にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ13

「ナナシダおはよう」

 

「おはようございます、リゼ様」

 

 リゼ様が12歳を迎えられた日の朝、リゼ様に起こされた俺はゆっくりとベッドから起き上がる。

 

 そして、隣で寝ていたリゼ様も起き上がる。

 

「リゼ様、約束が違います。添い寝をするのは月曜ではなかったはずです、ルール違反です」

 

「ナナシダもだよ、私と二人だけのときは敬語禁止ってルール」

 

「リゼさん……分かった、分かったから。とりあえずベッドから出てくれ」

 

「はーい」

 

 威勢のいい返事と共にリゼ様がベッドから降りる。

 

 あの日、リゼ様を汚してしまったあの日から二年。

 俺達の関係はただの主人と護衛という関係から少しばかり変化していた。

 

 あのとき放心していた俺にリゼ様が提案を持ち掛けくださったのだ。

 

「私はもうナナシダが思うような綺麗な人じゃないよ、だからこれからは私をリゼとして大切にして」

 

 齢10の少女とは思えない精悍な様子で言い放ったそのお姿を前に、俺は頷くしかなかった。

 

 リゼ様と俺の関係はあのままであれば崩れ去っていただろう、耐えられる自信もなかった。

 

「ルールを決めよっか、汚れた私と心が傷ついているナナシダの……二人だけの。二人のための約束」

 

 見抜かれたのだ、俺という人間をどう扱うべきなのか。

 皇女の幼く小さな身に遺伝子レベルで刻まれた、人心の掌握術を前に俺は頭を垂れていた。

 

 そうして決められたいくつかのルール。

 その内の二つ。

 

 一つ、第三者が存在しない状況では敬語を禁止とする。

 一つ、決められた曜日に添い寝をする。

 

「指切りね」

 

 子供が交わす約束の儀式を持って、俺とリゼ様の奇妙な関係が再構築されたのだ。

 

 とはいっても、この二年間でこれといって目立った異変はなかった。

 リゼ様は第二皇女であるがゆえに、常に俺以外の誰かが周囲にいたからだ。

 その分二人だけになったときは物凄く甘えてくるから、俺の心臓は何度止まったことか。

 

「ね、ナナシダ。私ってもうすぐ中学に入学するんだよ!」

 

「そうだな、中学は日本でよかったのか?」

 

「もちろん! ワザップ!を始めとした多様性に秀でた文化! ヘルエスタ王国第二皇女としていくしかないもん!」

 

 目をキラッキラッと輝かせてはいますがね? それに関しては言いたいことが山のようにあるんですわ。

 ……17年この世界で生きてきたけど、いまだにワザップ!が国単位で持ち上げられているのが理解できていないんだよ。

 

 だって悪名名高いあのワザップ!だぞ?

 それなのにヘルエスタ王国の民度が異様に高いのも納得がいかない。

 

「そろそろワザップ!は卒業しても……」

 

「ワザップ!は心のバイブル! ヘルエスタ王国が卒業することはあり得ない!」

 

 ダメだ、これだけはどうしても理解できねぇ……!

 矛盾で押し通された気分にげんなりしながらも、鍛え上げた高速早着替えを終えた俺はリゼ様に髪を整え始める。

 

 これもルールの一つだ。

 

「痛くはございませんか?」

 

「ぜーんぜん!」

 

 静電気でぼさぼさになっていたリゼ様の髪は、数回櫛を通せば光沢を放つほどに整ってしまう。

 女性は皆こうなのかと他のメイドに聞いてみたがリゼ様だけのようだし、ましてや体だけではなく髪まで逞しくなった自分とは比べようもない。

 

「じゃ、次はナナシダの番だからね。ほら、早く早く」

 

 朝なのに笑顔を弾けさせるリゼ様が背後に回り込み、両肩を掴んで座れと要求してくる。

 ルールには逆らえないためおとなしく鏡の前に置かれた、二年前まで使ってなかった椅子に座る。

 

「ふんふっふふ~ん~」

 

 ご自身とは明らかに違う、触り心地も減ったくれもない男の髪にリゼ様は鼻歌交じりに櫛を通していく。

 個人的には櫛を通された程度で言うことを聞かないワンパクな髪に、いくら櫛を通したところで大した効果はないと思っているのだが、リゼ様的には大違いらしい。

 

 こういうところを突っ込むと機嫌を損ねてしまうので、今では抵抗することなく流されるがままになっている。

 

「はい、これでバッチリ!」

 

 自信満々な表情を見せるリゼ様。

 改めて鏡に映る平凡な顔を見るが……やっぱり何がよくなったのか全く分からない。

 

 相変わらず天然パーマに近いウェーブを決めている。

 しかし、リゼ様がこれでいいと仰ったのだ。なればこれでいいのだ。

 

「ありがとうございます、リゼさん」

 

「ふっふーん、どういたしましてー」

 

 背後からわざわざ覗き込むようにお顔を前に持ってきたリゼ様は、そのまま目を合わせながらニコッと笑みをこぼす。

 

 我慢だ、まだ我慢できる。がんばれ俺の鼻の粘膜! 鼻血を出したら心配させてしまう。

 

 リゼ様が向けてくださる笑みやお言葉は、銃弾すら通さないこの体の唯一の弱点だ。

 改善する気もないけどな!

