にじさんじヤンデレ物語   作:にじさんじヤンデレ委員会非常勤員

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リゼ21

 信じられない。信じたくない光景が映っていた。

 映像のリゼ様は寝ぼけて――いるわけじゃない。

 

 その証拠に、ご自身の服に伸ばされた手の動きは迷うことなく動ていく。

 

「お止めください……」

 

 過去の映像であるというのに、言わずにはいられなかった。

 無慈悲にもリゼ様はそれほど時間を掛けずに寝間着を脱ぎ去ってしまう。

 

 久しぶりに見てしまうリゼ様の柔肌。隠しカメラを仕掛け、着替えを盗撮するなんて犯罪以外のなにものでもない。

 

 しかし、そんな考えすらする余裕が俺には無かった。

 

「早く、服を……」

 

「ナナシダ君……」

 

 上の服を脱ぎ去ったリゼ様は、それから暫く動くことはなかった。

 思わずにはいられなかった、ただ寝汗を掻いてしまっただけで着替えようとしているのだと。

 願わずにはいられなかった、このまま何も起きることなく着替えてくれと。

 

 ――無意味だった。

 

 動かないでいたリゼ様が動き出したのだ。

 リゼ様の手が、寝ている俺の頬に添えられる。

 

 真上から覗き込むように、リゼ様が俺の顔を覗き込む。

 

「リゼ様はなにをしておられるんだ……」

 

「私が言えることはないね、行動の意味を知りたいならリゼに聞くべきだよ。最も……」

 

 リゼ様の頭の位置がゆっくりと下がっていく。

 頭が否定を繰り返しているが、映像のリゼ様がそれを真っ向から否定する。

 

「聞かなくても、分かっちゃうけどね」

 

 そして、リゼ様の顔が寝ている俺の顔に重ねられる。

 カメラの配置から窺い知ることはできないが、それでもリゼ様が俺にキスをしたことは理解できてしまった。

 

「リ……ゼ……さま」

 

 数秒か十数秒か、それほど長くない時間でリゼ様の顔が持ち上がる。

 再び映ったリゼ様のお顔は、歪んでいた。

 

 堪えきれない欲望に抗い、そして敗北したような。後悔と優越の混ざったような歪な目をしていた。

 

「ナナシダ君、耐えるんだよ」

 

 隣にいるアンジュが何かを言っているが、俺の頭が彼女の言葉を認識しなかった。

 

 映像のリゼ様が再び顔を下す。

 先ほどの行為では合わせるだけだったのだと分かるほどに、再び顔を重ねたリゼ様が動く。

 

 カメラに拾った響く水が跳ねる音がスピーカーから流れてくる。

 もはや寝ている俺にリゼ様が跨っている。そして覆いかぶさるようにして、むさぼり始める。

 

「あぁ、ああぁああ……」

 

 俺はなにを見ている。映像のリゼ様は本物なのか? もしかしたらリゼ様に扮した誰かなのではないか。

 思考が堪らず逃げていく。

 

 映像の粗を必死に探す、合成されていないのか、リゼ様との身体的特徴の差異を必死に探す。

 

 久しぶりに見るリゼ様の背中をくまなく注視した。

 

「どうしてですか……リゼ様」

 

 結果は白。わかりきっていたことを、わざわざ自ら証明するのみだった。

 

『はぁ……はぁ……』

 

 映像から水の跳ねる音が消え、代わりにリゼ様の息遣いが聞こえてくる。

 体内に溜まった熱を無理矢理吐き出す作業が繰り返される。

 

「違う……こんなの……」

 

『ごめんね、ナナシダ……ごめんね』

 

 聞こえてくる謝罪。しかしリゼ様のお体は離れる素振りを見せない、むしろ位置をずらして寝ている俺の頭部を抱え込み始める。

 

『いいこ、いいこ……起きちゃダメだよ、ナナシダ……。お願い、静かに眠って……』

 

「ッ⁉」

 

「ナナシダ君?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、強烈な睡魔が襲ってきた。

 なんなんだこれは……。

 

「ナナシダ君大丈夫?」

 

