にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ15

「――入学式を終了いたします」

 

 4月の第一週目。

 リゼ様が中学校にご入学された。

 

「おぉぉぉぉおおおおお……! リゼが、あのリゼが立派にぃ……!」

 

「お父様、毎回号泣しすぎです。周りの方々に迷惑ですし、リゼも引いてます」

 

「俺達の時もすごかったよなー、兄上ー」

 

「そう言うならお前も手伝え」

 

 リゼ様の晴れ舞台を見るため、ヘルエスタ王国の王族がお忍びモードで全員が出席している。

 その中でも国王は日本の保護者達のなかでも感涙に打ちひしがれている、一際目立つイケオジの姿に周り奥様方の視線が集中する。

 

 子煩悩さえな変えればこの国王、贔屓なしに超ハイスペックだ。

 見た目は年齢と経験を兼ね備え、研磨された刀身のような落ち着いた中に見える男らしさが漏れ出ているのだ。

 

 そんな人がスーツを着て泣いているのだ、主役以上に目立っている。

 

 男性なら嫉妬と羨望、女性なら好意と欲望の視線を気にもせず、イケオジ国王はめっちゃ泣いてる。

 

 さらに、共にご参加されている后並びにご子息ご息女。

 極めつけに背後に立つ俺達影付き。

 ……注目を集めない方がおかしいよな。

 

「ナナシダよ! リゼに変な虫が近づかぬようにするのだぞ!」

 

 会場に響くほどの王命が下される。

 ……チラリと見えたリゼ様のお顔が赤みを帯び始めていた。

 

「陛下、誠に申し上げにくいのですが。今しがたのセリフで十分かと」

 

 影の一族の当主が後ろからため息混じりに進言するが、国王はならんと首を横に振るった。

 

「ダメじゃ! 儂は知っておる! この時期の男なんぞバカばかりじゃ! 自我のコントロールも儘ならぬ年頃よ、その場の感情に流され後になり後悔と懺悔を繰り返す。そんな愚かな存在じゃ!」

 

 存在じゃ! じゃねえよ……。

 偏見・持論・説法、大いに結構。だけど場所は弁えて欲しい。

 リゼ様のお名前も喧伝し、その上一方的な言いがかりをされてしまえば、リゼ様と相対した者には特殊なフィルターが掛かってしまう。

 

 中学と言えどその大半が小学校からエスカレーターで上がって来たような状態、つまり殆どが小学校からの知り合い。

 そんな中で数少ない知らない人間、かつカタカナでリゼと呼ばれる美少女。ここまでの情報があれば誰でも一目で見つけてしまうだろう。

 

 辛くも特上の親心によってリゼ様の中学校生活のスタートは、不釣り合いなロケットブースターを付けることになったのだ。

 

 ――そして数日後。

 

 場所はとある高セキュリティを謳うアパートの一室。

 日本の中学校にご入学されることを選ばれたリゼ様に与えられた部屋で、リゼ様はテーブルに突っ伏していた。

 

「もうだめだぁぁあぁあああああ!」

 

 そして号泣していた。

 

「ボッチ確定おつぅうううう!」

 

 今まで見たこともない程に取り乱していた。

 

「大丈夫、きっと直ぐに話せるようになるはずだ」

 

「うるさい! お父様があんなことしなければ上手くいってたはずだったのにぃ……!」

 

 ぐうの音も出ない。

 しかし、リゼ様は一つ勘違いをしていらっしゃる。

 

「多分だけど、国王陛下のアレがなくても同じだったと思うぞ」

 

「……ぇ?」

 

 ポカンとした声を出すが、すぐにリゼ様はニコリと笑顔を見せる。

 

「まっさか~、だって私だよ? ヘルエスタ王国第二皇女ぞ?」

 

 俺は返すようにニコリと笑みを見せる。

 

「それが原因」

 

「い、ぃいいやいや! 私自己紹介でも言ってないよ⁉ 皆ただのリゼ・ヘルエスタとして見てるはずだよ⁉」

 

 因みに、俺がこう言っているのは憶測ではない。

 護衛として、学業に励むリゼ様の行動は国王の命によりつぶさに記録しているのだ。

 

 リゼ様もその必要性はご理解している、家庭教師を雇っていたときも同じだったので大して気にするところでもなかった。

 

 だからこそ、俺は現場で見ていたのだ。リゼ様がどのような行動を取っていたのか。

 

「ここにリゼさんの校内での活動が記録されています」

 

「え、それどこから取り出したの?」

 

 え? そりゃジャケットの内ポケットから。

 

「A4ノートを?」

 

「……ま、細かいことは気にせず。問題はリゼさんの行動だ」

 

 そんな不貞腐れないでくださいよ、別にちょっと服が魔改造されているだけですから。

 ちょーっと危ない物とか、アレやソレを収納できる赤毛の錬金術師お手製のやべい奴ですから。

 

