にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ18

「卒業生代表、リゼ・ヘルエスタ」

 

「はい!」

 

 春。桜に彩られた校舎。

 リゼ様は中学三年間という長い生活の区切りを迎えられた。

 

 入学式のときよりも盛大に涙を流す国王の反応にも皆慣れた様子でスルーを決めている光景は、時間の流れと成長の表れとなっていた。

 

「私が入学した頃――」

 

 卒業生代表に選ばれたリゼ様は、堂々たる振舞いで口上を読み上げる。

 下級生のみならず同級生からも羨望の視線を一心に集めている。

 

 にしても抜擢当初は嫌がっていたリゼ様だが、今のお姿を見る限り杞憂だったようだ。しっかりと公私を分けていらっしゃる。

 

「リゼよぉお……なんと、なんと立派にぃいぃ……!」

 

 ……国王だけやっぱり熱量が他とは段違いだが、今日ばかりは誰もそれに反応することはなかった。

 皆が涙を流しているからだ。

 

 前世でしか経験していないが、やはり親というのはこういうときは泣くものらしい。

 

「ナナシダよぉ……よくぞリゼを守り通した……! あの子がああして笑顔を浮かべられているのもお前のおかげだ」

 

「勿体ないお言葉です」

 

 あの国王が素直に感謝している、なかなか見ものである。

 ご子息、ご息女が関わらなければ公私に関係なく威厳に満ちた振舞いを徹底するお方だ。そんな傑物が娘の卒業式だとはいえ一介の護衛に感謝を述べるとは。

 

 俺が行ったことなどウジ虫の駆除程度だ、褒められるような成果を残したとは言い難い。

 そう思っていると、いつの間にか見上げることもなくなった当主がぶっきらぼうに俺の頭を撫でてくる。

 

「当主、20にもなって頭を撫でられるのはキツイです」

 

「黙っていろ」

 

 当主もいい年だ、おじいちゃん気質が高まって来たと見える。

 早く党首の座を俺にくれてもいいんだぞ、そうすればリゼ様の護衛だけに専念できるというものだ。

 

「私もまだまだ現役だ」

 

「なにも言ってませんが?」

 

「……ふん、その減らず口は十数年では治らんか」

 

 これといった大きな問題もなく迎えられた卒業式。

 リゼ様は来月から高校生となられるのだ。

 

「おぉ、言い忘れておった。ナナシダよ、お前もリゼと同じ高校に通うのじゃ」

 

「え……」

 

「なに、年齢なんぞ気にするでない。戸籍も新たに作った。お前はリゼの同級生として護衛の任に付けばよい」

 

「い、いえ。今でも護衛は十分に機能しています。高校だからと無理矢理に入学する必要が感じられ――」

 

「命令じゃ。従うのじゃ」

 

 議論の余地はない、暗にそう告げる国王と当主。

 本来はここで俺がとやかく言うこと事態越権行為だ、配下として大人しく頭を垂れるべきなんだろうが……。

 

「うぁ……」

 

「あのすまし顔見ろよ……」

 

「あらあら……」

 

 国王以外の王族の反応が何か裏があると言っているのだ、しかも一様に諦めというか呆れているような様子だ。

 

「……国王陛下。もしやリゼ様から何か――」

 

「んん! わ、儂は知らんぞ! 何も言われてなどおらんからな!」

 

「陛下……」

 

 心当たりを突いてみたが、国王の見せる反応は気持ちのいいくらい分かりやすかった。

 当主も手の付けようがないと目頭を押さえる始末だ。

 

 やっぱりリゼ様だったか。

 

「国王陛下……リゼ様に何を言われました?」

 

「し、知らん! 知らんものは知らんもん!」

 

 大のおっさんがもん! とか言うなよ。

 

 奇しくも図星を言い当てられた時の反応は、流石わ親と娘と言った所か。国王の反応はこの数年間で何度も見たリゼ様の焦ったときの様子とまんま一緒だった。

 

「当主、これって決定事項?」

 

 国王より当主に聞く方が話が早い。

 

「決定事項だ、護衛については基より万全。陛下はお前にも青春とやらを経験させてくださるのだ、このご厚意に感謝するんだな」

 

 そうか、前世はともかく今世の俺は義務教育とか全てスルーして生きてきた。

 

 子を持つ親として見た俺の姿に施しの一つでも与えてやりたくなったのだろう。

 

「国王陛下の寛大ならご対応に感謝を」

 

「よい、お前には幼き頃よりリゼの護衛はもちろん、遊びの相手も担ってもらったのだ。リゼに全てを捧げるのであれば必要なことよ」

 

「御意」

 

 ……いまいち何が言いたいのか分からないけど、これ以上の問答は不要ということだろう。

 再びリゼ様の方を注視し始める国王から、俺もリゼ様のお姿に目をやる。

 

「そうか、学校……か」

 

 口にすればなんてことはない、なんてこともなく存外に楽しみな自分がいた。

 

 

 その日の夜、ヘルエスタ王国に戻った国王は自身の影付きである当主と二人で話していた。

 対面に座り、月明かりに照らされる室内で静かに将棋の乾いた音が響く。

 