「ア、アンジュ……何かで俺を刺してくれ、早く……!」

 

「え、ええ⁉ 急にそんなこと言われても」

 

「いいから早く! お前の力じゃナイフでも傷つかねえから!」

 

 俺の化け物染みた強靭な肉体はアンジュも知っている、彼女はそれでも俺に武器を向けることに心を痛めている。

 

「わ、分かった! 直ぐに持ってくる」

 

 しかし、思考の渦にいたアンジュは頷くと何処かに消えてしまう。

 一分もかからず戻って来たアンジュの手には、女性の手で丁度良く掴める大きさの果物ナイフだった。

 

「俺に向けて刺し込んでくれ……!」

 

 遠のく意識を保ちながらアンジュに指示を出す。

 

「お、おおお怒らないでね!」

 

 刺し込まれる果物ナイフ、凶器による攻撃を前に意識が急遽浮上。

 ほとんど無意識に近い反射で刃の部分を掴み、アンジュの攻撃を止める。

 

「助かった、おかげで眠ってしまわずに済んだ」

 

「ど、どいうこと?」

 

「俺は訓練で寝ている最中にも敵意や武器に反応、即座に対応する技術を持ってる。それを使ったんだ」

 

 アンジュに武器を持たせてしまったことに謝罪をして、再び映像に目を向ける。

 

「でもどうして急に眠くなっちゃったの、昨日あまり寝てなかったとか?」

 

「違う、俺の体は数日程度なら寝なくても問題にならないんだ。だから原因だとするならリゼ様のお声だ」

 

「声……?」

 

「リゼ様のお言葉を聞いた直後に睡魔が襲ってきたんだ。おそらく暗示の一種だろう」

 

 そこまで話したところでアンジュも気づいたようで、頷くそぶりを見せる。

 

「ナナシダ君はリゼに狂信的だからね、崇拝の対象がお願いなんてしたら無意識にでも受け入れちゃうのか……」

 

 否定はできない。

 

「自慢じゃないが、リゼ様の願いはなによりも優先される。意識レベルの低い状態なら猶更無条件で受け入れてしまうはずだ」

 

「でもおかしいよ、無意識で反応するって言うなら単純な動作しかできないし。その中でも寝ることを強要するなら刷り込みに近い暗示が必要なはずだよ」

 

「そうなのか……。詳しいな」

 

 錬金術と関りがあるのか分からないが、アンジュが嘘をつくとは思えない。

 

「えへへ……前から彼氏を練成しようとしてて。人間について調べてたりするんだ」

 

 嬉しそうにアンジュは答えているが、だからと言って暗示の分野に手を伸ばす必要は――まさか。

 

「アンジュ、催眠術とか洗脳の分野に手を出してないよな?」

 

 俺の言葉、特に洗脳のワードを言った瞬間に視線を逸らすアンジュ。

 分かりやすくて助かる。

 

「や、やだな~! 理想の彼氏に何でも言うことを聞かせようとか考えてないから、うん。絶対に、これっぽっちも」

 

「あー、まあいいや。俺とかリゼ様にしなければとやかく言わないから安心しろ」

 

「うぅ……優しさが突き刺さる」

 

「話を戻すが、これで一つの疑問が解消した。変化を確認した夜にどうして俺が起きなかったのか、その原因はリゼ様の暗示だ」

 

 付け加えるのなら、映像の言葉一つでここまで強力に作用するほどに刷り込まれているということだ。

 それが意味するところ。

 

「個人的な勘だが、おそらくリゼ様の暗示は年単位で繰り返し行われていた、ということだ」

 

「なにそれ怖い。私の可愛いリゼちゃんどこいっちまったんよ」

 

「お前のじゃない。だが、これだけだと俺が変化に気づいたってところの説明にはならない」

 

「そっか、長期的に行われていたのなら、もっと早く気付いてなくちゃおかしいのか」

 

 長期的に暗示は行われていた、だが俺は今まで気づいていなかった。

 そして最近になって気付き始めたということは――。

 

「リゼ様の行動が次第にエスカレート、若しくは何かを切っ掛けにブレーキが壊れたのか」

 