 取り出した記録書を数枚捲り、目的の箇所を開く。

 

「えー、まず朝の登校時。他学生と同様にリゼ様が登校なされた」

 

「ルールゥ……」

 

 二人だけの空間で俺がリゼ様と言ったのがルールに抵触したらしい。

 

「記録書は流石に……国王陛下にバレてもいいならそうするけど」

 

「……んぬぅ」

 

 俺達のこのルールは二人だけの秘密となっている。

 俺も当主には報告してない。多分あの人は気付いているだろうけど。

 

 戦闘力は俺でも、場数も経験値も断然当主が上だ。

 俺の隠し事なんて、子供が後ろ手に物を隠しているようにモロバレしてるはずだ。

 

「続けるぞ。しかし、校門を過ぎてからのリゼ様は常に地面に向けられ、同クラスの女子生徒が話しかけづらくしていた」

 

 視線を記録書からリゼ様に向ける。

 サッと顔を反らすリゼ様。

 

「あ、あれは日本のコンクリートの素晴らしさに見取れていただけで……別に、話しかけて欲しくないとか……そんなんじゃ……」

 

「続けます。大好物のコンクリートロードを抜け、下駄箱からクラスまでの移動中。ヘルエスタ王国で磨かれた隙のない歩みを見せる。なお、同クラスの女子はその後ろを羨望の眼差しを向けながら移動」

 

「え、私見られてたの……? それに、羨望って……」

 

「続けます」

 

「続くんだ」

 

 俺はまた数枚のページを捲る。

 

「授業中は背筋が伸び、背もたれを使用しない正しい座りを意識。質問する際にはたわみのない挙手をもって質疑、言葉遣いも社会で通用する言葉を使用」

 

「教えてもらってるからね、私偉い!」

 

「……ふむ。続けます」

 

「えぇ……もっと褒めてよぉ」

 

「確かに凄いことだし、偉い。でも今の目的はそこじゃなくてお友達ができない原因の解明だろ?」

 

「ハッ! そうだった!」

 

 アホの子かな?

 い、いかん! リゼ様にこのような感情を抱くとは!

 もしかしたら日本に来たことで前世の自分の思考が甦っているのか?

 

「さらに、言葉遣いは同クラスメイトにも使用され、委員会の選出、プリント配布、掃除、その他の活動において、リゼ様は他者を思いやる品行正しいお言葉を使用」

 

「と、友達になったら……ね? 急にタメ口とか、あれじゃん?」

 

「リゼさん」

 

 音を立てるようにわざとらしく調査書を閉じる。

 

「ぴっ」

 

「一人で大富豪の練習をするのも、会話のシミュレーションをするのもいいかもしれない。だが、もっと他に頑張るべきところがあるんじゃないか?」

 

 みるみる顔が赤くなっていくリゼ様。

 ……あ、コレご本人は隠しているつもりだったんだっけか。残念ながらしっかりと記録してます。

 

 国王にもご報告してます。

 

「み、みみみ、見てたなあ! 消せ! その記憶を今すぐ消せええ!」

 

「俺の記憶を消しても記録は残る! そうして文明は発展しているのだ!」

 

「き、記録って……まさか……」

 

「国王陛下もご存じ。陛下より言伝で、儂もよく一人でやってたからこんど教えてあげる。だそうだ」

 

「は、はは……終った……完璧に、完膚なきまで……」

 

 なるほど、人間は起こりすぎると白く灰になるのか。

 勉強になった。

 

「つまり、クラスメイトから見たリゼさんは文字通り、住む世界の違う人。にしか見られていないんだ」

 

「え? なにがつまり? 私いま絶望してたよね、何処かのボクシング上で灰になってそうな雰囲気だしてたよね?」

 

「友達が欲しくないのか?」

 

「欲しぃ……」

 

「じゃあ頑張るしかないな」

 

「うん……頑張るぅ……」

 

 リゼ様の根は清らか過ぎる。話しかけてもらえなければ落ち込むし、少しでも声を掛けてもらえればニコニコと笑顔を振りまく。

 今はともかく、友達ができれば自然と輪が広がっていくはずだ。

 

「偉いぞ! リゼさん!」

 

「えへ、えへへぇ……」

 

 王国なら誰もがリゼ様と話したがっていた、使用人や職員に対しても礼儀正しく接する幼い少女は、王城の中でアイドルだった。

 

 今はいなくても、すぐにできる。

 

 だから今は俺が声を掛けて、小さなことでも褒めよう。

 用済みになったとしても、そのときはきっと数えきれないほどのご友人に囲まれているはずだ。

 

 勘違いが、勘違いになる。

 勘違いが、真実に変わることはない。

 

「まずは口調から直す! タメ口は難しくても砕けた言葉に変える必要がある。理想はアンジュと話しているときのアレだ」

 

「お、おー! がんばる!」

 

「タメ口で話すぞー! はい、復唱して!」

 

「タ、タメ口で話すぞー!」

 

「そしてコンクリートだからといって下を向かない!」

 

「私のコンクリートライフが……」

 

「復唱!」

 

「う、ぐぅ……コ、コンクリートだからといって、下を……向かないぃ……」

 

 すっごい残念そう。

 いつの間にコンクリートマニアになったんだ?

