃない変態錬金術師」

 

 こんなにも笑顔で食されているのだ、邪魔をするなど言語道断だ。

 10歳も年が離れているんだからそこらへんにも気を使ってほしい。

 

 そんな思いで睨むと、アンジュは大きくため息を吐く。

 

「ナナシダ君さ、食事は皆でわいわいするから楽しいんだぜ? 黙ってモグモグするなら私はここに来てないんだよ」

 

「……それもそうだな、済まなかった」

 

 言われてみればそうだ。

 そんな一般的な感性は生後5年目で消え去っていたからな、そこら辺の一般的な思考がたまに抜け落ちているようだ。

 

「うわ、謝罪までが早すぎるんだが。本当に9歳? おじいちゃんみたいな度量見せんでもよかない?」

 

「うるさい、考えが間違っていたのなら改める。教養とはそういうものだ」

 

「だから子供の発現じゃないんだよ、どこの聖職者ですか? 前世でも占ったろか?」

 

 素直に間違いを認めればこれだ。

 年齢とは別のベクトルで上に立たれたようで不愉快だ。しかもだ、ここいはリゼ様もおられるのだぞ。

 

 俺の能力を疑われたらどうするんだ。

 

「……」

 

 明らかに突き刺さる視線。チラリとそちらを見れば不満げにこちらを見ているリゼ様がいた。

 そりゃそうだ、自分の専属護衛が痴態を晒しているんだ。

 

 どうにか目の前で不遜な態度を取り続ける不届きものに天誅を下さねば……。

 

「ズルい……」

 

 一段と下がったトーンでリゼ様が呟く。

 

「私のときと、アンジュのときで全然口調が違う」

 

「当然です。リゼ様とアンジュを同列に扱うことはできません」

 

 今更である。

 仕える主君であり、いと高き御方であるリゼ様。片や国内では他の追随を許さない能力を持ってはいるが、実際はイケメンの彼氏を作る(物理)を本気で語るようなアンジュ。

 

 比べるまでもない。と思っての返答だったが、リゼ様の機嫌はさらに下がってしまう。

 それだけではない、アンジュを見れば「こいつ、正真のアホだな」みたいな憐みを向けてくるではないか。

 

「ナナシダ君、その返しは良くないよ。私にも失礼だけど、リゼがそんな言葉を欲しがっているわけじゃないってことぐらい、分かってあげなよ」

 

「リゼ様! 私の発言でご不快にさせてしまい申し訳ございません!」

 

「……」

 

「おぉ~、流石ナナシダ君。正真のアレだ」

 

 くっ! 想像上だけではなく実際に口にされてしまうとは……!

 だが、ここで重要なのはアンジュではない。リゼ様のご機嫌を戻していただくことだ!

 

「リ、リゼさ――」

 

「ナナシダ、やっぱり私に敬語使うの禁止」

 

「リゼ様ぁあああ! それはご容赦ぉおおお!」

 

「どんだけ嫌なんだよ……別にそれぐらいいいじゃん」

 

 こ、こいつ……っ⁉

 

「いい訳あるか⁉ リゼ様に向かって……。そんなの……そんなのただの暴言だ!」

 

「まって、もしかして私って普段から暴言言葉で話されてるの? 暴言言葉ってそれなんてパワーワード?」

 

「アンジュ、ナナシダを説得するのに協力して!」

 

 ……もしかして、リゼ様この間のことずっと根にもってらっしゃる?

 

「え、私まったく関係ないじゃん。むしろ暴言吐かれてる被害者ぞ?」

 

「説得に成功したら予算アップ!」

 

「うぉっしゃやってやらあ!」

 

「リゼ様⁉」

 

「フッフッフ、諦めるんだなナナシダ。これこそ資本の暴力!」

 

 あのお優しいリゼ様がここまで……。いやどんだけ敬語やめて欲しいんですか。

 なんか初めて聞くぐらいの高笑いをお決めになられてるぞ。絶対後で後悔しますよ? 黒歴史として悶え苦しみますぞ?