「陛下、よろしかったので?」

 

「なにがじゃ」

 

「ナナシダのことです」

 

 どこか躊躇いを踏むんだ当主の言葉に、国王は気に入らないと鼻を吹かす。

 

「儂とお前の仲じゃ……リゼのことじゃろう?」

 

「……はい」

 

 申し訳ないと目を伏せる当主だったが、再び顔を上げた時には普段の冷静な面持ちを取り戻していた。

 

「儂も報告は聞いておる。どうやら相当のようだな」

 

 国王は自身の座るデスクからファイリングされた資料をいくつか取り出す。

 資料には「リゼ・ヘルエスタ身辺調査報告書」と表記されていた。

 

「ナナシダにも気づかれず裏で動いておるようだが、目的は大方予測はついておる」

 

 適当に資料の中を見れば、ナナシダが不在の間にリゼがどのような活動をしていたのかが記録されていた。

 

 国内での有力者と密会から始まり、リゼは国王やナナシダの目を掻い潜り独自に動いていたのだ。

 密会の内容までは聞き取れていなかったが、それでも国王と当主には一つの確信があった。

 

「ナナシダ……ですか」

 

「そうじゃ」

 

 リゼの影付きであるナナシダ。

 彼女の行動は一介の従者に収束すると二人は確信を持っていた。

 

「私も半信半疑でしたが。先日の一件を見ますともはや確定的でしょう」

 

 当主の言う一件とはリゼがナナシダを同じ高校に通わせたいと、直談判にきたときのことだ。

 国王もこれに同意を見せる。

 

「左様、儂もあの時まではリゼが普通だと思い込んでおった。じゃがあの子のナナシダに向けておるあれは異質じゃ、今までよく隠しておったと関心するほどじゃ」

 

「冗談では済みませんぞ。ナナシダは影付きです、認められるはずがございません」

 

「なにを言うておる、それはそなた達の都合。儂等には関係のないこと」

 

「ですが……」

 

 当主は適切な言葉が思い浮かばずに口ごもる。

 何故ならあってはならないことだからだ。身分という王政を採用するヘルエスタ王家にとって、それは明らかな汚点となってしまうのだ。

 

「関係ないのじゃよ、リゼが望み、行動を起こしておる。止めたところで次の策を弄するのみ、目的のためには是非もなし」

 

「……」

 

 国王の物言いは確信を得ているようだった。

 ある種の同族だからこそ理解できる、渇望にも勝る抗いがたい欲求。

 

 そのためなら己が命すら容易くチップとして扱う、圧倒的なまでに人間染みた願い。

 

「よき子に育っておる。望む物のためにあれほど執着を見せることのなんと美しきかな」

 

 異常と断定しながらもその姿を褒め称える。

 当主には国王の心根を察することができなかった、そんな当主を一瞥した当主は笑う。

 

 まるで一本取った幼子のように、無邪気に笑う。

 

「欲しいから手を尽くす……。簡単じゃろ?」

 

 まとめてしまえばその程度。言葉の不自由さを呪うでもなし、かと言って適切とは言い難い。

 しかし、国王は満足そうに笑う。

 

「儂等は少しばかり……そう、少しばかり欲張りなんじゃよ」

 

 当主は答えることなく深々と頭を下げる。

 自分に求められている役割は相談役ではない、適度に相槌を打つのが役割なのだと。

 

「……」

 

 静かに頭を垂れる当主。そんな自身の影付き向ける国王の瞳は、何処か物寂し気に暗闇の中へと光を潜めた。

 

 

 国王たちが密談を行っているのと同時刻。

 高いセキュリティ性に守られたマンションの一室。

 

 入居一つをとっても多角的な視点から入居可能かのチェックを行い、経済面、人間性、その他の要素に合格しないと入居できない入居者に求められる高い社会性。

 

 12桁のパスコード、そして生体認証を突破し、24時間体制で待機するマンションコンシェルジュの前を通過しなければ中には入れない強固なセキュリティ。

 

 アナログなカギは使わず、会員制の専用アプリか管理室のみで管理されるキーシステム。

 

 そんな都内でも最高水準と評せるマンションの一室、灯一つ灯されていない暗闇の寝室。

 

「はぁ……はぁ、ん……ん、はぁ……」

 

 湿り気を帯びた声が絶え絶えになりながら、人知れず室内に残響する。

 

 聞こえるのは女性特有の高い声のみ、しかし声のするベッドには一人以上のふくらみがあった。

 

 高級素材で作られたベッドは軋みを上げることはなく、小さな衣擦れの音だけが人の動きを知らせる。

 

「ナ、ナナシダ……! ナナシダ……!」

 

 切ない声を発するのは空色の美しい長髪を携えた女性。

 ベッドの中で乱雑に動いていたのだろう、手櫛一つでまとめられる髪は激しく乱れていた。

 

 そして声と合わせてベッドのふくらみが休むことなく蠢く。

 