「もしくはその両方、てこともあり得る……てナナシダ君大丈夫⁉ 顔色が悪いよ!」

 

 平静を装っているつもりだったが、どうもそんな余裕もないみたいだ。

 

「大丈夫だ、それよりも映像の続きを見よう」

 

「ナナシダ君、きつくなったら言って。別に今日中に見ないといけないわけじゃないし、なんだったら私が内容をまとめてもいいから」

 

「ダメだ。これは俺がやらないといけないことなんだ」

 

 アンジュの優しさは素直に嬉しい。

 でもこれを彼女にさせるのは俺の存在理由を否定することになる、リゼ様に異変が起きているなら誰よりも俺が動かなくてはいけない。

 

 停止していた映像を再生させる。

 

『いい子……いい子。ふふっ、ほら、いい子にはご褒美がないとねぇ』

 

 俺の頭を抱えたまま、リゼ様がモゾモゾと体をくねらせる。

 カメラからはリゼ様の背中が映されているため、単純に抱えたまま体を動かしているだけにも見える。

 

 そんなはずがなかった。

 

 ピチャ……ピチャ……

 

 先ほどのキスの時とは違うが、映像からは確かに湿った音が聞こえてくる。

 

『キャッ、あはは……! もぅ、ナナシダったら甘えん坊なんだから。ん、ほら。しっかり味わってねぇ……』

 

 リゼ様が一人喋り続けている最中でも、断続的に音が聞こえる。

 この音はいったい……。

 

 思考を巡らせ、疑問の解消に努める。

 だが、そんな俺の手をアンジュが握ってきた。

 

 直後、リゼ様が再び大きく動く。

 見てはいけない、心が叫んでいた。

 

『ナナシダ可愛い。こっちも美味しいよ、ちゃんと味わって……』

 

 リゼ様は少し体を起こすと、俺の頭部を抱えて口元にナニカを押し当てていた。

 その光景が、俺は認識することができなかった。

 

 微かな夜の光に照らされて、リゼ様のある部位が艶めいていた。

 

 再び聞こえる音はより鮮明になり、音の正体が何かを吸い込む音だと気づいた。

 

 顔を赤く染め、恍惚な笑みを浮かべるリゼ様。

 

 そして、押し当てられた乳房を抵抗することなく受け入れ、小さく吸い付く自身の姿。

 

 全て理解できているはずなのに、認識することができなかった。

 

『アハハ……! すっごく嬉しい! ナナシダが私を求めてくれてる……。ねえナナシダ、ナナシダは私が欲しいんだよね? だからこんなに求めてくれてるんだよね?』

 

 違う。

 

『私もう高校生だからあと少しで結婚もできるよ。その前にちゃんとお付き合いしようね、一緒に遊園地に行こう、一緒の帰り道で寄り道するの、手を繋いで色々な場所に行って。疲れたら途中で休憩、ジュースを一本買って一緒に飲むの、ご飯は食べさせあって、ほっぺについたご飯粒をこうして取ってもらって、いっぱい遊んで家に帰るの。今日楽しかったことを二人で話して、二人でお風呂に入って、今みたいに一緒に寝るの……』

 

 止めてくれ。

 

『ななしだも……そうだよね?』

 

 どうして……。

 

『あれ、もうお腹いっぱい? ふふっ、赤ちゃんができたらこんな感じなのかな? そしたらななしだは嫉妬してくれるよね?』

 

「ぁ、ぁあ……」

 

『じゃぁ、次は私がご褒美欲しいな。今日もね、いっぱいがんばったんだよ。ななしだぁ……』

 

 視界が涙で霞む。

 止めどなくあふれ続ける涙が床に小さな水たまりを作る。

 

 それなのに、映像だけは鮮明に見えてしまう。

 

 鼻息を荒くしたリゼ様が枕元まで体を持っていく。そして残ったズボンも抜いて下着のみが薄く照らされる体を隠す。

 

 リゼ様は仰向けに横たわる俺の顔を挟むように立ち、薄ら笑いを浮かべて見下ろしていた。

 

