にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ20

「最近リゼ様の様子がおかしい」

 

「なに言うとん」

 

 学校の化学準備室、薬品の匂いが広がる空間で俺はアンジュと話していた。

 内容は体力測定から時折見て取れるリゼ様の様子についてだった。

 

「さっきも言った通り、体力測定からリゼ様の様子がどこかおかしいんだ。まるで別人と錯覚してしまうほどだ」

 

「そりゃ、高校生にもなれば大人への階段を上ってる最中なんだから、リゼだって考えの一つや二つ変わるでしょ。過保護すぎるんじゃないの?」

 

 呆れ半分の返答をするアンジュだが、リゼ様が見せるあのお姿はそんな言葉で片付けられるものではない。

 

 まとう空気が一変する様は正直に言って異質だ。

 

「毛の一つでも生えれば女はいくらでもペルソナを被るもんなの、成長してるってことだよ」

 

「毛とかいうなよ」

 

「あ、もしかして今想像しちゃった? ぷぷ、ナナシダ君も二十歳超えてるのに思春期みたいな反応だね~」

 

「うるさい、万年発情してるお前に言われたくない。男の一つでも作ってから余裕ぶるんだな」

 

「んな⁉ ちゃ、ちゃうんよ。なんでか女の子にモテてまうんよ、だから男が近寄る隙間がないというかなんといいますか……」

 

 アンジュの容姿はひいき目なしに言っても整っているほうだ、そのうえコミュニケーション能力も高い彼女に男の気配がない理由が女とは……。

 

 王城にいたときからそうだが、アンジュと関わる女性の大体が友人関係を超えようとしてくるらしい。

 

 話し相手から始まり、仲を深めるとある日相談を持ち掛けられる。そして相談に乗るうちに相手がドンドン依存していく。

 なのにアンジュの対応は友人関係を維持しようとする、結果としてお相手の女性は皆情緒不安定になり、アンジュに体の関係を強要するようになる。

 

「まぁ、男顔負けの甲斐性を見せればコロッと落ちるわな」

 

 問題なのがこの変態天然ジゴロ、自分が数々の女性を落としていることに気づかないのだ。

 アンジュからしてみれば、ある日突然友達だと思っていた友人から告白され、そのまま強引に関係を作ろうとしてくるように映っているのだ。

 

 なお、リゼ様ははそのことをいち早く知っていたそうで、昔から注意をしているのだが。決まって「でも大変そうだったし……」とアンジュはあくまで友人の助けになろうとしているのだから質が悪い。

 

「ま、まあ今は私の話じゃなくてリゼの話でしょ。様子がおかしいって言ってもたとえばどんな物があるのさ」

 

 なぜか常備されている大人用粉ミルクを用意し始めたアンジュ、器用に人肌温度を確かめるとこれまたなぜか俺の分まで用意される。

 ……嫌飲まないからな? なんでお前は普通に美味しそうに飲んでるんだ、俺がおかしいのか?

 

 いや、今はリゼ様のことだ。

 

「そうだな、たとえばこの間――」

 

 それはいつも通り夕飯を食べ終えたときのことだ。

 

 料理は基本的に護衛兼召使いの俺が用意しているのだが、その日はリゼ様が料理をすると主張されたので、料理を変わって貰ったときのことだった。

 

 才色兼備文武両道なリゼ様は料理の腕前も高く、王城にいたときもたまにキッチンに立ち料理を振る舞ってくださることがあった。

 

 だから料理に関して心配することはなく、俺はリゼ様の活動記録を報告書にまとめていたのだ。

 だが、待てどもリゼ様がキッチンから出てくることはなく、報告書を書き終えた俺は心配になり様子をうかがいに行った。

 

「リゼ! 大丈夫か!」

 

 キッチンに入った俺は慌てた声を上げた。

 それもそのはずだ、料理をしているはずのリゼ様が顔を赤くして床に座り込んでいたのだ。

 

 声を掛けてもボーとした様子で反応を見せず、肩を掴んで揺することでようやくリゼ様は俺に気付いて声を上げた。

 

「へ……あ、ああ! ナ、ナナシダ⁉ どうしてここに……!」

 

「どうしても何もない、どれだけ長い時間料理をしているんだ」

 

 そこでようやく自分が長くキッチンにいたことに気付いた様子で、リゼ様は時計を見て声を上げた。

 

「ほ、ホントだ! やだ私ったら、ナナシダごめんね。すぐに用意しちゃうから」

 

