にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ19

 国王の鶴の一声でリゼ様と同じ高校に入学することになった訳だが、正直に言おう……。

 

「ねぇ、あそこの人大きくない?」

 

「わ、ホントじゃん。絶対年齢詐欺してるって……」

 

「でも体とか凄いガッチリしてそうじゃない?」

 

「うわ、デカ……」

 

「あの人がラグビー部に入ってくれれば……」

 

 すんごい浮いてる。

 いやね、視線が刺さりまくってるのよ。

 

 そりゃそうだ、俺21歳だからね。普通に考えて15・16歳の学生陣に紛れ込める訳がないんだわ。

 

「んふふー、ナナシダ早く行こー」

 

 まぁいっか。俺が一緒の高校に入学すると決まってからリゼ様のご機嫌は常に最高潮。

 自分で言うのもアレだが、一緒に高校に通えるだけでこれほど喜んで貰えるならなんだっていいのだ。

 

 嬉しいからと言って腕を組んだりするのは止めていただきたいが……。

 

「リゼ様、その……」

 

「ダメだよナナシダ。ここでは私とナナシダは幼馴染みなんだから、はいタメ口ー。さん付けも禁止ね-」

 

「……了解」

 

 なんというか中学校時代も楽しそうにされていたのだが、今はそのメーターが天元突破してるのではと思えるほどにニッコニコだ。

 

 高校入学してから数日、家も一緒でクラスも一緒になったリゼ様はほぼ付きっきり状態。

 

 俺、耐えられるのかな?

 

「リゼおはよ-」

 

「おはよー」

 

 教室に向かうと、リゼ様に挨拶をしてきたのは中学で最も仲の良かった佐藤だ。

 

 高校に入学して数日と短い期間でも佐藤のムードメーカーっぷりは凄まじく、既にクラスの中心と言えば彼女の名前が一番に上がるほどだ。

 

「ナナシダ君もおはよー」

 

「おはよう」

 

「今日もおあついですねー」

 

 佐藤がニマニマと表情を下品に歪めて、強制的に組まされている俺達の腕を見つめる。

 

 普通に考えれば、リゼ様という世界で最も愛らしく美しい御方と一緒に登校、さらには腕組みまでしてしまえば俺は学校中の妬み嫉みを向けられてしまうだろう。

 

 だが、佐藤を始めとしたクラスのカースト上位陣が早々と神輿を担いでくれたおかげで、リゼ様と俺の関係は公認の恋人として早くも周知され始めていた。

 

「リゼ、もう教室に着いたんだから、その……な?」

 

「むぅ……」

 

「アハハハ! まさかあのリゼがここまで懐いてる男がいるとは思わなかったなー!」

 

 リゼ様の護衛という視点でみれば勘違いされる関係は好都合だ。

 変な虫を事前に取り除くことができるし、それでもなお動くのであれば佐藤達女性陣経由で知らせが来るだろう。

 

 ……だが、万が一リゼ様に見合う男が学校にいるのであれば、俺という存在はただの邪魔者でしかない。

 だからこそ、今のうちはこの状況を受け入れつつも、いつでもリゼ様のお側から離れらるようなポジションをキープするつもりだ。

 

 リゼ様が当初計画していた幼馴染み関係というのがここで生きてくる。よくあるアレだ、噛ませイヌ的なアレだ。

 

「じゃあナナシダ、HRが終わったらすぐに来てよね」

 

「了解」

 

 佐藤に揶揄われたことで恥ずかしくなったのか、リゼ様は不貞腐れながらもご自身の席へと向かっていった。

 

「じゃ、ナナシダ君またねー」

 

「おう、ありがとうな」

 

 因みに、事前の協力者として佐藤をスカウト済みだ。

 彼女には俺は本当にただの幼馴染みで、恋愛感情はないということ、単純な虫除け要員で傍にいるのだと伝えてある。

 

 俺の対策は万全だった。

 唯一予想外というか、それ以前の問題だとは思うのだが。

 

「おまたせ、待った? 皆席についてねー」

 

 日本には絶対いない赤色の地毛をした白衣姿の女性が教室に入ってくる。

 

 男女構わず視線を集めるのは自称ヘルエスタ王国の天才錬金術師、アンジュ・カトリーナだった。

 

「おろ、ナナシダ君どうしたんだい。私をそんな見つめて……はっ! だ、ダメだよ! そんな教師と生徒でそんな関係……! でも、ナナシダ君がそれでもって言うなら……私!」

 

「済みません、すぐに席に戻ります」

 

「んもーナナシダ君たら照れちゃってー! かーわーいーいー!」

 

 ウ……ウゼェ……。

 

 どうしてアンジュが教師、しかも俺達のクラスを担当しているのかというと、国王様の過保護が原因だ。

 

 リゼ様は一応ヘルエスタ王国出身ではあるが、皇女としての肩書きは隠している状態。

 中学までは問題なかったのだが、高校に上がれば思春期特有の悩みは増える。しかし皇女である手前おいそれと相談できる相手が殆どいなかった、その問題を解決するために選ばれたのがアンジュということだ。

 