 

 しかし、そんなことを考えている間に笑顔を浮かべていたリゼ様の表情が曇りを見せる。

 

「はぁ……ナナシダも一緒に中学校に入ってくれたらなぁ……」

 

「無茶を言わないでくれ、17歳が入れるわけないじゃないか。180センチ近い中学生なんて稀すぎる」

 

「ぶーぶー」

 

「不貞腐れてもこの事実は変わらないぞ。それに中学に一緒に通えなくても護衛はしっかりするから、安心してくれ」

 

 ちなみにリゼ様が通う予定の中学校は日本だ、だから治安的な意味も含めれば危険性はかなり低い。

 だからと言って護衛が必要ないわけじゃないし、これほど美しい御方なのだ。いったいどんな変質者が現れるのか分からないからな。

 

 むしろ今まで以上に神経を張り巡らす必要がありそうだ。

 

「別に護衛がとかそんなのはどうでもいいんだけどなぁ……」

 

「どうでもよくないだろ、リゼさんを守るのが俺の役目なんだから」

 

「違うよ、ナナシダが守ってくれるなら安心だからって意味。いつどんな時でも私を守ってくれるんでしょ?」

 

「もちろん、ミサイルが降ってきても守って見せるよ」

 

「その時は一緒に逃げてよ、人ひとりがどうやったってミサイルには勝てないよ?」

 

「……」

 

「え、嘘……。いけ、ちゃうの?」

 

 ミ、ミサイルだろ? 対物ライフルよりは軽い気がするんだよな、だってミサイルとかって破壊範囲が広い程度だし、高熱とかに気を付けるにしても息を止めてればいいだけだし……。

 

「多分、行ける……」

 

「え、私の護衛強すぎない?」

 

 ちなみに、ルールの一つにできる限り嘘はつかないというのもある。

 できる限りという温情があるのは護衛という立場と、俺の雇い主がヘルエスタ王国ということもあるためだ。

 

 だからそれ以外に関しては極力嘘をつかないため、リゼ様も疑ったりはしない。

 疑ったりはしないからこそ、本気で引かれてしまった……。

 

「た、試すつもりはないけどさ、どれくらいなら……耐えられるの?」

 

 純粋な好奇心が故の質問だとは思うけど、多分さらに引かれそう。

 

「対物ライフルぐらいなら……」

 

「た、対物ライフルッ⁉ 無傷で済んじゃうの⁉」

 

 目を見開いて分かりやすく驚くリゼ様。

 

「最悪ちょっと血が出る程度、かな?」

 

 衝撃な事実を前に、聡明なリゼ様はそこであることに気づいたようにこちらを見る。

 

「も、もしかして……お父様とかお母様、あとお兄様達についてる専属護衛も、とか言わない……よね?」

 

 嘘だと言ってくれと目が訴えている……。あぁ、でも嘘はついちゃいけないしなぁ……。

 

「流石に対物は無理だと思う」

 

「そ、そうだよね! そもそもナナシダがおかしいだけだもんね⁉」

 

「当たり所が悪ければ死ぬ」

 

「違う! 基準が違うんだよぉ!」

 

 お、おぉ……。

 なんというか、今のリゼ様は鬼気迫る感じだ。

 

「対物ライフルってどんなものか知ってる⁉ 元々は戦車を相手に作られた銃なんだよ! 物によっては今の戦車にも通用する物だってるの! 分かる⁉」

 

「もちろん、我が身を持って十二分に味わったさ」

 

「ちっがう! そうじゃないんだよぉ!」

 

 なにが違うというんだ、体で体験する以上にアレの強さを正確に測れる方法はないぞ。

 ……あ、そうか。

 

「ちなみに、もの凄く痛いんだ」

 

「だがらぢがうんだよぉおお!」

 

「うわっ⁉ やめ、物を投げないでくれ! め、メイド! り、リゼ様がご乱心だ! 早く来てくれ!」

 

「私は間違ってなあああああい! ナナシダ達が絶対に間違ってるんだあ! もの凄く痛いじゃないんだよ! 文明の利器舐めんなあああああ!」

 

「い、いや……だから体で十分理解――」

 

「だああああああああ!」

 

「リゼ様ご乱心! リゼ様がご乱心だあ!」

 

 俺の声で駆け付けたメイドがご乱心中のリゼ様に驚きつつも対処してくれた。

 

 

「て、ことがあったんだけどさ。アンジュなら俺の味方になってくれるよな?」

 

「いや、普通にリゼの側だが?」

 

「えっ⁉」

 

 メイドによる静まりたまえコールで平常を取り戻したリゼ様が、ご家族との朝食に向かわれたのを見送った俺はアンジュの研究室に来ていた。

 

 もちろん、俺の正当性を確かめるためだ。

 

 しかし、帰ってきたのはまさかの裏切りだった。

 