「俺のことは良いから、体調がどこか優れないなら言ってくれ。顔も赤いし熱でもあるんじゃ……」

 

 見ればリゼ様は顔を赤くして、肩で呼吸を繰り返している様だった。

 額に手を当てようとするがすんでのところで躱されてしまう。

 

「だ、だだ、大丈夫だから! 全然、平気! ほ、ほら今日は私が料理するんだから、ナナシダはリビングに行ってて!」

 

 勢いよく立ち上がったリゼ様に押し出されてしまった俺は、仕方なくリビングでソワソワとしながら待つことになった。

 

「お、お待たせー!」

 

 また倒れてしまわないかと心配していたが、リゼ様がそう言ってリビングに戻ってきたのはそれから数分後のことだった。

 

 それからのリゼ様の様子は普段と変わらなかったが、リビングでのことを聞こうとするとあからさまに話題を逸らされるのだ。

 結果、その日はそれ以上リゼ様に尋ねることはできなかった。

 

「へぇ、そんなことがあったんだ」

 

 話を終えるとアンジュが神妙な面持ちで頷く。

 

「それ以外にも、最近は俺が風呂に入っていると脱衣所にリゼ様が入ってくるんだ」

 

「え……それでリゼは何をしてるの?」

 

「特に何もしないんだ。暫く脱衣所に滞在するんだが、すぐに出て行ってしまうんだ」

 

 時間にして数分も滞在していないが、決まって俺が入っているときに来るのだ。

 

「もしかして、俺が隠れて虫共を始末していることにとうとう気付いてしまったのか? いや、完璧に隠しているからバレてないはず……ならどうして……」

 

「うーん、ちょっと物騒だからそこには触れないけど……ほ、他に何か変なことは?」

 

 流石にここまで話せばアンジュもリゼ様のことが気に掛かったのだろう、神妙な面持ちで話を促してくる。

 

 普段の様子がアレだから信用しづらいが、アンジュとリゼ様は親友と呼べるほどの間柄。リゼ様の様子が明らかにおかしいと分かればアンジュも真剣に話を聞いてくれる。

 

「そうだな、他だと俺達と同じクラスの佐藤って知ってるか?」

 

「佐藤ちゃんね、リゼの高校でのお友達だからね。もちろん知ってるよ」

 

「その佐藤と最近ギクシャクしている感じなんだ。男の俺じゃ分からない女性特有の気まずくなるとかってあるのか?」

 

「ギクシャクねぇ……まぁあるにはあるけどさ。リゼとか佐藤ちゃんだと当てはまらないんだよねぇ」

 

 何か心当たりがある様子のアンジュだか、本人もまだ上手く説明できないとはぐらかされてしまった。

 やはり男には分からない何かがあるのだろう。

 

「あと、これはリゼ様というより個人的なことではあるんだが」

 

「個人的、これまた珍しい。リゼ以外のことには興味ないと思ってた」

 

 茶化しているわけではなく、本当にそう思っているようだ。

 大体は合ってるから否定できない。

 

「寝起きがあまりよくないんだ」

 

「寝起き?」

 

 これはリゼ様云々ではないが、最近のリゼ様を含む不可解な変化に含まれるはずだ。

 

「俺は寝る前に周囲の状態を記憶して寝ている、そうすれば物音で目を覚ました直後でも動けるからそうしている」

 

「ほうほう、流石影付きといったところかな。それが寝起きに何か関係あるの?」

 

「違和感。のようなものを感じるんだ」

 

 明確ではない感覚的な部分だ。

 

「ドアや窓の開閉状態はもちろん、家具の配置が変わっているわけではないんだが。なんというか、空気が違うんだ」

 

「要領得ないねー、それを私に言われても返しようがないんだけど……。匂いが違う感じ?」

 

「匂いだけじゃない、空気が淀んでいる、湿度が高い。色々だ」

 

「サラッと言ってるけど、大概変なこと言ってとは思わない? なんで湿度までわかんねん」

 

 だが根本的な違和感はそこじゃない。

 

「問題は、その変化に寝ている俺が気付けてないということだ。隣にリゼ様がいる状態で外的要因を見逃すはずがない、俺はそのための訓練も受けている」

 

「つまり、超センサーを持ってるはずのナナシダ君が変化に起きることなくいつも通り朝を迎える、部屋模様は変わらないけど目に見えない部分の変化は確かに起きているってこと?」

 