 

「行け! 資本主義に囚われた哀れな亡者よ!」

 

「うしゃしゃしゃしゃー! て違う違う、そこまで落ちておらんって」

 

「くっ⁉ 流石はリゼ様、斯様な獣をも従えてしまうとは……!」

 

「ナナシダくーん? 私のガラスハートがミシミシいってるの聞こえないかな? 君達からの扱いと疎外感のダブルパンチで悲鳴上げてるよー」

 

「わっはっはっは! 妾はリゼ・ヘルエスタ! ヘルエスタ王国第二皇女ぞ、黙って敬語を止めるがいい!」

 

 そうして俺とリゼ様による壮絶な争いの火ぶたが切って落とされ。

 

「じゃルールの確認ね、今からゲームして負けたら罰ゲームで相手の言うことを一つ聞くことね」

 

 なかった。

 

 というのも、謎の空気感に呑まれた俺とリゼ様だったが、唯一冷静を保っていたアンジュによる神の一手が炸裂したのだ。

 

「それならゲームで対戦して、負けた方が相手の言うことを聞くって罰ゲームにすればよくない?」

 

 もしもナナシダ君が負けて敬語をやめても、罰ゲームっていう免罪符が使えるじゃん?

 その言葉は霹靂を晴らす一刀だった。

 

 不毛な争いを続けたとしてもなにも解決しそうになかった俺は、それを渋々了承。

 勝てば今後このような形でリゼ様と対立することもないからな。

 

「いやー、今日はなんというか……やる気が違うね」

 

「アンジュ、今は集中してるから話しかけないで」

 

「今日この一戦に全てを……」

 

「あは、あははぁ……もう少し楽しくぅ……はならないね、ウン。今日はそういう日だったんだ」

 

 決戦の舞台であるレース場を決めれば、それに見合ったカートの構成を組み上げていく。

 今世ではゲームを遊んだことがない俺はブランクを意識した構成にする、操作性と加速性に重点を置くことで操作ミスを減らし、たとえミスをしても軽微に抑えやすく直ぐに復帰できる考えだ。

 

 決められたルールで互いのカート構成を見ることはできないため、リゼ様がどんな構成を組まれるのかが不透明。

 しかし、相手に合わせるプレイ意識は後手に回るということ。ここで重要なのは自分のプレイに意識を向けるということ。

 

「ふっふっふ、これでナナシダが私のことを……」

 

 とても7歳の少女が纏うには少々禍々しいオーラを滾らせるリゼ様。

 ……なんというか、ご成長? されたんだなって。

 

「あ、私もいるからね。私が勝ってもルールは適応されるから、そこんとこよろ」

 

「えー! 何でアンジュもなの⁉ 私とナナシダの雌雄を決する戦いなんだぞ!」

 

「いいじゃん! 私だって混ぜろよ! なにが悲しくて一人審判をしなくちゃいけないんだよ、私だって仲良くワイワイしたいの!」

 

「くっ! このようなところに伏兵が……!」

 

 リゼ様? 画風変わってません?

 普段の丸くてぽわぽわしたタッチから、世紀末系のカックカクなタッチになってません?

 

「おやおや、リゼ様……」

 

「むぅ……ナナシダ。何が言いたい」

 

「そのような雑兵に気を取られるようでは、足元をすくわれますぞ?」

 

 ならばその世界に飛び込むまで!

 

「貴様ァ! 妾を愚弄するか!」

 

「ぬわはははは! このナナシダ、ここに勝機を見たり!」

 

「ふんっ! ぬかしよる、妾の前では全てが等しく食材、じっくりと調理してくれようぞ!」

 

「……ま、二人が楽しならそれでいっか! オラオラオラァ! 私だってこのゲーム得意なんだぜ!」

 

 そうして俺達の熱い戦いの狼煙が上がった。

 

「ここだっ! ドリフトターボ! ぐぁあああ!」

 

「はっはっは! 慣れてないテクニックを使うからそうなるんだよナナシダ! ゲームは体じゃない! 心でするものなんだバナナァアアアアッ⁉」

 

「もう少し大人しく……ね?」

 

 俺達の戦いは熾烈を極め

 

「いけぇえええええ! キラー!」

 

「あ、ナナシダだけずるい! 私だってぇ! キノコ……微妙……」

 

「1バナナ……2バナナ……3バナナ……あ、コイン」

 

 過酷な闘争に心は摩耗していった。

 

「右! 落ちたあああ!」

 

「リゼ様、ルート開拓ありがとうございます。私はこちらのぉおおおおお!」

 