 息も荒く、聞く者によっては耳を疑ってしまうほどの激情に身をゆだねているのは、ヘルエスタ王国が第二皇女リゼ・ヘルエスタだった。

 

 リゼは同じベッドにいる存在に向けて体を纏わり付かせていた。

 

 呼吸を乱すリゼとは違い、一定のリズムで胸を上下させ。

 体に熱を溜めるリゼとは違い、常人と同じ体温を保ち。

 激しく身を擦りつけるリゼとは違い、寝返り一つ打たない。

 

 一切の反応を見せないもう一つのふくらみ、ナナシダ。リゼの激情を本人すら知らずに受け止め続けていた。

 

 しかし、いくら寝つきが良くても隣でこれほど暴れられてしまえば覚醒の兆しを見せる。

 

 小さな唸り声に合わせて、ナナシダの体がピクリと動こうとする。

 

「ダメ、ナナシダ……! もう、少しだから、寝てて。おね、がい。いい子だから」

 

 だが、リゼが咄嗟にナナシダの頭を抱え込むようにして撫でつける。

 

「ん……、ほら。静かにおねんねだよ、ナナシダ。起きちゃダメ、私がお願いしてるんだよ?」

 

 自身の胸を押し付けながら、何度も何度もナナシダに向けて囁く。

 

 敬愛する主人の胸に抱えられながら、無意識化にいるナナシダは暗示を受け入れる。

 

「ナナシダ……! ナナ、シダ……!」

 

 ナナシダの呼吸が落ち着くのも辛抱できず、リゼはナナシダの頭を抱えたまま体を本能のまま動かす。

 自分の匂いを刷り込むように、何度もナナシダの体に自身を宛がう。

 

「ごめん……ごめんなさい……! ナナシダ……ごめんなさい……!」

 

 自身を何人からも守護する絶対の騎士、狂信的な忠誠を見せる自分だけの存在を自分で汚す背徳感。

 こんな愚かな身を清いと疑わない想い人を使い、自身の抑えられない想いを慰め続ける自分への嫌悪感。

 長年続けた暗示と刷り込みによる計画的な蛮行、こんな自分を胸に抱える彼が知ればどんな反応を見せるのか。

 罵るのだろうか、軽蔑するのだろうか……いや、彼は絶対に受け入れてくれる。

 

 もしかしたら自身に咎があると自害しようとするかもしれない、強靭な肉体と卓越した技術をその身に収める最強の騎士、しかし彼は致命的なまでに脆い。

 

 長い付き合いだ。理解している。

 

 どれだけ泣き叫んで、己の罪を作り上げ、自らに罰を与えようとしても。

 愚かな小娘の言葉一つで、最強の騎士は首を垂れる。

 

 どんな顔を見せれば、どんな言葉を投げかければ、自分だけの愚かな男が身を捧げてくれるのか、分かっているのだ。

 彼の壊し方を、自分だけが知っていることに優越感を覚えた。

 

 彼の細い腕は見上げるほどの大男ですら持ち上げ、ボールのように投げることができる。

 そんな逞しく強い男の腕。しかし、今では自分を慰める道具と成り果てていることに下腹部が疼いた。

 

 刃物を通さず、弾丸ですら通さない強靭な皮膚。

 自分を守るためなら文字通り肉の壁となってくれる強固な鎧、しかし、今では興奮冷め止まぬこの身を一層熱するための肉でしかない。

 

 今でも鮮明に覚えている。

 この清廉な顔を歪め、目を赤くはらし、呼吸を乱し、目と鼻と口からは醜く体液を垂れ流しながら懇願する男の姿。

 

 思い出すだけで体が熱くなる。

 一国の王ですら真の意味では跪かせることができないのに、何も成していない小娘にこの男は惨めに縋るのだ。

 

 あの声をまた聴きたい。

 銃弾ですらうめき声一つ上げない益荒男の、自身をひたすらに求め続けるあの情けない残響が麻薬のように体中をナニカで満たしてくれる。

 

「壊したい……ぐちゃぐちゃに……ん。それで、はぁ……私だけ。私だけを、求めてぇ……」

 

 感じる。

 体の奥からこみ上げてくる激しい衝動。

 

 それを受け止めてもらうため、より一層目の前の男に体をすり合わせる。

 触れている場所をさらに深く、触れていない場所を減らしていく。

 

 ベッドのふくらみが次第に激しく躍動し始める。

 

 男が啼きながら身も心も捧げてくれる姿が目に浮かぶ。

 静かな寝息を立てるこの喉が、張り裂けるほどに声を荒げるのが待ち遠しくして仕方がなかった。

 

「ナナシダ……! ナナシダ、ナナシダ、ナナシダナナシダナナシダナナシダナナシ、ダ……!」

 

 衝撃を吸収し続けていたベッドから小さな軋みが聞こえた。

 そして、激しく動いていたふくらみがブルリと震え、痙攣を見せる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 次いで襲ってくる後悔と懺悔。

 だが、それすら次の激情を駆り立てる燃料でしかなかった。

 

「たりない……」

 

 そして、ようやく静まり返った一室から再び衣擦れの音がゆっくりと響き始める。

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