「そうだ……この変化はリゼ様の身を守る上で大きな問題を孕んでいる。このままではリゼ様を護衛しきれると言えなくなってしまうんだ」

 

 人間が一番無防備になる瞬間、それは意識の覚醒レベルが極端に下がっている状態だ。

 どれだけ卓越した戦闘能力を持っていたとしても、能力が十全に発揮されなければ赤子同然。

 

 護衛対象を守ることもできない護衛なんて無価値だ、いない方がマシである。

 

 ……このままでは俺の存在意義が、消えてしまう。

 

「そうだねぇ……とりあえずナナシダ君が言う変化が何なのかを突き止める必要があるよね。極端な話、リゼが夜中に起きて香水を振り撒いているのかもしれないわけでだしさ」

 

「若しくは、俺が夢遊病に似た症状を発症させているかだな」

 

 もしも、無意識で行動をしているのであれば、即刻俺は影付きを降りる。

 影の一族から精鋭を集めてリゼ様の護衛に当たらせる必要があるからだ。

 

「じゃあとりあえず今日から部屋にカメラを設置しようか、リゼには内緒でね。今話しても不安にさせちゃうだけだし」

 

「すまない」

 

「いいっていいって、友達なんだから当然だよ。むしろ私を頼ってくれて嬉しいぐらいだし」

 

 相談を持ち掛けてから一定してアンジュの対応は変わらない、慌てる様子もなく疑うそぶりも見せず、相談を相談として受け止めてくれる。

 

 精神的な安心感、アンジュなら裏切らない信頼。

 アンジュと関わった女性が友人以上の関係を求めてしまう原因の一つだろうな。

 

「今度飯でも奢らせてくれ、高い飯でも全然いいからな」

 

「おー! やったー! 実は行ってみたいところがあったんだよねー!」

 

 アンジュに相談して正解だった。

 俺はアンジュに薦められるままに部屋中にカメラを設置した、カモフラージュも施したから、カメラを置いている場所を直接探されたりしない限りはリゼ様にバレることもないだろう。

 

「映像は送ってくれれば私が適当な時間に確認するよ、ナナシダ君は護衛とかで見る余裕ないだろうし」

 

「なにからなにまで助かる」

 

 アンジュの言葉に甘え、それから数日分の記録映像をアンジュに渡すことになった。

 

 一応起きたときの違和感の有無も伝えておいたから、何も起きていない日のデータもあるはずだが、アンジュは快く引き受けてくれた。

 

 そうして、漠然としたモヤを抱えたままアンジュからの報告を待つこと数日。

 

「ちょっと話したいことがあるから、昼休みに私のところに来て」

 

 というメールがアンジュから送られてきた。

 

 言われた通りに昼休み、俺が科学準備室に向かった。

 

「来たぞ、何か分かったのか?」

 

 昼休みと言っても一時間も時間はない、早々に話題を切り出すとアンジュはどこか困った笑みを浮かべた。

 

「分かった、と言えば分かったんだけどねぇ……」

 

「言い淀んでないで教えてくれ、俺に問題があったとしてもリゼ様のためならなんだってする覚悟だ」

 

「いやね、その覚悟はすっごーく素晴らしいと思うんだけどさ。なんというか、そのぉ……凄く言いづらいんだよねー……」

 

「分かった、言いづらいならそれでいい。だけどそれは映像にしっかりと映っていたんだろ? ならその映像だけでも見せてくれ」

 

 地頭の良いアンジュではあるが、調査などの特殊な分野に精通しているわけじゃない。そんなアンジュでも言い淀むほどの自体がカメラには記録されていたということだ。

 

 それであるなら無理に聞き出す必要はない、映像を見せてもらえれば解決するわけだからな。

 

「そ、そうだね……そうしてもらえると私も肩の荷が下りる気分だよ」

 

「そんなになのか……?」

 

 それほどまでの内容が起こっていたというのか?