 幼い頃から交流もあり、錬金術として才能を持つアンジュであれば物理の教師としても粗はない。

 性格を除けばこれほどの適任者はアンジュだけだったらしい。

 

「センセー早くHR始めてよー」

 

「そうだよ、ただでさえアンジュ先生は話が脱線するんだからさ」

 

「え、まだ数日の関係だよね? 私のこと理解するの早すぎない? 既に長年の関係性見せてくるじゃん」

 

 しかもアンジュはその見た目と気さくさで、たった数日でクラスの生徒に気に入られていた。

 教師という体裁が良い感じにブレーキになっているようで、この数日間で相談をするならアンジュ先生と言われる程だ。

 

「ハイハイ、じゃあHR始めていくよ-」

 

 なんだかんだとアンジュの教師姿は様になっていた。

 

 

「じゃ、これでHR終わり!」

 

 意外にも仕事はキッチリ熟したアンジュが教室を後にしていく。

 

 一限目の授業が始まるまでの短い休憩時間だが、存外この時間が最も交流が盛んになる。

 手早く授業の準備を済ませた俺はリゼ様の元に向かう。

 

「リゼ、次の授業の準備はできてるのか?」

 

「うん、準備オッケー! てナナシダは私の保護者かい」

 

「保護者と言うよりごえ――」

 

「わー! わー! 急に変なこと言わないで!」

 

 滑らせ掛けた俺の口をリゼ様が慌てて手で塞ぐ。

 危ない、つい影付きとしての教示が……。

 

 潜入任務は得意だと思っていたのだが、リゼ様が絡むと少しばかりボロが出てしまう。

 

「まーったく、朝のあれじゃ物足りないみたいねー? 見せつけてくれるじゃないのよー!」

 

 俺達のやり取りを隣で見ていた佐藤がリゼ様の肩をつつく。

 

 美少女同士の戯れる光景は目の保養になるな、周囲から集まる野郎どもの視線も心なしか生暖かい。

 

「おい、チャイムが聞こえてないのか。さっさと席に着け」

 

 そうこうしていると一限目を担当する教師が教室に入って来た。

 

 進学校とは言っても高校一年の範囲ならカバーしているため、授業についていけないということはなかった。

 むしろここで躓いてしまえばリゼ様の勉強に付き合うことができないからな、分かってはいても復習になるため授業は真面目手に受ける。

 

「じゃあナナシダ、お前ここ解いてみろ」

 

「はい」

 

 これはアンジュに聞いたことだが、学校の教師陣でも俺は少し特殊な子扱いらしい。

 

 半ば裏口入学に近かったこともあるが、それにしてはこうして授業で名指しをしても平然と答える。

 学力的にも人格面でもこれといった問題がないため、やんごとない理由があるのではと噂されているらしい。

 

 やんごとないというか、普通に年齢詐称してるんだけどね。21歳でごめんね。

 

「そうだな、引っ掛け問題だが上手く解けている。ちゃんと予習しているな」

 

「ありがとうございます」

 

 できる限り大人しくしよう。

 普段から近くにいるリゼ様にご迷惑をかけてしまうかもしれないし。

 

 

 一限目が終わると、二限目は男どもが待ちに待った体育の授業だ。

 

 今日行うのは体力測定らしく、グラウンドに集まった俺達の前に体育の教師が現れる。

 

「これから体力測定を行う、計測はペアで行うからそれぞれペアを組むように」

 

「ね、ナナシダ私と組もうよ」

 

 教師の合図と同時に始まったペア探しだが、女生徒グループにいたはずのリゼ様が隣にやって来た。

 

 普段はストレートだが、体育の時間は美し髪をポニーテールにまとめている姿は新鮮だった。

 

「多分男女は別々だと思うんだけど……」

 

「えー、先生はそんなこと言ってなかったからいいの。妾の言葉が聞けぬと申すか!」

 

 中学ならいざ知らず、高校にもなれば言わずとも男女に分かれるから言わなかっただけだと思います。

 

 久しぶりに聞いたリゼ様の皇女口調に苦笑いを返す。

 

「聞けぬというか、一旦先生に聞いてみてからにしよう」

 

 ということで体育教師に聞いてみれば案の定却下、されることはなくまさかの快諾が返って来た。

 

「ねー、だから言ったでしょ?」

 

「先生が言うなら仕方ない、ペアを組むか」

 

「仕方なくない―、むしろ私と一緒なんだから喜ぶべきでしょ。なんていうかタメの時ってナナシダの反応硬いよね、どうして?」

 

 どうしてと言われましても……。

 

「申し訳ない、いまいち定まらないんだ」

 

 例えば職場の上司とか、学校の先輩に命令されて無理矢理口調を崩しているような状態だ。

 なまじ普段が普段ということもあり、二人だけのルール以上に崩した口調に抵抗感を感じていた。

 

 影の一族として関わって来た相手も、基本的には王族か部下だけだったし……何か参考になるのがあればいいんだけど。

 

「ならさ、アンジュと話している時みたいにすればいいじゃん」

 

「アンジュかぁ……」

 