 

「男は害虫! 絶対に近づかない!」

 

「男はがい――てこれ違くない⁉」

 

「男は獣! 話すときは釘バットを持つこと!」

 

「絶対に友達できないじゃん! 釘バットなんて危なすぎるよ!」

 

 リゼ様はご存じないかもしれませんが。中坊なんて皆、檻に入れられたサルですよ。

 そんなジャングルにリゼ様を放り込むわけにはいかない。

 

 最初は俺の過激な発言に驚いていたリゼ様がだ、何かに気づいたのか視線を向けてくる。

 

「ナ、ナナシダが……お願いするなら……話しかけない、よ?」

 

「お願いします、絶対に話しかけないでください!」

 

「ど、土下座は要求してないよ!」

 

 俺がゴンと鈍い音を額で響かせたことに、リゼ様が慌てて起こそうとする。

 

 流石に驚かせる必要もないため、大人しく起き上がった俺は努めて冷静に口を開いた。

 

「ここはヘルエスタ王国ではありません、皆がリゼ様を敬愛しているわけでも、第二皇女と知っているわけではありません」

 

「うん、それは分かってる。敬愛は少し言い過ぎだけどね」

 

「言い過ぎではありません。リゼ様並びにヘルエスタ王家は民に愛されています。リゼ様も街を歩けば自然と理解するでしょう」

 

「そ、そうなんだ……。ま、まあそれはいいよ! それで、ここがヘルエスタじゃないってわざわざ言ったのはなんで?」

 

 街に出たことが殆どなく、交流する者は皆がリゼ様を第二皇女と知っているからこそ敬意を払う。

 そして言葉を交わせばリゼ様だからと誠意を見せるのだ。

 

「日本では、リゼ様はただの見目麗しい女性として見られます。総じてやっかみも増えることでしょう」

 

「やっかみ?」

 

「誤解を恐れずに申せば、ストーカーや拉致、痴漢行為。そういった尊厳を踏みにじる輩が現れるでしょう」

 

「ひっ……⁉」

 

 あくまでも確率の話、徹底した対策を講じれば問題の発生率は下がる。

 しかし、そこに自分以外の人間が関われば確立を0にすることはできない。

 

 怯えた表情を見せるリゼ様に微笑みかける。

 

「ご安心ください、その程度の輩。リゼ様の御前に現れることは私が命を懸けて防ぎます。所詮は銃器を持たぬ国、如何様にも対策はできます」

 

「う、うん……ありがとう」

 

「ですが、お忘れ召されなきよう申し上げ奉ります。いくら対策をしようと行動を起こさぬ者には対策するにも限度がございます」

 

「でも、そ、それって何もされないから。大丈夫じゃないの?」

 

 そう考えるからこそ、俺が恐れ多くも忠言するのだ。

 

「人の目は千言なれば、手足も口も動かさずとも影響を受け、与えることができます。悪意に彩られた瞳は鈍く黒い光を放ち、向けられた者の心を脅かすのです」

 

 願意、敵意、殺意……そう言ったものが与える影響は内よりも外に対して強くなる。

 願われれば受諾の可否に関係なく思考の一部を占領し、敵意を向けられば不安に苛まれ、殺意を向けられれば恐怖から身を竦める。

 

 一種の呪いだ。

 弱く脆弱で、誰にでも行える呪法。

 

「わ、私を脅かそうとかして……ないよね?」

 

「……ご友人を作るのです」

 

 だからこそ、対策はできる。

 

「人の目は、人の目をもって防ぐのです。リゼ様に矮小な視線を向ける者は、リゼ様のご友人が跳ね除けます。視線とは存外分かりやすいもの。その時、その場に侍る者が必ず気づきます」

 

「……ナナシダは?」

 

「学校以外でなら私が如何様にも、しかし校内では難しいでしょう」

 

「そっか……」

 

 入った瞬間に通報されるし、警備員がいるのならすっ飛んでくるだろ。

 バレない自信もあるし、バレても捕まる気がしないが。

 

「ですが、私はいつでもリゼ様のお隣におります」

 

「どういう――」

 

 リゼ様が答えるよりも先に、俺は携帯の画面を見せる

 

「あ……」

 

 画面を見たリゼ様はすぐにご自身の携帯を操作する。

 そして笑顔で俺に画面を見せてくる。

 

「私はいつ何時、リゼ様がどこにあろうと。見失うことはありません」

 

 お互いに見せ合う携帯画面。

 味気のない地図が表示され、赤い丸が定期的に点灯している。

 

 幼き頃、リゼ様にお渡しした”どこでも場所が分かる君”は健在だった。

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