『ね、いいよね? 私頑張ったからご褒美だよね? ね? ね? ね? 許してくれるよね? 許してくれなくてもいいよ? だから抵抗だけはしちゃダメだよ?』

 

 矢継ぎ早な言葉は加速していく。

 思いのたけを叩きつけている。

 

『ななしだには罰ゲームだからね? 今日佐藤さんと話してたでしょ、ねえ何を話してたの? 私とお話しようよ、いっぱいいっぱいいっぱいいっぱい! 私と話してたら佐藤さんとか他の女の人と話す必要ないよね? じゃあ話そう、ずっと話そうよ。授業が終わったら授業の話をしようよ、体育は一緒にペアを組もうよ、ななしだからしてね? ななしだが求めて、私を求めてよ。あげるよ? 全部あげる。なにしてほしいの? あ、お料理をまた作ってあげる。隠し味がんばったんだよ、ななしだも美味しいって言ってくれてたもんね。ふふっ、アレにはいってるの教えてあげたいなぁ……あ、でも今から味見させてあげる、嬉しいでしょ? 嬉しよね? あ、そう言えばななしだアンジュに触れたでしょ。仲がいいのは良いけどさ、私より仲良くしちゃだめだよ? 私もアンジュは好きだけどダメ。ななしだは誰にもあげないんだから。あぁ、だめだめだめだめ、怖くなってきちゃったよ。ななしだはそんなことしないもんね? 私だよね? お願い答えて、私だけって言って、ななしだが私を汚して、ねえ……ねえ! 答えてよ!』

 

 一切の返答なんて返せない。

 映像の中の俺はひたすらに目を瞑り、目覚めることも少しばかりの反応すら見せない。

 

 映像を見ている俺はひたすらに涙を流し続けるだけだった、これから起きる光景を予測して慄くばかりだった。

 

『ごめんね、ごめんね、ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん』

 

 俺の顔を挟んでいたリゼ様の両足が消え、代わりに膝が消えた足の位置に置かれる。

 

『酷いこと言ったよね、悪いこと言っちゃった……私悪い子だよね。言葉だけじゃダメだよね。分かってるから、ちゃんと行動で……私の体で、ちゃんと謝るからね。だからななしだもいっぱい苛めてよね? 悪い子がちゃんと反省するために、たくさん汚して。じゃないとまた悪い子になっちゃうよ? いいの? よくないよね? だからたっくさん、味わって……』

 

 ゆったりとした動きで、リゼ様の脚が開かれていく。

 徐々にリゼ様の体がベッドに沈んでいく。

 

 そして、その時は訪れた。

 

『ん、ぁ……』

 

 声は出なかった。

 ただ、目から、鼻から、口から。魂が抜けていった。

 

 それなのに、卑しくも映像からは目が離せなかった。

 見えているのに、何が行われているのか理解しているのに。

 心が全てを拒絶していた。

 

 亀裂の入った壁の隙間を縫うように汚い音が鼓膜を叩いて震わせた。

 俺の名前をひたすらに呼ぶ声が呪詛のように残響する。

 薄い月明かりに照らされながら、上半身を折り曲げては伸ばしてを繰り返すシルエットが瞳に焼き付けられる。

 

『もっと、もっと……もっといっぱい……!』

 

 耳を塞ぎたいのに、手が動かない。

 目を覆いたいのに、瞼が下りない。

 咽び泣きたいのに、喉が震えない。

 

 頭はひたすらに試算を繰り返す。何を間違えたのか、どこから壊れてしまったのか。

 何度も記憶を手繰り、ひも解く。

 

 見つからない。

 分からない。

 

『ななしだ……! 舌、もっと出して……! いっぱい動かしてくれないと、お仕置にならないよ……!』

 

 いつの間にか視界は暗闇に閉ざされていた。

 

『足りない、足りないよおななしだ……! だめ、これじゃまた悪い子になっちゃう! またお仕置してもらわないといけなくなっちゃうよ!』

 

 薄れていく意識の中で、最後までリゼ様の声が響き続けた。

 

『アハハハハハハ……! やっぱり私……悪い子だよ……だから叱って。ナナシダ』

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