 アンジュに対してって、結構強めな当たり方をしている気がする。

 え、それをリゼ様にするの? ムリムリ。

 

「ね、いいでしょ? 私とナナシダの仲じゃん……」

 

 そんなおねだりポーズで言われるとクラッと来てしまう、超かわええ。

 でもねリゼ様、今周りの男どもから向けられる視線がえらいこっちゃしてるんですけど。

 

「ナナシダは……私と仲良くなりたくないの……?」

 

「そ、そんなことは……」

 

「私ね、ナナシダと一緒の高校に入れて凄く嬉しかったんだ、今までの関係が嫌だったわけじゃないけど。でも、もっとナナシダと仲良くなりたいの……ごめんね、我が儘だよね」

 

「うぐぅ……」

 

 流石リゼ様だ、俺の急所を的確に突いてくる。

 しかもこの状況……。

 

「おい、アイツマジかよ……」

 

「ありえねえよ、どうしてあんな奴が……」

 

「リゼさん可哀そうよね、あんなに……」

 

「噂で聞いたんだけど、ナナシダ君って実は……」

 

 大変よろしくない感じで見られてしまっているぅ!

 

「ごめんね、ナナシダ……私、我慢するから。だからその、き、嫌いにならないで……」

 

 あ、ダメだ。リゼ様はこれで押し通すおつもりだ。

 腹をくくるしかないのか……。

 

「わ、分かった……アンジュと同じ感じでいかせてください」

 

「え、ほんとう……?」

 

 なんて白々しい! でも超かわいい!

 つまりあれだ、俺に逃げ道なんて端からなかったということだ……。

 

「俺も、リゼとはその……仲良くしたいから。今まで、ごめん……」

 

「ううん! 私こそごめんね! でも、ナナシダがそう言ってくれて凄く嬉しい!」

 

 リゼ様は感極まったとばかりに抱き着いてくる。

 膨れ上がる殺意の波動を感じながら、敗北感に打ちひしがれているとリゼ様が耳元に口を近づけてくる。

 

 瞬間、全身の毛が逆立つ感覚に襲われた。

 今まさに、まるで捕食者の口内へと導かれているような、身の内から湧き上がる恐怖が広がっていく。

 

「私だけを見て、私だけを守って、私にだけまたあの顔を見せて……見たいの、お願い。いいでしょ?」

 

 俺にしか聞こえないほどの小さな声、しかしそれはあまりにも深く耳に残り続けた。

 

「リゼ……さま……」

 

「ふふ、ルールは守らなくちゃダメだよナナシダ。今の私達は幼馴染なんだから、ね?」

 

「は……そ、そうだったな」

 

 重く全身が蝕まれる感覚に瞠目する。

 この声の主は本当に俺が敬愛するお方の物なのか、不敬にもそんな疑念がよぎってしまう。

 

「ほら、他の子に目を向けるから私に気づかないんだよ? もっとみて、私を……隅から……隅まで」

 

 全身を纏わり付かせるように体が押し付けられ、背中に回された細い腕が絡みついてくるようだった。

 しかし、周りからはただリゼ様が感極まって抱き着いているだけにしか見えていないのか、この異質さを感じているのは俺だけだった。

 

「あ、また他の子見てる……」

 

「見て……ない……」

 

「本当? 嘘ついちゃダメだからね、噓つきは良くないんだよ?」

 

 耳に掛かるリゼ様の吐息がやけに熱く感じた。

 どうして誰もこの異様さに気づいていないんだ……。

 

「嘘なんてつかない、だから今は離れてくれ……」

 

「なぁにぃ? もしかして私に抱き着かれて緊張しちゃったの? ふふ、可愛いなぁ」

 

 誰だ。この人は、本当にリゼ様なのか……。

 頭では理解している、この人はリゼ様なのだと。

 

 だが本能が拒絶する、この人は別の誰かなのだと。

 

「だ、れ……だ……」

 

 いつの間にか口が動いていた。

 普段であればこんな言葉を使うわけがなかった、いつもであれば自分の失態を恥じて後悔と懺悔に苛まれるはずだった。

 

 なのに、自分の口から出た言葉はまさしく本心だった。

 

「ほら、私を見てないからそうなるんだよ? ちゃんと見てないと、見失っちゃうんだから」

 

 回答になっていない言葉が、頭の中で反芻されるが理解できる兆しは一向に現れなかった。

 だが、そんな状態を無理矢理に断ち切る声が聞こえた。

 

「リゼったらいつまで抱き着いてるのー! ナナシダ君のこと好き過ぎじゃーん! ラッブラブじゃーん!」

 

 佐藤だ。

 彼女の声にようやくリゼ様が体を離す。そこに先ほどまでの異質さはなく、まるで夢であったのかと錯覚するほどだった。

 

「ちょっとー! そう言うんじゃないからね! ナナシダが冷たいのが悪いの!」

 

「はいはい、そう言うことにしておきますよ。それにあんなん見せつけられちゃったら、誰だって手を出そうなんて思わないから安心してって」

 

「だーかーらー!」

 

 顔を赤くして佐藤に向かっていくリゼ様を、俺はただ見つめることしかできなかった。

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