「ここって真中ダッシュでギリ届くんだよねー」

 

 しかし、止まない雨がないように、終わりなき争いもまた然り。

 熱い死闘を繰り広げた俺達は最後の順位発表を迎えた。

 

 画面では動物に10%程度人間要素を混ぜたキャラが並び、ファンファーレが勝者の凱旋を称える。

 

「フッ、ナナシダも負けん気があるとは意外だったな……」

 

 画風が二メートルを超える巨体となったリゼ様が手を差し出してくる。

 

「ええ、私もリゼ様とこうして同じ戦場を駆けるとは夢にも思いませんでした。しかし、この勝負……私が貰いうけます」

 

 同じく画風が三メートルを超える戦士となった俺も、リゼ様の手をがっちりと掴み返す。

 

「ん~私達はゲームをしてたはずだよね? どーしたらこんな見上げるほどの成長を見せるんだ? 美少女天才錬金術師もびっくりだよ」

 

「ぬわはははははは……」

 

「んふふふふふふふ……」

 

「等価交換の原則って知ってる? 質量保存の法則を真っ向から否定しているって気付いて?」

 

 そして、この長きに渡る不毛な争いが幕を閉じる。

 

 1位 アンジュ・カトリーナ

 2位 NPC

 3位 NPC

 4位 NPC

 ……

 10位タイ リゼ・ヘルエスタ

 10位タイ ナナシダ

 

「一応……言っておくね私の勝ちってことで」

 

 叩きつけられるのは非情な現実。

 証明されたのは明確な勝者と敗者。

 

「ナ、ナナシダ……?」

 

「はい……」

 

 普段の見慣れたお姿に戻ったリゼ様が、7歳が見せるには複雑な顔でこちらを見る。

 

「今度、同じゲーム……買いに行こっか」

 

「御心のままに」

 

 等しく哀れな敗者となった俺達は言葉を交わさずに誓い合った。

 倒すべき相手は別にいるのだと、本当の敵は隣で引き攣った笑みを浮かべる錬金術師なのだと。

 

「強く……強くなりましょう」

 

「うん、私頑張る。第二皇女がこのままじゃ終われないもん」

 

 確かに敗北した。それは認めよう。

 しかし、諦める理由にはならない。

 

 負けたのならまた立ち上がればいいのだ、研鑽を積み力を蓄えるのだ。

 走るための燃料は既に貰っている、この敗北という名の特級燃料が!

 

「じゃ、私が勝ったから二人に罰ゲーム。ナナシダ君は私は良いと言うまで敬語禁止」

 

「……私の勝利だぁあああああ!」

 

「あんまりだァアアアアア!」

 

「リゼは猫耳で語尾にニャンを付けること」

 

「……ふっ」

 

「殺せええええ! 辱めるぐらいならいっそひと思いにやれぇええええええ!」

 

 俺達はこの日、このとき、誓ったのだ。

 次は絶対に勝つ。

 

「はい、リゼちゃーん。アンジュが話しかけてますよー、答えてくださーい」

 

「な、なんだよぉ……ニ、ニャン」

 

「マ、マイク! いや、録音機! ええい! レコーディングスタジオにいきま……行こう! リ、リゼさん!」

 

 なんたる不敬……。しかし、一度交わした約束を破るわけにはいかない。

 約束を違えてしまえば俺の信頼が無くなってしまうのだ。たとえ遊びの延長線上だとしても、一度でも前例を作ればリゼ様から向けてもらえる信頼を曇らせてしまう。

 

 遊びでは済まなくなってしまうのだ。

 

「ぁ……う、ん」

 

「え、あ、その……ご、ご不快で――」

 

「ううん! 凄く嬉しい! た、ただ……は、恥ずかしいというか、なんといいますか……」

 

「ば、罰ゲーム! リゼさ、ん。これは罰ゲームですから!」

 

「そ、そうだよね! 罰ゲーム! そう、これは罰ゲームだから仕方がない!」

 

「リゼさん、ニャンがないですよ?」

 

「うぅ……ニャン。で、でもナナシダも敬語出てる!」

 

「き、気を付けます……気を付け、る!」

 

「あはは、ぎこちない。ニャン」

 

「これ……実質私だけ負けてない?」

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