「いや、普通に考えて拳銃の弾一発でも普通に死ねるが?」

 

「何を馬鹿な……あんな豆鉄砲で死ぬわけないだろ。痒いところに手が届かないときに使うぐらいがちょうどいいわ」

 

「拳銃と孫の手を同じ使い方する怪物が何を言ってんだ? 道徳の教科書でも渡したろか?」

 

 ため息交じりにアンジュが道徳の教科書を渡してくる。

 引っ込めろ、どうして持ってんだよそれ。

 

「この道徳の教科書に出てくる女医が結構エロイんだよ」

 

「なるほどな、やっぱりそれを貸してはくれないか?」

 

「お、やっぱりナナシダ君も男だねぇ……。仕方ない、これは旧友の頼みということで……あ、汚さないでよ?」

 

「大丈夫だ、汚さない。むしろ綺麗にしてやるから」

 

「へ? 綺麗って……まさか私がすでに使っていることを知っていて……⁉」

 

 謎のカミングアウト聞いちまったよ……聞きたくねえよそんな話。

 

 受け取ろうとした俺はゴム手袋を装着してから再度道徳の教科書を受け取る。

 

 そして火を付けた。

 

「ああああああ! 私の合法エロ本がぁああああああ!」

 

「うるせえ! なにが合法エロ本だ! リゼ様が遊びに来る空間にこんな物置いてんじゃねえよ!」

 

「返せ! 私の癒しなんだぞ! 既婚者女医と禿デブおっさんによるドロッドロの――」

 

「言わすかボケェ!」

 

「んぐぅ⁉」

 

 俺はそれ以上アンジュの口を自由にさせないため、手で口を塞いだ。

 なにを口走ろうとしてんだ、この性癖拗らせ錬金術師……。

 

「んぐぅう! んんんん!」

 

 抵抗をするアンジュだが、流石に女性で体を鍛えてもいない研究室籠りの力ではどうしようもない。

 

 もう面倒だからいっそのこと意識を落としたほうが早いんじゃなかろうか。

 

「ねえー! アンジュ―! ナナシダ見なかった―? ここに来てると思うんだけどー」

 

 そんなことを思っていると、部屋の出入り口からリゼ様の声が研究室に響き渡る。

 

 そして研究室とは言ってもアンジュのそれは決して大きい部屋とは言えない、むしろ個人での研究がメインであるため必要か所以外は狭く作られている。

 

「アンジュ―! どこにいるのー? ねえ、アン……ジュ……」

 

 だからこそ、リゼ様が俺たちを見つけるのは必然と言えた。

 

「んん⁉ んん! んんんんんん!」

 

 最悪なことに俺は今この変態の口を塞いでいるのだ、まるで俺がアンジュを襲っていると思われても自然じゃないし、むしろそう考えざるを得ない状況だ。

 

「んんんふぅ! ん! んんん!」

 

 しかもだ、追い打ちを掛けるように変態がわざとらしくなまめかしい声を上げるものだから最悪も最悪だ。

 こんなことなら情も掛けずに落としてしまえばよかった!

 

 だからといって今落としてしまえばそれこそ言い訳のしようもない。

 

「ナナシダ……アンジュ……何してるの?」

 

 数トーン下がった氷のような言葉が突き刺さる。

 

 我に返った俺がほんの僅かに拘束を緩めてしまった。

 それで逃がす俺ではないが、塞がれていた口に少しの隙間を得たアンジュの行動は神速だった。

 

「ぺろぺろぺろぺろ!」

 

 最初は逃げようとしたアンジュだが、逃げれないと分かった瞬間に取ったのは俺の手を舐めることだった。

 ……お前、何がしたいんだ?

 

 正直くすぐったいとかもないし、毒水ですら笑顔で飲み干すこともできる俺だぞ?

 気持ち悪いとは思ってもそれで拘束が緩むことはない。

 

「んちゅうぅ、ちゅずずずず!」

 

 いや、ほんとに何がしたいの? やめてくれない? 音が気持ち悪いんだけど……。

 

 この時、俺は気づいていなかった。アンジュの本当の目的を。

 

「ねぇ……ナナシダ」

 

「は、はい」

 

 なぜか先ほど以上に無機質な声になったリゼ様が、ゆっくりと近づいてくる。

 

「どうして、アンジュがナナシダの手を舐めてるの?」

 

「え、あ、いや……その……」

 

 質問は理解できたが、意図がくみ取れず口ごもってしまう。

 どうにか答えなければと視線を彷徨わせた俺と、アンジュの目が交差する。

 

 ――ニヤリ。

 

 不愉快なまでに挑発的に目元を細められた顔に、コイツの真の目的に俺は気づいてしまった。

 

 アンジュが俺の手にアレコレしたのは俺に向けてではなく、氷河期張りの視線を向けてくるリゼ様に向けた挑発行為!

 

 だが、今更気づいたところで後の祭りだった。

 

「ねぇナナシダ、ルール……忘れてないよね?」

 

 多分、俺は今日死ぬんだろうな。

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