 だが、それにしてはアンジュの様子が事態を深刻に捉えていない、もしくは捉えきれていないのか、どうにも中途半端な印象を受ける。

 

「本音で話すなら、これを見て私は安心したぐらいなんだ……。でも、ナナシダ君はきっと違う、だからあまり無責任なことは言えないかなって」

 

「アンジュ……」

 

「ま、本当ならリゼのためにもナナシダ君に見せるべきじゃないんだろうけどさ、でもこのまま黙ってたらナナシダ君はリゼの前から消えちゃうんでしょ?」

 

「護衛である俺が事態を把握できず、護衛の任を全うできていない。それが現状から導き出せる結論だ。リゼ様にとって不要ならば俺の存在意義はないからな」

 

「私はそんな風には思わないけど、それはナナシダ君の気持ちの問題だから何も言わない。その代わり、私は私なりにリゼのために動くことにするってだけだよ」

 

 弱弱しく笑うアンジュに、自然と頭に手が伸びていた。

 今の年齢だと年下だが、前世持ちの俺からすればアンジュも年下の様なものだ。

 

 友人を思いやり、そのために行動することに躊躇わない彼女の姿。掃きだめのような世界に生きる俺にとって眩しく見えてしまった。

 

「ん、んなっ⁉ ちょ、ちょちょちょっと! ナナシダ君……!」

 

「ありがとう、アンジュ。お前が居てくれることがこんなに安心するとは思わなかった」

 

「は、はわわわわわわ! あのナナシダ君がデレてるよぉおおお! さ、さっきの言葉もう一度お願い! 録音するからっ!」

 

 アンジュは顔を赤くしたまま携帯を素早く取り出すと、録音状態でこちらに向けてくる。

 

「さあ! どうぞ!」

 

「嫌です」

 

「じゃあ私のも上げるから! あは~ん的なボイスもばっち来い!」

 

「アンジュに男ができない理由を教えてやろうか?」

 

「いいもん! 私にはナナシダ君がいるもん! 残り物になった私を貰ってもらうんだもん!」

 

 もんってなんだよ、25歳が使う言葉じゃないだろ……。

 しかもアンジュの目は本気だ、本当に売れ残ったら俺に貰ってもらおうとしていると目が語っていた。

 

「……それよりも早く映像を確認しよう」

 

「あぁん! 逃げるな卑怯者ー!」

 

「変な声出すなよ! 聞かれでもしたらどうするんだ!」

 

 中身がこれじゃなければ幾らでも貰い手がいるはずなのに……。

 

「いいもん! むしろ校内放送で聞かせてやらあ! そんでもって私とナナシダ君の既成事実を学校公認にするんだよお!」

 

「おま、本当に止めてくれ。アンジュが停職処分になるだけだぞ……あと他の人からの視線とか考えるだけでえぐい」

 

「私錬金術師ぞ。停職になってもヘルエスタ王国に戻ってハネムーンぞ」

 

「なんで結婚してるんだよ、リゼ様の護衛ができなくなるだろ」

 

「つまり私との結婚自体はいやじゃないと……私、結構理解のある女ぞ?」

 

「自称理解のある女さん、頼むから映像を見せてもらえないだろうか。昼休みの時間は少ないんだ」

 

「ちぇっ、この話は後日ゆっくりとしようや」

 

 映像を見せてもらうまでにこんな障害があるとは思わなかった。

 

 アンジュがPCを操作してファイリングされた映像の一つを表示する。

 映像に映っているのは薄暗い寝室、俺とリゼ様が寝ている映像が映し出されていた。

 

「はぁ、こんなラブラブチュッチュな映像をひたすら見続けた私を褒めてけろ」

 

「……それはごめん」

 

 たとえ俺とリゼ様の間におかしな関係がなかったとしても、代わり映えのない添い寝の映像を見せ続けたんだ。飯を奢るだけでは不釣り合いだな、もっと別の形でお礼をすることにしよう。

 

「問題の箇所は?」

 

「ちょーっちまってねー……あった、ここだよ」

 

 再生位置が操作され、映像の時間が深夜の1時に差し掛かったころの映像になる。

 とは言っても映っているのは薄暗い部屋と、一定のリズムで上下する布団のみだが。

 

「もう少ししたら……あ」

 

 アンジュの声に合わせるように映像に変化が訪れる。

 一定のリズムで上下していた布団の盛り上がりが大きく動いたのだ。

 

「リゼ様……」

 

 布団から顔を出したのはリゼ様だった、眠りが浅かったのか起き上がったリゼ様はボーとして一点を見つめていた。

 

 男性の俺に分からないが、もしかしたらトイレに行こうとしているのかもしれない。

 

「ナナシダ君、さっきも言ったけど……この後の光景を見ても気をしっかり持って。そしてリゼには今まで通りに接してあげて欲しい」

 

 少しばかり硬い声色のアンジュの言葉と、映像の中のリゼ様が服を脱ぎだしたのはほぼ同時だった。

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